その建物はショップと呼ぶには人の気配が感じられない。内装は綺麗だが、出迎えてくれる店員はいなかった。
目の前の棚には商品が並んでいるが、全てが画面の中に収められている。値札らしき物も備え付けられていて、横にはコンソールと思われる装置までもがある。
動かせることはミーナにもできる。しかし、だからといって商品を獲得することはできなかった。
試しにボタンを押しても、何の反応も示さない。何故なら、必要な【ポイント】を全く持っていないからだ。
「店と言うよりは自動販売機みたいですね……」
ここにあるアイテムを購入するには、現実の世界でお金の役割を持つ【ポイント】が必要だ。しかし、それは労働で手に入れられる物ではなく、他のプレイヤーを殺害することでしか得られない。
ミーナはここに来てから誰かを傷付けたことがない。それ以前に、ダークマン以外の人物と接触すらいなかった。先程、謎の危険人物に遭遇しそうになったが、幸いにも気付かれずに済んでいる。
もしも、あそこで見つかっていたら……考えるまでもない。【Delete】という残酷な結末だけ。友好的な接触など微塵も期待できなかった。
「【
参加者名簿】に回復アイテム。それに武装……ううっ、どれも私には買えません……」
ウインドウに表示されているアイテムの【ポイント】はどれも高い。200や300など、日本円に換算すればとても安い数値でも今のミーナには手が出せなかった。
欲しいものを手に入れるには、他の誰かを殺す。そんなのは、人類がまだ文明を気付きあげていない時代の話だ。現代でも紛争地帯や暗黒街などではあり得る話かもしれないが、それはごく一部。
今の社会だったら、物の奪い合いは減ったのは確かだ。
他者を蹴落としてでも、物を買う精神をミーナは持っていない。その為の力だって持っていないし、仮に奇跡が起きて人を殺したとしても罪の十字架を一生背負わなければならない。ジャーナリスト人生だって終わる。
明日のご飯とベッドすらも保証されないお先真っ暗の道を歩くなんて出来る訳がなかった。ジャーナリストは危険な道を歩むことはあるが、それは必要最低限の安全が保障された上での条件だ。
それすらも蔑ろにするなんて、できるわけがない。
「それにしても、さっきの人はどうしてこんな所に来たのでしょう? やっぱり、私みたいに買い物を……?」
そこまで言葉に出した瞬間、ミーナの口が止まる。
謎の人物・フォルテはショップから出てきた。その理由は、恐らくアイテムを購入する為だろう。
もしも、彼が購入できる分の【ポイント】を持っているのなら……それは、彼が他の参加者を殺したと言うことになる。
戦闘で傷付いて、そのダメージを癒す為にショップに向かった可能性だってあった。無論、これはただの推測に過ぎないが、他に考えられない。
(まさか、彼はまだこの近くにいる……!?)
ミーナの全身に悪寒が走る。
もしもまだ彼が近くにいて、他の参加者を殺す為に戦おうとしているのなら、またこのショップに戻ってくるかもしれない。そうなったら、今度こそ殺されてしまう。
仲間がいない現状で、彼のような参加者と遭遇するわけにはいかなかった。
「……どうやら、長居はできないですね。他のエリアに行かないと」
ショップに関する情報はそんなに得られていないが、今の状態では留まっても無意味。買い物が出来ない以上、何も手に入らない。
もしかしたら、友好的な参加者と出会えるかもしれないが、そんなに都合のいいことが起こるとも限らない。別の危険人物が現れる可能性の方が遥かに高かった。
そう危惧したミーナは急いでショップから飛び出して、この場から離れる為に走る。あのフォルテとは、まだ出会わないことを祈りながら。
アプドゥは使わない。早く移動したい気持ちはあるが、貴重なアイテムを簡単に浪費してはすぐに無くなってしまう。残りは三個だけなのだから、使いどころは見極めなければならなかった。
無論、特別な事情だったら、迷わず使う。それまでは節約しなければならない。
(ううっ、それにしてもここにはまともな人はいないのですか? もしかして、変な人達だけが集められて、その中に私だけが放り込まれてしまったのですか~?)
謎の世界に呼び出されてから、まともな人物を見つけたことがない。最初に見つけたのは、妖精のような少女。
それから見つけたのは奇妙な男達。ダークマンと名乗った謎のアバター。オープニングで破壊活動を行っていた危険人物。これだけ怪しい相手を立て続けに見つけては、そういう類の人物しかいないという不安に襲われてしまう。
本当は限定されたプレイヤー達だけで危険なゲームをするはずが、何かの手違いで自分までもが巻き込まれてしまった……それが、この殺し合いの正体。
(いいえ、それならそれで尚更私が頑張らないと! くじけてなんかいられません!)
ミーナは頭を振りながら、自らを奮起させる。
もしもこんな危険なゲームが存在するなら、一般に流通する前に対策を立てなければならない。規制をしているようで気に入らないが、それでも一般家庭に勧められるような代物ではなかった。
こんなゲームを作るなんて有り得ない。尚更、主催者の実態を調べて調査をしなければならなかった。
決意を新たにミーナは街の中を走る。その最中、彼女の視界がほんの少しだけぼやけてしまう。まるで目眩が起きたかのように周囲が歪んで、ミーナは太陽の光に晒された。
「……えっ?」
ミーナは辺りを見渡して、そして呆然とする。たった今まで、コンクリートで出来たような道路をを走っていた。だけど、ここに見えるのは広大な草原と、白い雲が流れる青空だった。陽の光だって燦々と輝いている。
後ろを振り向いても、街は見えない。まるで、瞬間移動をしたとしか思えなかった。
夢を見ているのかと思って、頬を抓る。そこから軽い痛みが走ってきた。だから、これは正真正銘の現実かもしれない。
しかし、別世界にも見えるこんな場所にどうやって辿り着いたのかがわからなかった。走っている途中に道を間違えた記憶も、何か変なプログラムを操作した記憶だってない。
もしかしたら、どこかに瞬間移動ができるようなシステムがあって、知らない間にそこへ飛び込んでしまったのか? ミーナは考えるが、当然ながら答えは見つからない。
「えええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
彼女は知らないが、アメリカエリアとファンタジーエリアの裂け目に突入してしまい、それによって別のエリアに移動しただけ。何も特別なことはしていない。この会場の仕組みによって、別世界に移動したように見えただけだ。
だが、それを知らない彼女はただ困惑しながら、叫ぶことしかできない。このファンタジーエリアに、デンノーズと関わりのある者達や捜していた妖精・アスナもいることを知らないまま。
ミーナの単独行動は続く。もうすぐ、主催者からのメールが届く時間が来るまで、そう遠くないことを知らないまま……
[E-7/ファンタジーエリア/昼]
【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、困惑
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~1(本人確認済み)、快速のタリスマン×3@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
0:ここは一体!?
1:殺し合いの打破に使える情報を集める。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
4:ダークマンは一体?
5:他の参加者にバグについて教えたいが、そのタイミングは慎重に考える。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。
※もしかしたら、この仮想空間には危険人物しかいないのではないかと考えています。
最終更新:2015年06月28日 12:49