三原質の天秤
生まれてこなければ、よかったなんて。
「意固地な奴だな。俺のギルドに入ればそれなりに良い思いさせてやるって言ってんだろ?」
「物分りの悪い男だ。貴様の所など願い下げだと何度、…!」
「何度でも」
「…どうするんだ、こいつ?」
「ああ、好きに痛めつけろ。生きてればどうでもいい」
生まれてこなければ、
…砂利を噛んで、思いを呑んで、言葉を吐く。
「――いつか殺すぞ、カラ」
「物分りの悪い男だ。貴様の所など願い下げだと何度、…!」
「何度でも」
「…どうするんだ、こいつ?」
「ああ、好きに痛めつけろ。生きてればどうでもいい」
生まれてこなければ、
…砂利を噛んで、思いを呑んで、言葉を吐く。
「――いつか殺すぞ、カラ」
暗い部屋で独り耐える苦痛が、身体のものか精神のものか分からない。
不快な熱を帯びたフラスコに額を押し付け、血の混じった息を吐く。
――「生まれてこなければ、良かったと?」
記憶の中のその声は決して褪せない。
思わない…そんなことは、絶対に。
呻くように呟く。幻の声に縋るように。
――「二度とは言うな。私は、お前が生まれて幸せだった。他でもないお前に、それを否定されるのは辛いよ」
…分かっている。分かっている、二度と言わない。言うものか。
「言って、たまるか…ッ」
どれほどの屈辱に堕とされても、決して。
「…」
ごぽ、と音がして、フラスコに押し付けた額を離す。目を上げる。
満たされた液体の中に浮かんだ生物が、緩慢に瞼を上げようとしていた。
「もえる原質…」
熱に浮かされたような声音で、彼は呟いた。顫える指をのばす。
「液態と気態、物体の気化。水銀は精神に、硫黄は霊魂に、塩は肉体に…」耐え切れず、のばした指を握り締めた。「…お前は目覚めたか、ホムンクルス!」
不快な熱を帯びたフラスコに額を押し付け、血の混じった息を吐く。
――「生まれてこなければ、良かったと?」
記憶の中のその声は決して褪せない。
思わない…そんなことは、絶対に。
呻くように呟く。幻の声に縋るように。
――「二度とは言うな。私は、お前が生まれて幸せだった。他でもないお前に、それを否定されるのは辛いよ」
…分かっている。分かっている、二度と言わない。言うものか。
「言って、たまるか…ッ」
どれほどの屈辱に堕とされても、決して。
「…」
ごぽ、と音がして、フラスコに押し付けた額を離す。目を上げる。
満たされた液体の中に浮かんだ生物が、緩慢に瞼を上げようとしていた。
「もえる原質…」
熱に浮かされたような声音で、彼は呟いた。顫える指をのばす。
「液態と気態、物体の気化。水銀は精神に、硫黄は霊魂に、塩は肉体に…」耐え切れず、のばした指を握り締めた。「…お前は目覚めたか、ホムンクルス!」
フラスコを、叩き割る。
出来上がったばかりの生命が、硝子の破片と人造羊水にまみれてのたうった。
「答えろ…」
少女の形をしたそれが肺呼吸を始めるのも待たず、彼はそれを見下ろした。
「お前に唯一度だけ選択の機会を与える。不完全な生物として造物主たる私の忠実な下僕として命を使い捨てられるか、…それともその機構を寄越した更に不完全な造物主を恨み、この三千世界から逸早い死という名の逃亡を図るか」
生物は彼の眼差しから逃れようと、意味のない鳴声をあげてもがく。
充分な答えだった。
そのまま、彼は足元の生物を踏み潰した。
「答えろ…」
少女の形をしたそれが肺呼吸を始めるのも待たず、彼はそれを見下ろした。
「お前に唯一度だけ選択の機会を与える。不完全な生物として造物主たる私の忠実な下僕として命を使い捨てられるか、…それともその機構を寄越した更に不完全な造物主を恨み、この三千世界から逸早い死という名の逃亡を図るか」
生物は彼の眼差しから逃れようと、意味のない鳴声をあげてもがく。
充分な答えだった。
そのまま、彼は足元の生物を踏み潰した。
生まれてこなければ――
よかったと、お前は思うだろうか。
きっと思うのだろう。足元の死体は。
…何度作っても、出来損ないばかりだ。
嘆息して、彼はそれでも再び新しい硝子容器に手を伸ばす。
よかったと、お前は思うだろうか。
きっと思うのだろう。足元の死体は。
…何度作っても、出来損ないばかりだ。
嘆息して、彼はそれでも再び新しい硝子容器に手を伸ばす。
両皿に死を載せた天秤を差し出した時に、自分と同じ選択をするもの。
いつか出逢うまでの時間は、今はまだ窺えもしない。
いつか出逢うまでの時間は、今はまだ窺えもしない。