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ネグリ<帝国>

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<帝国>

アントニオ・ネグリ 、マイケル・ハート (著),
水嶋 一憲、酒井 隆史、浜 邦彦、吉田 俊実 (翻訳)
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 A・ネグリとM・ハートによる『Empire』の日本語版がようやく発売された。あまりの厚さに驚くかもしれないが、いざ読んでみると実に分かりやすいことにすぐ気づくだろう。
 本書は12年前の湾岸戦争の衝撃から生まれた。それに次ぐユーゴスラビアでの戦争、世界新秩序、そしてグローバリゼーションとその直接の帰結である国内のさまざまな改革について、それぞれ個々の議論はありながらも、ではつまるところ世界はどうなっているのかということについてははっきりした議論はなかった。とりわけ現状に対して批判的に接しようとする者にとって、決定的な理論が出ないことに対して大いに不満だっただろう。
 本書は、そういった不満を一掃させてくれる、すぐれて総合的な世界の見方を大胆に示した書物だ。著者たちは本来の彼らのスタイルである難解な文体を捨て、平明な語りに終始している。まず読みとるべきは、ポストコロニアル理論、カルチュラルスタディーズ、H・アーレント、マルクス、ドゥルーズ、スピノザ等々、今まで別々に語られてきた批判理論のほとんどすべてが検討され、個々の理論がお互いどう結びつくのかといった、われわれの疑問に彼らはみごとに答えている点だ。しかも単に図式を描くだけでなく、「内在平面」とかバイオ・ポリティックスなどのキーワードを駆使して、世界の変化がわれわれ個々人の内面といかに密接に関連しあうのかを示していることも、本書の類まれな特徴の1つだ。単なる教養の域を超えて、日常の葛藤から世界認識までを描いているのだ。
 この書に対して、アメリカの位置づけをめぐって批判が世界から噴出した。また頻出する「マルチチュード」という言葉に対して、具体的に何を指すのかについても曖昧(あいまい)だという弱点はある。しかし、ともかく彼らは強力な図式を提示し、われわれを豊穣な論争の世界へ誘っている。現実が見えなくなったとぼやく前に、ぜひとも読まれるべき本だろう。(池上善彦)

  • 以文社 (2003/1/23)
  • ISBN-10: 4753102246
  • ISBN-13: 978-4753102242

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著者について(amazon.co.jp)
アントニオ・ネグリ (Antonio Negri)
  • 1933年イタリアのパドヴァに生まれる。マルクスやスピノザの研究で世界的に知られる政治哲学者。元パドヴァ大学政治社会科学研究所教授。 早くから労働運動の理論と実践にかかわる。79年、運動に対する弾圧が高まるなか、テロリストという嫌疑をかけられ逮捕・投獄される。83年にフランスに亡命。以後14年間にわたりパリ第8大学などで研究・教育活動に携わったのち、97年7月、イタリアに帰国し、ローマ郊外のレビッビア監獄に収監される。現在、仮釈放中。 邦訳に『構成的権力』『未来への帰還』『転覆の政治学』等がある。
マイケル・ハート (Michael Hardt)
  • 1960年生まれ。現在、デューク大学助教授(比較文学)。ワシントン大学で比較文学を修めたのち、パリ第8大学で当時フランスに亡命中のアントニオ・ネグリに師事。ネグリのスピノザ論『野生のアノマリー』を英訳、ネグリとの共著『ディオニソスの労働』、単著として『ドゥルーズの哲学』がある。目下、パゾリーニ論を準備中。

訳者(amazon.co.jp)
水嶋 一憲
  • 1960年生まれ。1984年京都大学卒、京都大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。現在、大阪産業大学経済学部助教授
酒井 隆史
  • 1965年生まれ。1990年早稲田大学卒業、早稲田大学大学院文学研究科満期退学。現在、大阪女子大学専任講師
浜 邦彦
  • 1968年生まれ。1994年東京外国語大学卒、東京大学大学院総合文化研究科博士課程(地域文化研究)。現在、東京外国語大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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