窓の外で降っている雪が、冬木の街並みを白く染めていく。
それを間桐慎二は、暖炉の効いた室内から苛立たし気に眺めていた。
別に雪そのものが、彼の怒りを引き出しているわけではない。
だがそれとは別に、今見る雪の風景が彼に怒り――そして困惑をもたらしているのは、事実だった。
見慣れた冬木の町。だが今のこの街は、間桐慎二の知るソレとは違う。
そもそも慎二のいた"本来の冬木"は、今は冬とはいっても春に入るかどうかの暖かくなってきた頃であり、こうも雪の降る寒さの厳しい頃ではない。
同じ冬木でありながら、記憶とはかけ離れた在り様の町。
これを説明できる事象は一つしかない。
並行世界。魔術師としては半人前を通り越し出来損ない、その資格さえもない慎二にとっては遠く縁のない事象――のはずなのだが。
「……なんで僕がこんな事に巻き込まれてるんだよ。しかも"また"聖杯戦争なんて……!」
疲労困憊――誰が見てもそう思える様子で、間桐慎二は呻いた。
数か月前の彼を知る者であれば、目を剥いて驚くか、あるいは本気で心配するか、そうでなければ自らの目の異常を疑う振る舞いであった。
だが今現在の彼の振る舞いも無理はない。
第五次聖杯戦争。ほんの少し前、冬木の町で行われた魔術儀式。
その中で間桐慎二は、調子に乗った挙句に非常に痛い目に遭った。
平易な言い方をすれば、『鼻っ柱を思いきり叩き折られて』いた。
彼の中にあった魔術師への執着は既にない。普段からの尊大な態度も時折――本当に時折ではあるが――顔を潜めるようになった。
そんな折に――彼はまた聖杯戦争に参加する羽目になった。しかも今度は、冬木によく似た、しかし冬木とは違う並行世界で。
「冗談だろ……クソッ、この聖杯戦争を管理してるヤツは何をしてるんだよ! こんな無差別にさぁ!」
それはある意味では自分にも突き刺さる発言ではあったが。悲惨な聖杯戦争は、完全に間桐慎二の中にトラウマを作っていた。
利用される立場であったとはいえそれまでの暴虐を間桐桜や遠坂凛、あるいは衛宮士郎が彼を許したのも、この消沈した様子あってこそである。
生来の態度の大きさこそ残ってはいるが、実際彼は、幾らか反省さえして、今まで虐げていた桜との関係を改善さえしていた。
それほどまでに彼の運命を変えた出来事である聖杯戦争に、またも放り込まれれば。
現在の間桐慎二の錯乱ぶりは、仕方のないことだった。
「煩い。主君(マスター)、幾ら仮初とはいえ立花の主君であるならばもっと大きく構えて欲しいですね」
そんな彼を叱咤する声がひとつ。
声そのものからも、抜身の刀のような圧迫感。
彼が再び聖杯戦争を戦うマスターとなった以上、その声の主は、従者であるサーヴァント以外ではありえない。
それは、金の髪を腰まで伸ばした女性の姿をしていた。
高い身分を伺わせる和装の着物に、女性としては背高かつ、めりはりのついた身体を包んでいる。
それだけでも、町で一目見かければ意識に残ることは間違いのない外見。
だが最大の特徴は、身体を預けている輿であろう。
現代風に言えば車椅子にも似た形状をした、力者のいない輿に乗った女は、その脚を動かすことはない。否、ぴくりとも、自らの意志では動かない。
間桐慎二のサーヴァントは、脚を不具にした女であった。
「しかしまあ、身の程は弁えていたようで何より。不具の女に襲い掛かるような下種ならば、潰していたところです」
如何にも従者らしからぬ態度だが、それに反抗するような態度は表には出さなかったし、何処をだよ、とも慎二は聞かなかった。
サーヴァントの逆鱗に触れる恐ろしさは、骨身に知っている。
だがそれとは別に、文句の一つも言いたくもなる。
「だから僕は参加したくはなかったんだよ!」
「それがどうしましたか。いくさが何時どこからやってくるかなど、どのような名君でも予測はしきれぬこと。
常在を戦場とし、どのようないくさであっても勇ましく戦う。勇将の下に弱卒無し、兵がつわものでも将が臆病者では無駄死にしましょう」
成る程正論ではある。いくら愚痴を吐こうが、今は現実逃避に過ぎまい。
だが正論だからと言ってその通りに受け入れられるかは別の話であるし、弱音を吐きたい時も人にはあるのだ。
そもそも。
このサーヴァント――奇しくも【ライダー】――の素性も、正直間桐慎二からすれば突っ込みたいところだった。
「そもそもアレだろ!? 立花道雪って男じゃなかったのかよ!?」
「誾と話が混ざったのでしょう。あれも中々の豪胆でしたので」
ライダー、立花道雪。
戦国時代から安土桃山時代にかけて豊後――今の大分県にて生きた武将である。
異名は雷神。これは若い頃、急な夕立によって降ってきた雷を刀によって切り裂いた――という逸話に由来する。
これによって脚を不随にした、と言われるが、そのようなハンデも気にせず戦い抜いた名将として知られる。
三十七の戦を戦い抜きその無類の強さを称えられたのだから凄まじい。
そして、先ほど間桐慎二が言ったように、本来は男性として伝えられる人物である。
本人は、これもまた猛女として知られる、娘の誾千代と話が混じったのだろう、と平然と言うが。
「そのようなことはどうでもよいのです。この地は既に戦場。ならば主君には相応の心構えをしていただきたい。
軍紀を糾し、敵には勇ましく立ち向かう。無論勇ましさだけでは戦には勝てませんが、しかし戦に勝つための心構えの一番とは、軍紀に従い、将と兵が勇ましく戦うことです。
退くにしても、敵に怯え背を向けて逃げるのと反撃のための転進では意味は真逆です」
信賞必罰、公正無私。立花道雪は軍紀に厳しく、また上司にも部下にも厳しかった。
軍紀を破り戦場を逃げ出し家に帰った兵がいれば、それを匿った親ごと殺す。
主君であった大友宗麟が戯れに不道徳を行えば、それに諫言する。
その一方で、戦場の軍紀に関わらぬ場であれば部下には手厚く功労したというが、どうやら本人は、既に戦場の心構えらしい。
聖杯戦争の性質を思えば、間違いではないのだが。
「一たびのいくさ限りの主従なれど、将として忠誠を以て仕えましょう。である以上、貴方にも主君としての勇ましさを持っていただきたい」
ゆえに主にも厳しく、正しくあるように接する。
天才肌ゆえそれを鼻にかけ気難しく、傲慢な面を持つ慎二にしてみれば、苦手なことこの上ないタイプの相手である。
昔の慎二であれば、即座に令呪を行使していたことは間違いない。
いやむしろ、今もそうした考えを持っていないとは言い切れない。その後のしっぺ返しを思えば、流石に実行する気にはなれないが。
それに実際問題、正論ではあること自体が質が悪い。
「わかった、わかりましたよ、ああもう……」
「声に覇気が籠っていないのが気になりますが、第一歩としてはまあいいでしょう。
ではもう一つ。主君(マスター)、あなたの望みはなんですか?」
「……は? 望み?」
つい先ほどまで慎二を叱咤していたライダーの、不意の問いに、慎二は思考を硬直させた。
望み。確かに、聖杯戦争に参加する以上は持っているべきものの筈ではある。万能の願望機を奪い合う戦い、それが聖杯戦争なのだから。
だが、今の慎二はそもそも自分から参加した身ではない。
昔の慎二ならば『自分の力を他人に認めさせること』、『魔術師になること』を願いとするのだろうが、今の慎二が正直に気持ちを言えば魔術師などうんざりだ。関わりたくもない。
桜のこともあるし、そう遠くない内に魔術師としての間桐家を畳むことすら考えていた。
そもそも、祖父であり魔術師としてのマキリの大本である間桐臓硯が聖杯の破壊によってすっかり気力を失った現状では、それ以外に道がないとも言うが。
「戦いとは何かを得るために戦うもの。戦うために戦うのは善き戦士ではあるかもしれませんが、将としては失格でしょう。
欲に目が眩むのは論外ですが、何を得るかは明白にしなければなりません」
「いや、そんな事言われても困るんだけど? そもそも巻き込まれたんだしさあ。
生きて帰れればそれでいいんだよ、僕は」
ライダーの言い分はわからないでもない。
が、慎二からしたら、今の自分が何かを望むことが間違いであるし、失敗への道筋である気がしてならない。
そんなことよりも、生きて帰るのが最優先なのは当然だった。
「主君を生かすは武士として当然のこと。それ以上を求められてこなすのが一流です」
「そう言われても困るんだよ!? つーかなんでそんな自信満々なんだよオマエ!?」
「立花ですので。三十七の戦を経て勝ち残って来た自負は伊達ではありません。
いえ、むしろ、勝ってきた妾が自信のない口ぶりでは、負けた者達を愚弄することになるでしょう。完璧な論理ですね?」
平然と、自らを疑わない様子でライダーは言ってくる。
まさか本気で自らが聖杯戦争で負けることを考えていないというわけでもないだろうが――自信満々なのは、生前からの性分か。
慎二からすれば、本気で理解ができない。もしかすれば、聖杯戦争より前の自分もこんな風に見えていたのか。
だとすれば反省の至りとしか言いようがない。無根拠な自信が見ていてここまで不安になるとは思わなかった。
「ですがそんな立花にも、一つ心残りがあります」
ふ、と。
そんなライダーの顔に、ひとつ翳りが浮かぶ。
つい先ほどまでその自負を語っていた人間とは思えないその様子に、慎二はたじろぎ、言葉の続きを待った。
「立花は生前最後の戦、主君に勝利をもたらすことができませんでした」
立花道雪最後の戦。
高齢を押して出陣した彼女は快進撃を続けたが戦の中で病を発し、陣中にてそのまま没する。
その結果、主君である大友は島津に散々に蹂躙されることとなった。
成る程、道雪本人からしてみれば、口惜しい結果ではあろう。
「であるならば、此度の召喚における主君には、勝利の栄冠を捧げたいのです」
「……そうか」
サーヴァントの持つ未練。
聖杯戦争に参加した理由。
恥ずかしい話ではあるが、間桐慎二は初めてそれと向き合った。
逐一、主君として相応しい振る舞いについて口を挟んでくるのも、主君を思う心ゆえか。
そう思えば、少しは可愛げも――
「それに、此度の主君は宗麟殿を思い出しますので。なかなかの盆暗度合いも含めて」
「オマエいちいち失礼だなホントにさぁ!」
やはり無理だ、と思った。
【クラス】ライダー
【真名】戸次鑑連
【出典】日本・戦国時代
【性別】女性
【属性】
秩序・中庸
【身長・体重】
172cm・66kg(立った場合)
【パラメーター】
通常時
筋力C 耐久D 敏捷A- 魔力D 幸運C 宝具A
宝具『千鳥・雷切の太刀』解放時
筋力B 耐久C 敏捷A+ 魔力C 幸運C 宝具A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
雷神の一撃に打たれても下半身不随となりながらも生き残った、という逸話から比較的近代の英霊でありながら対魔力は高い。
騎乗:C-
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、 野獣ランクの獣は乗りこなせない。
ライダーの場合半身不随であるため、自らの宝具である輿以外を乗りこなす判定にはマイナス補正がかかる。
【保有スキル】
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
若き日に雷を切り裂き、彼女の命を永らえさせた直感。
忠臣の諫言:C
生前の主であった大友宗麟は放蕩三昧であったが、ライダーは彼の放蕩に逐一説教し、諫言した。
その逸話から来る、自らのマスターへの諫言により過った行動を思いとどまらせるスキル。
自らのマスターが何らかの判定(基本的には行動選択など)をファンブル(致命的失敗)した場合、その判定をやり直させることができる。
不随の身体:C
マイナススキル。雷撃を受けた際の後遺症。
サーヴァントは全盛期の様子で召喚されるのが通例ではあるが、彼女は全盛期の解釈や下半身不随の逸話が関係し下半身が不随の身体で召喚されている。
(説によっては不随になったのは左脚とも言われているが、少なくともこのライダーは両脚を動かすことができない)
敏捷にマイナス補正をかける。上半身と反応速度は敏捷A相当ではあるが、脚が動かないため実際の値は敏捷Aよりも低くなっている。このためライダーは常に宝具『定衆』に騎乗している。
宝具『千鳥・雷切の太刀』解放時は一時的に無効化される。
セイバーで召喚された場合は『雷を切った全盛期』として召喚されるため、このスキルは外れている。
【宝具】
『定衆』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-人
ライダーとしての騎乗物であり、半身を不随とした彼女が戦場にて乗っていた輿。
もう一つの宝具である『千鳥・雷切の太刀』を動力としており、雷の軌跡を残し空中を走る。
速度はあるが高度はリニアモーターカーのように地面から1m~2m程度浮くのが限度であり、高空飛行はできない。
一応雷を纏ったままの体当たりで攻撃も可能である。
『千鳥・雷切の太刀』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:0~30(雷撃のもの) 最大補足:30人(雷撃のもの)
ライダーが雷、ひいては雷神を斬り捨てたとされる太刀。……この太刀には、斬り捨てた雷神が宿っている。
真名を解放した場合その秘められた雷神を解放し、雷を刀身とライダーの身体に漲らせ強化する。
雷を操ることにより太刀のレンジを飛躍的に向上させ、ライダーの幸運以外のパラメーターは全て1ランク上昇し、さらにスキル【不随の身体】を真名解放中無効化する。
この状態のライダーは疑似的な神降ろしの状態にあり、最高速度は雷速に達する。
もうひとつの宝具である『定衆』の動力でもあるため、この宝具の真名を解放している間は『定衆』は使用不能となる。
【weapon】
『火縄銃』
ライダーが輿に乗る際に自らの傍に置いていたという火縄銃。
これにも雷を宿らせることが可能で、その場合銃弾は雷弾となり敵を襲う。
【人物背景】
戦国時代の豊後大友家家臣。『立花道雪』の名で知られる。
その名でわかるように『西国無双』で知られる立花宗茂の義父であり、彼に劣らぬ戦歴を持つ。
三十七の戦で活躍し、『雷神』あるいは『鬼道雪』の異名で畏怖された。
若い頃に半身不随になったとされる。炎天下の日、大木の下で涼んで昼寝をしていた道雪だが、その時急な夕立で雷が落ちる。
直感的に道雪は千鳥の太刀を抜き、雷を斬って生き延びた。
後遺症により道雪の足は不具になったが、勇力に勝っていたので、常の者・達者な人より戦いに優れていたと言われる。
秋月氏との合戦では半身不随にも関わらず「自ら太刀を振るい、武者7人を斬り倒した」という記録もあるが、これは『千鳥・雷切の太刀』によって行ったもの。
人格は義に篤い武人。一度主と仰げば、相手を裏切るようなことはない。
その代わり同義にもとる行いは見逃さず、軍紀や義を侵すような振る舞いには非常に厳しい。
鉄の女。
配下をよく労い、身内への配慮を欠かさなかったとも言われているが、その配慮は時たま遠慮がない。
【特徴】
日本人らしからぬ金髪。どうやら雷を受けた影響らしい。背が高く、均整の取れた肉体美を持つ。
普段は着物と陣羽織の姿であるが、戦闘時は鎧を纏う。
また、車椅子に装甲をつけたような形状の輿である『定衆』に常に乗っている。
秀麗な女性ではあるが、色ボケとして知られた大友宗麟に仕えて手出しされなかったあたり内面は推して知るべし。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。
願わくば、主に勝利を。
【マスター】
間桐慎二@Fate/Stay Night [Unlimited Blade Works]
【能力・技能】
魔術への知識。
また、心臓がイリヤスフィール・アインツベルンのものであるため魔力が一応ある……かもしれない。
【人物背景】
Fate/Stay Night [Unlimited Blade Works]終了後の間桐慎二。
聖杯戦争を生き残った結果、『憑き物が落ちたかのように穏やかになり、桜とも良い関係を築けるようになった』らしい。
ただし性根が自己中心的かつ愉快で困った人なので態度は割と大きい。
桜との関係が改善している程度には毒気は抜けたが、完全に改心したかと言われると難しい。
気難しく、口うるさく、人並み以上に頭の回転がいい、困った人。
聖杯戦争中の行いは反省している……模様。そのあたりで、今回の聖杯戦争には非常に乗り気ではない。
【マスターとしての願い】
ねーよもう!
最終更新:2016年09月23日 07:50