1◆


 殺し合いの舞台となった一角。
 【G-1】に位置する、アリーナと呼ばれる場所に、一人の少年がいた。
 ……否、ここに居るのは少年だけではない。

「これは……驚きましたね。
 ガウェイン、いますか?」
「ここに」

 少年がその名を呼ぶと同時に、その後ろに白銀の甲冑を身に付けた一人の騎士が現れる。
 騎士の名は、ガウェイン。かの有名な円卓の騎士が一席、“太陽の騎士”であり、今は一人の少年に臣下として仕えるサーヴァントである。
 そして、その主である少年の名は、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。月の聖杯戦争において決勝まで勝ち残り、そして敗れ去った“王”である。

「ガウェイン、貴方にはこの状況が解りますか?」
「いいえ。私は魔術師ではありませんので、このような事態に対する見識は、残念ながら」
「そうですか………」

 そう、敗北したのだ。
 月の聖杯戦争において、敗北とはそのまま“死”を意味する。
 一部例外はあれど、正式な決闘が正式な形で決着した以上、彼等は死んだはずなのだ。
 事実、レオは敗北を認め、受け入れ、その魂はムーンセルによって削除された―――はずだった。

「しかし、僕達はここに、こうして生きている。その事実は、認めなければなりません」
「はっ」
「であれば、現状においてまず決めるべき事は一つ。このバトルロワイアルに乗るか否かですが……」

 レオは少し間を置き、天高く昇る月を見据えると、太陽の如き威厳を以って宣言した。

「ガウェイン。僕はこのバトルロワイアルを―――潰します」
「! ……理由を、御聞きしても?」
「いいでしょう」
 そう言うとレオは、ガウェインへと向き直る。
 このゲームが始まってから初めて見た瞳は今、激しい怒りを秘めているように、ガウェインには見て取れた。

「僕がバトルロワイアルを潰すことを決意した理由。
 それは、あの戦いを……誇りを汚された様に感じたからです」
「汚された?」
「はい。僕はあの時、敗北を知り、絶望を知り、心から思いました。
 ―――もし次が……この先があるならば、と。
 しかし、本来それはあり得ない事です。その覚悟を持って、僕達は戦った」
「――――――――」

 主の言葉に、騎士はその心中を黙して語らない。
 ガウェインは無言で、レオに先を促している。

「確かに“次”という機会を得られたことは喜ばしい。
 ですが、僕はそれ以上に、あの榊という男に対して怒りを覚えています。
 今のこの状況は、あの戦いを無価値なものにしてしまう。それが僕には許せない」
「それで、この催しを潰す――つまり、あの榊という男と戦うと」

 ガウェインの言葉にレオは肯き、再び月を見上げる。
 だがその瞳は月を見ず、どこか別の場所を睨みつけている。

「その通りです、ガウェイン。ですが、一つ訂正を。
 これは闘争ではなく、誅罰です。あの奢り高ぶった逆徒に、王を怒らせた意味を思い知らせてやりましょう」
「御意。全て貴方の思うままに、我が王よ」

 それを聞いてレオは満足そうに頷き、再びガウェインへと向き直る。
 そしてメニューを開き、何かしらの操作を始めた。

「それでは、準備を整えましょう。
 敵は死んだはずの僕達を蘇生させるほどの力を持っています。
 一切の油断、慢心も許されません。その為にまず、貴方を可能な限り強化します」
「と仰いますと?」
「貴方に、これを装備してもらいます」
 そう言ってレオが提示したアイテムは【神龍帝の覇紋鎧】。
 アビリティ〈王の威厳〉により、最大HPを50%アップ、物理攻撃のダメージを25%軽減する効果を持つ重鎧だ。

「本来はサーヴァントがアイテムを装備する事は出来ないようですが、その程度の改竄なら今の僕でも出来ます。
 後は貴方がこの鎧の装備条件を満たしていればいい」

 データの改竄を終えたレオは、ガウェインが鎧を装備した状態になるようメニューを操作し、
 果たして鎧は―――問題なく装備された。

 それも当然か。彼等騎士は全身に重い甲冑を身に付け、幾つもの戦場を駆け回り戦ってきたのだから。
 もっとも、流石に国中を駆け回る様な事になれば、騎馬や、あるいは彼の泉の騎士の様に荷車を必要とするだろうが。

 真に驚くべきは、バトルロワイアルが始まったばかりの状況で、早くもシステムに介入して見せたレオの手腕だろう。
 だがその手腕を持ってしても、感染させられたというウイルスを駆除する事はおろか、発見すらできなかったのだが。

「流石です、レオ。この分であれば、目的の達成も難しくありませんね」
 ガウェインはレオへの賛辞を口にする。
 それを当然のものとして受け止め、レオはアイテム欄から一振りの剣を取り出した。
 白く氷雪のような刀身の片手剣。銘を【ダークリパルサー】――『闇を祓うもの』という意味を持つ名剣だ。
 レオはダークリパルサーを装備し、両手で握って一振りする。

「重い……しかし、とても良い剣です。気に入りました」
「同感です。この剣の本来の持ち主に会ってみたいですね」
「そうですね。ではこの状況を打破する同志を探すついでに、この剣の持ち主か、それを知る人物も探してみましょうか」

 そう言いながら、レオの脳裏には一人の人物が浮かんでいた。
 ―――自らを下した聖杯戦争の勝者、岸波白野
 もし会えるのなら、もう一度白野さん会ってみたいと思った。
 白野さんならば、きっと力になってくれるだろう。
 そして同時に、今度こそ良き友人に―――

 レオは僅かに目を閉じてその思いを仕舞い込むと、剣を鞘に納めて背中に背負う。
 準備は整った。当面の目的も定まった。後はただ前へと進むだけだ。

「では行きましょうか、ガウェイン」
「御意」

 そう言って二人は、アリーナの内部へと足を進めた。
 まずはこの施設を調査し、可能な限りの情報を得るのだ。


 ―――そうして完璧なる少年王と太陽の騎士は、天へと向けて刃を向けた。
 その刃の先に何があろうと、彼等は己が王道を進むだけだ。


【G-1/アリーナ/一日目・深夜】

【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、令呪:三画
[装備]:ダークリパルサー@ソードアート・オンライン、
[アイテム]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを潰す。
1:まずはアリーナを調査し、可能な限りの情報を得る。
2:バトルロワイアルを潰す為の同志を探す。
3:2のついでに、ダークリパルサーの持ち主を探す。
4:もう一度岸波白野に会ってみたい。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP150%、健康
[装備] :神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。

【ダークリパルサー@ソードアート・オンライン】
キリトが使う、白き氷雪のような刀身の片手剣。
鍛冶屋リズベットの最高傑作。SAOがクリアされるまで、これ以上の剣は作れていない。

【神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.】
レア度5。高い防御力と強力なアビリティを持つ重鎧。
しかし入手時期が遅くなりがちな事と、ステータス異常を防げない事から、あまり活用されない。
・王の威厳:最大HPを50%アップ、物理攻撃のダメージを25%軽減する。


014:赤いの黒いの合わせて二組 投下順に読む 016:凍てついた空は時には鏡で
014:赤いの黒いの合わせて二組 時系列順に読む 016:凍てついた空は時には鏡で
初登場 レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ 023:Sword or Death―選択―

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年01月12日 11:27