貴之と貴司(9)
著者不詳
「ああ、そうできるように考えてみる」
兄さんはそういうと、ちょっとぎこちなく僕をハグしてくれた。
ポンポンと叩かれる背中がとってもここちいい。
こうなると、僕は全部がどうでもいいなって思っちゃう。
兄さんは意志が強い人だし、本当に出て行くなら僕がお願いしてもむだってことくらい
わかっているつもり。それでもやっぱり僕はごねてしまう。そしてそれを恥じるんだ。
「親父とお袋が心配するし、そろそろもどろっか」
体越しに伝わる兄さんの声はいつもよりちょっと低く響いてきて、いっそう僕を気持ち
よくさせてくれる。
「はい。」
本当はもう少しこうしていたいって思ったけど、これ以上兄さんを困らせたら嫌われ
ちゃいそうだし、素直に返事をすることにした。
ごめんね、兄さん。いつもいつも心配かけてばっかりで。
僕は感謝の気持ちがいっぱいいっぱい溢れてきて、自然に言葉が出た。
「兄さん、大好きです」
自分のじゃないみたいに聞こえる声。
兄さんはびっくりしたような顔をしている。
なんだかとっても恥ずかしい。ほっぺたが熱い。