シナリオ 8月1日(火曜日)・その6
父性本能
※コテージ夜
あれから……
結局ぼくと岸岡が日が暮れるまで一緒にいた。
何度も戻ろうと言うぼくに、岸岡の泣き落としで戻れない。
暗くなってやっと岸岡も納得してコテージへと戻る。
案の定、莉緒たちも戻っていたけど、
なぜかあまり怒り散らす事もなくほっとしていた。
嵐の前の……いやいやいや違う、考えすぎだぞ真緒!
真緒「さて、と」
夕食も終わった後、ぼくは一人外に出ていた。
夜風に当たりながら、少し散歩でもしようと思う。
本音を言うと、莉緒たちに捕まりたくないっていうのがあるけど……
芽衣子「真緒様!」
真緒「この声は……」
芽衣子「真緒様、外に出られていたのですね」
真緒「あ、ああ」
芽衣子「どうかされましたか?」
真緒(見つかってしまった)
真緒「あ、いや、なんでもないぞ」
芽衣子「そうですか」
芽衣子「あ、真緒様、コテージには戻られないのですか?」
真緒「いや、ちょっと散歩でもしようかなぁって」
芽衣子「夜の散歩」
真緒「うん、岸岡は戻ってて。ぼくはちょっと散歩してくるから」
芽衣子「そんな! 芽衣子もご一緒します!」
真緒「いやでも、すぐ戻るしさ」
芽衣子「真緒様……芽衣子と一緒が嫌なのですか?」
真緒「そ、そうじゃないよ。ほら、夜は危ないしさ」
芽衣子「そんな……真緒様が側にいますのに危険など」
真緒「いやいや、分からないぞ。また魔獣が出てくるかもしれないし」
芽衣子「はっ!?」
真緒「な、なんだ?」
芽衣子「真緒様のお言葉通り……コテージの前から邪悪な気を感じます」
真緒「………」
芽衣子「恐ろしい程の……これは真緒様と別れた私を襲おうと?」
真緒「………」
芽衣子「あの小娘の……いや、これは新たな??」
芽衣子「これはどうすれば……私の弱点を見抜き、こんな場所まで送り込んでくるなんて……」
芽衣子「どうすれば……」
と言いながら、岸岡はぼくの顔色をチラチラと見てる。
ようするにだ。
犬がいて戻れないから一緒に散歩したいって事。
一人になりたかったし、夜はちょっと出歩かせたくなかったけど仕方ない。
こうなったら何がなんでも岸岡はついてくるだろうしな。
真緒「それじゃ、一緒に散歩しようか?」
芽衣子「え? あ、はい!」
真緒「でも、ほんとすぐだぞ」
芽衣子「時間は関係ないのです。真緒様と一緒だということが重要なのです」
真緒「……それじゃ行こうか」
芽衣子「はい!」
※夜の浜
島に詳しくないぼくが自然に辿り着いたのはここだった。
あまりウロウロして迷子になっても困るわけで。
芽衣子「夜の海……ロマンチックですね」
真緒「ああ、ここは星も綺麗に見えるしな」
芽衣子「ほんと……綺麗」
真緒「でも夜はやっぱり寒いな。岸岡は大丈夫か?」
芽衣子「真緒様は寒いのですか?」
真緒「ちょっとだけね」
芽衣子「なら芽衣子がひっつけば温かいです」
真緒「い、いいってひっつかなくても」
芽衣子「そんな……今日のお礼が出来ると思いましたのに」
真緒「ん、お礼?」
芽衣子「その……昼に助けていただいたお礼をと」
真緒「助けて……って、何かしたっけ?」
芽衣子「はい、魔獣に襲われた私を」
真緒「ああ、あれ」
芽衣子「はい、本当に感謝しております」
真緒「特にお礼される程の事じゃないんだけどな」
芽衣子「そんなことはありません。やはり私には真緒様がいないと……」
そう言った後、顔を落として黙ってしまった。
きっと頭の中で小難しい事を色々と考えてるんだろう。
真緒「ま、困った事があったら助けるよ」
芽衣子「真緒様……ありがとうございます」
真緒「いえいえ」
芽衣子「………」
真緒「さて、それじゃそろそろ」
芽衣子「あの、真緒様」
真緒「なんだ?」
芽衣子「これからもその、真緒様の僕として仕えさせて欲しいのです」
真緒「んー、仕えさせて欲しいと言われてもなぁ」
芽衣子「だめ、なのでしょうか? 私はいらないのでしょうか?」
真緒「い、いるとかいらないじゃなくてさ」
芽衣子「ですが先ほどの言葉、あまり乗り気では……」
真緒(また落ち込む……)
真緒(まぁでも、魔王とか僕とかは置いといてだ)
真緒(岸岡はぼくがしっかり見ていてあげなくちゃな)
芽衣子「真緒様……なにか仰って下さいまし」
真緒「あ、うん考えてたんだ」
芽衣子「考えて」
真緒「仕える仕えないは別にして、これからも仲良くしていこうな」
芽衣子「真緒様……」
夜の海でこんな会話を交わすって、かなりのシュチュ。
なのに、なんだろう。
あまりぼくにそんな気持ちはなかった。
あの幼い岸岡を見てきたからなのか、岸岡に対するぼくの気持ちはそう、
親が娘に持つ愛情と同じなのかもしれない。
今のぼくのこの気持ち──
他の誰よりも見ていてあげなきゃって、そう思うのはたぶんきっとそういう事なんだ。
真緒「うん、それじゃ寒いしそろそろ戻ろうか」
芽衣子「はい!」
真緒「っと、そうだ」
芽衣子「はい」
真緒(オルトロスの事は……莉緒に聞いてからの方がいいか)
真緒(なんか怒ってたから答えてくれるかどうかだけど)
芽衣子「真緒様?」
真緒「いや、後で話すよ。帰ろう」
芽衣子「はい!」
過ぎ行く夏の夜。
穏やかに歩いて帰ったぼくと岸岡に待っていたのは、莉緒たちの怒鳴り声だった──
最終更新:2010年09月12日 18:07