蒸気機関車

1号機関車
新橋—横浜間の鉄道開業のためにイギリスから輸入された1号機機関車(改造前の原形)。バルカン・ファウンドリー(Vulcan Foundry,イギリス),1871年(明治4年)製。

改造後の1号機関車(鉄道院 150形蒸気機関車)
蒸気機関車(じようききかんしゃ)は,蒸気機関外燃機関)を動力源とする機関車です*1

目次


運転室

初期の蒸気機関車には運転室と呼べる部分がなく,機関士が乗務している場所には屋根すらありませんでした。これは馬車に運転室がなく,御者が風雨に晒されながら馬車を走らせていた習慣を蒸気機関車でも引き継いだためです。当然冬は寒いため,機関士は暖を取る方法として飲酒することがありました。飲酒運転は事故の原因になったため,機関士が乗務する場所には屋根が付くようになりました*2

日本が新橋—横浜間の鉄道を開業する際は,イギリスへ屋根付き運転室を持つ蒸気機関車を発注しましたが,日本に届いた蒸気機関車のなかには上屋根しか装備していない機関車もあったため,鉄道開業前に改造されました*3

運転室がない グレート・ウエスタン鉄道(Great Western Railway,イギリス)の蒸気機関車
Iron Duke Class 4-2-2 機関車 Hirondelle(1848年製造)
廃車になり,解体待ちの蒸気機関車群
— Dr. Colin Parsons's Home Page,
Revolution in Train

排障器

排障器は,列車の先頭車輛の車輪の前の取り付けられたレール上の障害物を排除して,脱線を防止するための装備です。線路上の人や動物と衝突したときにそれらを保護する役目を持った排障器もあります。路面電車などでは人と衝突したときに人を保護するために取り付けられているものもあり*4,そのような排障器は救命網*5,または救助網といいます*6

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静岡鉄道駿遠線*7の B15(静態保存*8
- 保存場所:藤枝市郷土博物館
- 撮影日:1994年5月

写真左下の朝顔型連結器*9の下にあるアングルが排障器です。

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日本鉄道 甲1「善光」(後の鉄道院 1290形 1292号)
- 出典:『車兩の80年

前部エンドビーム(端梁*10)からレールに向って下に屈曲して伸びている部品が排障器です。

カウキャッチャー

アメリカ合衆国では未開拓の土地に鉄道を敷設した場合,野生動物との衝突を想定して蒸気機関車前部に排障器*11を取り付けました*12弁慶号に取り付けられているカウキャッチャーは大型の排障器です*13

カウキャッチャーを装備した蒸気機関車
John Bull, circa 1893(アメリカ合衆国 釧路鉄道 0-6-0テンダー蒸気機関車 四号。後の鉄道院 7000形。
官営幌内鉄道 2-6-0テンダー蒸気機関車 6号,静号(しづかごう)。後の鉄道院 7100形 7106号。
— 写真:100yen小樽市総合博物館,2007年)

欠点

乗務員の労働環境

狩勝トンネル争議

1931年〜1941年(昭和6年〜昭和16年)の期間に国鉄根室本線狩勝トンネル内で蒸気機関車乗務員(機関士,機関助士*14)36名が事故にあい,そのうち2名が死亡しました。主な原因はトンネル内での運転室内の50℃の高温と100%の高湿度,火室*15への投炭時の数百℃の熱線による急性熱中症でした。また,石炭の不完全燃焼による一酸化炭素中毒もありました。そして,1948年(昭和23年)5月に国鉄労組新得分会は蒸気機関車乗務員の安全衛生を目的としてトンネル通過時の手当ての増額を国鉄執行部に要求しました。しかし,トンネル内での乗務員の身の安全の確保は手当ての増額で為し得るものではなく,機関車運転室内の環境(温度,湿度,一酸化炭素濃度)の改善が必要で,そのためには技術的な改良が必要でした*16

タンク機関車

タンク機関車は機関車本体に動力源となる石炭と水を積載するように設計された蒸気機関車です。石炭と水を多く積載することができないので,それらの補給無しでは長距離を走ることができませんが,ほとんどのタンク機関車は方向転換の必要がないので,短距離区間の往復運転に便利です*17

明治期の前半の蒸気機関車の多くはタンク機関車で,動輪数が6輪(Cタンク機)か4輪(Bタンク機)の機関車でした。主な用途は,Cタンク機が貨物列車牽引用で,Bタンク機が旅客列車牽引でした。この時代に主力となった機関車は,先輪が1軸,動輪が2軸,従輪が1軸の車軸配列を持つ 1-B-1(車輪配列 2-4-2)のA8形(後の600形)です*18

タンク機関車には水に積載の仕方によっていくつかの種類があります。

サイドタンク機(サイドタンカー)

普通は水タンクがボイラーの両脇にあるサイドタンク (side tank) 機で*191号機関車はサイドタンク機です。

サドルタンク機(サドルタンカー)

ボイラーの上に馬の鞍のように水タンクを乗せた機関車はサドルタンク (saddle tank) 機で,流山鉄道*20の甲2形15号と16号はサドルタンク機です。

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流山鐵道 甲2形(15号または16号),ボールドウィン製(米国)
- 写真:腰高康治 (Y. KOSITAKA)
- 撮影地:流山?
- 出典:「口絵写真」『鐵道模型趣味』No.33,1951年(昭和26年)6月號

* 流山鐵道 甲2形サドルタンク機の写真撮影地について
写真の背景に山の斜面のようなものが写っているので,撮影地はおそらく流山駅構内だと思います。
左写真参照:流山駅構内(1977年3月)

パニアタンク機(パニアタンカー)

馬の背の両側につける荷かごのように,ボイラーの両側に水タンクを取り付けた機関車がパニアタンク (pannier tank) 機で,英国のグレート・ウエスタン鉄道 "Great Western Railway (GWR)" の No3738 はパニアタンク機です。

3423073567
グレート・ウエスタン鉄道 No3738
- 写真:Matt Ots
- 許可:Creative Commons 2.0

リアタンク機(リアタンカー)

運転室(キャブ)の後ろに水タンクがある機関車がリアタンク (rear tank) 機です。王滝森林鉄道の1号はリアタンク機です。

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王滝森林鉄道 1号(ボールドウィン製)
- 撮影地:赤沢自然休養林

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フィンランド鉄道 0-4-4 No132(リアタンク機)

ウェルタンク機(ウェルタンカー)

ウェルタンク (well tank) 機は水タンクがシャーシー間(左右台枠間)にある機関車です。

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ウェルタンク機(ドコービル "Decauville" 製)
- 写真:Claude Villetaneuse
- 許可:GFDL Ver 1.2, Creative Commons 3.0, Creative Commons 2.5

コンビネーション機

前述した水タンクの配置を組み合わせたタンク機がコンビネーション (combination) 機です。

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サイドタンクとリアタンクを組わ合せた国鉄 C11
- 写真:Taisyo
- 許可:GFDL Ver 1.2, CC-BY-SA 3.0 Unported

伊予鉄道の「坊ちゃん列車」の蒸気機関車はウェルタンク機です。しかし,キャブの前に小さなサイドタンクがあるので,ウェルタンクとサイドタンクを組み合わせたコンビネーション機になるのでしょうか。

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伊予鉄道「坊ちゃん列車」のウェルタンク機(クラウス製)
- 撮影地:梅津寺パーク
- 撮影日:1998年10月

テンダー機関車

テンダー機関車は機関車本体の後部に炭水車(テンダー)を連結した機関車のことで,長距離走行に適しています。逆行運転での運行には不向きな機種が多いので,終端駅では転車台(ターンテーブル)で方向転換することが一般的なテンダー機関車の運用方法です*21。国鉄 C56形は逆行運転が容易にできるようにテンダーの両側の高さを低くし,後部に向って斜めに下げて,運転室(キャブ)から見通しが良くなるように設計されています*22。イベント列車ではテンダー機でも逆行で列車を牽引することがあります。1981年12月6日〜12日に豊肥本線 別府三重町間で運行された「火の国」号の下り列車は C58形(C58 1)の逆行運転によって運行されました*23

国鉄は動力近代化のために蒸気機関車をディーゼル機関車に置き換えましたが,その対応は次のとおりです*24
大型機 中型機 小型機
蒸気機関車 D51形 C58形 C56形
ディーゼル機関車 DD51形 DE10形 DD16形

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日本初のテンダー機関車 鉄道作業局 2号(後の鉄道省5000形)*25
- 出典:『車兩の80年
- メーカー:Sharp Stewart,1871年(明治4年)製*26
- 運用地域:輸入当初は京阪神間で使用*27

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大井川鉄道 C56 44(元・国鉄 C56形)
- 特徴:逆行運転時の運転室(キャブ)からの視認性を向上させるためにテンダー(炭水車)の両側の高さが下げられ,更に後方に向かって斜めに下げられています。

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秩父路をゆく「パレオエクスプレス」を牽引する秩父鉄道 C58 363(元・国鉄 C58形 C58 363)
- 写真:SL Story's(2006年5月4日)
- 許可:GFDL Ver 1.2

テンダー(炭水車)の両脇が C56形のテンダーのように高さを下げておらず,テンダー全体も後方下向き傾斜していません。

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国鉄 D51形 545号
- 写真:Sakurami(1970年3月8日)
- 許可:GFDL Ver 1.2

国鉄肥薩線 大畑矢岳間で列車を牽引する本務機*28の D51形 545号と列車の後尾から押す補機*29の D51形 890号

シリンダー配置

シリンダーは台枠の外側にある機関車と内側にある機関車,外側と内側の両方にある機関車があります。

外側シリンダー

日本の多くの蒸気機関車は,台枠の外側にシリンダーがあります。そのまた,コネクティングロッドやカップリングロッド*30弁装置も外側にあり,外観の大きな特徴となっています。1号機関車は外側にシリンダーが二つある2気筒の蒸気機関車です。

内側シリンダー

台枠の内側にシリンダーがある蒸気機関車もあります。シリンダーが台枠の内側にあるため,コネクティングロッドや弁装置も台枠の内側にあり,外側にはカップリングロッドだけがあるので,簡素な外観になっています。

日本の蒸気機関車では善光号(下写真)が内側にシリンダーがあり,外側からはシリンダーが見えません*31

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日本鉄道 甲1「善光」(後の鉄道院 1290形 1292号)
- 出典:『車兩の80年

3気筒

シリンダーが台枠の外側と内側の両方にある蒸気機関車もあります。鉄道省 8200形(後の国鉄 C52)は外側にシリンダーが二つ,内側にシリンダーが一つある3気筒の蒸気機関車です。

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鉄道省 8200形 8201号
- 写真:名古屋鉄道局
- 撮影日:大正15年(1926年)
- 出典:『鉄道ファン』No.342,1989年10月号,p86

4気筒

シリンダーが台枠に外側と内側に二つずつある4気筒の蒸気機関車もあります。スタンダードゲージ(軌間 1435mm*32)の機関車では急行列車牽引用などの大型機に4気筒の蒸気機関車がありますが,日本では信越本線(軌間 1067mm*33)の横川軽井沢間(碓氷峠)にあったアプト式鉄道用蒸気機関車の鉄道作業局 510号(後の鉄道院 3950形)が4気筒です。外側の2気筒で動輪を駆動し,内側の2気筒で左右レール間に敷設されたラックレール用のピニオンを駆動します。

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鉄道作業局 510号(後の鉄道院 3950形 3954号)
- 出典:『車兩の80年

参考文献

(著者等の五十音順)

ウェブサイト

書籍

雑誌
  • 腰高康治「口絵写真」『鐵道模型趣味』No.33,1951年(昭和26年)6月號,機芸出版社。-- ボールドウィン製 2-4-2T サドルタンク機(15号または16号)。
  • 名古屋鉄道局『鉄道ファン』No.342,1989年10月号,交友社,p86。

辞典



(書名の五十音順)


関連項目


関連ウェブサイト

  • Science & Society Picture Library, IRON DUKE CLASS Images。-- Iron Dukeクラス蒸気機関車の写真掲載ウェブサイト。2010年11月30日(火)閲覧。

関連ブログ

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更新日:2010年12月29日

最終更新:2010年12月29日 00:48
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*1 ) 高橋政士 編「蒸気機関車」『詳解 鉄道用語辞典』p219

*2 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p232

*3 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p232

*4 ) (財)運輸調査局 編「排障器」『鉄道辞典』p429, p430

*5 ) (財)運輸調査局 編「排障器」『鉄道辞典』p430

*6 ) きゅうじょもう -- 高橋政士 編「救助網」『詳解 鉄道用語辞典』p121

*7 ) 静岡県の大手駅新袋井駅を結んでいた軽便鉄道の路線で,駿河湾遠州灘に沿って線路が敷設されていました。-- 青木栄一,三宅俊彦『軽便鉄道』p126, p127

*8 ) 車輛を自走できな状態で保存すること -- 高橋政士 編「静態保存」『詳解 鉄道用語辞典』p253。◆自走はできなくても他の機関車によって移動ができる状態で静態保存されている車輛もある。梅小路蒸気機関車機関車館にはそのような蒸気機関車も展示保存されている。

*9 ) あさがおがたれんけつき。アサガオのような形をした連結器のこと -- 高橋政士 編「朝顔型連結器」『詳解 鉄道用語辞典』p10

*10 ) 車体台枠の前後に連結器など取り付けられる部分 -- 高橋政士 編「端梁」『詳解 鉄道用語辞典』p295

*11 ) 線路上の障害物を排除するために車輛の前部に取り付けられたもの -- 高橋政士 編「排障器」『詳解 鉄道用語辞典』p388

*12 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p232

*13 ) 高橋政士 編「カウキャッチャ」『詳解 鉄道用語辞典』p85

*14 ) 蒸気機関車の焚火や注油作業に行う職員で,機関士の補佐も担う -- (財)運輸調査局 編「機關助士」『鉄道事典』p95

*15 ) 蒸気機関車のボイラーの石炭などを燃焼させる場所 -- 高橋政士 編「火室」『詳解 鉄道用語辞典』p90

*16 ) 高桑營松「蒸気機関車運転室(キャブ)内労働衛生調査と事故防止対策 - 狩勝トンネル争議」『産業衛生学雑誌』2002年,44巻(1),pp. 22-23

*17 ) 西尾源太郎 監修『写真で見る 鉄道車両100年』p1

*18 ) 西尾源太郎 監修『写真で見る 鉄道車両100年』p8

*19 ) 西尾源太郎 監修『写真で見る 鉄道車両100年』p1

*20 ) 現・流鉄(りゅうてつ)流山線(ながれやません)。

*21 ) 西尾源太郎 編『写真で見る 鉄道車両100年』p1

*22 ) 日本国有鉄道 編『100年の国鉄車両 1』p78

*23 ) 朝日新聞社 編『世界の鉄道 83』p144

*24 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』pp. 176,177

*25 ) 日本国有鉄道 編『100年の国鉄車両 1』p8

*26 ) 日本国有鉄道 編『100年の国鉄車両 1』p8

*27 ) 日本国有鉄道 編『100年の国鉄車両 1』p8

*28 ) 本務機関車のことで,列車の牽引の主力機となる機関車 -- 高橋政士 編「本務機関車」『詳解 鉄道用語辞典』p468

*29 ) 補助機関車のことで,勾配区間などで列車の牽引を補助する機関車 -- 高橋政士 編「補助機関車」『詳解 鉄道用語辞典』p464

*30 ) 連結棒のこと -- (財)運輸調査局 編「カップリング・ロッド」『鉄道辞典』p76。◆連結棒:機関車の各動輪のクランクピンを連結している棒のこと --「連結棒」『鉄道辞典』p565。◆クランクピン:コネクティングロッドとクランクを接続するピンのこと --「クランク・ピン」『鉄道辞典』p126。

*31 ) 西尾源太郎 監修『写真で見る 100年の鉄道車両』p1

*32 ) 4フィート8.5インチ

*33 ) 3フィート6インチ