3◆◆◆
そうして辿り着いた先は、6度目になる闘技場エリアだった。
相変わらずの無機質な色で満ちている。特別な飾りはなく、学習机のような道具だって何一つ備え付けられていない。だけど、ここには彼女がいることだけは確信できた。
「………………アトリ………………」
だからハセヲは彼女の……アトリの名前を呼んだ。
けれど、そこにいるはずの彼女は呪療士のアバターではなく、凶悪なモンスターの如くおぞましい姿だった。全身は常闇を彷彿とさせる漆黒に染まり、背中からは一対の巨大な翼が広がっていて、双眸は真紅に染まっている。
最早、AIDA=PCと呼称するのもふさわしくない。だけど、その表情には確かにアトリの面影があった。
「……………………………………………………………………………………」
ハセヲは茫然としながら、目の前に立つ彼女と視線を合わせる。
彼女は泣いていた。大嵐の中に放り出されてしまった小動物のように、絶望した様子で震えている。かつて、榊に心の傷を利用された時以上に悲痛な面持ちだった。
向き合うだけでも心が締め付けられるけど、視線を逸らすことなどできない。アトリはどれだけ否定されても理想を貫き通したのだから、それを裏切ってはいけなかった。
例え、ここにいる彼女から拒絶されたとしても。
『ハセヲさん…………』
そして、生徒会室からミーナの通信が聞こえてくる。先の戦いが行われた後だからか、彼女の声色は暗かった。
『ハセヲさん。
わかっているでしょうが、そこにいるのはアトリさん……司さん達と同じように、あなたのために用意されたのでしょう。
そして、あなたの前にいるアトリさんはAIDA=PC。恐らく、あなたも知らないアトリさんの一面だと思います』
レオの言葉はあまりにも事務的だ。しかし、通信機越しではその表情は悲痛で染まっている事だけは察することができる。
それきり、二人は何も言わなくなった。恐らく、こちらに気遣っているのだろう。
「アトリ」
だからハセヲは一歩前に踏み出した。
けれど、その瞬間にアトリの両目は見開かれる。
「来ないで……」
アトリの周囲を覆いつくす黒点は激しく鼓動する。アトリの嘆きに呼応するかのように、闘技場に無数の孔が穿たれた。
「…………来ないでええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
世界の全てを壊しかねない程の絶叫と共に、孔の中よりおびただしい数の触手がハセヲを目がけて飛びかかる。
一本残らず、ハセヲの肉体を抉りとっていた。ダメージ自体は微々たるものに過ぎず、ハセヲの歩みを止めるには弱々しい。
確かに身体は痛む。けれど、アトリが受けた苦しみと絶望に比べれば、これはただの子供騙しだ。
「アトリ、俺は……!」
「嫌! 嫌っ! 聞かない! 何も、聞きたくない! あなただって、私のことを殺そうとしてるからっ!」
その悲鳴が耳に入り込んだ途端、ハセヲは足を止めてしまう。
彼女の嘆きを否定することができなかった。ハセヲがこの闘技場に現れたのは、アトリと戦う意志を示すことと同意義だから。
そして、ハセヲの歩みはアトリに対する死へのカウントダウンに繋がる。一体誰が、その事実を否定することができるのか。
「あなたは……私のことを助けてくれなかった! 私のことを助けてくれると言ったのに、裏切った!
苦しかった! 寂しかった! 逃げたかった! 怖かった! だけど、私は耐えたっ! きっと、あなたが助けてくれると……信じてたからっ!
あなたが来てくれた時、私は安心した…………だけど、また裏切られたっ!」
「……アトリ……」
アトリの口から発せられる怒涛の叫び。ハセヲはそれを耳にしながら、歩み続ける。それを阻害するかのようにアトリの触手は更に暴走するが、懸命に耐える。
彼女が受けた苦痛や悲しみ……その全てを受け止めるのは誰の役目か? 他ならぬハセヲ以外にあり得ない。
ここにいるアトリの言葉は、いなくなってしまったアトリの真実だろう。ただの虚構と切り捨てるなど、あってはならない。
「私はここにいたい……死にたくないっ! 生きていたい! 消えるなんて嫌っ!
あなた達はここに来るまで……たくさんの敵を倒してきたでしょ? あなたは、志乃さん達を切り捨てた! だから私のことだって殺そうとしてるっ!
私のことだって、偽者と決めつけて全てを奪おうとする! 私は、私はここにいるのにっ!」
アトリの嘆きを否定することはできなかった。
ハセヲは既に自らの手で関わりを持った者達を切り捨てた。彼らと同じように、ここにいるアトリの命だって脅かされようとしているのは紛れもない事実だ。いくら否定したとしても、変わることなどない。
――オ前ガ、二人ヲ殺シタノダト。
あの夢で『憑神』である
スケィスから発せられた宣告が蘇る。
まるで、あの夢を再現したかのよう光景だった。"表側"のゲームでは、かつてのスケィスによって志乃とアトリが命を奪われたように……今度はハセヲ自身の手で、志乃だけでなくアトリの命までもが壊されようとしている。
自らの手で、『死の恐怖』にはならない誓いを裏切ることになってしまう。どんな謝罪も意味を成さなかった。
消えゆく最期の時まで、アトリは自分の涙を拭おうとしていた。けれど、本当はアトリだって泣きたくて、自分の気持ちを誰かに知ってほしかったはずだ。
そんな彼女を
シノンは守ろうとした。志乃から託された。彼女達の願いを背負い、アトリと向き合わなければいけない。
その為に力を得たのだから。ただ、大切な人達を守りたいと願ったからこそ、強くなりたいと願った。
だからハセヲはここにいる。
壊れたようなアトリの瞳からは澎湃と涙が溢れ出ていた。止めどなく流れる滴を前に、ハセヲはただ歩み寄ることしかできない。例え、彼女の表情が拒絶の色に染まったとしても。
「嫌あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
発せられる絶叫。そうして漆黒の手刀が襲い掛かり、ハセヲの腹部を容赦なく貫いた。
肉を貫く音は、アトリの叫び声によって掻き消されてしまい、その衝撃によってハセヲの体躯は微かに揺れる。確かな痛みが全身を駆け巡っていき、そしてHPゲージも減少していく。
『アアアァァァァッ…………!』
『
カイトさん!? ……わかりました、すぐに……!』
耳元より聞こえてくるのは、蒼炎とレオの叫び。
蒼炎は危機に陥った自分を助けようとしているのだと、ハセヲは瞬時に理解する。客観的に見れば、確かに今は危機的状況と言えるだろう。
「……俺なら、大丈夫だ…………」
しかしハセヲはその助け舟を拒絶する。
彼らの力はいらない。いや、むしろハセヲがたった一人で向き合わなければ、アトリは耳を傾けてくれなかった。
『ハセヲさん!? しかし、このままでは……!』
「だい、じょうぶ、だ……俺なら、大丈夫…………俺の話を、聞いてくれ……!」
生徒会室で待っているレオ達と。そして、吐息のかかる距離にまで近付いたアトリに言い聞かせるように、ハセヲは言葉を紡いだ。
『…………わかりました。ですが、タイムリミットが迫っています。僕達が判断したら、その時は了承してください。ハセヲさんの犠牲は、あってはいけないことですから』
その宣告を最後に、生徒会室から聞こえてくる声が止んだ。
ありがとう。と、胸中でレオ達に告げながら、ハセヲはアトリをじっと見つめる。対するアトリは頭を振るが、構わなかった。
「……嘘。そうやって、あなたも私を騙そうとしてる! 都合の良い言葉を利用して、私を殺そうとしてるっ! 私はもう、あなたを信じて殺されたくないっ!」
「…………そうだよな…………」
今はただ、アトリの言葉を肯定する事しかできない。
"表側"でアトリの命を奪ったのはスケィスだ。そしてスケィスとはハセヲ自身でもある。ハセヲの過去が志乃やカイト、そしてアトリを殺してしまったことを否定するつもりはない。スケィスはここにいるのだから。
でも、それを言い訳にアトリと向き合うことをやめてはいけなかった。耳を塞いで、自分を勝手な思い込みで縛り付けるなとアトリに伝えたのは誰だ? 他ならぬハセヲ自身だ。
「…………でも、聞いてくれないか? 俺は、志乃から頼まれたことがあるんだ。アトリのことを、お願いって…………」
「…………えっ?」
志乃から託された最期の言葉を告げた途端、アトリから伝わる力が緩むことが伝わる。けれど、それで終わりな訳がない。
「嘘……そんなの、嘘に決まってる! みんな、消えたくないはずなのに……あなたが志乃さん達の命を奪って、私のことだって……!」
「嘘じゃない……嘘じゃない……志乃も、クーンも、シラバスも、ガスパーも……お前のことを、心配していた。揺光達だって、お前がここにいることを知ったら……助けるに決まってる。
…………どうすればいいのか、俺にはわからねえ。だから、何を言ってんだって……アトリは思うだろうな。ましてや、俺は志乃やアトリを……殺しちまったからな。
だけど……俺だけじゃねえ。俺のそばには、頼りになる仲間がたくさんいる…………! 欅だって言ってただろ……俺達は一人じゃない。一人では歩けない道でも、道連れがいれば歩けるようになるって……
俺も、アトリも……一人じゃねえんだ!」
それは嘘偽りのないハセヲの本心だった。
ハセヲとアトリは『The World』を通して多くの繋がりを得た。リアルのアトリがAIDAの侵食によって聴力を奪われても、自分の居場所だけは決して捨てなかった。ここにいるアトリだって、ただ自分の居場所が欲しかっただけ。
だから、ハセヲはゆっくりとアトリの体に両腕を回す。抱き締めたことによって、アトリの顔は見えなくなるけど、少なくとも拒絶の気配は感じられなかった。
「…………ハセヲさん…………」
耳元から彼女の声が聞こえてくる。
ようやく名前が呼ばれたことに穏やかな安堵を抱きながら、アトリと目を合わせる。未だに涙は流れているけど、その瞳だけは見慣れた色に戻っていた。
「アトリ……」
だからハセヲもアトリの名前を呼んだ。
ゆっくりと、この身体に突き刺された手刀は抜かれていく。見た目はおぞましいが、元となるアトリの攻撃力が低いせいか深刻なダメージは負っていない。
「…………やっぱり、ハセヲさんはハセヲさんのままですね」
「俺は俺だ。間違えたり、立ち止まることだって、まだまだある。だけど……また歩き出すことだけはやめない。俺は、そう誓ったから」
「そっか……強いんですね、ハセヲさんは」
そして、アトリは微笑んだ。
その笑みはハセヲがよく知る笑顔だった。彼女だって、心に傷を負いながらも多くのプレイヤーを支えようとした。いや、辛い経験を乗り越えてきたからこそ、傷を持つ者の苦しみに寄り添えている。
ハセヲもアトリの存在に何度支えられてきたか。彼女がいてくれたからこそ、乗り越えられた困難もあった。
「ハセヲさん…………ごめんなさい」
「謝ることなんかねえよ。今からでも、お前を助ける方法を見つけてみせる。そして、あのGMどもに……」
「いいえ。時間はないんです……ハセヲさんだって、わかっていますよね?」
その言葉の意味に疑問を抱く暇もなく、彼女はゆっくりと後退する。
唐突な動作に首を傾げるのと同時に、アトリは手刀を掲げた。漆黒の刃より放たれる異様な気配に、ハセヲは目を見開いた。
「……アトリ?」
「ハセヲさんのことを裏切ってしまって、ごめんなさい……それと、歩き出すことをやめないでくださいね?
助けようとしてくれて、本当に嬉しかった……本当の気持ちを伝えてくれて、ありがとうございます」
「ま、まさか…………待て、アトリッ!」
「……大丈夫ですから、ハセヲさん」
ハセヲは前に踏み出すが、もう遅い。
アトリは自らの胸を目がけて、鋭利な刃を突き刺した。
†
私は消えたくないと願ってた。死ぬのは怖い……誰もが持っている『死の恐怖』に支配されてた。
けれど、あの人は……ハセヲさんは私を助けようと必死になった。その気持ちは嬉しかったけど、残された時間は少ない。
ハセヲさんが私を助けようとすればするほど、揺光さん達が危機に陥る。そして、彼女達を助けられるのはハセヲさんだけ。
だから、私はこの手段を選ぶしかなかった。ハセヲさんが悲しむことはわかっている。だけど私が、私自身の手で…………この命を終わらせること以外に、方法はなかった。
闘技場に配置されたフロアボスには自らで思考する機能が備わっている。
オリジナルとなった人物と同じ技を使うことができれば、戦闘及び思考パターンも用意されている。唯一の禁止事項は、闘技場及びダンジョン内部からの脱出行為だ。
ならば、プレイヤーがフロアボスを撃破する以外にフロアのクリアは不可能なのか? ボスの撃破は絶対条件だが、それを成すのは必ずしもプレイヤーである必要はない。
そう。フロアボスが自害をすることで、強制的に戦闘を終了させる…………そんな残酷な決着も存在していた。
4◆◆◆◆
パリン、と甲高い音を鳴らしながら
岸波白野達を閉じ込めていたファイアーウォールは消滅する。
それが意味することはたった一つ。闘技場に向かったハセヲがボスエネミーの撃破に成功したことになる。
「ハセヲッ!」
刹那、揺光は真っ先にゲートに向かって飛び込んでいった。
無理もない。ハセヲが志乃達を模したエネミーと強制的に戦わされてから、彼女はずっと心配していた。
それは岸波白野達も同じ。恐らく、この先で待ち構えているはずのボスエネミーだって、ハセヲの関係者のはずだ。
『…………白野さん、ブラックローズさん』
残された岸波白野達も駆け出そうとした直後、ミーナの声が聞こえる。
『ハセヲさんは、ミッションをクリアしました……でも、ボスエネミーとして配置されたのがアトリさんだったんです。
そこにいたアトリさんは、ハセヲさん達を助けるため……自ら、命を…………!』
ミーナの震える声に、岸波白野は絶句した。
……まさか、アトリがボスとして登場した!? それにアトリが自らの手で命を絶った、だと!?
それでは、志乃だけでなくアトリのことだって……ハセヲは二度も失うことになってしまう。
GM達はどこまでハセヲの願いを踏み躙れば気が済むのか。ハセヲが守りたかった二人の命をいたずらに生み出し、そして使い捨ての駒のように扱う。
そんなことを許される訳がない。結果的に、ハセヲが二人に死を導いたことに変わりはなかった。
「ハクノ! あたし達も行くわよ!」
ブラックローズの言葉に頷いて、岸波白野は走る。
ハセヲの無事を祈りながら。
†
「アトリ……アトリッ!」
ハセヲはアトリの元に駆け寄り、その華奢な体躯を必死に揺さぶる。
あの時と同じように、アトリはハセヲを見つめていた。どういう訳か、そのPCボディを支配していた漆黒は吹き飛び、見慣れた呪癒士の姿に戻っている。
しかしその理由などどうでもいい。ただ、どうすればアトリを助けられるのかを考えていた。
「オリプス! リプメインッ! リプメインッ!」
"表側"とは違って、蘇生効果の制限時間は守られている。一縷の望みにかけて回復スペルを使用するが、効果はない。
何故なら、あらゆる回復スペル及びアイテムは自分または指定したプレイヤーにのみ効果を発揮する。ここにいるアトリは、アトリの姿と記憶を利用した敵性エネミーに分類された。
そして『The World』には、エネミーを回復させる手段など存在しなかった。
「……な、なんでだよ……なんでなんだよ、なんでっ!?」
「ごめんなさい、ハセヲさん…………ハセヲさん達を助けるには、これしか方法が、なかったんです。ハセヲさんの重荷を……軽くしたかった、から……」
「な、何を言ってるんだよ……俺がそんなこと、望む訳がないだろっ!?」
ハセヲは懸命に呼びかける。だが、その声は彼女を救う効果を持たず、ただ闘技場で空しく響き渡るだけだった。
これでは、あの時と同じ。スミスやスケィスの手から守ることができず、みすみす死なせてしまった悲劇を再現したかのようだった。
『The World』とこのデスゲーム。どちらの世界でも、志乃とアトリを守り切れなかった。そしてこのダンジョンでも、ハセヲ自身の手で彼女達を死に追い詰めた。
アトリを失いたくない。アトリを助けたい。その願いと共に手を握り締めるが、彼女の肉体は崩れ落ちていく。
「……ハセヲッ! アトリッ!」
その時、この闘技場に新たなる声が響き渡る。
叫びに反応して振り向いた途端、揺光が駆け寄ってくるのが見えた。遅れて、岸波白野やブラックローズも姿を現す。
「あ、アトリ……なんで、なんでこんなことに……!?」
そして変わり果てたアトリの姿を見て、揺光は足を止める。
震える揺光と視線を合わせるように、アトリはゆっくりと顔を上げた。
「揺光さん……ですか? よかった、助かって…………」
「良くねえよ! アンタがこんなになって……良いわけねえだろ! 今、アタシが助けてやるから待ってろ!」
揺光は癒しの水をオブジェクト化させて使用する。だが、アトリのHPは回復しない。
アトリのアバターの崩壊を前に、揺光は震えている。アトリを助けたいと願っているのは揺光も同じだが、どうすることもできない。
既に蘇生効果の制限時間はとっくに過ぎている。ただアトリの最期を見届けることしかできなかった。
「…………なんで、なんで? アトリとまた会えたのに、こんなのって……ありかよ!?」
「揺光、さん……ありがとうございます……私のことを心配してくれて…………
私、いつもハセヲさんを、悲しませてばかりだから…………ハセヲさんを、守って、あげてください……」
「アンタに言われなくても、そうするに決まってるだろ! だから、アトリも諦めるな!
アタシは、ハセヲやアトリと一緒に『The World』でもっと冒険したいから……諦めないでくれよ!」
ハセヲの気持ちを代弁するかのように揺光は叫ぶ。しかし、肝心のアトリはただ微笑むことしかできない。
白野とブラックローズは気まずそうに見つめている。霊体化して姿が見えなくなっている三人のサーヴァントも同じだろう。
「アトリ……アトリ……アトリッ!」
ハセヲは必死にアトリの名前を呼び続ける。
既にアトリの体は下半身が無くなっていて、両腕も音を鳴らしながら粉々に崩れていた。もう、ハセヲの頬に手を伸ばすことすらできない。
目の奥が熱くなり、涙が溢れ出てくるのをハセヲは感じる。アトリの崩壊が胸にまで届いた途端、心臓が破裂しそうな程に鼓動した。
「……ハセヲ、さん…………」
「アトリ………!」
「負けないで、くださいね…………? ハセヲさん、は……一人じゃ、ないから…………」
そう言い残して、アトリは優しく微笑む。
そして、あの時と同じように…………彼女の体は跡形もなく消滅していった。
「あ……あ、あ、ぁ、あ…………アトリッ、アト、リッ! アトリイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィッ!」
ハセヲは慟哭する。アトリの喪失を嘆き、ただ涙を流すことしかできない。
結局、何も変わらなかった。これ以上、誰も失いたくないと願っていたのに、それどころかむしろ自分自身の手で大切な人を殺してしまった。
能無しだ。何も守れていないではないか。
「…………ハセヲッ!」
崩れ落ちそうになるハセヲの体を、揺光が抱き締める。
振り向くと、揺光もまた大粒の涙を流していた。ブラックローズも同じで、白野だけは悔しげに拳を握り締めている。
そして、遅れて三人のサーヴァントも実体化する。皆、ハセヲを心配するかのように見つめていた。
「……揺、光…………?」
「ハセヲ! 今は、アタシ達を頼ってくれ! 頼ってくれよ!
アタシ達は…………絶対にアンタの元からいなくなったりしない! ハセヲのそばには、みんながついてる!
だから……だから…………!」
むせび泣いているせいで、そこから先の言葉は遮られてしまう。
だけど、彼女の気持ちは伝わってきた。そして、ハセヲは決して一人ではないことも。
これまでだってそうだった。ハセヲが立ち止まりそうになっても、周りには多くの頼れる仲間がいる。
「…………………あ、あ、あ、あ、あ、あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
だからハセヲは思いっきり涙を流した。これまでに溜まったあらゆる悲しみを、胸の奥深くから空の彼方へと解放するように。
自らの手で命を奪った仲間達に鎮魂歌を捧げるかのように。ハセヲの涙は止めどなく溢れ出ていた。
【第六層/二の月想海 クリア】
【ダンジョンクリアまで残り1層】
※アトリを撃破したことによるドロップアイテムが放置されています。
※また、アトリは自らの手で命を絶ったため、フロアボス撃破分のポイントはハセヲに加算されません。
[?-?/生徒会室エリア/一日目・夜中]
【チーム:黒薔薇の対主催騎士団】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:ブラック・ロータス
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト、キリト
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ、ジロー、ブラックローズ、揺光、ミーナ
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:GMへのジャミングが効いているうちにダンジョンを攻略
4:ネットスラムの攻略
[現状の課題]
0:ダンジョンを攻略しながら学園を警備する。
1:ウイルスの対策
2:危険人物及びクビアへの対策
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※エージェント・スミスはオーヴァンによって排除されたと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
オーヴァン、フォルテ
※セグメントを一つにして女神アウラを復活させても、それはクビアの力になるだけかもしれないと仮説を立てました。
※プレイヤー同士の戦いによってデスゲーム崩壊の仮説を立てましたが、現状では確信と思っていません。
※生徒会室は独立した“新エリア”です。そのため、メンテナンスを受けても削除されませんが、GMに補足された場合はその限りではありません。
※生徒会室にはダンジョンへのゲートが新設されています。
※VRバトルロワイアルは“ダンジョン探索ゲーム”です。それを基幹システムとしては、PvPのバトルロワイアルという“イベント”が発生している状況です。
※そのためダンジョン攻略をGM側は妨げることができません。
※ダンジョンをクリアした際、何かしらのアクションが起こるだろうと推測しています。
※生徒会室には言峰神父を除く全てのNPCが待機していて、それぞれの施設が利用できます。
【Aチーム:ダンジョン【月想海】攻略隊】
【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP35%、SP75%、(PP100%)、3rdフォーム、悲しみ
[装備]:{光式・忍冬、死ヲ刻ム影、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、{雷鼠の紋飾り、イーヒーヒー}@.hack//、大鎌・首削@.hack//G.U.、フレイム・コーラー@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、???@???、{H&K MP5K、ルガー P08}@マトリックスシリーズ、ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ
[ポイント]:600ポイント/2kill
[思考]
基本:
0:……………………
1:ゲームをクリアする。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】の【楚良】のプロテクトは解除されました。
【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、強い決意、Xthフォーム
[装備]:最後の裏切り@.hack//、あの日の思い出@.hack//、PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:不明支給品0~2、癒しの水@.hack//G.U.×2、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能) 、基本支給品一式×3、ネオの不明支給品1個(武器ではない)、12.7mm弾×100@現実
[ポイント]:194ポイント/0kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める為に戦い、絶対に生きて脱出する。
1:ハセヲ達を助ける為に前を走る。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。
※ネオの願いと救世主の力によってXthフォームにジョブエクステンドしました。
※Xthフォームの能力は.hack//Linkに準拠します。
※救世主の力を自在に扱えるかどうかは不明です。
【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP70%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章、福音のオルゴール、開運の鍵、強化スパイク}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ、トリガーコード(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)}、コードキャスト[_search]}@Fate/EXTRA、{薄明の書、クソみたいな世界}@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本、不明支給品0~5、基本支給品一式×4、ドロップアイテム×2(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:このゲームをクリアする
2:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
3:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
4:危険人物を警戒する。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
6:ダンジョンの一番奥には何がある?
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前) 、アーチャー(無銘)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ar)]:HP20%、魔力消費(大)
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。
【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.、カズが所持していた杖(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[アイテム]:基本支給品一式、{逃煙連球}@.hack//G.U.、ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3、ハイポーション×3@ソードアート・オンライン、恋愛映画のデータ@{パワプロクンポケット12、ワイドソード、ユカシタモグラ3、デスマッチ3、リカバリー30、リョウセイバイ}@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ゲームをクリアする。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。
【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP45%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、番匠屋淳ファイル(vol.1~Vol.4)@.hackG.U.、{セグメント1-2}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/2kill [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:バトルフィールドを破壊する為の調査をしながら、指令を出す。
1:ゲームをクリアする。
2:ハーウェイ家の党首として、いずれトワイスも打倒する。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP70%(+50%)、MP100%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。
※蒼炎のカイトの言語を翻訳するプログラムや、通信可能なシステムを作りましたがどれくらいの効果を発揮するかは不明です。
【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP80%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイ(アウラのセグメント)、騎士団を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。
【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP60%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~1(本人確認済み)、拡声器、不明支給品0~1、、不明支給品2~4
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:ゲームをクリアする。
2:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
3:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
4:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
5:ダークマンは一体?
6:シンジさんの活躍をいつか記事にして残したい。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。
【第六層・二の月想海】
ミッション:制限時間以内に敵性エネミー及びフロアボスの撃破
ボス:アトリ@.hack//G.U. TRILOGY
イニスの碑文使いにして、AIDA=PCとなった呪癒士の少女。
TRILOGY本編の他にも、ゲーム本編及びバトルロワイアルでの記憶も引き継いだ状態で出現した。
最終更新:2018年11月11日 18:59