「僕は、石塚 弘(いしづか ひろし)。
天文観測班の班長。
階級は少し高いが、これは海軍にいたせいだ。
海軍は人が、少ないからね。よろしく」


「……いい天気だねえ。いい観測日和だ」


「……僕は、天文観測が嫌いでね。…意外かな。
天文観測班の班長が天文観測嫌いなんて。
嫌がらせ、というか、まあ閑職に回されていてね。
だから嫌いなんだ」


「この島は、嫌いだよ。
果てしない夏の夜の中にいるようだ」


「……この島が、好きみたいだね。
でも、注意した方がいい。
楽園の島にいる人が楽園の人だとは限らない」


「…皮肉なものだな。
嫌いだったものを、僕は今、利用しようとしている」


通信スクリーンが、開いた。
懐かしい元上官の姿が、そこに映った。
「久しぶりだな、親友」
「お久しぶりです。先輩」
敬礼する石塚と、提督。
提督は、破顔した。
「まあ、お互い言いたい事はあるだろうが、本題に入ろう。
例の件だが、軍事顧問の耳に入った。
動くのは時間の問題だろう」
「ありがとうございます」
「いや、いい。例え乗る艦(フネ)が変わっても、我々はクルーだ。
骨を折るのは当然だよ。だがそれよりもだ…。
今からでも遅くないぞ、本校に戻れ。お前ほどの船乗りはそうおらんよ。
望遠鏡磨きをさせるには、勿体無い」
「…飾りだけの船乗りになるつもりはありません」
「人が操艦する時代は終わったよ。
今はただ海を行くにも、ヘプタだとか、校章だとかをつけにゃあならん」
「…それなら、もう艦に乗るつもりはありません」
「…そうか、だが言っておくが、この件で軍事顧問はお前に目をつけたぞ。
あれの事だ、どう出るかわからん」
「覚悟の上です。それより提督はどうなんですか?
この話、盗聴されていると思いますが」
「俺か?
俺はもう旗色がはっきりしている。
今更隠す必要もないな」
「そうですか」
「…そうだ…。じゃあこの話は終わりにしよう。
通信を終わるぞ」
「はっ」
「そうだ、石塚。お前に一つ言う事があった」
「なんですか?」
「良い顔をしている。それだけだ」
折り目正しい敬礼をして、提督は笑った。
通信は、切れた。


石塚と大塚は、夜の公園で立っていた。
一本の街灯だけが桜の木と、二人を照らす。
「…なあ、そろそろ、仲直りしないか」
「何を?」
「…加奈子も、それを願ってると思うんだ。その、な」
「…夜中に何を呼び出すかと思えば、そんな…
……おお?」
「……おお?」
桜が、咲いた。
「……聞こえて、いたのかな」
「……ああ。
………………………………。
……優しい娘だったからな。
笑顔が、素敵だったよ。
ずっと忘れていた。忘れまいとしていたのに。
いつも言っていた。
許してと、再生で始まる明日もあるはずだと。
……僕は、いままで何をしていたんだろう。
…お前だけじゃないさ。俺も、忘れていた」
石塚は、大塚を見た。
「古関の事を……許そう。
と言っても、本当に納得するまで何年もかかるだろうが」
「……それでもいい。
……古関の事、お前はまんざらでもないようだな」
「…違う、俺はただ…」
「いいさ」
石塚は、涙をふいて笑った。
そういう事にしておこう。


「そんな顔しないで。
生きてさえいれば、また逢えるし。僕も、努力する。
また一緒になれるように。だから君も、頑張ってくれよ。
あてにしている」


一方その頃
ノックの音
「どうぞ、開いてますよ」
石塚は、船風時代の写真を元の位置に
戻しながらそう言った。
「へへへ、どうも」
「ああ、嶋君か」
「お呼びだそうですけど?」
「ああ、一緒に食事をと思ってね。まあ座ってくれ」
「はい。…着替えてきましょうか?」
「いいさ、どうせ食事が終わったら仕事に戻るのだろう」
「そりゃあ、もう」
「…良い腕の整備士に」
「この島一番の委員長に」
「…本校に問い合わせたら、百翼長なんだって?
まさか僕と同列だとは思ってなかったよ」
「…いやぁ、階級なんて適当に物を作ってたらついて来ただけですよ。
別に部下が居るわけじゃありませんし」
「それでも、技士で百翼長と言えば、上は後一つだろう?
すごいよ」
「お互い謙遜しあっても仕方ありませんね。
じゃあ、そういう事にしましょうか」
「それがいい。軍事顧問も奮発してくれたものだ」
「…そうでもないかも知れませんよ」
「さっき謙遜はやめようと言ってたじゃないか」
「…ははは、そうでしたね」


「ああ、今日は早いな。どうぞ、開いていますよ」
「どうも、またお邪魔します」
「さあ、座ってくれ」
石塚は将棋盤を出しながら言った。
「今日、僕が勝てばタイですよ」
「……返り討ちにするさ」

「…すまないな」
「は? 待ったはなしですよ」
「…ははは、いや、そうじゃない」
石塚は、突然真顔になった。
さっきとった桂馬を握っている。
「…立場が立場でね、あまり部下とは付き合えないのさ。
みんなと年は同じなんだか…」
「いいじゃないですか。僕は階級なんて気にしてませんけど。
だいたい僕らは学生ですよ。例えゴッコ遊びだとしてもね」
石塚は、桂馬を打った。
嶋がつぶれた声を出した。
「…特定の誰かをひいきする訳にはいかない」
「高級将校はみんな、そう言う事を言いますね」
「…部下を死なせればわかるようになるさ」
「……。すみません。
技術屋が言うような事じゃありませんでした」
「いいさ、…こういう事は愚痴でね。
本当は一人で押し殺すのも仕事の内なんだが」
今度は、石塚がつぶれた声を出す番だった。
「…時々は、友人の一人も持ちたくなるし、愚痴も言いたくなるのさ」
「僕でよければ、いつでもお相手しますよ。待ったは無しですが」
「そりゃつらいな」
そう言って、二人は笑った。
「…すまんな、忙しいのに」
「いやあ、優秀ですから。これぐらいなんともありません」
「ふふふ、いいね。
その調子で観測を成功させようじゃないか」
「もちろんです。
文句無し、100%の出来の白天をご覧に入れますよ」
二人は、笑った。


「これで28勝27敗だな。
最近腕が上がって来たじゃないか」
「いやあ、それほどでも。
まあ、勝ち越しまで、後少しですね」
「言ってろ。
今日は昨日のように上手くはいかんよ」

「…軍事顧問って、どういう人物だい?」
「えっ、あああ! それは、ちょっと」
「待ったは無しだ」
「……ひどいですね。
軍事顧問ですか…。…恐い人ですよ。
あんな人が居るなんて、誰も信じてはくれないでしょうね」
「私は転属で、すぐこの島に回されたんで、直接の知己ではないんだが。
…噂を聞く限りでは、そんな人物には思えないな」
「…そうですか?
そうかも知れませんね」
「知り合いかい?」
「…いえ、それほどって訳ではありません。
…ただ、私の知る限りでは……。
…そう。
全てを見通し、それでいて自分と自分の目的を絶対に見せませんね。
それに、全てをゲームだと思っている。
…そんな人ですね」
「…ふむ」
石塚は、面白そうに嶋を見た。
知り合いなのだろうか?
「それで、君の評価はどうなんだ」
「…嫌いですね、…何よりも、それが正しい事が、嫌いです。
それを聞き入れる自分もね」
指先が白くなるまで、駒を強く握る。
一本だけ白くならない指は、特製の義指だった。
「…すみません、興奮してました。
へへへ、続きを、…お願い出来ますか」
「ああ、こっちも悪かった、変な事を聞いたな。
さあ、差を広げるぞ」
「負けませんよ」


もう、何局目の勝負になるのか。
そろそろ石塚も嶋も、自信がなくなっていた。
「そろそろ、この島ともお別れだな」
「…はい」
「…実は、な。少しだけ考えが変わったんだ」
嶋は、静かに石塚の表情を見た。
「また、船に乗ろうと思うんだ。
…色々あったが、やはり僕は船乗りのようだ。
今度の事で、思ったのさ。
悪くない。本当に悪くないと。
天文観測だって、これだけやれたんだ。
無人化された船の艦長だって、きっとやれる事はあるってね」
「石塚さん…」
「なんだ?」
「…そうなると良いですね。
その時は、船を設計させて下さいよ」
「ああ、その時はきっと。
ヘプタなんかに負けない、人間が操艦できる船を作ってくれ」
「はい。」
「なんだ、変な奴だな。目にゴミでも入ったかい?
なに、学校は変わっても、友情なんて物は変わらないさ。
手紙を書くよ。
…ああ、そうだ、船の名前なんだが、“シヴァ”にしようと思ってるんだ」
「……インド神話ですか?」
「いや、この学校の地区名が芝でね、さすがにそのままじゃ、困るだろ?
それでひねったわけさ」
「良い名前ですね」
「そうだろう? だからと言ってはなんだが」
「…待ちませんよ。やり直しはききません」
「きついな。まあ、いいか」
石塚と嶋は、ひとしきり笑った。


石塚と嶋が、何か楽しそうに話している。
こちらには気づいていないようだ。
あんな笑顔を浮かべる委員長は、初めて見た。
ムッツリしているだけじゃないのね。
「今日は負けませんよ」
「……どうかな。……ん?」
石塚は、いつもの表情に戻った。
咳払いをする。
嶋は、工具箱を持ってそそくさと出ていった。
石塚はわざとらしく執務にもどった。
時々ちらちらとこちらを見ている。


「どうした」
「いえ、なんでもありません」
「そうか。ところで学校の方には慣れたかい?」
「…まだ顔は全部覚えていませんが」
「そんな所さ」
「はあ」
「…気の無い返事だな。どうかしたのかい?」
「…いえ、あの。くやしくありませんか」
「…何をだい?」
「…いえ」
「こんな所で、星を見る事が、かい」
「…はい」
「君は僕の事を知っているようだが、あいにく僕は恨みは持ってないよ」
「そうなんですか?」
石塚は、モニターに空を映した。
星空が浮かんでいる。
「…星を見るのも、悪くはないさ」
永野は、失望を隠せない表情をしているだろう。
石塚には、それが手に取るようにわかった。
わかってやったのだった。
「まあ、少なくとも殺し合いをするよりはいいと思っている」


石塚 弘が、尋ねてきた。
「やあ、おはよう。
…その、ついてきて欲しい所がある。
僕にとっては、とても大切な事なんだ」
そして……。
石塚と二人で、墓地についた。
石塚は、花を買って来ている。
しかし、とてもデートの場所とは思えない。
石塚は、神妙な面持ちで歩き、とある墓石の前で止まった。
墓前の前で、祈りを捧げる。
「………」
石塚は、背中のあなたに言った。
「…妹がいたんだ。
君をだましていたと思って、ずっと、心苦しかった。
ん?
いや、なんでもない。…さあ、遊びにでも行こう」
「……」
あなたは、墓を一度振り返り、石塚の後を追った。
(どこへ行く?/どこに行きたい?)
「ああ、うん、その…、ビリヤードはどうだい?」
「……いいけど」
「じゃあ行こう」
石塚は、上手い。
ビリヤードの腕で昇進が決まるという噂がある海軍の人間らしい。
球をはじく小気味良い音が響いて、9番ボールがポケットに入った。
まばらな客のほとんどが、石塚のプレイを見に来ていた。
「…教えようか」
石塚は、笑ってそう言った。
(いいよ、遠慮する)
「…そうか、残念だな。
あー……、まあ、いいか。
じゃあもう一勝負といこうか」
石塚は、棒を抱きながら笑った。
結局その日は、夕暮れまでビリヤードで遊んだ。
指が痛くなった。
(じゃあ教えて)
「よし。 それじゃあ、まず持ち方からだな」
石塚は、嬉しそうに笑ってあなたの肩に触れようとした。
「どうしたの?」
「……何でもない」
石塚は、口で指導する事にした。
結局その日は、夕暮れまでビリヤードで遊んだ。
指が痛くなった。


最後の最後まで書類仕事をされていました。
感慨も何も、なかったんじゃないんですかね。

       父島守備隊、生き残りの証言

……島を離れるその日。
貴方と石塚は、二人並んで文章のサインに
追われていました。
「……ちょっとだから手伝うと言ったのに……。
徹夜しても終わらないなんて……」
(そこ、サインして/終わったら文句を聞く)
「最後に島を見て回るつもりだったのに!
あ、ここ、終わった。
後はそっちだけ」
(生きている人を大事にしなさい)
「僕もそうだと思うけど、
指摘されるとむかつくな。
まったく。
……まあ、
この借りは、本土についたらたっぷり
返してもらうからな」
(許せ、友よ)
「この貸しは大きいぞ。
友よ。
まったく。
まあ、この借りは、本土についたら
たっぷり返してもらうからな」

石塚は、顔を寄せました。
「…………」
みんなの声が、聞こえてきました。
石塚は、顔をしかめました。
「……まあ今日は、これぐらいで、
いや、書類はまだあるが。
大体、何でこんなに溜めていたんだ…」
そう言いながら石塚は、
どこか幸せそうに笑いました。


(暗殺ED)
父島が、遠くなっていく。
石塚は、一人デッキに上がらず、船室の中でその風景を見ていた。
するとノックの音が聞こえた。
「どうぞ、開いてますよ。ああ、嶋くんか。」
「委員長、デッキには行かないんですか?」
「……ああ。こういう表情は、みんなに見られたくない」
「そうでしたか。まあ、みんなも同じ事を言ってましたよ」
「……そうか」
石塚は、再び椅子に座って外の風景を見始めた。
島の風景を、網膜に寸分違わず焼き付けようとするかのようだった。
嶋が、石塚の隣に立つ。
嶋は手をひらめかせると、指から出した針を
石塚の首に刺した。
それで、終わりだった。
石塚と同じ方向を見ながら、
嶋は悲しそうに微笑んだ。
「あなたは、最高の委員長でしたよ。」
嶋は、遠くなっていく父島を見ながら、
そうつぶやいた。


(暗殺阻止ED)
父島が、遠くなっていく。
石塚は、一人デッキに上がらず、船室の中でその風景を見ていた。
するとノックの音が聞こえた。
「どうぞ、開いてますよ。ああ、嶋くんか。」
「委員長、デッキには行かないんですか?」
「……ああ。こういう表情は、みんなに見られたくない」
「そうでしたか。まあ、みんなも同じ事を言ってましたよ」
「……そうか」
石塚は、再び椅子に座って外の風景を見始めた。
島の風景を、網膜に寸分違わず焼き付けようとするかのようだった。
嶋が、石塚の隣に立つ。
嶋は手をひらめかせると、指から出した針を……。
「アイタッ!
なんだなんだ?」
「……そこまでだってことさ。嶋」
「な……!?」
「最高の委員長なんだろ?
だったら大事にしてやれよ」
「……OVERSか」
「いいや。ヒーローさ。たぶん、誰の心の中にもいる」
「……あいたたた。なんだい? 何が起きた?」
「……さあ。
あー。そんなことより」
「うん?」
「……デッキに行きましょう。
泣いてる表情だって、いいじゃないですか」
「君こそ泣いてるじゃないか」
「ええ。なにか悪い夢でも、見ていたようです。
ああ、でも本当に夢でよかった」


石塚弘 通常 / 提案 / 派生 / シナリオ

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最終更新:2006年10月30日 19:16