太陽光発電のコスト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

太陽光発電のコストは、一般的に設備の価格でほぼ決まる。運転に燃料費は不要であり、保守管理費用も比較的小さい。開発当初は非常に高価であり用途が限られたが、現在では一般家庭で導入可能な水準に低減してきている。現時点でのコストは系統電力よりも高価であるが、普及と技術的改良に伴って今後も低減が見込まれ、今後数年のうちに系統電力価格より安くなる(グリッドパリティに到達する)国が増えるとされる。将来の主要な電源の1つとして政策で普及拡大と価格低減を促進する国が増えている。エネルギーセキュリティ向上などの付加的なコスト上のメリットも有するが、特に昼間の需要ピークカットのコスト的メリットが大きいとされる(<ref name="smallisprofitable">エイモリー・B・ロビンス「スモール・イズ・プロフィタブル(Small is profitable)」ISBN 4-87973-294-XP.131-132, <ref name="solarrevolution">Solar Revolution / The Economic Transformation of the Global Energy Industry, Travis Bradford, The MIT press, ISBN 978-0-262-02604-8P.131など)。一方、途上国で送電網が未整備な場合、消費電力に比して燃料輸送費や保守費が高い場所など(山地、離島、砂漠、宇宙等)では、現段階でも他方式に比較して最も安価な電源になる場合が多い。 また国内生産した場合の経済効果も重要視され、近年はグリーン・ニューディール政策の一環に位置づけられることがある。

電力量あたりのコスト

太陽光発電のコストの相場は、いまのところ他の電源の数倍とも言われる。電力量あたりのコストでは価格競争力が不足するため、現時点では普及促進に際して助成が必要とされる<ref name="IEA_Deployment">IEA, Deploying Renewables -- Principles for Effective Policies, 2008。ただし用途などによっては現状でも価格競争力を有する。普及に伴い、ほぼ経験曲線効果に従ってコストが低下しており<ref name="JRC_Waldau">Thin Film Production Overview in the Short and Medium term, A.J.Waldau, EU Commission, DG JRC, Ispra, 03/09/2008, 23 EU-PVSEC, Valencia、世界的には2012年頃には系統電力よりも安価になる(グリッドパリティに到達する)と見られている<ref name="EPIA_EUROBAT"/><ref name="Nomura"/>。既に一部の欧米企業はグリッドパリティの目安とされる1$/Wpを切る生産コストに到達している<ref name="GreenTechMedia_FS_GridParity">First Solar Reaches Grid-Parity Milestone, Says Report, Greentech Media, December 16, 2008

  • 現在の価格は(地域や国、統計によってもある程度異なるが)たとえば2009年5月の時点の平均でモジュール価格にして容量1Wpあたり4.7ドル前後、発電量1kWh当たり21セント程度と報告されている<ref name="solarbuzz_top">solarbuzz社調べ。また安価なモジュールの市場価格は約3ドル/Wp程度である。発電量あたりのコストでは比較的高いが、一部の国では系統電力価格よりも安価になっている。IEA PVPS加盟国では、2007年のモジュールの平均価格は4.4ドル/Wpと報告されている<ref name="IEA_PVPS_ValenciaPres">IEA PVPS, Slides of the Valencia presentation, 2008。最も安いモジュールの単価は2009年4月時点でWpあたり約2.5ドルまで下がっている<ref name="solarbuzz_price"/>。
  • 2008年末の時点では、(結晶シリコン太陽電池が主体の)比較的高出力(125Wp以上)のモジュールについては、需要逼迫による価格の高止まりが数年間続いていた<ref name="solarbuzz_top">solarbuzz。2009年は結晶シリコン原料の増産が追いつくことで値下がりが見込まれていたところ<ref name="greentech_SiPrice">New Energy Finance Predicts 43% Solar Silicon Price Drop, greentechmedia, 18 August 2008、実際に2009年に入ってから世界的に価格の低下が始まっている<ref name="solarbuzz_price">[http://www.solarbuzz.com/Moduleprices.htm Solarbuzz社のモジュール価格調査結果。
  • グリッドパリティの目安は、モジュール生産コストにして1Wpあたり1ドルとされ、2009年にはFirstSolar社が達成を宣言している<ref name="GreenTechMedia_FS_GridParity"/>。しかしグリッドパリティの価格水準は国や地域ごとに大きく異なり、1$/Wpよりコストが高い場合でも国や地域によっては既に達成されていると言われる<ref name="SeekingAlpha">Solar Grid Parity: The Great $1 Myth, Seeking Alpha, 2008年12月9日
  • 普及に伴い、今後も価格は低減が見込まれている。2012年頃には世界の6割以上の地域で補助金なしで発電事業として経済的に成立するようになるとも予測されている<ref name="PVNews_May2007">PV News Vol.26, No.5, May 2007.。また一部の薄膜太陽電池生産企業では、比較的変換効率は低いながらも年間数百MWpのペースでモジュールを量産し、生産コストが1Wpあたり1.08ドルに到達したと表明している<ref name="FirstSolarPriceDeclear">First Solar社の表明による、2008年3Qのコスト。
  • 蓄電池を用いた独立型システムにおいても、今後の価格低下と途上国などでの普及拡大が予測されている<ref name="EPIA_EUROBAT">W.Hoffman(EPIA),R.Kubis(EUROBAT),The role of Energy Storage in the future development of photovoltaic power, Intersolar, 12 June 2008

こうしたことを踏まえ、”2030年ごろになっても経済的に自立できない”などとする主張は誤りであるとの指摘もなされている<ref name="Nomura"/>。

付随するコスト要因

太陽光発電は天候によって発電量が不随意に変動する。このため発電量に占める太陽光発電の割合がある程度大きくなると、変動への対策のコストが発生するようになるとされる。全てを太陽光発電だけで供給する独立型のシステムでは、蓄電池のコストが上乗せされる。系統連系した場合についても、供給電力に占める割合が増えるにつれて系統側で変動対策のコストが増加すると考えられている。しかし火力発電に比較して随意性で劣る点においては風力発電原子力発電なども(それぞれ特性は異なるが)同様であり、それぞれ供給電力に占める割合が増えるにつれて対策コストも増えるとされる。こうした電源の割合を増やすため、電気自動車などの負荷側との協調も用いて系統全体の機能を向上させるスマートグリッドなどの対応策の検討や法制化が各国で始まっている<ref name="EU_SmartGrid">SmartGrids Technology Platform(欧州のスマートグリッド開発推進機構)<ref name="US_SmartGrid_NETL">A Vision for the Modern Grid(NETL)<ref name="US_SmartGridLaw">U.S. Energy Independence and Security Act of 2007。日本においても、今後のコスト低下の見通しやコスト負担のしくみなどを含めた議論が始まっている<ref name="JP_GridCost">低炭素電力供給システムに関する研究会新エネルギー大量導入に伴う系統安定化対策・コスト負担検討小委員会(第3回)配付資料(経済産業省)

一方、下記のように付加的なコスト上のメリットが生じる場合がある。このような付加的なメリットにより、発電量あたりのコストが従来型電源の数倍であっても電力供給網全体のコストを低減させる場合があるとされる(<ref name="smallisprofitable"/>P.192など)。

  • 他電源の燃料調達リスクの緩和(燃料価格変動の不規則性、資源確保に関する不安がない)
  • 他の電源からの送電損失の削減(太陽光発電の発電量がその分増えたのと同じ効果を持つ)
  • 昼夜の電力需要の変化への追従効果(昼間の需要ピークのカット、夜間余剰電力の削減など)
  • 災害など有事におけるセキュリティの向上(悪影響の及ぶ範囲や期間を抑制)

このほか、経済面では産業としてのメリットも評価の対象となり得る<ref name="BMU_Progress">Renewable energy sources in figures、ドイツ環境省、2008年。景気浮揚策の一部として論じられる場合もある<ref name="SEIA_Economics">Solar Energy Fuels Domestic Job Growth:A Blueprint for Job Creation and Economic Security, SEIA, 2008

影響要因

電源としてみた時の太陽光発電のコストは、下記のような要因に影響される。

  • 導入費用(システムの値段、工事費等)
  • 融資利率
  • 個々のケースにおける発電量:
  • パワーコンディショナーは10~15年程度の間隔でメンテナンスや交換を要する場合がある<ref name="ALLABOUT_MAINTAIN">http://allabout.co.jp/house/kankyosumai/closeup/CU20031014b/<ref name="Nomura"/>。
  • 日常的な保守・管理費用は比較的小さい。
  • 設置や廃棄に要する費用は設置形態に依存する。
  • 建築物の構造(面や屋根等)を兼ねる場合など、純粋に発電部のコストだけを分けて見積もるのが難しいケースもある。
  • 事前の調査に要する期間や工期は比較的短く、その間の利子は無視できる場合も多い。

金銭的収支の面では、下記のような影響要因もある。

日本におけるコスト

日本における太陽光発電システム導入のコストは、開発が本格化する1970年代までは住宅一軒分(通常2~5kW程度)に一億円前後の導入費用がかかる水準(数千万円/kW)であった(<ref name="nedobook">なぜ、日本が太陽光発電で世界一になれたのか、NEDO(非売品),P.82など)。 その後日本におけるkW当たりの設置費用は、1994年度から2003年度までの10年間で、半額以下になっている<ref name="NEF_Price">太陽光発電システム設置価格の推移(新エネルギー財団)。平成17年度におけるシステム導入費用は、新エネルギー財団による集計では、平均価格で1kw発電用パネルが設置代込みで68.4万円になったと報告されている。専用シリコン原料の増産、量産規模の拡大、シリコン使用量の削減や新材料の実用化<ref name="HONDA_CIS">EETimes記事、2007年6月等により、さらなる価格低減が可能と期待されている。 平成17年度における設備容量1kWあたりの平均価格(税抜68.4万円/kW:参考データ参照)を用いて、償却年数20年で計算した場合、利子や保守費用まで含めた太陽光発電量あたりのコストは47~63円/kWh程度と算出される<ref name="NEDO_COST">太陽光発電システムの発電コスト算出法NEDO)。これは現在の一般家庭向けの電気料金(15~30円/kWh程度)の2-3倍程度である。なお、このコストのうち3~4割程度が利子である。 現在コスト低減の技術開発が進められている<ref name="NEDO_Roadmap">「2030年に向けた太陽光発電ロードマップ(PV2030)」についてNEDO)。最大手企業のシャープも、将来的にはコストが現在の半分程度(23円/kWh)には圧縮可能との見通しを示している<ref name="SHARP_FUTURE_COST">http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/business/manufacturer/78384/。また今後稼働予定の堺工場で太陽電池の大量生産を始めるため、太陽電池コスト低下によって、さらなる発電コストの低下が期待される<ref name="ITPRO_SHARP_PV_COST">日経エコロジー、2008/03/25の記事。このように日本でもグリッドパリティが達成可能と見られているが、そこからさらにどこまで安くできるかについては今後の技術開発の状況にも依存し、不確実性もあるとされる<ref name="AIST_economics">太陽光発電のコスト(産業技術総合研究所)。NEDOのロードマップ(PV2030)では将来的にピーク時の電源だけでなく、ベースロード電源に並ぶ価格目標(約10円/kWh)が設定されている<ref name="NEDO_Roadmap"/>。 なお技術的検討から、現行技術の延長で可能な範囲でも公称容量あたりのモジュール単価は65円/Wp程度までコストダウンが可能と見られている<ref name="Zukai_Konishi">桑野幸徳・近藤道雄監修、図解 最新太陽光発電のすべて、工業調査会、2009年7月、ISBN 978-4-7693-7171-7、P.43。

2005年以降は国内市場の縮小と共に価格の増加も見られた<ref name="IEA_PVPS_JPModulePriceTrend">IEA PVPS, Indicative module prices in national currencies per watt in reporting countries<ref name="JPEA_stats">JPEA, 統計・資料。日本の普及促進・価格低減政策は近年の欧米諸国に比して弱く、普及の減速やコストの増大を招いていると見られていたが、2008年から2009年にかけて普及政策の強化が進められている(#政策の節を参照)。

なお下記のような要因により、太陽光発電コストが他の電源に比較してより不利に評価されている例も見られる。

  • 2007年の平均約70万円/kWpよりも高いシステム価格(設備容量1kWあたり90万円など)で計算している。
  • (他の発電方式では必要な)燃料代や人件費などの運転費用や、廃棄・解体費用などの差を含めていない。
  • 償却年数は20年で計算されているが、実際の稼働期間はより長い場合がある。
  • 時間帯による電力需要の差を考慮せず、他の電源が実際にはよりコストが高くなる場合を無視している(参考:2006年1月現在、電力会社の料金体系によっては昼間と夜間で約4倍の価格差がある)。
  • 他の電源に対して、借り入れ金利の設定などのコストの計算条件が揃っていない。
  • 温暖化ガス排出権等のコストの差が無視されている。
  • 設備容量当たりの発電量を実際の平均値(日本の場合で約1000kWh/kW/年)より低く見積もっている。

政策

太陽光発電のコストはいわゆる経験則に従って安価になることが知られており、コストを下げるためには市場規模を増やすことが重要とされる。この考え方に沿って様々な形態の導入促進政策が各国で施行されている。このような政策には一般に巨額の費用を要するが、ドイツなどの例においてはそれを上回る経済効果が報告されている。

詳しくは固定価格買い取り制度を参照

日本ではRPS法、余剰電力購入制度および地方自治体による補助などを用いて助成が行われているが、2005年に新エネルギー財団による助成が終了してからは国内の市場規模と価格が停滞しており<ref name="IEA_PVPS_JPModulePriceTrend"/><ref name="JPEA_stats"/>、政策の弱さが指摘されている<ref name="Iida_Nikkei">NBOnline 2008年5月26日<ref name="Iida">地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案、飯田哲也、2008年4月、P.13<ref name="Fujita">Business Media 誠、2008年4月<ref name="Enshu">ドイツの固定価格買取制度、遠州 尋美、2006年<ref name="Sakurai">FIT入門、櫻井啓一郎、2008年<ref name="Okada">Livedoorニュース、2008年03月24日。このような事態に対応して経産省文科省国土交通省環境省の4省による「太陽光発電の導入拡大のためのアクションプラン」<ref name="ActionPlan">「太陽光発電導入拡大のためのアクションプラン」(進捗状況フォローアップと今後の取組)について、経産省、2009年3月17日などの取り組みが行われている。2009年初めから緊急提言に基づいて補助金が復活されると共に、現行の政策を大幅に強化する買取制度の導入が表明されている(再生可能エネルギーを参照)。

なお日本においても、下記のように太陽光発電の普及促進による経済効果が期待されている。

参考データ

  • 太陽光発電モジュールの期待寿命は通常20〜30年程度とされる。経年劣化と寿命の項を参照。
  • パワーコンディショナーの寿命は15年程度とされる。パワーコンディショナーの価格は2008年現在で25万円程度とされる(<ref name="Nomura">和田木哲哉(野村證券)、爆発する太陽電池産業、東洋経済新報社、2008年11月、ISBN 978-4-492-76178-6P.51)。
  • 保守費用としては、たとえばモジュールの架台などの定期点検サービスを提供する例などがみられる(太陽光発電を参照)。
  • 平成17年度の日本におけるデータでは、設置工事費用は平均約8万円である。
  • 太陽光発電モジュールの廃棄時のコストは、材料のリサイクルでほぼ回収できると報告されている<ref name="PVCycle_Report">PV Cycle, Study on the Development of a Take-Back-and Recovery System for Photovoltaic Products, 2008。ただし材料の価格相場や回収システムの設計によっては、回収・管理費用が上回る可能性もある。
  • 日本国内においては、製品の最大出力1kW当たりの年間発電量は平均約1000kWh/kWである。設置地域によって異なり、1995〜2003年度までの8年間にわたる調査例では、最も少ないのは秋田県で平均795kWh/kW/年、最も多いのは高知県で平均1116kWh/kW/年と報告されている。天候による年ごとの変動量は、全国平均で最大1割程度である<ref name="NEF_PVpower">都道府県別kW当たりの年間発生電力量(9年間)(新エネルギー財団)。
  • パワーコンディショナーの性能は発電量に直結するため、高性能化が進められてきた。現在ではパネルからの直流電力の95%前後を交流電力に変換できる<ref name="SANYO_PC">http://www.sanyo.co.jp/giho/no75/pdf/7506.pdf<ref name="Mitsubishi_PC">http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200710080022a.nwc
  • 日本の一般的な一戸建ての住宅に設置される太陽光発電システムの規模は、設備容量にして通常2〜5kW/軒程度である。
  • 日本の企業向けなどの業務用動力電力(200V受電)は電気代が比較的安いため、家庭用に比べて太陽光発電の普及が進んでいない。日本においては、電力会社が自主的な余剰電力買い取り(net metering)によって電力料金に近い価格で購入している。買取価格は電力会社や契約条件によって異なり、1kWh20〜30円程度である。ドイツの例では、たとえば1kWh50円弱(建築物に載せた30kWp以下の設備の場合)で買い上げ、あらかじめ決められたペースで毎年減らしている<ref name="GermanyTariff">Bundesverband Solarwirtschaft (BSW) e.V., EEG 2009 Wichtigste Änderungen und Fördersätze Photovoltaik, Juni 2008<ref name="BMU_EEGCost">ELECTRICITY FROM RENEWABLE ENERGY SOURCES: What does it cost us?、ドイツ環境省、March 2008固定価格買い取り制度も参照)。
  • 電力会社にとっての太陽光発電はピーク削減効果を持ち、そのピーク対応発電原価は揚水発電や火力発電と同等と見なすことができる。東京電力が試算した、「2000年運転開始・利用率10%、今後10年に運転開始する揚水式水力の平均的モデルとされているものの発電原価は33.4円」、また関西電力では「1999年運転開始・利用率70%の火力発電所の加重平均をベース電源として換算したピーク対応の電源コストを31.96円」としているTemplate:要出典

脚注

Template:DEFAULTSORT:たいようこうはつてんのこすと



最終更新:2009年09月11日 11:26
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。