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迷宮意図/make you it

冬木市、新都。
その一角に居を構える芸能事務所の一室で一人の男が力なくうな垂れていた。

彼はとあるアイドルのプロデューサーである。
だがその肌は荒れ、目は落ちくぼみ、数日間寝てないであろうことが傍目にも明らかだった。
仕事柄、数日の徹夜程度なら慣れている。
だがそれだけでは説明できないほどに憔悴しきっていた。
その原因はたった一つ。
彼の担当するアイドルが数日前から行方不明なのだ。

数日前、ミニライブを終えた直後だった。
衣装もそのままに控室へ戻った彼女は姿を消した。
その時間、たった数分。そのわずかな間に彼女は消えたのだ。
様々な噂が流れた。
自らの意思による失踪。何者かによる誘拐。
だがどちらにしろ不可解なのは、その間に誰一人として控室に出入りしていないことだった。
監視カメラの映像も、スタッフの証言もそれを裏付けている。
まるで神隠しのような状況。
当然のように警察の捜査は難航し、何の進展もないまま今に至っている。

そして彼はそれから一睡もしていない。
それどころか自ら心当たりをすべて当たる勢いで探し回っている。
そんな自分の様子に彼自身驚いていた。
彼は自分のことを人一倍名誉欲が強い男だと思っていた。
故に人気のある"トップアイドルのプロデューサー"というものを目指した。
アイドルはそのためのパートナー。
いや、正直に言えばその肩書を得るためだけ道具だとすら思っていた。そのはずだった。

……だが彼女と出会ってそれが変わった。
ステージ上で彼女が踊る。彼女が歌う。彼女が笑う。
ただそれだけで世界が変わって見えたのだ。
そして何時のころからか『彼女を多くの人に見てもらうこと』が彼の望みとなった。
いや、彼女こそが自分の中で一番大きな比重を占めるようにすら――

「――さん、プロデューサーさん」
「……千川さん」

視線を向けた先にいたのはアシスタントである千川ちひろだ。
いつも明るい彼女の顔にも疲労の色が浮かんでいる。

「先ほど警察の方がいらっしゃって……公開捜査に踏み切るそうです」

今までは事務所の圧力や家族の意向もあり、公表は避けてきた。
だがそれももう限界らしい。
失踪がファンの間に知れ渡れば多くの憶測を生み、アイドルとしての今後に影を落とすだろう。
だが……

「そんなことはどうでもいい! 一刻も早く彼女を……!」

ちひろのおびえた顔。
それでやっと声を荒げてしまったことを理解する。

「……すまない」

当たり散らしてしまった自分を恥じる。
彼女もつらい筈なのに、当たり散らすなんて最低だ。

「……いえ、気になさらないでください。
 でもお願いですから睡眠をとってください。このままじゃプロデューサーさんのほうが……」

そう言い残し、ちひろは部屋を後にする。
たった一人残されたプロデューサーはぼんやりと天井を見上げた。

――いつのころからだろう。
彼女のことを一人の女性として見始めたのは。
プロデューサーとして許される感情ではない。
この感情を告げるつもりもないし、大事な人ができたなら笑顔で祝福するだろう。
彼女が幸せならばただそれだけでよかった。
こんな感情を抱いたのは生まれて初めてのことだった。
あれほど焦がれた"トップアイドルのプロデューサー"などという肩書もどうでもいい。
彼女が無事ならば、彼女の笑顔がもう一度見れるならば、そんなことはどうでもいいことだ。

だが彼自身わかっていた。
自分にできることはもうないのだ、と。
彼女が行きそうな場所はすべて探した。
もうこれ以上素人にできることは何もない。
むしろ警察の邪魔にならないように大人しくしているべきなのだ。
だが理性はそう告げていても感情はそうはならない。
理性と感情が、まるで迷宮のようにぐるぐると自分の中を彷徨っている。

「……このままじゃ、だめだな」

睡眠薬でも使って無理やりにでも寝たほうがいいのかもしれない。
このままだとさっきのような間違いを犯してしまうかもしれない。
そう考えて男は仮眠室に向かう。
そのドアノブに手をかけたところで不意に馬鹿な考えが頭に浮かぶ。

(このドアを開けた先に、もし彼女がいたら……)

そんな益体もない妄想を抱いたまま仮眠室のドアを開け――

「――な」

言葉を失った。
その先に、信じられない光景が広がっていた。
彼の眼前に現れたのは煉瓦製の壁と地下へと延びる石造りの階段。
まるでゲームに出てくるような古式ゆかしい地下迷宮(ラビュリントス)の入り口だ。

――俺は夢を見ているのか?

だが夢にしては中から漏れ出してくる黴臭い空気も、耳に響く深く静かな反響音もあまりにもリアルだ。
目の前に広がった非現実な光景に、疲労していた脳が混乱で埋め尽くされていく。

――オォォォォォォォオォォOOOhO!

だが次の瞬間、内部から"何か"の鳴き声が響き渡り、反射的にドアを閉じてしまう。

今のは何だ。
ただそれが声だと認識しただけで心臓を鷲掴みにされたような恐怖に襲われた。
まるで全ての生あるものを恨むような獣の咆哮。
心臓だけが別の生き物のように鼓動を刻んでいる。

非現実の光景。
だが非現実だというのなら彼女が消えた状況こそが非現実だ。
そうだ、あれだけ探してもいなかったのだ。
もう残された場所は非現実の世界しかないのではないか。
頭のどこかで狂っていることを理解しながら、意を決して再びドアを開く。

「……あ、れ」

だが再度開けた扉の先は見慣れた仮眠室だった。
呆然と部屋の中を見回すがいつもの仮眠室と何一つ変わらない。
やはりあれは幻だったのか。

「くそっ……」

誰にも聞こえないように悪態をつく。
ストレスが生み出した幻覚とそれに逃げようとした自分。
そんな自分があまりにも情けなかった。



   ■   ■   ■   ■



薄暗い空間に女が横たわっている。
普段着とは明らかに違う、舞台映えする衣装に身を包んだ女。
そう、"彼"の探している行方不明のアイドルその人だ。

彼女は硬い地面に直接寝かされている。
だが一向に起きる様子はなく、それどころか身じろぎ一つしない。
その姿は一見するとまるで死んでいるかのようだ。
だが彼女は死んではいない。
ただし生きているとも言い難い。
生と死の丁度境界線上、魔術的にも肉体的にも仮死状態にある。
その原因は彼女に背を向けて座る壮年の男にある。

黒いローブを身にまとった魔術師(キャスター)のサーヴァント。
彼の道具作成スキルによって作られた霊薬によって、彼女は生かさず殺さずの状態に囚われている。
彼女の意思を封じ、同時に限界まで魔力を吸い上げるために。

主を主と思わぬ蛮行。
だが、それも当然か。彼は主に一片の興味もない。
彼女をマスターとして選んだのはたまたま魔術的な才能があり、そして何より"餌"として最適であったからだ。
迷宮の奥にさらわれた、罪なき女。救われるべき哀れな女。
そのために必要なのは多くの人に知られる存在であること。
この迷宮に多くの勇者を呼び込むための餌。
ただそれだけだった。

既に彼女を探して、数名の人間が迷い込み、そして迷宮に殺されている。
このままいけば被害者はさらに増えるだろう。
誰かが己を殺すまで、この悲劇が止まることはない。

「さぁ英雄たちよ、来るがいい。……"悪"はここにいるぞ」

虚ろな瞳の奥で、歪な炎がゆらりと揺れた。





【クラス】
 キャスター

【真名】
 ダイダロス

【出展】
 ギリシャ神話

【パラメーター】
 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運E 宝具EX

【属性】
 中立・中庸

【クラススキル】
  • 陣地作成:A+
 魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
 キャスターにとっては大迷宮がそれにあたる。
 迷宮は大神殿並みの強固さを誇り、迷宮ごと破壊するという行為は実質不可能である。

  • 道具作成:A+
 優れた発明家であるキャスターはほぼすべてのアイテムの修復、新規作成が可能である。
 条件さえ揃えば宝具ですら修復が可能である。

【保有スキル】
  • 反骨の相:D
 権威に囚われない、裏切りと策謀の梟雄としての性質。
 同ランクの「カリスマ」を無効化する。
 キャスターは主を変え、流浪する宿命にある。

  • 精神汚染:C
 精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
 ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
 キャスターは罪の意識を感じているが、そのことによって行動を止めることはない。
 ――逆説的に精神を捻じ曲げなければ悪徳に耐えられない弱さの証左でもある。

【Weapon】
  • なし
 接近戦になればキャスターに勝ち目はない。


【宝具】
  • 英雄踏破の大迷宮(ケイオス・ラビュリントス)
 ランク:EX 種別:迷宮宝具 レンジ:1 最大捕捉:30人
 フィールドの地下に自動生成型の大迷宮を作り出す迷宮宝具。
 巨大迷宮を常時具現化するという大魔術だが、極めて少ない魔力で長時間の維持が可能となっている。
 これは迷宮が"世界の裏側"に形成されるため、出入りの瞬間しか世界からの修正を受けない、という特性のためである。

 迷宮に侵入するには一定の手順を踏む必要があり、
  ・キャスター、またはそのマスターの存在を知る。
  ・彼らを能動的に探す。または探している状態である。
  ・ドアを開けて、内部に"侵入"する(廊下や野外に"出る"ときには発動しない)。
 というプロセスを踏んで初めて迷宮への侵入が可能となる。
 なお迷宮に繋がるかどうかは完全ランダム。
 (判定はドアを開いた瞬間に行われるため、一度迷宮につながったとしても開きなおしたら普通の建物だった、ということもある)
 迷宮内部は"不倒不滅の影牛人"(後述)を含めた魔獣が闊歩する危険なフィールドであり、脱出は困難。
 またキャスターは迷宮内部で起きたことをすべて知覚できる。

 なおミノタウロス――アステリオスのものと同名の宝具だが特性が大きく異なる。
 アステリオスにとっては生まれた時からの周囲の風景だった。
 キャスターにとっては自身の作品であり、罪の産物だった。
 その違いである。

  • 不倒不滅の影牛人(ミノタウロス・ウンブラ)
 ランク:EX 種別:迷宮宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 迷宮内を徘徊する牛頭の怪物。
 威圧スキルを持ち、恐怖したものの数だけ力を増す。
 また迷宮がある限り何度でも復活し、その度に『自身を倒した攻撃』への耐性を獲得する。
 その正体はアステリオスではない。その影ですらない。
 怪物を恐れた王の、人々の、キャスターの恐怖心が作り上げた、心(めいきゅう)のうちに潜む怪物である。


【人物背景】
 古代ギリシャの有名な発明家。
 斧、錘、水準器、神像などを発明したとされる偉大なる発明家。
 だがその手で作ったものは一体何を生み出したというのか。
 ――己の作り出した迷宮は少年の心を持った化物を封じていた。
 ――己の不完全な発明は我が子の命を奪った。
 きっかけは誰かに喜んでほしかっただけなのに、それはいつも悲劇を持って幕を閉じる。
 だが何より許せなかったのは自分自身に悲劇的な結末が訪れなかったことだ。

 「あなたのせいではない」
 「あなたは道具を作っただけだ」

 なんと優しき判決。
 なんと公明正大な裁き。
 だがだとしたらこの嘆きはどこへ行くのか。
 彼らの死は、私の痛みは、一体どこへ行くというのだ。
 ああ誰か、誰か私を――助け(さばい)てくれ!

【サーヴァントとしての願い】
 迷宮を踏破した勇者に殺されることを望んでいる。



【マスター】
 ???(アイドルであるようだが詳細は不明)

【出展】
 アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
 なし。というか聖杯戦争に巻き込まれている意識もない。

【備考】
 アイドルが具体的に誰かは未定。

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最終更新:2016年09月23日 04:02