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エンヤ婆&ランサー

地に足がついた今、大賢者からの見張りは届かない。
ならば、成すべきことは唯一つ。





深夜。丑三つ時に差し掛かった頃。
冬木市の郊外から離れた一角にある煤けた西洋館を、禍々しき歌が震わせていた。

「……閉じよ(みたせ)……閉じよ(みたせ)……閉じよ(みたせ)……閉じよ(みたせ)……閉じよ(みたせ)」

歌うのもまた、禍々しき者。
幽霊屋敷と見間違う程に古惚けた館の一室にて詠唱を行うのは、『両腕が右手』の老婆であった。
黴た蝋燭を灯りとし、用途の知れぬ骨董品を周囲に並べられたその部屋では、
床には怪しげに光を放つ魔法陣が描かれ、その側には『ある“節足動物”の化石』が意味ありげに置かれている。
現実から乖離された空間。それはまるで魔女の部屋。

「繰り返すつどに五度……ただ、満たされる刻を破却する……」

老婆の名はエンヤ・ガイル。通称、エンヤ婆。
数十年前のパキスタンにて命を散らした彼女は、どういう訳か現代の日本ーー冬木市にいた。

「告げる……汝の身は我が下に……我が命運は汝の剣に……聖杯の寄るべに従い……この意……この理に従うならば応えよ……」

彼女が行うのは、願望器ーー『聖杯』を掛けて魔術師達が挑む『戦争』への下準備。そう、英霊(サーヴァント)の召喚の儀式である。
老婆が願望器を求む理由。
全ては彼女が嘗て絶対の忠誠を誓い、己の全てを捧げた『あの方』の為。
例え、『あの方』ーーDIOから己に投げかけられた信頼の言葉が全て偽りであったと知っても、老婆の忠義が涸れることはなかった。
寧ろ、突き離されたが故にエンヤ婆は、DIOの為に死力を尽くすことによって己の存在を認められることを渇望していた。
忠義を超えた、『狂信』である。

「誓いを……此処に!我は常世総ての善と成る者ッ!……我は常世総ての悪を敷く者ッ!」

嗄れた声は次第に怒声を浴びせるかの如く鋭くなり、儀式が最終段階(ラストスパート)に入ったことを知らせる。

「汝三大の言霊を纏う七天ッ!、抑止の輪より来たれッ!」

変化はその時から起こった。
鬼の形相で詠唱を続ける老婆の、その前方にある召喚陣。
それが、大宇宙の星々の光が一点に集束しかのように、輝きを増し始めたのである。

「天秤の守り手よォォォォ、クケェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーッ!!!!!!!!!」

エンヤ婆が天を仰ぐように両右手を頭上へと伸ばし雄叫びを上げたのと、周囲が閃光に包まれたのは、ほぼ同時であった。
次に、爆破と見紛う衝撃が円陣を中心に広がり、辺りの埃巻き上げ、エンヤ婆の身体を揺らした。
眩い光に思わず目を背け、身体をふらつかせるエンヤ婆だが、儀式の結果を見定めんとすぐさま陣の方へと目を凝らす。

光の先には、一人の男の影があった。

「召喚の招きに従い参上した」

網膜を焼くような閃光は次第に弱まっていき、輪郭程度しか認識できなかった男の姿が鮮明になっていく。
そこにいたのは、肌の黒い男。
生物の一部を思わす毒々しき槍を携えた、一人の槍兵(ランサー)が佇んでいた。
その一級の人体彫刻を模したような引き締まった肉体は、偽りなく兵士の肉体。
だが、兵と呼ぶのは痴がましいという程に、男は気品にも満ちている。
眼光はこの世の全てを見定めるかの如くに鋭く、身に纏うものは骨董に目の肥えた老婆からしても一級品。
なにより彼の立ち姿からは、言葉とは裏腹に、何物であろうとも己を『従わせる』ことはないと、向かい合う者の脳髄に叩き込んでくるかの如き傲慢さが溢れ出ている。

「お前が私のマスターか」

正しく、『王』がそこに立っていたのである。




ランサーの存在を確認したエンヤ婆は儀式の成功に歓喜の声を挙げかけたが、すんでのところで衝動を抑え込む。
目の前の英霊に対し生半可な態度を取っては、命を落としかねないということをエンヤ婆は知っている。
そして、微風が吹けば倒れてしまいそうなヨボつく足取りで男の方へと近づくと、老婆は深々と頭を下げた。

「如何にも、名はエンヤ・ガイルと申します。そして『王』。よくぞわしの呼び声に応えてくださりました……」
「エンヤか。今宵から我々は同じを願望器を求む同士。そう一層に腰を折る必要はない。老体に悪いぞ」

対して『王』と呼ばれたランサーは頭を上げるよう、老婆に微笑み、穏やかに諭した。
その言葉に甘え、エンヤ婆は姿勢を崩して見せるーーーが、内心では依然として自らのサーヴァントへの警戒を解くことはない。
そしてランサーは、神の教えを説く神父のような微笑を浮かべながら、言葉を放つ。

「然し、英霊として召喚されたが為に格は堕ちたものの、この身は神と称われ崇められた身。……聞いておこうかエンヤ、まさか私を只で使ってやろうという気では或るまいな?」

直後、エンヤ婆に猛烈な悪寒が走った。
脊髄を抉り掴まれるのにも似た感覚に、老婆の顔から血の気が失せる。
ランサーから放たれる強烈な“圧”(プレッシャー)に老婆は、嘗ての己の主君のそれを思い出した。
下手にこのサーヴァントの気を損なわせれば、命の保証はないだろう。

「め、滅相もないですじゃ!確かにわしが貴方様をお呼びしたのは私欲であり、この聖杯戦争の絶対的勝利の為。……しかし!貴方様からの恩に報うことを欠かすつもりは断じてありませぬ!」

そう言うとエンヤ婆は部屋の隅に無造作に置かれたふたつの物体へと顔を向けた。
そこにはーーーどういう事かだろうか。OL風の若い二人の女性が倒れ込んでいるではないか。
眠っているのか、気絶しているのか、はたまた、死んでいるのか、彼女達が起き上がる様子はない。
そして老婆は、何処か下劣な笑みを浮かべながら、ランサーへ何かを促すような視線を送る。

彼女達はいわば『贄』である。

罪無き人間を攫い、己のサーヴァントに献上する。百人の英霊の百人が顔を顰めるであろうその行為。
それに対し、ランサーはーーーー

「女が二人か。まぁ、魔力の足しにはなるだろう」

ーーー善しと見なした。

実の所それも当然であり、何故ならこの男にはとある残虐的逸話が残っている。
遥か昔のある文明では、人供犠牲の文化が根付いていたとされており、その文化の発端にはこの『王』が密接に関わっていたのではないか、と後世に伝えられている。
端的に言えば、ランサーはその時代、その国で、『王(神)』への貢物として、民に人命を捧げさせていたのだ。
嗚呼、だがこの男。人を人とも思わぬこの様を、悪魔以外に何と呼ぼうか。

「では、『王』の前に向かわすよう叩き起こしますので暫しお待ちを……」
「いや、それには及ばないよ。エンヤ」

女達へと歩き出そうとするエンヤ婆を、ランサーは右手を挙げて静止させる。
そして、合図でもするかのようにその手を目元まで持ち上げた。

ーーーカサカサ。

瞬間、風が落ち葉を転がすような音がエンヤ婆の耳をくすぐった。
音は、後方の扉の向こう側ーー館の廊下に位置する地点から。当然老婆は、音の発生源を確認する為に振り向く。
老婆の網膜が捉えたのは、影。半開きの扉の向こうで、確かに何かが潜んでいた。
すると下手糞なチェロのような音をたてて、扉が開いた。

ーーーカサカサカサカサ。

影は部屋の蝋燭の灯りに照らされる事で正体を現す。

それは、小さな死神の集合体。
その死神は鎌を持たない。
代わりに甲殻類を思わせる鋏を前に突き出し、
長い尾に毒針を仕込む。
その毒で数々の英雄を死に至らせたのは余りにも有名であり、
その功績を神々に讃えられ天にも昇った。
或らゆる国々で恐れられてきた、死と暴力の象徴。

その死神の名はーーー蠍(スコルピオン)。

軍隊蟻の如く蠢き、女二人へと集る無数の蠍。
エンヤ婆は、それがランサーの宝具または能力の一つであることも理解する。
『彼の名』を知る者であれば、誰もがそう判断するであろうことだった。

その刹那、彼女の鼓膜を湿り気のある音が震わせた。
人間が啄まれる音だった。蠍による魂喰いである。
女達の悲鳴はない。無数の蠍の毒によって叫ぶ間もなく命を絶ったのだろう。それだけが、彼女達の幸運である。
無数の蠍が群がり、肉を割き、血を啜り、肉を撒き散らす。
それは全身を鑢で削る感覚にも似ていたに違いない。
二つの死体は十も数えぬうちに人の形をした肉塊へと変貌していき、骨まで露わになっている。
昆虫類が群がる光景というのは唯でさえ嫌悪感に訴えかけて来るが、目の前の血味泥の肉塊を交えたそれは、年増のいかぬ娘が見れば発狂に至るでものであろう。
流石のエンヤ婆もその壮絶な光景には大いに面を喰らっていた。

その一方で、この状況を創り上げた張本人であるランサーは、見慣れた景色でも眺めるかのような表情でそれを見ている。
自らの私利私欲で人の命を奪った上で、その体が無残に破壊される様を見ようが、眉一つとして動じる様子はない。
その姿、老婆が慕った『帝王』と瓜二つ。

ある者は彼を『英雄(メネス)』と呼び、

ある者は彼を『荒れ狂う響神(ナルメル)』と呼び、

そしてある者は彼を、


『蠍王(スコルピオンキング)』


ーーーと、呼んだ。


ランサーの正体は、初代エジプト王朝にて民を束ねた、始原のファラオ。

そして王権の基盤を創り、贄の文化を築いた、始原の暴君である。




「私の配下の蠍を、この街の全域に拡散させている」

暫くして、ランサーはエンヤ婆に顔を向け、呟くように言葉を溢した。

「しかし、これから幕を開けるのは万象の強豪が集う聖杯戦争。其の供えとしては、少々、心許ない。せめて人手が欲しい所だが……手立てはあるか、エンヤ?」

まるで自らのマスターを試すような問い掛けに、エンヤ婆はようやく我に返る。
そして先程までの動揺を取り繕うように、口角を吊り上げ、不気味な笑みを返した。

「心配はござりませぬ」

瞬間、シャンパンの栓を抜いたかのような小気味の良い音が部屋に響いた。
異変が起きたのは蠍の餌食となっている死体の一つ。その脛辺りに、突如としてゴルフボール程の穴が空いたのだ。

ぴくり、と死体が痙攣した。
ひとりでに、首が持ち上がる。

生命機能を失った筈の死体が、さながらゾンビの如く起き上がろうとし始めていたのだ。
その何とも不可思議な光景を、ランサーは興味深げに眺める。

肌という肌をズタボロの雑巾のようになるまで啄ばまれ、
筋肉という筋肉を痛々しく引き裂かれ、
所々白い骨を露出したリビングデッドは、
赤き血を滴らせながら、
今尚蠍に肉を喰われつつも、
立ち上がり、
膝をつき、
そして、

蠍王に向かってぎこちなく首(こうべ)を垂れた。

「わしのスタンドーー『正義(ジャスティス)』は、きっと貴方様を満足させる筈ですじゃ」

なんと趣味の悪い返答だろうか。
吐き気を催すような趣向に蠍王は思わず嗤った。


【クラス】ランサー
【真名】スコルピオン王(初代ファラオ)
【出典】エジプト第1王朝時代、(ギリシャ神話)
【マスター】エンヤ・ガイル
【性別】男性
【身長・体重】180cm・80kg
【属性】混沌・悪

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷B+ 魔力A 幸運B 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。

【固有スキル】
カリスマ:A
 大軍団を指揮する天性の才能。
 Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
 古代エジプト王朝の創始者であるランサーは高いランクを有する。

女神の加護(蠍):A
 蠍の女神であるセルケトからの加護。
 これによりランサーは千をも超える蠍を自在に使役する事ができる。

皇帝特権:B
 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
 該当するスキルは騎乗、槍術、芸術、軍略、単独行動、気配遮断のみとする。

神性:E
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
 太陽神の化身にしてファラオの始祖たるランサーは、本来なら破格のランクを持つ。
 しかしランサーとして呼び出された結果、蠍の王(スコルピオンキング)としての側面が強調された為、ランクが大幅に下がっている。

【宝具】
『万象が恐れた尾節の毒(シャウラ・アルマウト)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補促:1人
 神話、物語の中の“蠍の概念”が具現化した邪槍。見た目はぴんと張った蠍の尾の様な形状をしている。
 この槍に突き刺された者は神秘の籠った毒に体を蝕まれ、最終的には毒が霊核に達する。
 これはCランク以上の対魔力で対抗することができるが、ポセイドンの息子であるオリオンを毒殺したという逸話により、“神性スキルを持つ者”に対しては対魔力をスリーランクダウンさせる上に追加ダメージが加わる。
 また、アポロンの息子であるパエートンが、乗馬中に馬を蠍に刺された事によって落馬して死亡したという逸話から、“馬などの哺乳類に騎乗する者”と対峙した時、騎乗元の生物に毒を食らわせた場合には高確率で即死させることができ、尚且つ乗り手が落馬した際のダメージも通常の倍となる。

『王もまた天に昇る(リジル・アルジャウザ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補促:-
 古代エジプトでは、夜空に浮かぶオリオン座を「死せるオシリスが天空へと昇った姿」であると考え、重要視していた。
 これが何を意味するのかと言うと、オシリスの生き写しとされるファラオは、「蠍の毒によって死に至りやがて天へと昇った英雄オリオン」の側面も持つという事であり、つまり、宝具『万象が恐れた尾節の毒』による冥府への導きはランサーもまた対象に加わっているのである。
 故に、もしランサーが『万象が恐れた尾節の毒』によって毒に侵された場合、令呪による回毒でもしない限り3ターン後には霊核が毒に蝕まれ死亡する。
 しかし、それは言わば英雄オリオンの逸話をその身で体現するということでもある為、毒に身体を蝕まれる間ランサーは神霊ーーオリオン/オシリスの力をその身に宿すことができる。
 その場合、スキル「神性」のランクがA+にまで上昇し、スキル「戦闘続行」のA+を獲得、更に全てのステータスがA+となる。
 当然だが、ランサーは令呪で強制でもしない限りこれを使おうとしない。

【Weapon】
『蠍』
 ランサーが使役する蠍の軍団。
 数は多いが単体の毒では人一人殺すのも厳しく、神秘の存在に対しては殆どダメージを与えることができない。

【解説】
 紀元前32世紀にて上エジプトと下エジプトを統一し、エジプト第1王朝を創設した初代ファラオである。
 その時代、統治の実権を王に委ねる君主制、王の贅沢な生活様式、といった王権の基盤を創り上げた。
 一説には、エジプト王朝にて贄の風習を最初に始めた暴虐の王であるとの声も存在する。
 武術においての逸話は明るくないものの、武器を片手に戦場を駆ける姿を描いたものがいくつか残されている。
 この一人目のファラオについては蠍の王とは別に、ナルメル、メネスと幾つか候補が居るとの声もあるが、実の所それらは全て同じ人間を指した名称である。

 普段の物腰は穏やかではあるが、腹の底のプライドの高さはやはり某英雄王、某神王並み。
 それでいて、彼等が有する“王故の他者への慈悲”などは欠片もない生粋の暴君である。
 弱点はカバ。

【特徴】
 外見は二十後半の色黒の男。
 端正な顔立ちに、長い黒髪を後ろで三つ編みっぽい感じで一房に束ねている。(烈海王みたいなアレ)
 着飾るものは『王』の一文字に相応しい一級品のもの。
 基本軽装という冬に入った日本ではミスマッチの格好だが、彼の鍛え抜かれた筋肉を見て肌寒さを感じる者はいないだろう。

【サーヴァントとしての願い】
 もう一度エジプトを支配する。


【マスター】
エンヤ・ガイル@ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース

【能力・技能】
スタンド『ジャスティス』:
破壊力D スピードE 射程距離A 持続力A 精密動作性E 成長性E
 霧状のスタンド。傷口にスタンドを通すことで生物を自在に操る事ができる。
 幻覚を見せることも可能。

執念:
 こと執念に関してはジョースター一族やDIOにも引けを取らないであろう。
 復讐の怒りのままにジョースター一向抹殺に向かった際、町一つ分の地域をスタンドで覆い、陸上選手並みの脚力を見せた。

【人物背景】
 両手が右手の老婆。
 DIOの側近のスタンド使いであり、スタンドの矢の所持者でもあった。
 殺された息子の復讐の為にジョースター一向の抹殺に向かったが、あえなく敗北。
 最期は鋼入りのダンによって口封じの為に殺害される。
 今回の聖杯戦争では死亡後からの参戦であるため肉の芽は埋め込まれていないが、未だDIOへの忠誠心は衰えていない模様。

【マスターとしての願い】
 全てはDIO様の為。

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最終更新:2016年09月24日 23:25