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Chapter2 生き延びる事と向き合う事と ~ Inevitable Misfortune - (2006/03/23 (木) 15:41:31) のソース

[[封印されしルーンの壁画]]、正面へ。
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>無意識下で虚空を漂う感覚・・・とはよく言ったものだが、この表現するのは恐らく筋違いであろう。
>『虚空』という表現がそもそも相応しくない。『虚空』とは『虚の空間』、則ち『空間』という概念は存在しているという事だ。だが実際は、&html(<ruby><rb>そこ</rb><rp></rp><rt>・・</rt><rp>)にはエーテルや元素・・・時間も存在せず、その空間も空間ですらない、そう感じられる。
>だが、己の意識が定かでない以上その是非を考察、否、問う事すら出来ない。それに時間が存在していないのなら、こうして『思考』、『感覚』という概念を根底に置くことは、また則ち無意味、ナンセンスである。
>結局どこまでが『真』で、どこまでが『偽』なのか分かり得ない。仮定だけが生まれ、真実に結びつくことがない究極の不条理が支配する・・・世界。
>
>こういうのを、&html(<ruby><rb>まるで死んでしまったかの様</rb><rp></rp><rt>・・・・・・・・・・・・・</rt><rp>)・・・そう定義するのであろうか・・・
>
>だが、『無のようなもの』は何時までも続かない━━━━━『無のようなもの』なら『何時までも』という表現すら誤りかも知れないが━━━━━
>その中に突如『有』が生まれ、一気に膨れ上がる。宇宙の創造、ビッグバンを思わせる様に。
>そして俺の意識は時を刻み始めたのか、快眠から目覚めた時のような清清しい気分が広がる。『無のようなもの』という檻から開放されたのだ。
>
>・・・だが、身体は宙を泳ぐ感覚であった。現実感が無い。
>
>此れは『夢』なのだ・・・そう思うのに時間はかからなかった。
>そう納得するうちにも、俺の身体はその心地よい白き空間を飛翔していく。心が躍る。飛ぶ毎に気分が晴れ渡っていくようだ。・・・ああ、この空間の先に待ち構えるのは、どんな&html(<ruby><rb>桃源郷</rb><rp></rp><rt>ザナドゥー</rt><rp>)であろうか・・・
>
>そして、真っ白の空間が突如弾ける。期待に満ちていた俺の心の前に現れたのは・・・『街』であった。
>そう、この街は見覚えがある。
>多数の人々が集まる、ルーンミッドガッツ王国王都・・・プロンテラ・・・眼前には堂々と佇むプロンテラ王城。
>歩く人々は皆幸せそうであった。友人達と談笑を交わす者。楽しそうに商いに励む者。寄り添って歩く恋人達。辺りを走り回る子供達。皆を見ていると、こちらも暖かな気分になることが出来る。
>
>だが・・・幸せは長く続かなかった。
>次の瞬間、幸せの申し子達は空から降り注いだ光に焼き尽くされていた。
>
>呆然としている暇はなかった。その一撃だけで終わらず、次々と光は降り注ぎ街並はおろか、王城までも灰燼に帰していった。
>次々に人々は光の前に灰となっていく・・・否、灰すら残されない・・・
>逃げ惑いながら空を見上げた俺の目に映ったのは、一人の男。
>男は手に持つ剣を振るい、次々と光を叩きつけてくる。いかにも『幸せそうに』、高らかに笑いながら・・・
>
>光から逃げつつ俺は思った。あの男の顔、見覚えがあるような・・・次々と光が俺の脇を貫いていく中で、俺は男の顔を眺める・・・
>
>━━━あぁ・・・良く見たら・・・
>
>俺が悟った次の瞬間、俺に光が迫ってくる。
>
>━━━『俺』・・・じゃないか・・・
>
>そして『俺』自身が放った光に、俺自身の意識は溶かされていく・・・
>
>
>「うわああああああぁああぁあぁぁぁっっ!!!」
>
>叫びと共に俺は覚醒した。身体が逃げようと動くが、全身に走る痛みに抑えつけられる。
>痛みに呻きをあげるが、そのお陰で意識は落ち着いていく。
>「夢・・・か・・・」
>夢とはいえ、内容を思い出すと身体が震える。夢の割には生々し過ぎた・・・街を破壊していく時の『俺』の狂気に満ちた表情、光に焼かれていく人々の慟哭・・・これらが脳裏に焼きついて離れない。
>夢だよな・・・夢なんだよな・・・俺があんな行為に及ぶわけが・・・というより、街一つを破壊出来るほどの力が俺にあるわけが・・・
>そんなはずはないと、目を閉じて自分に言い聞かせる。普段ならたかが夢だと割り切れるのだろうが、今回はどうしてかそうはいかなかった。
>「目は覚めている様だが、気分が優れていないようだな。」
>前方から発せられた何者かの声で我に返る、咄嗟に腰に差してある愛剣に手を伸ばす・・・が、剣は見当たらない。
>過の者は俺の動作に気づいたのか、ニヤニヤしながら続ける。
>「どうした少年、お前の剣なら脇の棚の上に置いてあるぞ?」
>棚に目をやるとそこには確かに俺の剣がある。ベッドから飛び降り剣を取り返そうとするが、飛び降りる動作すら、体の痛みに抑えられてしまう。
>「ぐ・・・くそう・・・ッ・・・」
>「ハハハハハ、その体で動こうとするからだ。」
>脇腹の傷を抑えながら、俺はドアの縁にもたれ掛かって大笑いしている男を睨みつける。プリースト・・・この男は確か・・・
>「お前、確か森で・・・」
>「覚えていたか。重症だったから覚えていないかとも思ったんだがな。」
>男はドアの縁に預けていたその体を起こすと、俺に歩み寄りながら続けた。
>「あの胡散臭い男が去った後、少年は気絶してしまったのさ。それを僕が介抱してやったんだよ。さっきも言った通り重症で、かなり治療には手こずったんだぞ。」
>男は肩を竦めて冗談っぽくそう呟いた。
>そう・・・俺は村から逃げ出した夜、数多の追っ手に追われ、親を殺したという男にやられ、致命傷を負ったはずだ・・・だが改めて自分の体を見てみると、あちこちに包帯が巻かれており、痛みはあるものの流血も止まっている。
>俺は、生き延びたのか・・・
>「助けてもらったことは感謝する・・・だが俺はあの時、お前達に逃げろと言ったはずだ。」
>助けてくれた人間になんて罰当たりな事を言うか、とも思ったが事実であった。それなりの実力者である事は見て取れたが、あの3人では明らかに力不足だったろう・・・
>俺の失言ともいえる正論にも、男はけらけら笑って答える。
>「あぁ、そんな事言っていたかもしれんなぁ・・・だが、僕達が逃げたらお前は死んでいたぞ?」
>「俺の事は関係ない。それよりもあんた達が巻き込まれて死なれる方が・・・」
>「関係ない・・・のですか?」
>俺の反論を遮る様に、麗しい女性の声が男の後ろから放たれる。男がマスターと呼んだ、クルセイダーの女性である。
>「貴方は普通の人間ならとうに死んでいた程の重症でした、そこまで回復したのも奇跡と言える程に。にもかかわらず、貴方は確かに生き延びてここに居る・・・」
>プリーストの横を抜けながら女性は俺に近づいてくる。サファイアの様に蒼く澄んだ彼女の瞳は確実に俺を見据え、覗き込んでいると魅了されてしまいそうな・・・そんな感じがする。
>「生き延びなければ、という相当強い思念が無ければ出来ないことだとは思いませんか。」
>「・・・何が言いたい。」
>彼女は棚の上にある俺の剣を手に取り、優しい笑みを浮かべる。
>「貴方はそれ程までに&html(<ruby><rb>生き延びねばならなかった</rb><rp></rp><rt>・・・・・・・・・・・・</rt><rp>)のでしょう?それが分かったから私達は、貴方を助けなければ・・・そう思ったのですよ。」
>そしてその笑みを浮かべたまま鞘から剣を抜き、それを俺に差し出す。俺は意のままにそれを受け取り、異変に気がつく。
>「その剣を見て御覧なさい。あれだけの激戦を潜り抜けて尚、刃は血に滲む事無く、その身を朽ちさせる事無く、美しい輝きを保っている。」
>その通りであった。迫り来る追っ手をどれだけ斬ったか覚えていないが、その過程でこの法媒剣は確かに血に濡れ、度重なる剣撃で酷使されてきた。それなのに、剣は刃こぼれもせず、未だに輝きを放っているのだ。
>「貴方の剣は立派に『生き延びている』ではありませんか。それなら主人である貴方も生き延びるべきだ。私達はその手助けをしたに過ぎません。」
>呆然としている俺を見下ろしているのは、俺と年もそれ程変わらないであろう女性。だが俺なんかよりも・・・まだ笑顔に幼さが残る彼女の方が、余程立派に見えた・・・
>「・・・まぁ聞きたい事も沢山あるのですが、今はその身を癒す事が先決でしょう。」
>「・・・待てよ。」
>マントを翻して離れていこうとする彼女を呼びとめ、俺は問う。
>「あんたには『生き延びねばならない理由』はないのか?」
>「・・・何が言いたいのです。」
>彼女は振り返り、面白おかしそうに俺と同じ問い方をする。
>「俺を助けた理由は分かった、立派だと思うし感謝している。だがよ、あんたはその為に己の命を危険に晒した。生き延びたいと思っているのなら、やはり俺を置いて逃げた方が正しかったとは思わないのか?」
>「思いません。」
>あまりにもキッパリ言われたので、少し呆けてしまう。
>「確かに私にも生き延びねばならない理由があります。それを達成するまでは死んでも死に切れないでしょうね。」
>「だったら・・・」
>「ですが、私は死にません。死ぬ心配がないから死にそうな貴方を助けた。ほら、簡単なことでしょう?」
>笑いながらそう言う彼女に呆れながら俺は続ける。
>「あのなぁ・・・一体どんな理屈だよそれ・・・」
>「生き延びたい、と思っていれば生き延びられる物ですよ?私の経験からもそれは正しいです。ストレイツォ、貴方もそうでしょう?」
>「あぁ・・・まぁな。」
>彼女の問いかけに、ストレイツォと呼ばれたプリーストは苦笑いを浮かべて相槌を打つ。
>「私はそれ程『生き延びたい』と思っているのです。そう思っているうちは死んでやりません。貴方もそう思っているのではないんですか?」
>「まぁなぁ・・・」
>頭を掻きながら溜息をつき、そして彼女に言ってやる。
>「俺もそう信じて戦ってきた。でも、それでも俺の居た村は焼かれ、俺自身も瀕死まで追い込まれた。現実なんてそんなもんだぜ?」
>俺の真面目な返答に、彼女も真面目な顔をして答える。
>「分かっています、私も似たような経験をしましたから。だからこそ自分の命を信じるのです。絶望の淵から這い上がることが出来た自分の力を。死なないと信じている内は、私は私でいられるんです。」
>「・・・面白い奴だな、あんたは・・・」
>俺は思わず笑ってしまった。どうやら彼女には適わない様だな・・・
>「あんた、名前はなんという?」
>「トライアンフと申します。トライとでも呼び捨てにしてやって下さい。貴方は?」
>「俺はユウ、ユウ・レベリオン。」
>「ユウ・・・いい名前ではないですか。」
>彼女は俺に近寄って手を差し出してくる。
>「これも何かの縁です、宜しくお願いしますね。」
>「あぁ・・・宜しく。」
>俺は快く、その手を握り返した。
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>俺がまともに動けるようになるまでは十日程かかった。普通なら治癒に数ヶ月はかかるような怪我がこれ程で治ったのは、ひとえにストレイツォというプリーストのお陰だろう。
>どうやら俺は倒れた後、山岳都市フェイヨンまで運ばれ、宿屋で治療を受けていたようだ。宿の係員にも血まみれの俺が担ぎ込まれて迷惑かけただろうなと思い、ベッドから出られる様になってから詫びをしに行った。
>トライアンフと名を交わした後も、彼女は俺に色々教えてくれた。彼女のギルド「My World Requiem」についての事、「人々に平等の幸せをもたらす事」というギルド方針の元に、フェイヨンの森の凶暴なモンスターを駆逐しに来ていた時に俺を発見した事。
>そんな彼女に俺もまた、色々な事を話していた。俺の住んでいた村の事、両親の形見である俺の剣の事・・・
>彼女にも俺と似たような過去がある様だったが、俺も追及しなかったし彼女もそれ以上聞いてこなかった。互いにそこまで踏み込むべきでない、そう思っていたのだろう。
>だが、彼女を初めとするストレイツォやハンターのイシュタルとの会話は、故郷を失った俺の心にも安息を与えてくれた・・・
>----
>「ふむ、もう大丈夫だろう。身体的には以前の様に動けるようになったはずだ。後は身体を慣らすだけだな。」
>「そうか、今まですまなかったな。」
>俺の礼に、ストレイツォはニヤニヤ笑いながら返事を返す。
>「案ずるな、これが生業だからな。それに僕はこの仕事に誇りを持っている。」
>そう行って窓の前まで歩き、彼は煙草を吹かし始める。
>「ちょっとストレイツォ、仮にも怪我人の居る部屋で煙草を吸うとは何事ですか。」
>「何言ってんだよ。仕事後のこの一服がうまいんじゃないか。」
>近くに居たトライアンフが彼を叱るが、彼はそ知らぬ顔で一服とやらを堪能している。全くもって彼らしい・・・
>「それに・・・もうユウの怪我は治ったんだぞ。今日くらい許せよ、マスター。」
>溜息をつく彼女を見て、ストレイツォは大笑いを始める。二人の掛け合いが微笑ましく、俺の顔にも笑みが浮かぶ。
>「ちょっとユウ、貴方何が可笑しいのですか!」
>「あぁ、すまんすまん・・・」
>怒る彼女を制止し、少し間を置いてから俺は続ける。
>「しかし・・・二人は今日にもプロンテラへ戻るんだよな。」
>俺の質問に、二人も表情を引き締める。
>「そうですね、私の留守はイシュタルに任せきりですし・・・そろそろ戻らないと怒られてしまいます。」
>「あいつ怒らせると怖いんだよなぁ。この前も僕の晩飯に激辛チリソースを瓶毎ぶっかけやがって・・・早く帰らないと僕の晩飯が危ないぜ。」
>「そうか・・・」
>その返答を聞いた俺は、ここ数日で決心した事を口にする。
>「なぁ二人共、ちょっと頼みがあるんだが。」
>「なんだぁ?愛の告白か?」
>当然、ストレイツォの問いには無視である。
>「俺をしばらくギルドに入れてくれないか。十数日もここに留まらせていたんだ、俺にも礼くらいさせてくれ。」
>二人は意外そうな顔で俺を見るが、トライアンフが直ぐに言葉を返す。
>「気持ちは嬉しいですが・・・そこまでして私達について来る必要も無いんですよ?お礼なんて気になさらなくても・・・」
>「いや、違うんだ。それだけじゃないんだ・・・」
>俺の反論に彼女は驚いた様だが、直ぐに表情を崩して俺の言葉を促してくれる。
>「俺はがむしゃらに生き延びようと、村を抜け出しただけなんだ。帰る場所も無ければ、これから行く場所も無い・・・だが・・・」
>俺はベッドを立ち、脇にあった剣を手に取る。
>「あんた達の話を聞いていると、どうしていいかわからなかった俺にも少し光が見えた気がした。あんた達についていけば俺も生きていく楽しみが見つかる様な気がした。この先、命を狙われ続けるであろう俺の人生に・・・」
>はからずとも瀕死になってまで村から逃げ惑う自分と、夢で狂気に溺れていた『自分』を思い出して体が震える。もうあんな目には会いたくない・・・
>「迷惑な話だろ?命を狙われている人間がギルドに入れてくれだなんて。ギルドの厄介者以外の何者にもならないだろう。」
>そして手に持つ剣を腰に差し、二人に向かって頭を垂れる。
>「それでもお願いだ!俺に居場所を与えてくれ!この剣と魔術で、手伝えることはするつもりだ!」
>頭を下げたまま、二人の返答を待つ。だが返答は意外な所から帰ってくる。
>「そうはいかないわ。」
>俺と二人は声のするドアの方を振り向く。そこに立っていたのは、アサシンの男性とウィザードの女性・・・
>「ユウ・・・やっと見つけたわ。」
>「何奴ッ!」
>トライアンフとストレイツォは俺の前に立ち、戦闘態勢を取る。だが、ウィザードはそれを意にも留めない。
>「あなた達に用は無い・・・わたしは後ろのユウに用があるの。」
>「なんだと・・・?」
>ウィザードはその目を俺に向ける・・・俺は彼女を睨みつける・・・が・・・
>
>まさか・・・
>
>「貴女は・・・まさか・・・」
>「あら、覚えていてくれたのね。」
>困惑する俺の声に、彼女は安心した様な顔をして言葉を続ける。
>「そう、私はSera's Ark。貴方の両親と知り合いだった者よ。」
>俺の推測は確信となる。俺が子供の頃、両親に度々会いに来ていた・・・記憶から消えかけていた為名前まで覚えていなかったが、それが彼女だと言うのか・・・!
>「貴方の父母であるアイザックとフローリアとの約束を果たしにやってきたわ。その為にも、貴方を彼女達に任せるわけにはいかない!」
>そして俺はまた・・・否が応でも、自分の運命と向き合わなくてはならなくなるのであった・・・
>

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