数年前の"事故"によって作られた新しい町。
その冬木の街並みをスーツ姿の女性が歩いている。
年は若く、まだリクルートスーツを着ていてもおかしくない年齢だ。
だがその立ち振る舞いにはおよそ隙というものが存在しない。
電話をかけているというのに、年不相応の鋭い視線を周囲に走らせている。
「ああ、それでいい。あとの処理はお前に任せる」
彼女の名は真戸暁。
CCGに所属する対喰種捜査官である。
本来彼女がいるべき場所は喰種の活動が活発な東京である。
そんな彼女が何故この九州地方の一都市にいるのか。
アキラがこの冬木にやってきたのは他でもない、上層部からの指令である。
「気合を入れろ。お前がその調子では部下の士気にもかかわるぞ」
上層部から下された指令は"聖杯戦争"への参加であった。
胡散臭いオカルトの極み。
当然のことながらアキラは反対した。
だが上層部は強引とも呼べるほどの手腕で冬木市にアキラを送り込んだのだ。
「……まぁそれで回っているのならばいいが。
ああ、私のほうは大丈夫だ。心配することはない」
最初は上層部は気が狂ったのかと思ったが、彼女もサーヴァントの召喚に成功しているのだ。
だとすれば信じないわけにはいくまい。聖杯戦争というものの存在を。
「誰がお母さんだ。そっちはそっちでしっかりやれ、ハイセ」
そして日課となったパトロールと部下への連絡を終え、セーフハウスであるマンションのドアに手をかける。
部屋の中には召喚したサーヴァントが待機している。
そう――
「アッキーおかえりなさい! 今日の晩御飯は炊き込みご飯よぉ!」
『オネエ口調の2メートル近い美男子』というなんとも形容しがたいサーヴァントが。
■ ■ ■ ■
「んー……ニホンってばいいところよねー。
なんて言ってもご飯がおいしいんだもの!」
炊き込みご飯を嬉しそうによそう成人男子。
召喚された当初は鎧姿だったが、解除している今はまるで普通の青年のようだ。
「……楽しそうだな、君は」
「あら、実際楽しいもの。
いい時代よね。アタシみたいな素人でもちゃんとご飯が作れるんだもの。
インスタントに炊飯器……文明の利器ってばサイコーよね……」
うっとりとした様子で卓上に並んだご飯を眺めるサーヴァント。
だがその直後、「あ」と怒ったポーズをとる。
「もう、命令だから従ったけど、なるべくアタシは連れて歩いてちょうだい!
いくらアッキーが荒事慣れしてるっていってもサーヴァント相手だと分が悪すぎるんだから!」
「それは重々承知しているよ。だが君の"特性"は少々厄介だ。周囲の調査程度なら一人で出歩いたほうがいい」
「……ううっ、それを言われるとアタシ反論しづらいわね……」
痛いところを突かれ、苦笑いを浮かべる青年。
どこか愛嬌のあるその仕草に苦笑いを浮かべる。
「もしもの時は令呪で召喚するさ。君のことを信用してないわけではない」
そもそも信用していないならサーヴァントといえど部屋にいさせるはずもない。
アキラはそういう女だ。
「うーんそこは心配してないけどサーヴァントとしては傍で守ってないと心配って言うか……」
「君なら大丈夫だろう。戦闘時の動きは思わず見ほれてしまうほどに見事な動きだった」
数日前、サーヴァント召喚時に"何者か"の襲撃を受けたのだ。
慣れない魔術儀式に集中していたアキラは危険にさらされたが、魔法陣の中から飛び出した彼によって事なきを得たのだ。
「何せ開口一番『マスターに何しとんじゃボケがァ!』だったか。
あの時はなんとも男らしいサーヴァントだとおもったのだが……」
「やあね! 思い出さないでよ! 恥ずかしいじゃない!」
頬を赤く染めながらくねくねとしなを作る。
どう見てもどこかの二丁目当たりにいそうな挙動で、あの時の面影を見出すことは難しい。
「とはいえ召喚されたのがバーサーカーだと知ったときは驚いたよ。
バーサーカーといえば話の通じない狂戦士だと聞いていたからな」
そう、アキラが召喚したのはバーサーカーのサーヴァント。
理性なき狂戦士の殻(クラス)だ。
だが目の前の男はそうとは思えないほどに饒舌で温厚だ。
「まぁアタシがバーサーカーとして呼ばれているのって宝具のせいだしねー。
"キレると理性をなくし、狂戦士化する"。
"だが何でキレるかは本人にも把握できない"
"しかも落ち着いたらテンション下がって力が抜ける"
あらヤダ、羅列するとホンット厄介よねアタシの宝具……」
彼の持つ第一の宝具、"若き屍を曝せ(モルト・ジューヌ)"。
戦場での逸話を現代に再現する貴き幻想。
彼を狂戦士足らしめている原因は、端的に言えばこの男の宝具にある。
「あーもう、アタシってば昔からそうなのよねー。
キレると後先わかんなくなっちゃって……ケイ卿にも散々皮肉を言われたものだわ」
「サー・ケイ……アーサー王の義兄弟にして円卓の騎士の古株だったか」
「あら、アッキーってば詳しいわね」
「一応調べたからな」
真名は既に彼の口から聞いている。
だから彼がかの有名なアーサー王伝説の騎士だということも知っている。
だが『それだけ』なのだ。
"彼"の演じる役割は伝承によって大きく異なり、何が真実かはわからない。
「……ごめんなさいね」
「何の話だ?」
「もちろんアタシの話よ。
調べたならわかるでしょうけど、彼の王の周りには優秀な騎士たちがいた。
本物の円卓の騎士ならもっと貴女の力になれたかもしれないのに」
どこか力のない笑みを浮かべるバーサーカー。
「貴女が触媒として使ったのは彼の王の居城、白亜のキャメロットの欠片……
確かに最高級の触媒ではあるけれど、アタシみたいな"円卓に数えられぬ騎士"をも呼び出す可能性がある。
これが円卓の欠片なら円卓の騎士が確実に呼び出せたんでしょうけど。
もし円卓の騎士だったら誰が呼び出されたのかしらね。
ガウェイン卿かしら。それともトリスタン卿? ふふ、ランスロット卿だとしたら、美人に弱いからアッキーのためなら張り切りそうね」
彼の口からは他の騎士の名前がよく出てくる。
だが彼は自分自身のことについて、肝心なことは何も語らない。
令呪で真実を告げろと命じることは簡単だろう。
しかし――
「……かまわんさ。それでも」
「え?」
「今のパートナーは他でもない君だ。頼りにしている」
その言葉に偽りはない。
CCGだけではない。アキラ自身もオカルトの領域については素人同然だ。
知識面でも彼に頼る局面も多くなるだろう。
こちらから信用せず信用してもらおうなど虫のいいことを言うつもりはない。
であればいつか彼のほうから話してくれることもあるだろう。
数年前の自分ならこんな考え方は抱かなかったかもしれない。
様々な別れと出会いがあった。その果てに今の真戸暁がいるのだ。
「……ふふ、ありがと。
んもう、そう言われたら騎士の端くれとして頑張らないわけにはいかないじゃない!」
バーサーカーは手を差し出す。
「もう一度名乗っておくわ。
バーサーカー・サグラモール……円卓に数えられない未熟者だけど、マスターのため全力を尽くすわ」
「……ああ、こちらこそよろしく頼む」
差し出された手をしっかりと握る。
大きな手にかつてのパートナーのことを思い返しながら。
「……さ、冷めちゃったら味が落ちちゃうわ。ご飯の続きにしちゃいましょ」
「ああ、いただこう」
食事が再開される。
そのあと会話は少なくなったが、心地よい沈黙だった。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
サグラモール
【出展】
アーサー王伝説
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。
だが一度激高するとマスターの命令を振り切ってしまう。
――つまりキレると手が付けられない。
【保有スキル】
斧を投擲する能力。
命中率を向上させるほか、回避・防御された際に手元に手斧が戻ってくるように仕向ける技術も含む。
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
アーサー王に最後まで付き従ったことだけは確かなようだ。
特殊隠蔽スキル。多種多様な伝承により、真実の姿が覆いかぶさる。
他者が情報を入手しても、真名などに辿り着きづらくする。
Cランクであれば宝具名を聞いたとしてもたどり着くことはほぼ不可能である。
"無辜の怪物"の派生スキルだが、自分の意思で選択している点が大きく異なる。
バーサーカーは伝説において、様々な役割を与えられている。
――ある時はガウェインの友人として精霊の島で望まぬ戦いを繰り広げた。
――ある時は悲嘆の騎士・トリスタンの盟友として彼の死を予言した。
――ある時は
モードレッドの義理の従兄弟として、彼と轡を並べた。
だがそれらについて彼はほとんど語らない。
何が真実か、それは歴史の闇と彼の中だけに埋もれている。
伝承隠蔽からの派生スキル。
"真実が不確定である"という状態を利用し、下記のスキルのいずれかをCランク相当で使用できる。
ただし併用はできない上に戦闘中などの緊急時に付け替えることも不可能である。
皇帝特権とよく似たスキルだが、短時間ではなく長時間使用できること、二つ同時に行使できることが異なる。
(ただし二つ同時使用の場合は習熟度はDランク相当に低下する)
使用可能なスキルは破壊工作、魔術、ルーン魔術、単独行動、騎乗、仕切り直し、軍略、心眼(真)、医術、千里眼、対魔力、魔力放出、気配遮断のいずれか。
【Weapon】
魔力によって編まれた斧。
破壊された場合に限り、再生することができる。
【宝具】
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
バーサーカーがバーサーカーたる所以。
皮肉屋のケイ卿には「若き屍」とさえ言われたキレやすさの顕現。
通常1ランクアップである狂化によるステータスアップを2段階にする。
ただし一定時間経過後宝具の効力は解除され、更にステータスが一定時間ダウンする。
切欠があれば自動的に発動する宝具で、バーサーカー自身にも制御できない。
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:300
コンスタンティノープルに伝わるとされた聖槍の切先。
その一撃を再現することで、疑似的な聖槍抜錨を引き起こす。
結果、瞬間的に聖槍に匹敵するエネルギー量を炸裂させることが可能となる。
"あの方"を一度殺したことによる神性特攻属性、聖なる血を受けたことによる魔性特攻属性を併せ持つ対神代兵装。
使用可能となる条件は以下の二つ。
一つ、スキル"伝承隠蔽"および"伝承偽装"を破棄すること。
二つ、マスターに己の過去を語ること。
――未来を強く望むなら、偽りの仮面をはぎとり、過去を確定させねばならない。
【外見】
2メートル近い身長の美青年。
愛好する色は紫であり、髪の色やルージュの色も統一されている。
言動は完全にオネエだが、狂化時は素が出てしまう模様。
【人物背景】
アーサー王のもとに集った騎士の一人。
だが少なくことも彼の認識では円卓の騎士にカウントされていない。
様々な異名を持ち多くの物語に顔を出すが、時代と共に様々な性格・役割で語られる騎士である。
その伝承に影響され、自身の記憶も不確かなものになっている。
だがその記憶の中でも決して忘れられぬ光景がある。
――モードレッドの一撃を無防備に受ける自分。
――そして相撃ちとなる王と反逆の騎士の姿。
なぜ無防備なまま受けたのか。
その理由は思い出せないが、後悔がある。
躊躇なく反逆の騎士を仕留めていたら、王は助かったのではないか。
……せめて親が■を殺すという悲劇を回避できたのではないだろうか。
【サーヴァントとしての願い】
詳細不明。マスターに従うつもりの模様。
【マスター】
真戸暁@東京喰種:re
【能力・技能】
クインケ[フエグチ]を有し、高い戦闘能力を有する。
また研究者としても優秀であり、クインケの改良案などを提案していた。
【人物背景】
喰種捜査官。
父親である真戸呉緒が殉職したことで、亜門鋼太郎のパートナーとなる。
父親譲りの効率を優先する性格で、簡潔な男言葉を用いるが親しい人間に対しては優しさを見せる。
母性的な優しさも持ち合わせているが、喰種に対しては一切の容赦がない。
reでは語り手である佐々木琲世率いるクインクスの上司として登場。
琲世がクインクスのリーダーとして所属いる時期からの参戦となる。
【マスターとしての願い】
任務の達成。
最終更新:2016年09月23日 04:04