シナリオ 7月29日(日曜日)・その5
メイド長と二人乗り
メイド長がぼくにそう言った。
言葉こそ穏やかだったが、バイクに跨るメイド長からは有無を言わせないオーラが出ている。
威圧感とでも言うんだろうか。
まるで自分が蛇に睨まれた蛙のように思える凄まじさ。
結局、断る事も出来ずぼくはバイクに乗ってしまった。
そしてすぐにかかるエンジン。
※バイク音
真緒(う、うるさい音だな)
せえら「乗りましたわね! 行きますわよ! 集会開始ですの!」
八十記の号令を皮切りに、一台、また一台とバイクが動き出す。
本当に集会が始まろうとしている。
ぼくは……これでいいのか。
教師として止めるべき──
メイド長「おい、行くぜ? しっかり捕まってろよ」
真緒「は、はい」
真緒(情けない……)
※夜の道(運転視点)
※バイク音(SE持続)
そして、メイド暴走族は走り出した。
あまり車も人も通らない平坦な山道での集団走行。
もっとも、普通の暴走族とは違い騒音を出したり蛇行運転等もしない。
でもまぁ、傍から見れば一緒に見られるんだろう。
実際メイド長のバイクはうるさいしな。
メイド長「おい」
真緒「は、はい?」
メイド長「しっかり捕まってろ」
真緒「はい」
捕まってろと言われても……
どこをつかめばいいんだ?
やっぱり腰だろうか?
あ、メイド長から良い匂いが……
メイド長「変な所触んじゃねーぞ」
真緒「も、もちろんですってば」
恐る恐る腰に手を回したが、メイド長は何も言わなかった。
でも、後で殴られたりしないだろうか?
メイド長「………」
しかしメイド長のこの迫力は本物以上だ。
いや、メイド長はやっぱり……
一人だけバイクが違うのもきっとそういう事だろうと思うし。
聞いて、みるか?
メイド長「要先生」
真緒「はい」
メイド長「さっきの話は本当か?」
真緒「さっきの話?」
メイド長「……お、お嬢様の脚だよ!」
真緒「あ、それは」
メイド長「てめぇ、まさか……」
真緒「ち、違います! そんな事するはずないでしょ!」
メイド長「……そうか、なら良い。本当なら振り落としてたぜ」
真緒「はは……」
その八十記は少し横を走っている。
もちろん運転はしていない。
わりと近くだが、バイクの音に掻き消されて声は聞こえてないみたいだ。
……あの馬鹿、チラチラ見てきて危なっかしい。
メイド長「すまない」
真緒「え?」
いきなりの言葉に驚く。
なぜメイド長が謝ってくるんだろう。
メイド長「こんな事、お嬢様にはさせたくないんだ」
真緒「メイド長……」
八十記の夜遊びの件か。
メイド長も反対なんだな。
メイド長「でも私はお嬢様に強く言えないんだ」
八十記への溺愛ぶりはよく知ってる。
それに、主人とメイドという関係上仕方ないだろう。
真緒「でもそれは、主従の関係ですし仕方ないですよ」
メイド長「そうだな。それもあるけどよ……」
真緒「他に何か?」
メイド長「いや……」
真緒「メイド長?」
メイド長「まぁ、いいんだ」
メイド長「私からは言えないから、要先生から言ってくれ」
真緒「止めるように?」
メイド長「ああ」
真緒「分かりました」
メイド長「頼むぜ」
真緒「メイド長からそう言って貰えれば大丈夫ですよ。
二人が協力してとなると難しかったですけど」
真緒「ま、今日まで言ってきて駄目でしたけど頑張りますよ」
メイド長「ああ、お嬢様を頼むぜ」
真緒「もちろん」
メイド長「………」
真緒「あの、メイド長」
メイド長「んだよ?」
真緒「ひとつ、聞きたい事が」
メイド長「だから、なんだってんだ」
真緒「いえ、その、メイド長って元……」
メイド長「……そうだ」
真緒「やっぱり」
メイド長「誤解しないでくれ。元だ」
真緒「分かってますよ」
メイド長「あたしがこんなんだからお嬢様は……」
真緒「………」
真緒(やっぱり、八十記の中二病はメイド長の影響か)
メイド長「お嬢様には言わないで欲しい」
真緒「え? 知ってるんじゃ?」
メイド長「元ヤンでもなんでもないって言ってる」
真緒「元ですし気にする事ないんじゃ」」
メイド長「お嬢様は喜ぶかもしれないが、真似するだろ」
真緒「まぁ、たしかに」
メイド長「お嬢様は、お嬢様らしくして欲しいんだ」
真緒「でも、気づいてるんじゃ」
メイド長「……かもな。とにかく、内緒だ」
真緒「分かりました」
メイド長も、八十記の中二病を治したいと思っている。
自分のせいだと思っているだろうし、なおさらだろう。
今までメイド長を避けていた所があったけど、
八十記を普通にしたいという同じ気持ちがあるなら、
協力できそうな気がする。
いや、原因だと思われる
メイド長との協力は必要不可欠だ。
メイド長「おい、お嬢様の合図だ。この先で止まるぜ」
真緒「はい」
最終更新:2010年08月12日 00:32