2006.9.14
完成とは
「デザインに於ては、付け加えるものが何も無くなつた時ではなく、むしろ何も取り去るものが無くなつた時が「完成」である。」アントワーヌ・サンテグジュペリの言葉であります。彼は「星の王子さま」の著者として有名ですが、本来は生粋の飛行機乗り・設計者でありました。
完成への鍛錬
この言葉が成る程と思わせる重みを持つてゐると感じたとすれば、その向かうに見えているのは、試行錯誤の中から「完成」を見出す現場、其の臨場感と真実の確かな手応えで在りましょう。
同じ手応えが本書からも伝わつて来ます。好い文章を生み出す為に、試行錯誤と鍛錬を続ける三島氏。
気品と格調:個性を表現するための普遍性
氏は文章に於いて「気品と格調」を何よりも大切にしてゐると述べてゐますが、最終的に目指したのは、個性的な文章では無く、「何も取り去るものが無い」普遍的な文章であつたのだと思ひます。
言葉は、お互いに共通で在るからこそ成り立ちます。思想も亦同じです。従って個性と意思疎通・伝達は根本の処で相反してゐます。その観点から見ると、三島氏にとつては後者が大切でありました。
周知の様に非常に豊かで在つた氏の個性や思想は、言葉使いで演出して飾り立てる必要など更々無く、むしろ「人々に価値を伝え、共に生きて行きたひ」と云ふ切迫した願いを言葉の普遍性に託す他無かつたのであります。
- 目次
- この文章読本の目的
- 文章のさまざま
- 小説の文章
- 戯曲の文章
- 評論の文章
- 翻訳の文章
- 文章技巧
- 文章の実際―結語
- 発行
- 中公文庫(1995/12)