――来るよ来るよアイツが来るよ猛然と迫ってくる。振り返るな殺される殺される。

没データ、破損ファイル、改造ツール、ディレクトリエラー、果てには放浪AIまでなんでもござれ。
ごちゃごちゃに積まれたデータの塵。ネット上の廃棄場。その光景はまさにスラムと呼ぶにふさわしい。
捨てられたデータたちが街を造っている不思議な場所。広大なネットの世界だ。これくらいあってもおかしくない。

うず高く積まれたデータの墓場を巨人が疾駆する。

散らかる塵のケイオスを巨人は無慈悲に破壊していく。その巨体で押して潰し、その十字架で跳ね除ける。彼が通り過ぎと場に、ジジジジ、とノイズが走った。
歪な建物が抉れていく。変な方向に曲がった標識のテクスチャが剥がれる。首の違えた歪なNPCたちは霧散していった。
元より壊れていたデータたちも、その巨人が通り過ぎれば全て零となっていた。
この世界においてカタチとは即ち情報だ。零になるとは即ちその存在のそのもの記述が世界から消失されるということである。
存在の消失。情報の終わり。それを“死”と形容できるかは分からない。
しかして彼は“死”を司る名を与えられていた。なぜならば彼を生んだ“母”は確かに“死”を恐れていたから。
その“母”にとって“死”は歴然として存在するものだった。たとえ情報だけの存在であろうとも、“死”は恐ろしい速度で迫ってくる。
だからこそ巨人は――スケィス“死の恐怖”と名付けられた。

ブラックローズはその“死の恐怖”を知っていた。
モルガナが生み出した八相。The Worldの法則を逸脱して生み出されたモンスター。
追いつかれてはいけない。あれと戦ってしまったら、その時点で負けだ。
だから彼女は逃げていた。わき目も振らず決して振り返ることもせず声を張り上げ、たただ逃げ出す。
彼女を突き動かすものは“死の恐怖”だ。後ろから迫りくる巨人の恐ろしさを彼女は身を持って知っている。
恐怖より生み出された“死の恐怖”が連鎖的に新たな恐怖を生み出していく。

熱に頭がひりつくような感じがした。肌は焼けるように熱い。それでいて彼女は「寒い」と感じていた。
肉体が悲鳴を上げている、という訳ではないだろう。この場における肉はあくまで仮想のもの。現実のそれとは違う。
この身体は精神の延長上にあるものだ。“ここにいる”という感覚こそが肉であり身体だ。
だからこの感覚――命ががりがりと鑢で削られていくような不快感は精神から来るものだ。

怖い怖い怖い怖い――そう思ったから、思わず横を見てしまった。
すると黒の姫と目が会った。
蝶々のドレスを纏った少女――黒雪姫もまたブラックローズを見ていた。
同じだ。彼女もまた怖いのだ。でも進まないといけない。
前だけを見るべきなのに、迫る恐怖にでも耐えられない。それでも後ろを振り返るのはもっと怖くて、そんな二律背反に引っ張られるように横を見た。
そうして二人は互いを見会った。艶のない漆黒の瞳がブラックローズを見る。ブラックローズもただじっと彼女を見据えた。
怖い、と黒雪姫の瞳は言っている。私も、と彼女は漏らした。声には出なかったかもしれない。

「――どうにも不味いな」と声がした。アーチャーだった。緑衣の弓兵は少女たちの殿に付き、駆けながらも辺りを見渡している。
彼だけは後ろを見ていた。後ろから状況を把握しつつ、時々それとなくブラックローズたちを誘導して逃げる道を探っている。
そんな彼が言った。「奴のが速い」その単純な形容はいずれ追いつかれることを端的に伝えていた。
ではどうするというのだ。逃げるしかないというのに。思わずヒステリックに声を張り上げそうになった時、アーチャーは「アイテムまで使ってる以上、こっちはもうこれ以上速くならない」と言った。

「だから向こうを遅くするしかねえ」

その言葉と同時に彼は、さっ、と姿を消した。
どこに行ったのか。それを確認する術はなかった。余裕がない。振り返ることすらかなわないのに、そんなこと。
だから信じて逃げるしかないし、きっと彼もそれを望んでいるだろう。それを分かっていたから、ブラックローズは走った。
黒雪姫もそう思ったに違いない。言葉なくても視線を絡ませれば通じ合えた。

ブラックローズは知っている。黒雪姫が喪った名前のことを。
そして黒雪姫もまた、そうだ。ブラックローズが何を喪ったのかを知っている。
ここでないどこかで失われた名前。告げられたその現実は、どういう訳か、あまり重くはなかった。
彼と彼が死んでしまった。けれどそれだけだ。ただただ情報としてのみその消失は存在する。
カタチを感じることができない。肉を伴わない情報だ。
xxxxxが喪われた――死んだ。
それは分かる。
けれど“それだけ”なのだ。死んだ。もういない。それで感じ入るとか、泣くとか、そういうことは何も始まりはしない。
だって――まだ情報が肉を持っていないから。死んだ、と言葉だけ告げられたところで、彼女の中の彼はまだ生きている。思い描くことができる。また会うと信じることができる。
ニュースで遠くの国のこと――戦争でも災害でもいい――を知ったところで、人は大して何も思うことはないだろう。「大変だな」くらいは思うかもしれないが、それだけだ。
けれど目の前でその被害を体験していれば違うはずだ。目の前で悲劇が起これば「大変だな」で済まない。理不尽に怒るか、流れた血を悲しむか、何にせよ重みが違う。
たとえ同じニュース/情報であろうとも、だ。そこに肉を伴う経験があるかないかで情報の意味合いは大きく変わる。

だからまだ死んでいないのだ。彼と彼は。
彼女と彼女の心の中でその名は生きている。生きてしまっている。
死に肉が伴うまでにはタイムラグがある。喪失を認識するきっかけが訪れたとき、真の意味で二人は死ぬ。
それを自覚しているからだろう。彼女たちは今“死”を何よりも恐れていた。

「…………っ」

不意に、ガガガガ、と何か崩れる音がした。悲鳴のような音だった。それでいて無機質なノイズでもあった。
ブラックローズは振り返らない。けれど街に起こった変化は掴みことができた。
うらびれたシャッター街を思わせるネットスラム。街に――波が起きていた。
ローポリに適当なテクスチャを張り付けただけ、のような造形のビルが倒れていく。
何かに引っ張られるように、ぐら、と一つが倒れたかと思うと、それが連鎖を起こして次々と街が崩壊していくのだ。
破壊工作という単語が頭に過った。アーチャーが得意とすることの筈だった。
敵の進軍を止めるべくこの街のデータに細工をしていったのだろう。実際のビルと違い、元から壊れているジャンクデータはさぞかし破壊しやすかったに違いない。

地が揺れ、街に波が起こる。空に砂塵が渦を巻いた。
ビルが音を立てて崩れ落ちていく。破損したデータが砂のように空から舞った。それらは一瞬だけ、きら、と光ったかと思うと、すぐに消えてしまった。
黄昏に壊れゆくスラムで、二人の少女は逃げていた。ブラックローズと黒雪姫。黒と黒。彼女らはただここでないどこかを求めている。

そっと二人は手を絡ませた。

はぐれないよう手を繋いだまま二人は逃げていく。
手のひらは柔らかくて、ぬくもりがあった。でも何故だろう、冷たくて硬い、と矛盾する感じもした。
生きる温かさが手のひらを通じて伝わってくる。でも温かいと思ったのと同じ分だけ、“死の恐怖”も増してしまった気がする。
それを埋める為に、ぎゅっ、と強く手を握りしめた。体温が汗ばんだ手のひらを通じてまじりあう。でも冷たかった。
それでも握りしめる。強く、深く、ただ二人で逃げ出す為に。

“死の恐怖”に追いつかれたくない。
何時かは絶対に来るものだとしても、今それを直視したくなかった。
誰かが言った。何時かそれは追いついてしまうって。それは知っている。前に進もうと思ったら、何時かは必ず対峙しなくてはならないものなのだ。

それでも二人は逃げた。二人だけで逃げた。
壊れゆく情報が砂となってぱらぱらと舞う。黄昏の街に降り注ぐ光は、ちょっときれいで何だか雪みたいだった。
それを見上げながらふと思う。あのデータは元々何だったのだろう。ダンジョンのマップか、背景データか、あるいはNPCだったのかもしれない。
何にせよ、この街に流れ着いた時点で元々の役割は喪っていた筈だ。そういう意味でずっと前から情報としては“死”んでいた訳だ。
けれどここに来て、街を構成する要素となった。壊れて何の機能も果たせなくなっても、そういう風に存在としては残っていた。
もしかするとそれが“再誕”ということなのかもしれない。情報が意味を変え生き残ること。アウラが目指したのは、そういうことだったのだろうか。
俗っぽい言い方だと、それはセカンドライフということだ。同じ情報が別の肉を纏うこともあるのかもしれない。

けれどそれも今ここで終わっている。終わっていく。無数の情報たちが遂にそのカタチを溶かしていくのだ。
それを見ながら思う。終わりは何時か来るものなんだろうと。
意味を変えよう、カタチを捨てようが、何かの拍子で存在は終わりを迎える。

それくらい知っていた。
知っていたけれど、逃げたいとも思った。
それは弱いからだ。弱いから、逃げるしかない。

「――ま、何時までも逃げるだけじゃダメだけどな」

ふっ、と現れた彼はそう言って皮肉気に笑った。
逃げ続ける二人の前に、アーチャーが帰ってきた。彼なりのやり方で“死の恐怖”と戦っているのだろう。

「可能な限り時間は稼いだつもりだが、どうにも駄目ですわ。
 矢はもちろん、毒は効かねえし、辺りのマップ壊して侵攻妨害するのが限界。
 ここらで腹決めねえとつらそうですぜ、姫様方」

戦うしかない。アーチャーがそう告げた時、ブラックローズは何も言えなかった。
分かった、と頷こうとした。けれどその言葉は喉に引っかかって出なかった。
代わりに手を握りしめた。黒雪姫の手をただ握ったら、そしたら握り返してくれた。
だから頑張って何かを言おうとした。言わないとだめだ、とも思ったから。

「――ねえ、君たち」

それを遮るようにしてその声はやってきた。

「僕はロックマン。一緒にあのウイルスと戦うよ」

崩壊し行くスラムの中、ばさばさと舞う青いマフラーがひどく映えて見えた。










「共闘、だと。本気で言っているのか?」

その提案を告げるとモーフィアスは低い声でそう告げた。
サングラスに阻まれて目元は見えないが、顔に刻まれた皺が敵意を滲ませていた。

「勿論です。私は共通の敵の為に貴方がたに協力を要請している」

予想どおりの反応だった。一度殺し合った身。好意的に相手が迎える筈がない。
しかしラニはその選択をした。

ラニは逃げるつもりであった。
“死の恐怖”から逃れ、撤退することを最優先に行動――それが合理的であると判断した。
それ故に巨人からは一先ず撤退した。それ自体に迷いはなかった。
しかし、どういう訳か――ネットスラムから離れるという選択肢を選ばなかった。
選べなかった。

「信用できない」
「できるできないの問題ではありません。必要性の問題です」
「必要性とはどういうことだ。私たちがお前に手を貸す必要がどこにある」
「私に手を貸す、のではありません。同じ敵に対する共同戦線です」
「何が違う。結局はお前のPKに加担することだろう」
「いいえ。これは貴方方の問題でもある。あの敵はこのままでは貴方がたにも累を及ぼすでしょう。既にこのスラムのパワーバランスは崩れている。
 三つの勢力同士がどう動くか。という段階ではありません。一つの強大な力に対してどう動くかという状況にシフトしている」
「このままでは俺もお前も殺されるから力を貸せ、と?」
「言ってしまえば、そうです。だから最初に必要性の問題といいました。それしかないという状況なのです」
「それはそちらの都合ではないのか」
「このまま散らばって戦えば各個撃破が見えています。断言しますが、あなたがた単独であれを退けることは不可能でしょう。
 これは――守るための戦いなのです」

モーフィアスはそこで「ふむ」と腕を組んだ。そして確認するように仲間――赤い髪の少女と青いマシンを見た。
敵意を滲んだ態度は変わらない。がしかし、全くこちらの話を聞かないという風でもなかった。
一時的に行動を共にしたこともある。ラニの分析の正確さを彼も理解しているのだろう。
モーフィアスは理性的な人間だ。論理を告げれば共闘は可能だ。

「なるほど分かった。バランスを崩す強力なPKが現れ、ツインズもそれに撃破された。それ故に共闘してそれを撃退したい、と。
 お前の言いたいことは少なくとも理解できた。が、それが本当である根拠は」
「根拠はPK本人がいます。いや、あれは人ではないのかもしれませんが」

人形じみている、と感じたツインズ以上に無機質な巨人の存在を思い起こしながらラニは言う。
あれこそAIのようだとラニには感じられた。肉(なかみ)がないがらんどう。そういうものに彼女は見えた。
同時にラニは思う。もしかすると昔の自分もああ見えていたのかもしれない、と。
聖杯を希いムーンセルに訪れた時の自分と、そこから再び地上に舞い戻った時の自分は違う。
何が違うのかは言葉にできない。単なるスペックとしては別にそう変わっていない筈だ。
けれど確かにあの時の自分とは違う。そう思う。
少なくともあの頃ならば、ツインズたちを見て「自分とは違う」などとは感じなかった筈だ。
そして迷わずネットスラムからの撤退を選んでいたように思う。何が自分を変えたかは、上手く言葉にできなかったが。

とにかくあれを間近に見ればモーフィアスも納得するはずだ。
実際に見ればいい。そう告げようとしたが、しかしその手間は省けていた。

街が崩壊していた。
ネットスラムのビル群が音を立てて崩れていく。モーフィアスとラニは思わずそちらを見た。彼の後ろにいる赤髪の少女は驚きの声を漏らしていた。
見た目は豪快な破壊だが、その実その破壊が計算し尽くされたものであるともラニは思えた。最小限の仕込みで最大限の効果を発揮するようにしている。
あのアーチャーだろう。破壊工作スキルに加え、ネットスラムが脆弱なデータで成り立っていることを考えればこれだけの破壊も納得できる。
こうした技を使いながら、彼らはあの敵と戦っているのだ。
が、それでもラニは彼らがあの敵を退けることができるとは思えなかった。
あれに単純な戦いを挑んでしまえば、駄目なのだ。同じ土俵に立ってしまった時点であれにはかなわない。
ツインズを完封したその戦い方から、敵がそうしたものであるとラニは分析していた。

「……なるほど、規格外であるということは理解した」

モーフィアスはそう静かに漏らした。
言葉を弄するよりも目の前の光景は雄弁で、説得力のあるものだった。
無論彼らは敵を実際に見た訳ではないし、その力をはっきりと認識している訳でもないだろう。
しかし何かしら大規模な戦闘が推移している、という事態は認識できる筈だ。

「あれと戦っているのはもう一方の陣営か」
「はい。状況からしてそうでしょう」
「お前は彼らを残して逃げてきた訳だ」
「それが何か。私は最も合理的な選択を選んだまでです」
「いや、いい。それは構わない。だが信用できないのは変わらない、ということだ」
「Mr.モーフィアス。それは理性的な判断ではありません」
「分かっている。信用はしないが、しかし理解はした。私はそれ故に戦いたい」

モーフィアスはそう言って、仲間を見返した。
青いマシンは静かに頷き返した。少女の方は戸惑いつつもラニを一瞥し、こくりと頷いた。

「ロックマン、お前に彼らの援護と情報の収集を頼みたい」
「うん、分かった。あの人たちが戦っているのなら、助けにいかないと」

彼はそう言って、さっ、と駆け抜けていった。
崩壊していくスラムにマフラーを揺らしながら迷わずに向かっていく。
速い。その機敏な動きを頭に入れながら、ラニは口を開いた。

「……私の情報を確かめると同時に、彼らの協力も取り付ける、ということですか」
「そうだ。合理的な選択だろう? これで戦力は整い、かつその後も動きやすくなる。
 何か問題があるか?」

それはつまりラニを追い込む策という訳でもある。
あの敵を撃退――この状況が次の段階へと移行すれば、パワーバランスはまた変わる。
具体的には、ラニにひどく不利な方向に。
あの敵がいなくなれば最悪二陣営を敵に回すことになる。ツインズを喪った今、そうなると非常につらい状況になる。

が、ラニは異を唱えず「分かりました」と頷いた。
今優先すべきはあの敵だ。それ以外のことはまだいかにようにも対応できる。
そう思ってのことだった。

「…………」

それからしばらく沈黙が舞い降りた。
モーフィアスは抜け目ない視線でラニの動きを監視し、ラニもまた常に警戒する。
張りつめた緊張が場を支配する。ロックマンが帰ってくるまでは待機、ということだろう。

「あのさ」

そうした沈黙を破ったのはラニでも、モーフィアスでもなかった。

「なんでアンタは戦ってるんだ?」

赤髪の少女だった。
所在なさげに佇んでいた彼女は躊躇いがちに、しかし淀みない口調でラニに問いかけた。

「なんで、とはどういうことでしょう」
「どうしてこのゲームをプレイしているかってことだよ。言われた通りに、こんなゲームをさ」
「優勝して生き残ること。そしてひいては聖杯そのものの調査。それでは不満でしょうか?」

違うさ、と少女は言った。

「何で殺すのか、とかはさ、アタシにはよく分かんないんだよ。
 モーフィアスとかロックマンとか、そういう“本物”に比べたらアタシはただのゲーマーだからさ。
 そういうこと……アタシじゃ何言っても、なんというか、軽いんだと思う。実際そういう立場に立ったことないから。
 でもさ、アンタはそのただ効率だけを考えているじゃないってことは分かる」
「私は常に合理的に動いています」

「そうじゃない」と少女はきっぱりと言った。

「だってアンタ言ったじゃんか。これは守るための戦いだって。
 守るための戦いって、たぶんその主語にはアンタも含まれるんだろ?
 アンタも何かを守ろうとして戦ってるんだ。でなければ、わざわざアタシらと組んであの敵を倒そうとはしないと思う。
 アタシは……その気持ちならなんとなく分かる。分かるつもりだ。だから気になったんだ」
「…………」

ラニはどう答えるべきか、分からなかった。
「違う」と否定しようとした。けれど同時に「そうだ」と思うところだった。
守りたいもの。そう聞いたとき、思い浮かんだものがあった。
それを想うと、ずしん、と胸の中に何か重いものが震えた気がした。それはラニ=Ⅷの深いところまで根を張っていて、それを想うということはすなわち自分を想うことと同義であった。
思わず自らの心臓を感じる。どくん、どくん、とそれは確かな鼓動を刻んでいる。喪われた筈のオパールの心臓炉がそこにはある。
かつて遠坂凛のランサーに貫かれ、がらんどうになった胸の中。しかしそれを補うような温かさをラニは手に入れた筈だった。
けれどそれはもう――

「私は逃げたくないのです。あの時感じた、あの人の“死の恐怖”に……」

結局こぼれたのは答えになっていない、彼女らしからぬ曖昧な言葉だった。



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最終更新:2016年02月24日 10:20