シナリオ 7月2日(月曜日)・その4
自己紹介
真緒
(……いよいよか)[plc]
真緒
(………)[plc]
真緒
「よし、行くか!」[plc]
一呼吸してドアに手をかける。[plc]
ここからぼくの教師生活の始まりだ![plc]
莉緒
「てやーっ!!」[plc]
真緒「うわっ!?」[plc]
ドアを開けるなり刺すように伸びてきたのは──[plc]
莉緒「よけた!? さすが魔王ね!」[plc]
莉緒の傘だ。[lr]
しゃ、洒落にならん。[plc]
真緒「莉緒! 何するんだ!?」[plc]
莉緒「気安く名前を呼ばないで!!」[plc]
生徒A「キャー!! 莉緒と先生、名前で呼んでるしー!」[plc]
生徒B「あれじゃない? 禁断の愛ってやつ?」[plc]
生徒C「えー! ねえ、莉緒、どうなの?」[plc]
莉緒「なにがどうなのよ!!」[plc]
生徒D「ねね、それより新しい先生どう?[lr]
わりといいじゃん?」[plc]
生徒E「まぁまぁね。ていうか、莉緒が目つけてるんでしょ」[plc]
大盛り上がりの教室。[lr]
クラス中の生徒の視線が突き刺さる。[plc]
歓迎されているっていうより、品定めされてる状態。[plc]
これが、女子学園……[lr]
共学の雰囲気と違うだろうとは思ってはいたけれど
想像以上に違うものだ。[plc]
莉緒「馬鹿なことを言わないで!」[plc]
莉緒「魔王は憎むべき相手なのよ!」[plc]
真緒「莉──じゃない寺井。[l]と、とにかく傘をだな」[plc]
生徒A「今、言いなおした! ね、聞いたでしょ?」[plc]
生徒B「……怪しいわね」[plc]
嫌でも耳に入ってくる生徒の声。[lr]
妙な勘ぐりをしてる。[plc]
何も知らない子にしてみれば、いきなり名前で呼ぶぼくに疑問をもつのは当然の事か。[plc]
変な噂が流れる前に誤解を解かないと。[plc]
でも、何て言えば……[plc]
「莉緒とは幼馴染なんだ」
「制服姿……可愛いな」
説明
真緒「あー、あのな、寺井とは昔からの知り合いで、
さっきはつい昔の呼び方で呼んでしまっただけなんだ」[plc]
クラスの子に向けて口を開く。[lr]
また何やら騒いでるが、先に言っとけば大丈夫だろう。[plc]
真緒「寺井、席について」[plc]
莉緒「あ、危なく騙される所だったわ![lr]
ここで魔王を止めないと……みんなが」[plc]
真緒「………」[plc]
芽衣子「真緒様、やっと追いつきました」[plc]
少し遅れて、岸岡が教室へ入ってきた。[lr]
騒がしい教室と、傘を持った莉緒を見回している。[plc]
凄く、嫌な予感……[plc]
芽衣子「この騒ぎは……もしや」[plc]
莉緒「ふん、やっぱり来たわね」[plc]
芽衣子「やはり貴様か……」[plc]
莉緒「当然よ! 魔王を教室になんかいれさせないわ!」[plc]
芽衣子「………」[plc]
莉緒「な、なによ! にらんだってひかないんだから!」[plc]
芽衣子「………」[plc]
莉緒「う、うう」[plc]
芽衣子「………」[plc]
莉緒「このプレッシャー……」[plc]
莉緒「さ、さすが魔界一の騎士だけはあるわね」[plc]
芽衣子「………」[plc]
莉緒「今回は引き下がってあげるわ。
でも次は容赦しないわよ!」[plc]
そう言って莉緒は自分の席へ戻って行った。[plc]
喧嘩になるとばかり思っていたが、岸岡に助けられた。[plc]
真緒「岸岡、ありがとう」[plc]
芽衣子「いえ、当然のことをしたまでです」[plc]
真緒「さ、岸岡も席について」[plc]
芽衣子「はい、真緒様」[plc]
ようやく教壇に立つ事が出来た。[lr]
出だしでつまづいた感はあるけれど、
気を取り直していこう。[plc]
まずは自己紹介だ。[plc]
真緒「はい、皆静かに、静かに」[plc]
少し大きめの声を出して注意。[lr]
次第に騒がしい教室が落ちついてくる。[lr]
うん、良い感じだ。[plc]
真緒「さっきはバタバタしちゃったね。ぼくが今日から──」[plc]
奏「……だし」[plc]
真緒「………」[plc]
真緒「えっと、ぼくが今日から皆の担当をする事になった」[plc]
奏「……じゃないし」[plc]
真緒「………」[plc]
教壇の目の前に座っている北上。[lr]
一人ごとだろうか。ブツブツと何か言っている。[plc]
奏「…ロック……だし」[plc]
気になって、ちらちらと横目で確認。[plc]
どうも、ギターケースに一人ごとを言ってるようだ。[plc]
注意する……程でもないか。[plc]
真緒「えっと、要真緒です。よろしく!」[plc]
真緒「さて、みんなの事を知りたいから、まずは簡単な自己紹介をして貰おうかな」[plc]
生徒A「えー!」[plc]
生徒B「したくないー」[plc]
予想通りの生徒たちの声。[lr]
思えば、ぼくが学生の時もこうだったけ。[plc]
真緒「はいはい、それじゃ名簿順にいこうか。最初はっと」[plc]
和「俺だな」[plc]
勢いよく阿部高が立ち上がった。[plc]
そして、可愛い! カッコイイ![lr]
と、周りの生徒たちからの歓声を浴びている。[plc]
和「お、おいよせよお前ら。照れるじゃねーか」[plc]
真緒「人気者なんだな阿部高」[plc]
和「ふ、良い男は辛いぜ」[plc]
真緒「そういえば阿部高。[l]
『かず』って言ってたけど、本当は『なごみ』なんだな」[plc]
和「ああ、だがキミは『かず』って呼んでくれたまえよ」[plc]
真緒「名前では呼ばないから安心していいぞ。じゃ、紹介どうぞ」[plc]
和「……ふ、照れなくてもいいさ。[lr]
俺は阿部高和、クラス一の良い男だ」[plc]
真緒「良い男……ね」[plc]
和「しかし、キミのような良い男が来てくれて俺は本当に嬉しいんだぜ」[plc]
真緒「キミじゃなくて先生な。はい、ありがとう」[plc]
和「なんだ、もう終わりなのか?
もっと話しても良いんだぜ?」[plc]
真緒「あ、いや、もう大丈夫だよ。席について」[plc]
和「そうかい」[plc]
真緒「………」[plc]
なるだけ寮の子は手短に済ませたい。[lr]
悪く思うなよ阿部高。[plc]
真緒「じゃ、次は北上奏」[plc]
奏「アタシだね。[l]スーハースーハー」[plc]
なぜ深呼吸?[lr]
ただの自己紹介でそこまで意気込む事も……[plc]
ああ、そうだった。[plc]
奏「アタシはアナーキー・イン・ザ・奏。[lr]
未来の大ロック歌手だし!」[plc]
真緒「………」[plc]
生徒A「いよっ! 未来の大スター!」[plc]
生徒B「かっなっでっ!」[plc]
生徒C「かっなっでっ!」[plc]
クラス中北上コールが始まる。[lr]
なんてノリの良い子たち。[lr]
女子学園恐るべし……[plc]
奏「えへへ、なんだか照れるね。[l]
でも、十年後にはこの歓声の千倍……」[plc]
真緒「………」[plc]
奏「ううん、百万倍の歓声をアタシは浴びることになるんだよね……」[plc]
北上は、はるか遠くを見つめている……[lr]
何を考えているか安易に想像できてしまう。[plc]
真緒「北上、おい北上」[plc]
奏「……だし。……じゃないし」[plc]
真緒(……次へいこう)[plc]
真緒「はい、次の人」[plc]
芽衣子「は」[plc]
真緒「岸岡か」[plc]
芽衣子「芽衣子と、そうお呼び下さい……」[plc]
真緒「………」[plc]
芽衣子「存じ上げるまでもないと思いますが、私は岸岡芽衣子。[l]
魔王様の忠実な僕です」[plc]
真緒「………」[plc]
生徒D「芽衣子が探してた魔王なんだー」[plc]
生徒E「魔王っぽくないよー芽衣子」[plc]
またクラスが騒がしくなる。[lr]
たぶん他の生徒は莉緒たちの妄想を分かってて、
それに乗っている感じなんだろうな。[plc]
芽衣子「魔王様、この者たちに理解させるべきです。[l]
少なからず、魔王様を疑う愚か者がいるようですゆえ」[plc]
真緒「あのね……えーと、ぼくは魔王ではありませんので」[plc]
芽衣子「なぜそのようなことを……」[plc]
真緒「岸岡、ぼくは魔王じゃなくて先生」[plc]
芽衣子「……なるほど、そういうお考えでしたか」[plc]
芽衣子「寺井莉緒と同じ作戦なのですね?[lr]
さすがは魔王様……」[plc]
真緒「………」[plc]
芽衣子「では、私の紹介は以上です」[plc]
真緒「じゃ、次いこうか。次は寺井莉緒」[plc]
莉緒「ふん」[plc]
真緒「自己紹介どうぞ」[plc]
莉緒「嫌よ」[plc]
真緒「えっ」[plc]
莉緒「嫌だって言ったの。魔王に自己紹介なんてしたくないわ」[plc]
真緒「魔王じゃなくて先生だから」[plc]
莉緒「騙されないわよ! 皆も騙されちゃだめよ!」[plc]
真緒「あのね……」[plc]
莉緒「いい、みんな! よく聞いて![lr]
とても魔王に見えないでしょう?[lr]
それがもうすでに魔王の作戦なの!」[plc]
莉緒「私たちが油断したその時に魔王は牙を向くわ」[plc]
莉緒「そう、私には分かるの……」[plc]
真緒「莉緒、真面目に自己紹介しなさい」[plc]
莉緒「真緒君の口調をつかって私を騙そうというわけ? なんて卑劣なの!」[plc]
真緒「莉緒!」[plc]
生徒A「夫婦喧嘩よー」[plc]
生徒B「まだ痴話喧嘩でしょう?」[plc]
生徒C「まだ、なんだ。あはは」[plc]
……茶化す生徒の声が聞こえてくるが、
今はどうでもいい。[plc]
そんな事より莉緒だ。[plc]
妄想するのは構わない。[plc]
でもそれが学園生活で教師に反抗するような態度になるのなら、
教師として幼馴染として叱るべき所だ。[plc]
真緒「莉緒、ちゃんと自己紹介しなさい」[plc]
莉緒「な、なによ、そんな恐い声出して」[plc]
真緒「莉緒!」[plc]
莉緒「……いいわ。今はどうやら真緒くんみたいね」[plc]
真緒「………」[plc]
莉緒「私は寺井莉緒。みんなは私のことをテラリオンと呼ぶわ。[l]
伝説の使い手とも呼ぶわね。こんな感じかしら」[plc]
真緒「……はい。じゃあ、次の人」[plc]
莉緒「………」[plc]
真緒「次の人、次の人は」[plc]
せえら「………」[plc]
真緒「八十記か。じゃ、どうぞ」[plc]
せえら「ワタクシも嫌ですわ」[plc]
真緒「八十記もか……」[plc]
せえら「二度も三度も紹介する必要はないじゃにゃーです?」[plc]
真緒「たしかに一度紹介して貰ってるけどさ」[plc]
せえら「なら、する必要はないですわね。[lr]
大体ワタクシは、センコーが嫌いなんですの」[plc]
真緒「嫌い?」[plc]
せえら「ええ、ワタクシ不良とセンコーは決して相容れぬ存在だと思いますの」[plc]
莉緒「そうよせえら!」[plc]
真緒「莉……じゃなくて寺井は静かに」[plc]
せえら「そういうことですから、もう座ってもよろしいかしら?」[plc]
真緒「駄目だ、ちゃんと自己紹介しなさい」[plc]
せえら「まったく、頑固なセンコーですわね」[plc]
真緒「八十記は相容れないと思っても、先生は仲良くしたいし
助け合っていきたいからな」[plc]
せえら「センコーに助けられるなんて、屈辱以外のなにものでもありませんわね」[plc]
真緒「ま、そう言わずにさ」[plc]
真緒「ああ、そうそう八十記。[l]
今朝はありがとう、おかげで遅刻せずにすんだよ」[plc]
せえら「なっ!?」[plc]
こっちがビックリする程、八十記が驚いた。[plc]
真緒「ど、どうしたんだ八十記?」[plc]
せえら「へへ、へんなこと言うんじゃにゃーですわ!!」[plc]
莉緒「どど、どういうことなのせえら!」[plc]
芽衣子「……八十記さん、詳しく聞かせてもらいたい」[plc]
八十記の妙に照れたような反応のせいか、またクラスが盛り上がってしまう。[plc]
まいった、言わなきゃ良かった。[lr]
当然、二人乗りは内緒の方向で……[plc]
真緒「ああ、いや、ちょっと道が分からなくてね、八十記が教えてくれたんだ」[plc]
莉緒「ふーん」[plc]
芽衣子「そういうことでしたか……」[plc]
せえら「………」[plc]
真緒「ああ、そういう事だから席について」[plc]
……ふう、上手く切り抜けたな。[plc]
奏「あーまた嘘ついたー!」[plc]
真緒「き、北上!?」[plc]
奏「アタシ見たんだけどなー」[plc]
真緒「な、ななな、なんの事だ?」[plc]
見られてた?[lr]
い、いや、まだそうだとは。[plc]
せえら「か、かなちゃん!」[plc]
奏「せえらちゃんとセンセが楽しそうに二人乗りしてたし」[plc]
み、見られてた……[plc]
莉緒「なんですってー!!」[plc]
芽衣子「………」[plc]
和「うほっ」[plc]
せえら「ば、バカなこというんじゃにゃーですわよ!」[plc]
奏「せえらちゃん後ろでセンセが前だったよね」[plc]
真緒「き、北上……それは見間違いだ」[plc]
せえら「そうですわ!」[plc]
奏「そっかなー」[plc]
真緒「そうだ、それは見間違いだ」[plc]
奏「んー? せえらちゃんがそう言うなら見間違いかな」[plc]
真緒「とにかく席につけ北上」[plc]
奏「はーい」[plc]
真緒「えー、みんな静かに。[l]北上の見間違いで、ただ道を聞いただけだ」[plc]
真緒「それじゃ八十記、自己紹介を」[plc]
と言ったものの、莉緒の時と同じく冷やかしの声があちらこちらから聞こえてくる。[plc]
『莉緒だけじゃなくてせえらとも』[lr]
『二股?』[lr]
『もう生徒に手をだしてる』[lr]
なんて感じの話だ。[plc]
冗談で言ってるとは思うんだけれど、
どうして女の子ってのはこう色恋沙汰が好きなんだろう。[plc]
せえら「……八十記せえらですわ」[plc]
八十記は小さく名前を言って座った。[plc]
真緒「じゃ、次で最後かな。えっと寮長」[plc]
寮長「はい」[plc]
真緒「あれ? 寮長が最後?[lr]
あいうえお順だから……[lr]
いや、それよりも名前が」[plc]
寮長「どうかされましたか?」[plc]
真緒「いや……どうして寮長が最後なんだろうって」[plc]
奏「なに言ってるのセンセ?」[plc]
奏「寮長は寮長だから最後なんだよ!」[plc]
和「細かい事を気にする男は良くないぜ」[plc]
寮長「何かおかしいですか?」[plc]
真緒「ま、まあ、ずっとこうだったんだろうから良いんだけど」[plc]
和「なにも変な所なんてないさ」[plc]
奏「ナゴミ、センセおかしいよねー」[plc]
和「そうだな奏さん。だが、良い男だぜ?」[plc]
真緒「わ、分かったから席について」[plc]
真緒「それじゃ寮長、どうぞ」[plc]
寮長「はい、私は寮長です。[l]
寮の監督と、このクラスの学級委員をしています」[plc]
寮長「これからよろしくお願いしますね」[plc]
真緒「こちらこそ」[plc]
寮長「ふふ」[plc]
真緒「それじゃ寮長、席について」[plc]
寮長「はい」[plc]
寮長が席に着くと、ちょうど終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。[plc]
長い時間だったな……[plc]
よし、締めの言葉で終わろう。[plc]
真緒「それじゃみんな、これからよろしく!」[plc]
最終更新:2010年07月13日 00:32