シナリオ 8月6日(日曜日)・その5
夕暮れの…
※公園夕暮れ
日が暮れ始めた。
青かった空も赤く染まってきている。
公園でよくこれだけ時間をつぶせたものだと我ながら感心する。
莉緒「やっと涼しくなってきたわね」
真緒「そうだな」
芽衣子「………」
はしゃぐ莉緒と黙り込む岸岡。
それはここでも同じだった。
ただ、岸岡は黙って何かをずっと考えていたようで、
ぼくの言葉に無視というより、聞こえていない様子だった。
莉緒「人も減ってきたしね」
真緒「ま、家族連れの人は帰る時間だろうな」
莉緒「そうよね」
芽衣子「………」
莉緒「……まったく」
真緒「いきなりどうした?」
莉緒「なんでもないわよ」
真緒「そうか。で、ぼく等はどうする?」
莉緒「……そうね」
真緒「帰るか?」
莉緒「……ねぇ真緒くん、こっち来て」
※夕暮れ空
来てと言いながら無理やりぼくを引っ張る莉緒だった。
真緒「な、なんだ? てか近いってば」
ほとんど抱きついてるような状態のぼくと莉緒。
こんな所岸岡が見たら……
芽衣子「………」
真緒「おい、莉緒、手をだな」
莉緒「ねぇ真緒くん……」
目を閉じた莉緒は、顔を上げた。
真緒(こ、これは……)
莉緒「いいよ……して」
真緒(し、してってまさかお前……)
莉緒「………」
真緒(そ、そんなの出来るわけ)
莉緒「……もう、意気地なし。いいわ、あたしからするわ」
真緒「お、おい莉緒、早まるな!」
莉緒「早まってないわよ。それじゃするわよ」
真緒「ま、待て! するってまさか」
莉緒の両手がぼくの首を抑える。
そして、そのままぼくは莉緒の顔へと──
芽衣子「貴様!!」
莉緒「………」
真緒「き、岸岡」
寸前の所で岸岡の怒声が入る。
おかげで助かったけど、まさか岸岡が止めてくれるなんて思わなかった。
※背景戻し
莉緒「なに? 邪魔しないでよ?」
芽衣子「いい加減にしろ」
莉緒「なにがよ?」
芽衣子「ここまで我慢してきたが、それももはや限界だ」
莉緒「なにを我慢してたわけ? 言ってみなさいよ」
真緒「お、おい莉緒、喧嘩は」
莉緒「真緒くんはちょっと黙ってて」
真緒「………」
莉緒「言えないわけ?」
芽衣子「……貴様に言う必要はない」
莉緒「そう。まぁいいんだけど、邪魔しないでくれる?」
芽衣子「なんだと…貴様また」
莉緒「そうしたいんだけど、もう無理ね。
あーあ、色仕掛けで魔王を倒すつもりだったのに」
莉緒がチラリとぼくを見る。
これも計画だと言っているんだろうか。
真緒(本気じゃなかった……のか?)
芽衣子「ふふ、そうだ、二度は聞かぬ」
莉緒「あら? 真緒くんは魔王じゃなくなったんでしょ?」
芽衣子「……貴様」
莉緒「あなた、誰のこと言ってるのよ」
芽衣子「……黙れ」
莉緒
「黙れですって?」
芽衣子「……そうだ」
莉緒「いい加減素直になんなさいよ! この馬鹿!!」
芽衣子「寺井莉緒……」
莉緒の怒鳴り声は、演技の混じった中二病のそれじゃない。
友達を心配して怒ってる、ごく普通の女の子の叫びだった。
さすがに岸岡も気がついたのか、怒鳴り返す事もなく莉緒を見ていた。
莉緒「みんな…みんな迷惑してるんだから……」
真緒「莉緒」
芽衣子「寺井莉緒……」
莉緒「真緒くん、あたしはこれで帰るわ。
岸岡芽衣子とゆっくり話して来なさいよね」
真緒「莉緒……」
莉緒「でもちゃんと帰ってくるのよ。帰ってこなかったら許さないからね」
真緒「あ、ああ」
莉緒「それじゃ真緒くん。岸岡芽衣子もちゃんと話しなさいよ」
芽衣子「………」
莉緒が全速力で走っていく。
あっという間に見えなくなった。
真緒「………」
芽衣子「………」
最終更新:2010年09月12日 23:08