「古代の書物-PROLOGUE-」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

古代の書物-PROLOGUE- - (2006/08/21 (月) 16:24:54) の編集履歴(バックアップ)


「ありがとうございました~♪」
ばいばい、お姉ちゃんと手を振る子供に同じく手を振って答える。
ぼーん、ぼーんと壁掛けの時計が鳴る。気付けばもう昼時である。
「あら、もうこんな時間か」
さてと、と彼女は表に掛けてある看板を『CLOSE』にし店の奥に消えていった。
ここはアイテムショップ『ミミルの泉』日常の雑貨からプリーストご用達のブルージェムストーンや
各種の冒険者必須アイテムまでもそろえる白鳳院綾音が経営する店だ。
『ミミルの泉』とは世界樹『ユグドラシル』から伸びた根のうち『ミッドガルド』に向かった根元にあるとされる泉で
その水を飲めば世界の全ての知識が得られるという伝説上の泉だ。
セージたる彼女らしいネーミングだ。
「ふう、ご馳走様でした」
と軽めの昼食を食べ終わり食後のデザートであるマステラの実を手に店のカウンターに戻る。
マステラの実、原産地は神仙の島『コンロン』栄養価は非常に高いのだがこの実を実らせるのは人面桃樹というモンスターであるため、現地コンロンでも産出量は少ない。
しかしルーンミッドガルドとの交流が始まると数多の冒険者たちがダンジョンへ足を踏み入れ大量のマステラの実を持ち帰りはじめた。>それに伴い年間産出量はじかに増え続け今ではプロンテラの市場に出回るほどとなった。
とは言うもののまだ十分とは言い切れず1個の平均価格が4000zと高めである。
「う~ん、甘酸っぱくて美味しい~♪奮発したかいがありました」
とご機嫌な様子で古文書に手を伸ばす。昼の営業時間までこうして自分の研究に没頭するのが彼女の日常だ。
没頭し始めて小一時間ほどぐらいして
「やあ、お邪魔するよ」
と男が店に入ってきた。
「すいませんが午後からの営業はまだなんです」
申し訳なさそうに顔上げると
「霖之助さん!?」
そこには森近霖之助の姿があった。
森近霖之助 ギルド『天衣無縫』のマスターでありアイテムショップ『香霖堂』を営む同業者でもあった。
「迷惑だったかい?」
「いえ、そんなことは無いですけど…。珍しいですね」
と笑顔で答える。
「いいんですか?店開けちゃって」
「あいにく幸か不幸かは知らないけど、別に盗まれるほどの貴重なアイテムを置いているわけでもないし客といっても
「代金を付けといてくれ」と言って勝手に持って行っちゃう奴しか来ないからいいんだ」
「あはは…(汗)」
顔は笑っているが引きつっていた。


「それで、どんなご用件でしょうか?」
と紅茶を入れつつ聞く。
「ああ、ありがとう。別に用件と言うわけでもないんだが…」
と紅茶を受け取り、引っ張ってきたカートからあるものを引き出した。
良く見るとそれは一冊の本のようだ。
「これは?」
不思議そうな顔で聞くと
「知り合い経由で手に入ったんだが、どうも古代の書物みたいでね、読もうとしても何語で書かれているかすら分からないんだ」
まったくお手上げだよと彼はぼやく。
「触っても?」
彼女が聞くとどうぞと答えた。
手に取って実際にページを捲ってみると、なるほど確かに未知の言語で書かれている。
「読めそうかい?」
「現時点ではなんともいえませんが…、大変興味をそそられますね」
「そうか、ならそれは君にあげるよ」
「え!?いいんですか?」
と驚きの声を上げた。
「かまわないよ、元々ただで手に入れたものだし僕が持っていても無用の長物だからね」
それに君は有効に使ってくれそうだしと付け足した。
「えっと…じゃあご好意に甘えて頂きます」
と感謝しつつも内心『店の売り上げが伸びない理由はその金銭感覚の無頓着さに起因するのでは?』と失礼なことを考えていた。



ぼーん、ぼーんと時計が昼からの営業の時刻を示した。
「おっと、もうそんな時間か…そろそろ失礼するよ。紅茶ご馳走様」
と席を立って店から出て行った。
紅茶の後片付けをし店の準備を始めつつも頭は謎の書のことでいっぱいだった。
そして午後の営業が始まった。


夕方


最後の客を見送ると店をたたみ店の奥へと消えた。
そして夕食もとらずに書物の読解に取り組んだ。
正体不明の言語の為まずそれはどんなものかを知る為に自分が集めた様々な文献を比較し検証するという作業を延々と続けた。
「う、う~ん(汗)まったく分からない」
と漏らしたのは既に夜が明けていた。
「集めた文献じゃ役に立たないのかなぁ」
と目を充血させて呟いた。
「まぁ、ゆっくり解読していけばいいか」
と大欠伸をしつつ目をこする。
「とりあえず、今の最優先は……臨時休業かな(汗)」
と言って玄関に『本日臨時休業』の看板を掲げ、ベッドで深い眠りについた。


続く
記事メニュー
人気記事ランキング
目安箱バナー