シナリオ 8月2日(木曜日)・その4
メイド長の相談
※夜、浜辺
楽しい時間はあっという間に過ぎ、もう夜もだいぶ更けた。
八十記たちは今頃、昼間の疲れで寝ている事だろう。
ぼくもクタクタで寝たい所だが、
メイド長から呼び出された。
話があるから夜一人で浜辺に来て欲しい、と。
そのメイド長の姿は──あ、来た。
メイド長「お呼び出しして申し訳ありません」
真緒「いえ、それは良いんですけど話というのは?」
メイド長「少し、お嬢様の事で──」
真緒「八十記の事?」
メイド長「はい、相談したい事が」
真緒「はぁ」
深夜の遊びもなくなって、特に問題はないと思うけど。
まだ何かあるんだろうか?
真緒「いったい何でしょう?」
メイド長「日頃のお嬢様の態度についてです」
真緒「日頃の? 特に問題はないんじゃないですか」
メイド長「そうですね。たしかに問題という程でもないかもしれません。
でも、お嬢様は八十記家の大切な一人娘です」
メイド長「それに相応しい言葉や振る舞いをしていただきたいのです」
真緒「あ、ああ。中二病の事ね」
メイド長「いつかは収まるだろうと様子を見てきましたけど、
収まる気配がないんです」
真緒「そうですか。でも、心配しなくてもその内収まると思いますよ」
メイド長「その内では駄目なんです。今すぐにでもお嬢様にはお嬢様としての振る舞いを
して頂かなくてはいけないのです」
真緒「でも、そんなに慌てなくても良いんじゃないですか?
たしかに言葉はアレですけど、周りの人間はちゃんと分かってますよ」
メイド長「分かってるとは?」
真緒「八十記が良い子だって事です」
メイド長「……要先生も、ですね?」
真緒「あ、はい。もちろんですよ、担任ですしね」
メイド長「………」
メイド長が黙って何か考えている。
八十記の中二病をどう治すか、といった所だろうか。
それなら、おそらくメイド長に影響を受けてるはずだから──
真緒「メイド長、八十記の中二病の原因って知ってますか?」
メイド長「それは、おそらく……私のせいだと」
真緒「メイド長が元ヤンだから、影響を受けたって事ですよね」
メイド長「ですが、私はお嬢様の前でそうだと言った事もありませんし、
そのような言葉や態度をした覚えもありません」
真緒「……ですか」
とすると、八十記自身が気づいたかもしれない。
真緒「本人が気づいたのかもしれませんね」
メイド長「………」
真緒「そうじゃないとすれば……
その、メイド長が元ヤンだって事を知ってる人は?」
メイド長「八十記家ではお嬢様以外全員知ってます」
真緒
「だとしたら、誰かから聞いたって可能性も」
メイド長「そんな……」
真緒「あ、いや、どちらか分かりませんけど。
ただ、八十記はたぶん気づいてるというか知ってると思います」
メイド長「……そうですね。おそらくお嬢様は私の過去を知っていると思います。
時折そんな話をされて、私を探ってきましたから」
メイド長「そのたびに私は知らないとお嬢様に嘘を……」
真緒「………」
メイド長「お嬢様に嘘などつきたくありませんし、私のせいでお嬢様があのようになってしまった
のなら、いっそ私がお屋敷を去ろうかと何度も考えました」
真緒「メイド長……」
メイド長「でも、出来ないんです。お嬢様の側を離れるなんて私にとって……
生きがいを失う事なんです」
──そう、原因である
メイド長と八十記が十分に話し合えば、八十記の中二病もなくなるかもしれない。
しかしそれが出来ないから、こうしてぼくに相談を持ちかけて来たんだ。
だから、なんとか力になってあげたい。
真緒「メイド長がいなくなる事なんてありませんよ」
メイド長「……ですが、私はまだ迷って」
真緒「逆に、ますますあいつは酷くなるんじゃないですか?」
メイド長「え?」
真緒「たぶん……こうかな。
『メイド長は現役復帰した、私も追いかけよう』ってなると思います」
メイド長「そんな」
真緒「メイド長が八十記を想っているように、八十記もメイド長の事を想ってますから、
たぶんきっとそうすると思いますよ」
メイド長「私の事など、お嬢様はすぐに忘れるはずじゃ」
真緒「忘れる訳ないですよ。大好きだからこそ、メイド長の真似をしてるんじゃないですか」
メイド長「………」
真緒「だから、もっと違う方法を……
って言っても、すぐには思いつかないな。何かないかな……」
メイド長「……ありがとうございます」
真緒「え? 何か言いました?」
メイド長「いえ、何でもありません」
メイド長「仰る通り私のせいですので、逃げ出してはいけませんね」
真緒「ええ。ぼくも協力しますから、八十記の中二病を治しましょう」
メイド長「はい、感謝致します。それにしても──」
真緒「はい?」
メイド長「お嬢様の事を真剣に考えてくれてるんですね」
真緒「あ、いや、ぼくの生徒だからというか」
メイド長「少し悔しいですが、嬉しくもあります」
ここに来て初めての笑顔だった。
こんなぼくでも、少しは力になれた気がする。
真緒「ま、まぁ時間はかかるかもしれませんが、頑張りましょう」
メイド長「そうですね、頑張りましょう。ただ、あまり時間はかけていられませんが」
真緒「長期戦覚悟ですよメイド長! 焦らずにいきましょう!」
メイド長「………」
メイド長の協力が得られるなら、八十記の中二病を治す事も夢じゃない。
ま、ぼくの本心としてはただ、素顔の八十記を見てみたいって気持ちが大きくて。
具体的な方法はすぐに思いつかないけど、これから徐々に考えていこう。
原因であるメイド長と協力するなら、きっと簡単に治るとぼくはそう思った──
最終更新:2010年08月12日 00:53