まず感じたのは眩しいという感覚。
次に目に映る赤色混じりの世界の光景。
盲目の男は確かに世界を目にしていた。
そして次は声。如何なる奇蹟か男は嘆きを聞いた。
我が子死なせたと己の無力を嘆く声を今、この時この瞬間のみ聞こえたのだ。
次に感じたのは手の感覚。握りしめた槍が生物の肉体を貫き臓物を抉る時と同じ感覚だ。
男は槍を握っていた。
その手は柄から伝っていた赤色の液体で濡れていた。
更に視界を穂先へ移すと穂先の刃はある男の脇腹を抉っていた。
その男は神の子を自称していた。
故に捕らえられ、ローマに売り渡されて磔刑に処せられたのだ。
しかし、盲目の……盲目だった男はこの瞬間。遺体に残っていた僅かな血液ですら盲目を癒す奇蹟を宿していたことで理解した。
────ああ、この方は本当に神の子であったのだ。
* * *
「俺は罪を犯した」
「ほぅ、如何様な罪を犯したのだ?」
ピカと雷光が暗い部屋を刹那の間照らす。
そこには男が二人いた。どちらもガタイがよく強面だが、一人は数珠を持ち、もう一人は槍を持っていた。
「あのゴルゴタの丘で、真の神の子を処刑したのだ。
その玉体を我が槍が突き刺し、血を噴き出させ辱めたのだ」
「ほう。もしやそなた、名をロンギヌスというのではないか」
「ロンギヌス。ああ、そんな名前だったな。昔は別の名だったんだが、ロンギヌスと洗礼を受けてからはそう呼ばれている」
聖人ロンギヌス。その名はキリスト世界において重要な名前の一つだ。
それは神の子────すなわちイエス・キリストを殺した者。
「ならば聖ロンギヌス、いやランサーよ。汝の願いは贖罪か」
「否、それは自力で為すべきことであり、奇蹟を起こしてすることではない」
「ならば何を願うのだ」
「聖杯に望む願いなど無い。強いていうならばその聖杯が本物であることだ」
「本物の聖杯が望みだと」
「そうだ。俺は磔の後、改宗して主の復活を待った。待って待って待ち続けて、そうする間に100年が過ぎ────」
「待て、100年だと。確か汝はカッパドキアにて斬首されたのではないのか」
「されたとも。されたが死ななかった。いや、あの場合死ぬわけにいかなかった。
神子が蘇るまで、あの方に謝るまで死ねぬ一念で生き延びたのだ
だが、待っても復活は起きず。故に俺はこう考えた。
あの処刑の日に神子の血が聖杯に注がれた。その血を全て天地に返還せぬ間は復活できないのではないかと」
イエスの血液を受け止めた聖杯。
それは『最後の晩餐』で使われた聖餐杯ではなく血液を直に受け止め保存したことで聖遺物となったものだ。
「そして俺は行動に出た。聖杯を求めて数多の使徒の下を訪れ、聖杯の在処を探し続けたというわけだ」
* * *
男は語る。
贖罪をするための試練は往々にして艱難辛苦だった。
手掛かり一つ無い上に道中で異端審問官。聖槍を狙う賊。神子を殺した俺から聖遺物を守ろうとする同じキリスト教徒と戦った。
無論、人だけではない。一世紀。未だ神秘の残っていた時代であるゆえ幻獣・魔獣とも戦い続けた。
何度も致命傷を負いながらも神子の血によって超人化していた俺は生き延びた。
そしてかの地ブリテンのカーボネックという地にある聖杯を見つけた。
「これは────本物だ」
遂に見つけたと喜ぶロンギヌス。だが、それも束の間。膝から崩れ落ちてしまう。
「なっ、がはっ! クソ!」
その時既にロンギヌスの肉体は限界が来ていた。
当然といえば当然だろう。人間であれば百は絶命していただろう旅路を駆け抜けたのだ。正しく奇跡だといっていい。
聖杯を見つけてもそれをゴルゴタへ持ち帰ることはもはや不可能だった。
────ふざけるな! ここまで来て、諦めきれるか!!
俺は償うのだ! 贖うのだ! 謝るのだ!!
そのために待ち続けたのだ。そのためにここまでやってきたのだ。
這いずりながら聖杯へ手を伸ばす。しかし、その手は届かない。
薄れゆく意識。死神の足音が近付いてくる。その時だ。どこからか声がした。
いつぞやの嘆く神の声ではなくもっと別の声だった。
声が告げる。汝の望みを叶える機会を設ける。その代わり、死後を貰いうけたいと。
是非もなし。
俺の死後をくれてやる。
だから聖杯を掴む機会に喚んでくれ。
ここに契約は為る。
その後、ロンギヌスの姿を見た者はなく、聖杯城カーボネックにロンギヌスの槍が置かれることとなった。
* * *
「つまり汝の最終目的はキリストの復活か」
「そうだ。だからマスター。お前が聖杯戦争を下りるならば、誰かに令呪を渡してくれ」
さもなくば殺すとその目が告げていた。
枯れ果て、されど鬼気迫る執念を宿した男の目だった。
並の神経ならば気絶してしまうだろう眼光に数珠を持った男は豪笑をもって応える。
「愚問なり。是非もなし。この臥藤門司に迷いなし。
もし汝がキリストを復活させると言うならば、かの者と禅問答をする機会を得られるというわけだ。
これほどの好機逃すわけにはいくまい!
我がサーヴァント・ランサー、ロンギヌスよ。いざ行かん! 目指すは全戦全勝なりィ!!」
ノリノリだった。
かくして求道僧と聖人は聖杯戦争に加わる。その先に何が待ち受けるかを彼らはまだ知らない。
【サーヴァント】
【クラス】
ランサー
【真名】
ロンギヌス
【出典】
新約聖書、ピラト外伝
【属性】
秩序・善
【パラメーター】
筋力:C 耐久:A 敏捷:D 魔力:D 幸運:A 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を無効化する。
現代の魔術ではロンギヌスを傷つけることはできない。
【保有スキル】
聖人:C
聖人として認定された者であることを表す。
秘蹟の効果上昇、HPの自動回復、カリスマ1ランクアップ、聖骸布の作成が可能のいずれかを選択し、獲得する。
ロンギヌスは持っている秘蹟(やり)は毛嫌いしているし、カリスマは聖人になってからあまり興味ない。
聖骸布? あの方の遺体を包んだ襤褸切れがどうしたという……といった感じに消去法でHPの自動回復を選択している。
処刑人:C
ゴルゴタの丘の処刑人。
相手が人間、かつ属性が悪のものに対するダメージが向上する。
また対象の行為が悪と認定されたときも同様。たとえそれが、真の神の子の御業だとしても。
千里眼:A+:
神の子の血を浴びたことにより神の子と同じ視点を持った。
物理的な遠距離の視認のほか、数秒内の未来予知、相手の属性を見極めることが可能。
また盲目神ヘズとの習合により視界不良時でも視野に補正が入る。
神子の血:EX
ブラッド・オブ・ミサ。
神の子の血液が体内に混入したことにより「死」や「傷」の概念が薄くなり、ダメージを負いにくくなっている。
単純な頑丈さや耐久力の高さではなく、ダメージとして換算される傷が人間でいう致命傷に該当するものばかりということ。
ロンギヌスはカッパドキアにて裁判官に歯と舌を抜かれたにも関わらず、普通に喋れたという。
【宝具】
『大聖釘』(レリック・オブ・ネイル)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1名
神の子を殺害するのに使われた槍。その聖なる釘としての機能。
その血液を浴びたことにより「世界を征する神槍」へと変貌した。
所有者に「天啓」、「カリスマ」を与え、幸運のパラメーターを大幅に上昇させる。
また持ち主に応じて様々な追加効果を与える。ただし属性が善でないものは手放した際に『嘆きの一撃』呼ばれる天罰が下る。
『我が罪は此処に在りて』(ゴルゴタヒルズ・ロンギヌス)
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:10 最大捕捉:1名
神の子を殺害するのに使われた槍。神をも殺しうる槍としての機能。
対象を磔にして行動をすべて無効化した後に行われる神殺処刑。
神の子が天啓や加護を持っているにも関わらず処刑された逸話の再現として、
処刑の際、対象の持つ鎧、天性の肉体、あるいは加護や盾などのあらゆる神秘、あらゆる防御効果を「持っているけど発動しないもの」に変える。
槍の殺傷力は神性が高いほど増すが、粛清防御値が高いほど減る。
『審判は来たれり、怒りの日を此処に』(ディエス・イレ・ディエス・イラ)
ランク:A++ 種別:対人理→対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:1名
ゴルゴタの丘で処刑された神の子は人類が受けるすべての罪を一身に受けたことで救いをもたらしたとされている。
故に、ロンギヌスの槍の一撃は「全人類を裁く神の粛清」を断片的に出力できる。
槍の穂先から怒りの日に生み出される破壊の光を出力し、進行方向のものを粛正・灰燼に帰す。
キリスト教における全人類を裁く終末とは「怒りの日」と呼ばれ、人類史を強制終了させる終末とされる。
その際に清らかな人々を千年王国に保管し、それ以外の者を殲滅する天罰が下される。
この槍がもしも完全解放される際は神の忍耐が切れて振るわれる憤怒の兵器となり、対人理宝具として機能する。
余談であるが、ロンギヌスの槍と全く似ていないにも関わらず同一視されるロンゴミニアドと呼ばれる槍が存在する。
この槍の化身はとある人類史の特異点にて善人のみを理想都市に隔離、他の全人類を焼き払うというまさに怒りの日を決行しようとしていた。
これらが同一視されるのはこういった似通った属性を有するからかもしれない。
【weapon】
ロンギヌスの槍
【人物背景】
キリストを殺したローマの百兵卒長。
当時盲目であった彼はキリストの血液を浴びたことで目が見えるようになり、刺した槍は後に聖遺物の一つとなる。
真の奇跡を受けた彼は感銘し、そのあとキリスト教に改宗、聖ロンギヌスと呼ばれる。
カッパドキアにて28年間ほど宗教活動を続けるも捕らえられ処刑された。
……とされるが実は生きていた。
その後、キリストの復活を待ち続けるも復活の日が訪れない彼はキリストが復活できない原因はあの日、血を抜いたことにあると考え、血を入れた器……すなわち聖杯を求める。
その途中で異端審問官や聖遺物を守ろうとする教徒、聖槍を奪おうとする賊と闘い続け、あまたの聖杯もどきを手にするも目当てのものは見つからなかった。
最後に訪れた地、聖杯城カーボネックにて真の聖杯を発見するも半不死肉体に限界が突きてしまう。
その際、「聖杯を持ち帰りキリストの復活を行う儀式に参加したい」という願いを聖杯は聞き入れ英霊の座に登録された。
その後の槍の方は「手にした者は世界を征する」とされ、多くの教徒、権力者が血眼になって探した。
聖モーリス、ペトルス・バルトロメオ、皇帝シャルルマーニュ、アドルフ・ヒトラー、アーサー王伝説ではベンガルとギャラハットが所持した。
【サーヴァントとしての願い】
処刑時に使われた聖杯を回収する。
亜種ならばいらんが、次の聖杯戦争に呼ばれるように願ってみるか
【マスター】
ガトー(臥藤 門司)
【出典】
FATE/EXTRAシリーズ
【マスターとしての願い】
ロンギヌスが蘇らせるというキリストに会ってみたい。
【weapon】
なし
【能力・技能】
悟り
【人物背景】
数多の宗教を学び、あらゆる神学を走り抜けたスーパー求道僧。
性格は強引、不屈、単純、そして話を聞かない。どこのイーノックだ。
三度の飯より戦いが好きだが殺人趣味はなく、単に戦いに勝つという真理を体現するのが好きなのである。
強引で話を聞かず好戦的な暴走機関車を思わせる人物であるが、実は阿羅漢の域に達する悟りを得ており、ムーンセルから優秀な人材として招かれていた。
ヒマラヤの山頂にあったのは「原始の女」・・・・・・じゃなく聖愴の欠片であった。
霊的インスピレーションをさらに鍛えようと持ち帰ればあら不思議、触媒からランサーが召喚されて冬木に行けと言われる。
ガトー的には万能の願望器なんてどうでもいいが、キリストの復活と聞いてはいかないわけにはいかない。是非、キリストと禅問答と参加する。
【方針】
戦って! 勝つ!! のみ!!!
最終更新:2016年09月24日 23:23