シナリオ 8月5日(日曜日)・その8
あの日から一ヶ月~
メイド長を残して部屋を出る。
かける言葉も見つからないし、しばらくはそっとしといてあげよう。
真緒「廊下にはいないか」
部屋に戻ったのか、それとも他の場所に行ったのか……
まずは、部屋だ。
※部屋
部屋の前、ドアを叩く。
中からの反応はなく、
ドアノブに手を回すと鍵はかかっていなかった。
真緒「八十記? いるのか?」
部屋の中を見るが、八十記の姿は無い。
部屋じゃないとすると、食堂にでも行っているんだろうか。
分からないが、行ってみるか。
※食堂
寮長「あ、先生」
真緒「寮長、八十記を見なかったか?」
寮長「あ、さっき玄関の方へ走って行きましたよ」
真緒「そうか、ありがとう!」
※玄関
真緒「外に出たのか……」
真緒「ふぅ……行くか」
※敷地、せえらと初遭遇場所
無意識に足がここへ来ていた。
なぜかは分からない。
でも、ここにいる気がして──
真緒「八十記」
せえら「………」
八十記はいた。
ぼくの呼びかけにふりむいたその顔は、さっきよりもだいぶマシな顔してるけど……
真緒「八十記、さっきの事で話が」
せえら「………」
真緒「昨日の事も今日の事もすまないと思ってる」
せえら「もう一ヶ月は経つんじゃにゃーです?」
真緒「え?」
せえら「センコーとここで初めて会ってからですわ」
真緒「あ、ああ、そういえばそうかもしれないな」
せえら「早いものですわね」
真緒「うん、あっという間だったよ」
せえら「それにしても、よくここにいるって分かりましたわね」
真緒「いや、自分でも分からないうちに足が向いてたんだ」
真緒「そしたら八十記がいて」
せえら「そうですの……ふふ」
せえら「それでこそワタクシの舎弟ですわよ」
真緒(お、機嫌が良くなった?)
せえら「追いかけてもこずに、
メイド長と一緒にいたらぶっ飛ばす所でしたわ」
真緒「はは……」
せえら「それとセンコー、メイド長と仲良くするのは結構ですけど、
ワタクシに内緒でコソコソと会うのは止めろですわ」
真緒「八十記、その事なんだけどさ」
せえら「なんですの?」
真緒「ぼくとメイド長で、八十記をお嬢様にしようって話をしてたんだよ」
せえら「ワタクシを?」
真緒「それで昨日今日、いや一昨日もか。
八十記に色々やったわけなんだ」
せえら「そうでしたの……
まぁ、様子があまりにも変でしたから分かりましたけど」
真緒「妙な事して、あげくには泣かせてしまって、
本当にすまなかった」
せえら「な、泣いてなんかいにゃーです!」
真緒「いや、ごめん」
せえら「だ、だから泣いてなんか」
真緒「さっき、ぼくもメイド長もそれに気がついて、
もう止めようって話をしてたんだ」
せえら「そうでしたの」
真緒「ああ、だからメイド長に怒らないでほしい。
ぼくにならいくらでも怒っていいからさ」
せえら「……なぜですの?」
真緒「メイド長は八十記の事を想ってやっただけなんだ」
せえら「そうじゃなくて、どうしてメイド長をかばうんですの?」
真緒「いや、かばうとかじゃなくて、仲が良い二人に戻って欲しいだけなんだ」
せえら「センコーとワタクシは仲が悪いから、そのままでも良いと言ってますの?」
真緒「ち、違うよ」
せえら「メイド長を気に入りましたの?」
真緒「違うって!
メイド長の気持ちを分かって欲しいって言ってるんだよ」
せえら「メイド長の気持ち?」
真緒「そうだよ。誰よりも八十記の事を考えてるじゃないか」
せえら「……センコーは知ってますの?」
真緒「メイド長の気持ちか? ああ、知ってる」
せえら「そうじゃないですわ、メイド長の昔です」
真緒「昔……」
せえら「メイド長は元ヘッドですのよ」
真緒「へ、ヘッド!?」
せえら「今でも語り継がれる、それこそ伝説のヘッドですわね」
真緒「ま、まじで?」
せえら「あら? 知りませんでしたの?
てっきり知ってるものかと」
真緒「いや、ヤンキーは知ってたけど、そこまでは」
せえら「まぁ、メイド長はワタクシにとって姉貴のようなものですわね」
真緒「姉貴、か」
せえら「ええ、メイド長の後を継いだのがワタクシですからね」
真緒「………」
せえら「だから、感謝と尊敬はしてますわ。
ですが、今回は許せにゃーです」
真緒「許せないって、どうして?」
せえら「姉貴だと思っていたからこそ許せにゃーです。
人の物を盗もうとするだけじゃなく、
このワタクシに引退を勧めるなんて……」
せえら「しかもセンコーを使ってコソコソと……」
真緒「だから八十記、それはぼくも一緒になってやったんだって。
メイド長だけ責めるなよ」
せえら「……またメイド長をかばうんですの?」
真緒「そうじゃないって。
メイド長は本当に心配してたんだぞ!」
せえら「………」
真緒「八十記の事を思ってるからこそ、こんな事をしたんだよ」
真緒「八十記が部屋を出て行った後のメイド長、見てられなかったよ……」
せえら「……またメイド長メイド長と」
真緒「寮に戻って、メイド長とも話をしよう、な?」
せえら「……嫌ですわ」
真緒「嫌? どうして?」
せえら「センコーだけは許しますけど、メイド長は許せにゃーです」
真緒「ど、どうしてぼくが良くて、メイド長がいけないんだ?」
せえら「………」
真緒「それならぼくだってメイド長と同じでいい」
せえら「……もうこの話は止めましょう」
真緒「止める訳にはいかないよ、ちゃんと話をしなきゃいけないだろ?」
せえら「それ以上喋ったら、ますますメイド長とワタクシの関係が壊れます。
だから止めて」
怒りとも悲しみともつかない、震えた声で八十記が言った。
それは、今までのヤンキーぶったどんな言葉よりも迫力があった。
ぼくは──返す言葉がなかった。
せえら「しばらくは、ほっといて欲しいですわ」
真緒「で、でも……」
せえら「心配するんじゃにゃーです」
真緒(口を挟まない方が良いんだろうか……)
せえら「さ、寮に帰って──って気分じゃないですわね。
ちょっと散歩に付き合えですわ」
真緒「あ、ああ、分かった」
なぜかぼくだけが許して貰え、メイド長には厳しい八十記。
どうしてなのかまったく分からない……
せえら「ほら、行きますわよ」
二人の関係が元に戻ってくれる事だけを考えながら、
ぼくは八十記の後をついていった。
最終更新:2010年08月13日 20:39