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南側の円柱3-2 - (2006/08/19 (土) 17:04:17) の編集履歴(バックアップ)



■壁画を展望できる、物語の中心へ。
■壁画を展望できる、南側の円柱の中心へ。
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【安土 春海】①
【安土 春海】②
【安土 春海】③
【安土 春海】④
【安土 春海】⑤


【安土 春海(あず)】①[人物/Dancer]


「ねぇあず姉、何でローグやめちゃったの?」
時計の針は既に、深夜をむかえようとしている。今日は(といってもすでに『昨日』であるが)久方ぶりに家に帰ってきた長女「春海」を囲んでの夕餉であった。テーブルの上には、空になった酒瓶が5、6本転がっている。
「そういえば私も聞いたこと無いや。あず、何で?」
はるも援護に入る。
「ん、あぁ、その事ね…」
はるもるみも興味津々といったふうににじりよっていく。
あずは飲みかけのグラスを置いて、腕を組んで暫し考え
「えーと…飽きたから~~」
「…」「…」
2人とも「え~そんなのが理由なの~?」という顔で見ている…
「だって私が飽きっぽい性格だっていうのは知ってるだろ?」
「あずが飽きっぽい性格なのは十分知ってるけどさ…」
「うん、ちょっと期待はずれというか何というか…」
2人の返答が終わらないうちに、あずは椅子から立ち上がり腰布の位置を直しつつ
「ま、ちょっと飲みすぎたみたいだし先に寝るわ」
と、裾を翻して自分の部屋へと向かっていった。
背後からは非難の声が上がっているが、無視することに決めた。

部屋に入り年代ものになったベッドに腰を下ろす。ランプを灯し、残り火で煙草に火をつけ燻らせる。
あずにとって、就寝前の至福の時である。
「…何で…か」
煙をはいて余韻にひたる。
「まったく…昔の事を思い出しちゃったじゃないか…」


それは、あずがまだRogueであった頃の事。その日もミョルニル山脈廃鉱で一攫千金を夢見て狩りをしていた。
「そーれ[スティール]」
確かな手応え、これはいけた!と思った。手に握り締めた物を見[ランタン]獲得。
「……」
しばし呆然。
「…なんでレアが出ないんだー(でないんだー)(デナインダー)…」
むなしく叫びだけが木霊した…。すでに袋には山盛りのランタンが入っている。
「はぁ…レア運の無さは家系かな……帰ろう」
とぼとぼとその場をあとにしようと[ドスン]
「きゃあ」「ぐは」
何かが降って来た。
「あ、あの…ごめんなさい…」
その何かはあずの上から謝ってきた。
「…謝るのはいいから、とりあえずおりてくれる?」
「あ…ごめんなさい…」
おりてからも平謝りをしている。
そんな彼女に、あずは水筒から水を手渡した。
「ほら、まずは落ち着いて」
手渡された水を一気に飲み干し
「ふぅ…ありがとうございます……わたくし紅月(ホァン・ユィエン)と申します」
「私は安土春海だ、『あず』と呼ばれてる」
「なら、わたくしの事も『ホァン』と」
入物を返しつつ自己紹介をした。炎のように紅い髪に紅い目、名は体をあらわす、といった感じだ。

「ホァンもレア目当て?」
「ですわ、スティールが使えるので[ジュル]を狙いに…でも」
「「たまるのは[ランタン]ばかり…」」
お互いに顔を見合わせ、ため息をついた…。

「あら、もうこんな時間に…わたくしはここで失礼いたしますね」
「うん、それじゃあね」
「はい、またどこかでお会いしましょう」
荷物入れから[蝶の羽]を取り出し、ホァンは姿を消した。
「さてと…私も帰らないと…」
荷物入れから[蝶の羽]を…羽を…羽……。
「忘れてきちゃった…仕方が無い、歩いて帰るか…」


「まさか、それがあんなことになるとはね…」
2本目の煙草に火をつけつぶやいた。




【安土 春海(あず)】②[人物/Dancer]


「ええと…右に行って左に行って…つきあたりまでまっすぐ行って…」
手元の地図を頼りに行ったり来たり…
「…あれ?ここ行き止まりだっけ…」
あずは完全に迷っていた。
「落ち着こう…確か迷路では右手を壁につけば出れるはず…」
さらに2時間経過。
「…ここは…どこなんだろう…」
すでに疲労困憊、そんな時にワープポータルの光を見つけた。
「や、やった…ようやく外に出れるよぅ…」
喜び勇んで飛び乗る。そして外には緑の広がるミョルニル山脈の光景が
「…ここは外だよね?」
無かった。
あずの目に飛び込んできたのは、薄汚れた空気、茶色の山、油の匂い、遠くからはかすかに機械音が聞こえてくる。
その街の名は、この時点であずが知っているはずもない街、[シュバルツバルド共和国]の[アインブロック]その鉱山地域である[アインベフ]であった。
「まぁ…街ならカプラサービスもいるでしょ…」
とりあえず、街の散策に乗り出した。が、
(尾行されている…)
さきほどから、つけられている気配がする。
(むぅ…悪いけどストーキングされるのは好みじゃないんでね)[ハイディング!][トンネルドライブ!]
尾行者をまくため、姿を隠した。

ちょうど良い空家が見える。あずはその小屋の中に飛び込んだ。
「ふぅ…それにしても…」
[トンネルドライブ]状態を解除し、懐から煙草を取り出し一息つく。
「ここはどこなんだ…それに、私をつけていたのは…」
「吸い過ぎはは体によくありませんよ」
「!?」
その声に、2本目にのばしていた手がとまった。
[クローキング]を解除して現れたのは紅い髪。
「ホァン…どうしてここに?」
「またお会いしましたね、あず」
そういってホァンは微笑んだ。



【安土 春海(あず)】③[人物/Dancer]


「さて、早速ですけど…あず、何も聞かずにこの場を立ち去っていただきたいのです」
「早速というかいきなりだな…質問してもいい?」
「だめです」
にべもなく却下するホァン。
「でも少しくらい…」
「…世の中には、知らないほうが幸せだということもあるのですよ…」
「…あいにく、好奇心だけは旺盛でね」
「わたくしは…せっかくできた友人をなくしたくないだけです」
「でも…!?」
急に辺りの空気が変わった。重くのしかかるような空気に…。
「(…ホァン)」
「(だから…言ったのですのに…)」
ますます空気が重くなる。
「(ここまできたら、何か説明が欲しいんだけど?)」
「(…いけません)」
小屋を取り囲む気配がある。そいつらが空気を重くしているようだ…。
「(…でも、事情を知る知らないってのは外の連中には関係なさそうなんだが?)」
「(…しかし…)」
重い空気がさらに重く…むしろこれは
「(これだけ殺気漂わせてるんだ、せめて何か聞きたいんだがなぁ…)」
「(…)」
「(ひとつ…ふたつ……計9人か…私は4人くらいは相手にできるけど)」
「(いけません、これ以上巻き込むわけにはまいりません…)」
「(でもねぇ…私もむざむざやられたくはないんでね)」
そう言って、短剣を握り締める。
「(言っとくけど、決意は固いからね?)」
それを聞き、ホァンは唇をかみ締め何か逡巡していたが
「(わかりました…わたくしが5人受け持ちましょう)」
「(そうこなくっちゃ)」
互いに武器を手に取り
「(あず)」
「(ん?)」
「(必ず…生きて会いましょうね)」
「(あぁ…もちろんだよ)」
[ハイディング!][トンネルドライブ!][クローキング!]

(さて…あぁは言ったものの…)
あずは敵の姿が見える位置まで接近した。
(なにものなんだ、こいつらは…)
敵の姿は…黒だった。漆黒を体現したような鎧、服…全身が黒ずくめである。クルセイダーを黒くしたような鈍重そうな印象を受ける。それに加えて
(武器は無し…素手…Monkなのか?)
手持ちの武装を一切していない。
(まぁ…相手がなんであれ、やるしかない!)
敵に接近し、Rogueの必殺スキル[バックスタブ!]を放った。
どぅ、と倒れ伏す黒の塊…すぐさま[ハイディング]で身を隠す。
(残りは3人か…)
近場にいた2人目を[バックスタブ]で打ち倒す。
そして3人目を手にかけ《サイト》「くぅ!?」
3人目を倒せたものの…置き土産の《サイト》で燻り出されてしまった。
あずの姿を確認した残り1人の黒の塊は
<das Ziel die Bestatigung der Anfang beseitigen>
謎の言葉を発し、こちらを向いた。
「へっ、ガチでやってやろうじゃないか!」
あずは負ける気がしなかった。なぜなら
(あの鎧で高速移動なんてできるわけがない!)
という計算があったからなのだが……現実は非情なものだ。
黒の塊は、予想をはるかに超える速度であずに迫ってきた。
「なっ」
そして大きく腕を振りかぶり、唸りを立てて振りぬかれた。
「むぅ…」
ぎりぎりのところでかわしたが、2撃目がすでに迫っていた。
足元を蹴り、大きな弧を描いて後方に着地する。あずが居た場所は2撃目によってクレーターと化していた。
(まずいわねぇ…)
速度だけは勝っていると予想していたが、こうも簡単に覆されてしまった。
(だけど…)
3撃目を加えようと黒の塊が迫る。
「…ったく、高かったんだからね!」
盾をフリスビーの用量で投げつける。避ける様子も無く片手で落とされ
「でも、姿は見えなくなったでしょ」
盾を投げると同時にその真後ろを駆けていたのだ。一瞬の隙をついて、首筋に向かって短剣をつきたてようとした。
だが、盾を落とした腕が有得ない速さで戻ってきた。
「な…そんな、まさか!」
首筋につきたてられるはずの剣が深々と腕に刺さる。だが、そこまで。黒の塊は何事も無かったかのように追撃を加える。
(くぅ…残りの短剣は……3本か)
紙一重の見切りをしつつ、予備の本数を数える。
大振りな攻撃であるためか、避けるのはそう難しいことでは無い。隙を窺いつつ回避に専念する。
ふいに、黒の塊の動きがとまる。あずが訝しんでいると≪sich verstecken≫と言い、姿を消した。
(…逃げたわけではなさそうだねぇ…)
相変わらず気配だけはする。その気配を頼りに敵の位置を探る………背後に気配。
「!」
振り向きざまに短剣をつきたてようとしたが
「いない!?」
黒の塊はすでに正面にまわっていた。
「ちぃっ!」
地面を蹴って後方に逃れようとした。だがすでに見抜かれていた。
着地地点に向かって猛然と突込み、すでに攻撃態勢を整えている。空中では避けようが無い…。
(ホァンごめん…約束…守れそうにないや……)
あずに向かって、その黒い腕が振りぬかれる。
だが、破局のときは訪れなかった。あずの命を消し去るはずであった腕は、すでに無くなっていた。
<?!!>
黒で覆われた顔からは、その表情を窺い知るできないが事はできない。が、驚愕している様子はわかった。その顔も、次の瞬間には消し飛んでいた。膝を突き倒れる黒の塊。
「ふぅ…間一髪でしたわね…」
「ありがとうホァン…」

「さて…いろいろと説明がほしいなぁ」
「…聞いた後で後悔をするかもしれませんが、それでもよろしいのです?」
「聞かずに後悔するより、聞いて後悔するほうがいい」
「…わかりました、ではこのワープポータルに乗ってください」




【安土 春海(あず)】④[人物/Dancer]


着いた先は[シュバルツバルド共和国]の首都[ジュノー]であった。
「で、さっきの街はなんてところなの?」
問いかけるあずにホァンは
「そうですわね…あのベンチでお話しますわ」
と、木々に囲まれたベンチを指差した。
「ここは、わたくしのお気に入りの場所なのですよ」
確かにここは心地よい。[ジュノー]が高所にあるためか、空気が澄み風も穏やかである。眼下には雲がたなびいている。しばし、その心地よさにあずも身を任せた。
「…あの街は[アインベフ]と呼ばれています」
重い口を開き、ホァンが話し始めた。
「わたくしたちは、ある方からの依頼を受けて調査を行っているところなのです」
「今日襲ってきたあれは?」
「あれは…まだ正式な名前はわかりません。ですがわたくしたちの間では[レッケンベル兵]と呼んでいます」
[レッケンベル]。その名にはあずも聞き覚えがあった。確か[ガーディアン]の作成に携わっていた企業だ。
「そうして調査中であったわたくしの下に『あやしげなローグがいる』と情報がはいりました」
「…あぁそれが私だったわけか」
「後をつけさせ、似顔絵からあずだという事がわかりましたので、わたくしが出向いたのですけど…」
「ああいう事態になっちゃった、と」
「本当なら、ああなる前にここに移動して頂きたかったです」
「まぁ…結果として良かったからいいんじゃない?」
「何を言っているのですか!あそこであずにもしもの事があったら…わたくしは…」
「う…ごめん…」

「現時点でお話できることはここまでですわ」
「…まぁ依頼内容まではさすがに話せないだろうからね…」
「はい」
そう言ってにっこり微笑む。
「しばらくは、ジュノー近辺にも近寄らないほうがよろしいかと存じます」
「あぁそうしておくよ…」
「ではこの辺で…」
「あ、もうひとつ」
立ち去ろうとするホァンを引きとめ
「『わたくしたち』とか『わたくしの下に』とかって出てきたけど、ホァンって何者なの?」
とたずねた。
ホァンは、小首を傾げてちょっと照れくさそうに
「そうですわね…肩書きとしては非公認ギルド「Finsternis」のギルドマスターですわ」
「!!!?」
「…少し驚きすぎではありませんこと?」
「あ、あぁ…かなり驚いた…」
「ふふふ…ではまた会いましょうね」
踵を返してホァンが立ち去る。
「またね、ホァン」
そうしてその場を離れた2人。

だが、あずの足は[プロンテラ]ではなく[コモド]に向かっていた…

「ただいま~」
「あず姉、おかえ…」
帰ってきた姉の姿を見て、るみは固まった。
「ええと…あず姉だよね?」
「そうだよ?」
「なんで弓使いに…」
「ん~…ローグ飽きた」
「…ちょっとお父さん、何か言ってやってよ」
父に同意を求めるるみ、だが
「うーん…父さんは何も言えないなぁ…」
「どうして?」
「父さんも、Priestになる前は商人だったからね」
衝撃の事実に驚く、るみ。
「…わたしはずっとWizard続けよう…」


3本目の煙草に手をのばした。
「吸い過ぎは体に良くありませんよ」
不意に窓の外から声がした。月の光の下、紅い髪が煌いている。
「ホァン、いつ来たの?」
「つい先ほどですわ、窓から失礼いたします」
そう言って窓からするりと入ってきた。[ジュノー]で別れた後も2人は連絡を取り続け、交友を重ねていた。
「今日は…この間の依頼の件?」
「はい、ある程度まとまったのでご報告に参りました」
小脇に抱えていた大き目の封筒をあずに手渡す。中に入っている資料に目を通しつつ
「いつも悪いねぇ…依頼金無しの仕事なのに」
と詫びた。本来なら依頼金を支払わなければならないのだが
「わたくしとあずの仲ですもの、問題はありませんわ」
と、いつもただなのである。
「それで…あの男の正体とか、下手人の話とかはわかった?」
首を横に振るホァン。
「いいえ…やはり非公認の…しかも暗殺専門のギルドに関しては、絶対的な情報が少ないですわ」
「やっぱりねぇ…」
「ただ、この間の事件においては被害にあった貴族が『こうして私は無事であったのだから、不問に処そうではないか』と」
「ふむ…ある程度、危険度は下がったわけか…」
「ですが、油断は禁物です…『表』と『裏』が関わって、良い結果を生んだことはほとんどありませんのですから…」
「「でも」」
「わたくしたちのような例もありますわね」「私らみたくなるかもよ」
顔を見合わせ笑い出す2人。
「ふふ…ではここで失礼させていただきます」
「あいよ、今度は仕事抜きで会おうね」
「ええ、ぜひとも」
と言って、また窓から出て行った。
ずっと手に持っていた3本目の煙草を箱に戻し、ベッドに横になる。
「さて…明日りく姉のところに行かなくちゃな…」
ランプの灯りが消え辺りは闇に包まれた…。




【安土 春海(あず)】⑤[人物/Sage]


「るみ、魔法を使うのって難しいの?」
ある朝、唐突にあずが尋ねてきた。
「いきなりなんなのよ~…まだ眠いのに…」
まだ部屋で熟睡していたるみは寝ぼけ眼で姉を見る。
「…あ~…1つ聞きたいんだけど…」
「何?」
「またなの」
「そう、また」
そこにはDancerの姿は無く、Magicianの姿があった。
「はぁ…まぁいいか…じゃあ朝ごはん食べたらね」
「了解、るみ師匠」


2週間後
「よし、[ジュノー]行ってくる」
「いってらっしゃい…ってSageになるの?」
「…何よ、その『似合わなーい』って顔は」
「ソンナコトオモッテナイヨ」
「…まぁ行ってくる、今日はフリュが来るんでしょ?」
「うん、ここのところMagicianが多くて嬉しいよ~」
満面の笑みのるみを置いて[ジュノー]へと急いだ。

「ここに来るのも1年ぶりか…」
高地の[ジュノー]の風を受けながら呟く。あれから後[アインベフ][リヒタルゼン]への通行が許可され、今では多くの冒険者で賑わっている。
「ですが、念のため護衛に参りましたわ」
そう言って、傍らにはホァンがやって来ていた。

『魔法アカデミーにようこそ、我々は君の転職を歓迎するよ』
アカデミーの学長からSageの制服が手渡され、無事転職の儀を終える事ができた。
「あず、おめでとうございます」
「ありがと、ホァン」
さっそくもらった制服に着替え始める。
「(…こないだの件は根が深いようだね)」
「(えぇ…どうやらただの暗殺未遂事件では無いようですわ)」
「(表面上はとりあえず納まったようだけど…)」
「(…実は、まだ公式発表の段階では無いのですが、全公式ギルドへ依頼が出されるそうです)」
「(全部…それはまた大掛かりな・・・)」
「(いずれまた会いましょう)」
「(うん)」

この事が公になるのはそれから更に2ヵ月後であった…。


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