アットウィキロゴ

Einen Kleine Universmusik -The Trajectorie of “Spur”- #4一蓮托生

前の話       次の話

「でかしたね。これは確かにこのコの右腕だよ。」
時は進んで再び「ファントム」の艦内。例のOAの完成予想図、その右腕部分を指さしてユーリィさんはそう言った。
「でも、残念だけど右腕にあったはずの武装……これが分からないんだ。本体OSに記録が……いくつかの薬室と……とんでもなく大出力のmfフィールド発振器……」
そのまま、考えるように一人でブツブツと言い始めてしまった。
声をかけてみても返事はない。どうやら自分の世界に入ってしまったらしい。
「……どうでもいいけど、このコーヒー美味しいねぇ。」
「ねー。」
暫くして、何か思いついたのか急に伸びをして、そして私たちに向き直って言った。
「とりあえず、欠けてるところは私の想像で埋めてみるよ。……暫くかかるから、船内でゆっくりしてていいよ。」
「ありがとうございます。」
そう言って、無機質な部屋を出た。

「……お!この前の縮退炉機の嬢ちゃん!」
チオがトイレに行くと言うので廊下で待っていると、後ろから大きな声で呼ばれて思わずビックリしてしまった。見てみると、この前の大きな剣のお兄さんだった。
それと、隣にもう1人……初めて見る、緑髪の女性がいる。
……このお兄さんには、まだちょっと恐怖心がある。
「こ、こんにちは……オード……さん?」
できる限り平静を装ったが、声が震えてしまった。
「……あかん、怖がらせてしもた……」
「当たり前でしょ。……仮にも殺そうとしてきた相手だよ?」
オードさんは心底残念そうな顔でそう言い、隣の人は、呆れたような顔をしていた。
「堪忍なぁ。……おやつあげよか。」
そう言って、オードさんは懐からひとつ、包み紙にくるまれた何かを取り出した。
「あ、はい……ありが……」
そう言い、受け取りかけたところで、オードさんの動きが固まった。
「ファルから、手を離して。」
……オードさんの後ろから、チオが拳銃……度々、私やチオを守ってくれた愛銃……を突きつけていたのだ。
「ち……ちょっと、誤解やって。俺はただ飴ちゃんあげようと……」
「いいから。私はいつでも撃て……」
冷や汗を流すオードさんに冷たい目で応じるチオ。正規軍のソレではない構え方。セーフティーは外れているし、トリガーに指をかけて持っている。
「大丈夫だよ、チオ。……まだ怖いけど、私は許してるから。だから銃を降ろして。チオ。」
「……ファルがそう言うならいいんだけどさ……」
どこか不満げにそう言い、チオは銃を降ろして私に駆け寄って、腕にしがみついてきた。……まだ頬をふくらませて、オードさんを睨んでいる。
「あかん、ほんまに嫌われてるわ……」
オードさんは本気で凹んでしまった。目尻には涙が浮かんでいる気がする。……ちょっと可哀想だ。
「このバカがごめんね……私はフルヴァレツカ。フィーって呼んで。」
隣の人は、そう名乗って握手を求めてきた。手を握り返す。
「ワルター・ファイダルシュパージェです。ファルって呼んでください。」
「チオグラチ・香椎・ベール……です。チオって呼ばれてます。」
チオはこちらも警戒しているようだった。……無理もないけど。
「ファルちゃん、お噂はかねがね。チオちゃん、あのバカも悪い奴じゃないから……今は難しくてもいつか仲良くしてやってね。」
「……わかった。」
まだ不満そうな顔のチオがうなずくと、フィーさんはうれしそうな顔をしていた。

「...で、私は二人にこれを案内をしに来たの。」
目の前に置かれているのは模擬戦訓練装置。コクピット型の大き目の筐体だ。
「とりあえず、あのシュプール...だっけ?が完成するまで俺らが稽古つけたるって話や!」
「ファルちゃんのテクルシュミアの操縦技術も、チオちゃんの射撃センスも...この歳で、しかも正式な訓練を受けてないにしてはかなり良いセン行ってるから...磨けばもっと光るはず!ささ、乗って乗って!」
そういう二人に、あれよあれよといううちに訓練装置に押し込まれてしまった。
一通りの操作を習ったあと、私とチオはそれぞれフィーさんとオードさんに稽古をつけてもらうことになった。
「なんで私がこのオッサンなのさー!」
「なんやとクソガキィ!俺はまだ23や!」
「十分オッサンでしょ!」
...隣の列からギャーギャーうるさい声が聞こえたが、聞こえなかったことに...
「じゃあオッサンが勝ったら先輩って呼んでやるよ!」
「上等や!お前が勝ったらしっかり名前で読んだらぁ!」
...大丈夫なんだろうか...
「...あはは、元気だねぇ、チオちゃん。」
「...あの元気なのに引っ張られて私は今まで生きて来たんです。」
「いいコンビだね。…それじゃ、私達も始めようか?」
「はい。お願いします。」
そう言って、ハッチを閉めて全天HUDをキッと見つめた。
「……フルヴァレツカ・アルテルツ・元、RH-Polarstar!出るよ!」
「えっと……ワルター・ファルダイシュパージェ、Polarstar、出ます!」

……模擬戦。読み込んだ機体情報と、パイロットの操縦を元に仮想空間上で戦闘する訓練形式。
模擬戦の舞台は宇宙空間・デブリ帯。こんなマップなので時間帯設定は存在しない。
...肝心の戦闘はというと...
「ああっこの!逃げ足早いなぁ!ちょっとは反撃して来なさいな!」
「……あと6秒……!被弾しなければ……」
フィーさんとフィーさんのドローンに追われつつも、お互いに無傷だった。呆れて、一周まわって感心したという顔だ。
「そこで撃ちなさいな!射線ばっか振り回してなんで撃たないの!」
……ピー、と試合終了の通知が鳴り……
6戦目 引き分け
△△△△△△
0-0
「引き分け」を示す三角の表示が6コ。3本先取のゲームなのに、次はもう7本目だ。
「はぁ……ちょっと休憩しよう。ほらこれ飲みな。」
隣の筐体から降りてきたフィーさんが、スボーツドリンクを渡してきた。
「全く……こっちも何回か隙晒してビビったのになんで撃たないのさ。」
「あの…咄嗟に、撃っていいかどうか…」
そこに、オードさんとチオが割り込んできた。向こうはもう終わったようだ。
「こっちはまだ終わらないの?……って何、このリザルト……」
隣に飛んできたチオも画面に浮かぶ三角形の群れを見て目を丸くしている。
「あはは、まぁ色々あってね……そっちは?」
「……勝った。」
「おい待てい。4回中1回勝っただけで調子のんなや。」
「でも一回勝ったよ、オード先輩。」
「ほんま腹立つなぁチオお前よォ…」
……2人が和解?したようで何よりだ。
「オード、チオちゃんはどう?」
「チオはなぁ……もっと動いて避けたり射線通したりした方がええよ。正確にこっち狙ってくるし格闘戦のセンスもいいけど何せ機体操縦がガサツでなぁ…」
「正反対ね、あなたたち。ファルちゃんはファルちゃんで丁寧に動くし基本に忠実だけど、どうも咄嗟の判断が遅いというか……」
「……まぁ、昔っからそうだったもんね。」
「ねー。」
この仕事を始めてから5年ちょっと。ずっとテクルシュミアの整備・保守と運転は私の担当、それを守るのがチオの担当だったのだ。
「……もしかして。ちょっと……この機体使ってみてくれない?」
「……これ?」
画面に表示されていたのは……「Binarystar」という機体。
「……複座型ポーラスター、技術実証機?」
「そう、結局二人の息がピッタリじゃないと大して使えなくてボツったらしいけど……もしかしたら。」

ーーーーーーーーーー
模擬戦

Red Team
XHT-55.08 Binarystar
Waltaha Valdaishpadze & Tchioglatch Kashihi Behel

VS

Blue Team
HT-27.17M RH-Polarstar
Vulwatska Geng Altelz

HF-29.17Ⅱ Cav-Tierartz:Dwehe
Ohod Tristan
ーーーーーーーーーー

バイナリ―スターの武装構成は基本的にポーラスターと同じ。ただし、手数とその操作量が飛躍的に増えている。
「...いつも通り、でいいんだよね?」
「うん、それで。」
レーダーに反応が二つ。右後ろの巨大なエネルギーを伴うのがオードさん、左後ろの小さな反応が周りに浮いてるのがフィーさん。
「...行くよ!」
強くレバーを押し込むと、それに呼応して20mの巨体も進みだす。
「...任せたよ!」
「おうよ!」
普通の機体と違い、360°に回る腕を真後ろに向けて、チオがビーム砲で射撃、見てはいないが、レーダー情報は命中、あるいは至近弾を撃っていることをこちらに伝えている。
敵の攻撃...フィーさんのドローン編隊、アレは「フォー・クアッズ」...4機編隊を4つ操作して多彩な攻撃を仕掛けてくる...!
「右腕借りる!」
「OK!」
瞬時に操作が移譲された右腕で目前の大きなデブリをワイヤーで引き寄せ、ドローン群に投げつける。...何機かは落とせたようだ。あとは避けていれば背面のCIWSが片づけるだろう。
「近接戦闘!」
「...!わかった!」
チオの叫びに応じて身をよじり、敵の方を向く。
「回避は頼んだ!」
チオが近接戦闘を挑んできたフィーさんの対応をしつつ、私が適宜操縦してフィールドと回避でオードさんの斬撃を対処する。
「うわっ!なんやその動き!気持ちわりぃ!」
...考えてみれば当たり前だ。私たちは、この10年間二人でひとつで生きて来た。
自分の半身がこれから何をするかなんて、何も言わなくても、あるいは少ない言葉だけで分かる。
二人それぞれの動きを、それぞれの邪魔にならないよう。
そんなことは、私たちには造作もないことだったのだ。
「...らぁ!まずは一人!」
「あぁ~!なんでここでこんなカスしか引けないのよ!」
暫くの戦闘の後、そんな声が、...片方は通信越しで、聞こえて来た。どうやらチオの方は終わったようだ。HUDにも「Vulwaletska Geng Altelz : DOWN」と表示されている。
「もう一人...」
そう言い、オードさんの方を向こうとしたとき、急に視界が横転した。
「しまった、バプテ...!」
「もろたで!」
迫ってくる閃光に慌てて回避を取ろうとしたものの、そのままコクピットが両断され...

ーーーーーーーーーー
RESULT

Waltaha Valdaishpadze & Tchioglatch Kashihi Behel killed Vulwatska Geng Altelz
Ohod Tristan killed Waltaha Valdaishpadze & Tchioglatch Kashihi Behel

Number of survived OA
Red 0 : 1 Blue

WINNER
Blue Team
ーーーーーーーーーー

...画面の表示は、私たちの功績と、私たちの敗北を示していた。
「だぁ~~~!!!負けたぁ!」
「いやぁ、やっぱり手ごわいね...」
暗くなったコックピットで二人それぞれの感想を二人それぞれの表現であらわす私たちに、ハッチの外から声が聞こえて来た。
「いや~フィーが囮になってくれて助かったわぁ。おかげで気付かれずにアレを忍び込ませられたしなぁ。」
「運が悪かったのよ!もうちょっとマシなら勝ってた!」
「負け惜しみはカッコ悪いで?」
「うるさい!」
...そういえば気になっていたけど、あの二人はどういう関係なんだろうか。
「...お、出て来たなぁ。凄いやんけ!あの機体をここまでスムーズに動かせるペアは今まで見たことないわ。」
「でも、結局負けちゃいましたし...」
「あぁ?そんなん今から練習すりゃぁええやろ!大体、OAに乗って一日目で俺ら二人に勝とうって方が生意気なんや!何せ、俺らはSPSのパイロットの中で模擬戦トップと二番目やからな!」
そう言うと、オードさんはまさに「がはは」と表現するのが正しいような大笑いをしていた。
「見てなさいよ、明日にはトップと二番目が逆になってるから。」
「ほならその次にもっかい逆にしたるわ!」
...どうやら、私たちはとんでもない人たちを師と仰いでいるようだ。
「元気にやってるねぇ。ちょっとアイデア探しがてら戦闘を...」
フィーさんがオードさんを締め上げてるの呆れながら見ていると、ユーリィさんが部屋に入ってきた。
「お。...ほう...なるほど、なるほどねぇ...?」
そちらを見てみると、二人乗りの筐体を見て、ニヤニヤした...「悪い笑顔」と形容するのが正しいだろうか。...そんな仰々しいものでもないかもしれない。「いい悪戯を思いついた子供の顔」をしていた。
「...で、この子たち...コレに乗って、どうだったの?」
「生存数1:0。私が落とされました。」
ユーリィさんの質問に、オードさんをリアルで落としたフィーさんが答える。
「なるほど...よし、決めた!ちょっと待ってな!」
そういい残して、ユーリィさんは再び自分の作業部屋に籠ってしまった。

一日ほど後。私たちは「ファントム」の格納庫兼整備区画に居た。
「これが...私たちの?」
「あぁ、そうとも。かっこいいだろ?」
...右腕、頭は私たちが拾ってきた部品、胴体には...「ほしぞら号」の部品だろうか。少し横に大きめだ。それ以外はSTT社で作られたレプリカ部品のような...
「いやぁ...まさか、この手でウォックの整備をする日が来るとはねぇ...」
「ウォック?」
「なんだ、知らなかったの?...118年前の糖砂戦争で初めて実戦投入され、102年前のグラノーラ戦役で神話的とも言える活躍をして...以後OAというブランドのフラグシップであり続けた伝説の機体とそのシリーズの後継機...ウォックシリーズは、オリゴの中でも特別なの。...このコは情報も残らないほど昔のオーパーツか、あるいは情報がまだ出てないくらいの最新鋭機か。多分後者だろうね。」
「100年...」
私たちが拾ってきたのは、そんなにすごい機体だったのか。
「で、このコの名前...どうするの?」
「名前?」
「うん。せっかくだし、君たちがつけなよ。」
「...タヒタルト。」
チオが口を開く。
「え?」
「Wock Takhtalt。私たちのOAなんだから、「ほしぞら」でしょ。」
「いいじゃん、かっこいい。」
ウォック・タヒタルト。私たちの、新しい相棒。なんだか感慨深い。
「...あ、そうだ。流石にOAをあのコロニーの倉庫には置いておけないからこっちで預かるけど...いいよね?」
「ありがとうございます。願ってもないです。」
「それと、「ほしぞら号」の通信設備系統をまるまる移植して新しいテクルシュミアを用意したからこの船との往還はそれで。……次来るときは宙港でSTTの船に拾ってもらってしばらく帰って来ないって言ってきなよ。ちょっと遠出するから。」
「それはまた...どこへ?」
「ちょっくら地球まで!さぁ~、久々の里帰りだぁ!」
言っている意味が分からず、二人で暫くぽかんとした後、やっと口から出て来たのは耳を劈く絶叫だった。

前の話       次の話

タグ:

EKU SS
最終更新:2026年01月25日 17:10