ぬいぐるみ
「ヨツバ様、テレディード公爵からの贈り物が」
「…………またか。あの色惚けジジイ」
ノックと共に飛び込んできたセリフに、思わず彼は常にないけなし言葉を零した。普段は行儀作法に煩い執事も、鉄壁の微笑を浮かべたまま何も言わない。そろそろ彼のこんな反応も慣れたものである。
執事の手に不釣合いなベアのぬいぐるみをねめつける。柔らかそうな金の毛並みに円らな黒い瞳があしらわれ、首元にはモスグリーンのリボンが結ばれている。見た目にはとても愛らしい代物だ。
問題があるとすれば、これが贈った人間が壮年の公爵であることと、贈られた相手が23歳の成人男性であることだろうか。
「あの公爵は一体僕のことを何歳だと思ってるんだ……?」
「まあ、間違いなく15歳前後だと思っているでしょうね」
「余計な波風立てたくないから最近はパーティの隅で黙って立ってたってのに。裏目に出たか……」
貴族の家に生まれたが、妾の子であるというだけで憐憫の目を向けられる。あまつさえ実年齢より低く見られがちな母似の顔のせいで、パーティに同席した有閑マダムやらムッシュから再三お誘いがかけられるのだ。曰く「うちで囲われていれば不自由はさせないよ。養子に来ないか」というものだ。
どうしてこうも貴族の暇人はお稚児趣味が多いのか。「別荘にあるアトリエに遊びにおいで」などと魂胆の見え見えな誘いを、取り繕った笑顔でまた今度の機会に、といなすのも十八番ではあるがさすがに辟易もしてくる。
「セバスチャン。大体、こんな贈り物僕が喜ばないこと分かってるだろう。いちいち持って来て。嫌がらせか」
「害がありそうなものはもちろん除去してお届けにあがっているつもりですが」
「……お前、僕宛の贈り物を全部検閲してるのか…………」
それなりの広さの部屋も、貴族たちからの愛らしい贈りものが整列していると壮観である。この状況をマァ素敵、と喜べるような少女趣味嗜好を彼は見かけに反して持ち合わせていない。
「…………はあ。もういい。これ全部片付けてくれ。どうせもう誰からのものか分からない」
「畏まりました」
唇の端を優雅に上げて、執事は恭しく一礼すると作業に取り掛かった。が、豪奢なぬいぐるみの群から若干離されて置かれている一角に片付けの手が差し掛かると、彼は声を上げた。
「待て、セバスチャン!」
「……はい?」
「そこ、は、いい。そのままにしておいて」
執事は彼の言葉に、やや冷えた一瞥をその一角へと投げた。
うさぎをあしらったぬいぐるみが三つと、バッタのもの、狸のもの、黒猫のものが一つずつ。どれも外の露店では叩き売りされているありふれたものである。
「………………ああ、成る程」
唐突に執事は理解した。決まり悪そうに逸らされた彼の横顔を見ながら、喉の奥でくつと昏く哂う。
「愛しの君からの贈り物でしたか……」
「…………またか。あの色惚けジジイ」
ノックと共に飛び込んできたセリフに、思わず彼は常にないけなし言葉を零した。普段は行儀作法に煩い執事も、鉄壁の微笑を浮かべたまま何も言わない。そろそろ彼のこんな反応も慣れたものである。
執事の手に不釣合いなベアのぬいぐるみをねめつける。柔らかそうな金の毛並みに円らな黒い瞳があしらわれ、首元にはモスグリーンのリボンが結ばれている。見た目にはとても愛らしい代物だ。
問題があるとすれば、これが贈った人間が壮年の公爵であることと、贈られた相手が23歳の成人男性であることだろうか。
「あの公爵は一体僕のことを何歳だと思ってるんだ……?」
「まあ、間違いなく15歳前後だと思っているでしょうね」
「余計な波風立てたくないから最近はパーティの隅で黙って立ってたってのに。裏目に出たか……」
貴族の家に生まれたが、妾の子であるというだけで憐憫の目を向けられる。あまつさえ実年齢より低く見られがちな母似の顔のせいで、パーティに同席した有閑マダムやらムッシュから再三お誘いがかけられるのだ。曰く「うちで囲われていれば不自由はさせないよ。養子に来ないか」というものだ。
どうしてこうも貴族の暇人はお稚児趣味が多いのか。「別荘にあるアトリエに遊びにおいで」などと魂胆の見え見えな誘いを、取り繕った笑顔でまた今度の機会に、といなすのも十八番ではあるがさすがに辟易もしてくる。
「セバスチャン。大体、こんな贈り物僕が喜ばないこと分かってるだろう。いちいち持って来て。嫌がらせか」
「害がありそうなものはもちろん除去してお届けにあがっているつもりですが」
「……お前、僕宛の贈り物を全部検閲してるのか…………」
それなりの広さの部屋も、貴族たちからの愛らしい贈りものが整列していると壮観である。この状況をマァ素敵、と喜べるような少女趣味嗜好を彼は見かけに反して持ち合わせていない。
「…………はあ。もういい。これ全部片付けてくれ。どうせもう誰からのものか分からない」
「畏まりました」
唇の端を優雅に上げて、執事は恭しく一礼すると作業に取り掛かった。が、豪奢なぬいぐるみの群から若干離されて置かれている一角に片付けの手が差し掛かると、彼は声を上げた。
「待て、セバスチャン!」
「……はい?」
「そこ、は、いい。そのままにしておいて」
執事は彼の言葉に、やや冷えた一瞥をその一角へと投げた。
うさぎをあしらったぬいぐるみが三つと、バッタのもの、狸のもの、黒猫のものが一つずつ。どれも外の露店では叩き売りされているありふれたものである。
「………………ああ、成る程」
唐突に執事は理解した。決まり悪そうに逸らされた彼の横顔を見ながら、喉の奥でくつと昏く哂う。
「愛しの君からの贈り物でしたか……」
執事が最も執着する彼の、最も執着している人々。
嗚呼なんと嫉ましいことかと言いたげに、執事は息を一つ吐いた。
嗚呼なんと嫉ましいことかと言いたげに、執事は息を一つ吐いた。