橘ありす&キャスター

夕暮れの町を一人の少女が歩く。
年の頃にして10代の頭といったところだろうか、友人らしき同年代の子供達と別れ、少女は彼女の自宅らしきマンションへと入り、エレベーターに乗り込む。
5階のボタンを押し、エレベーターの扉が閉まる。それと同時に彼女しか生物のいない筈のエレベーターに猫の声が響いた。
その不気味な現象に直面し、少女はピクリと微かに硬直を見せるが特に怯えた様子も見せず、些か不機嫌そうな面持ちで口を開いた。

「もう驚きませんよ」
「にしししし、それはざぁんねん。つれないなぁ、こっちのアリスは」
「橘です。名前で呼ばないでください」

少女、橘ありすが正体不明の声の主に自身の呼称の訂正を求めるのと、目的の階についたエレベーターが開くのは同時。
電子音を鳴らしながら開く扉から廊下に出ると、いつの間にか彼女の横に一匹の猫がちょこんと座っていた。
極彩色の縞模様に耳から耳まで届くようなにやけた笑顔を浮かべる、奇妙な風体の猫。これが先ほどエレベーターでありすに声をかけた主だった。
ありすは、この猫にあまりいい感情を抱いていない。
聖杯戦争に巻き込まれた身である彼女に対して護衛の一人、いや一匹としてキャスターのサーヴァントに宛がわれた使い魔であるが、顔に張り付いたにやけた笑みが象徴するようにこの猫は人をからかう事が好きなのだ。
現にこの猫を宛がわれてすぐに、ありすはエレベーターで先程と同じことをこの猫にされ、軽いパニックに陥った苦い経験がある。

「今日も周囲に異常はなーし。平和ってのは一番だね。欠伸しか出なくて僕の仕事は君の見張りから君を見ながら欠伸をする事に変わりそうだよ」
「そうですか、楽そうな仕事で良かったですね」

にやけ顔の猫の言葉に適当に返しながらありすは廊下を歩き彼女の家へと向かう。
キャスターが使役する使い魔は人をからかい、煙に巻き、そして意味のあるようでまったく意味のない物言いを好む傾向にある。
それを理解している彼女はまともに取り合うだけ時間と労力の無駄だと結論をつけていた。
その素っ気ない対応に猫は器用に肩を竦めると、鳴き声を1つあげながら瞬く間に姿を消した。

家のドアの鍵を開け、中に入る。
本来の彼女の家を正確に模倣した仮の家、NPCの偽の両親は家を開けていて留守だ。

「ただいま」

無人の家に横合いから「おかえり」と先ほどの猫の声が聞こえてくるが無視を決め込む。
靴を脱いで自分の部屋に荷物を下ろし、そしてリビングへと続く廊下の途中で足を止める。
部屋など到底作れないであろうスペース。だがそこに一枚のドアが出来ている。そこがキャスターの工房、いや、仕事部屋への入り口だった。
ドアをノックするも返事はない。
ありすは溜め息を1つ吐きながら、ドアノブに手をかけた。

「あぁ……尊い……尊い……」

扉を開けるとそこにいたのはありすの友人のアイドル達(15歳未満)のピンナップをうっとりとした表情で見つめる紳士服に身を包んだ男の姿。
ヒクッ、とアリスは自身の顔がひきつる音を聞いた気がした。

「少女ごとの性格・テーマ性を重要視した衣装。躍動感溢れる構図。そして何よりも可憐に咲き誇る無垢なる少女達の笑顔。アイドル……偶像……、いい時代になったものだ……」
「キャスターさん」

1オクターブ程低くなった声がキャスターの仕事部屋に響くと、キャスターがびくりと大きく肩を震わせる。
ゆっくりと振り向くキャスターの視界に映ったのは反目で自分を見つめるありすの姿。
途端に元々良くなかったキャスターの顔の色が更に悪くなった。
気まずい沈黙の中で、取り繕うようにキャスターは大きな咳払いを1つしながら姿勢を正し、椅子から立ち上がってありすへと向き直る。

「み、ミス・アリス。わ、私の仕事場に入るのであれば、の、ノックをしてから入ってきて貰いたいものだが?」
「ノックはしましたが私の友人の写真に夢中で気がついていない様でしたので、勝手に入らせてもらいました。それと名前で呼ばないでください」
「む……」

言葉を吃らせながら話しかけるキャスターに対し、ありすの対応は冷たいものだ。
にべもない様子にキャスターがたじろぎ、困ったようにぼさぼさ髪の頭を掻く。

「し、失礼をした、ミス・タチバナ。そ、そう言うことなら非は私の方にあるね」
「……」
「あ、あまりそういう目で見ないでくれたまえ。し、少女からの白眼視ほど心に堪えるものはないのだよ、私は」

ジト目で睨んでくるありすの視線から逃げるように、キャスターは椅子へと腰掛け、ありに背を向けて原稿用紙に向き直る。
にししし、と、どこからか使い魔の猫の笑い声が聞こえてきた。
頼りなさげに縮こまったキャスターの背中に刺のある視線を向けていたありすだが、いつまでもそうはしていられないと、この部屋にやってきた本題を切り出すことにする。

「昨日、繁華街の方でガス漏れ事故があったってそっちの方に住んでいる子が話してました」

カリカリと筆を走らせていたキャスターの動きがピタリと止まる。
振り向いたキャスターの顔は先ほどまでの情けなさと頼りなさを混ぜ返したようなものから神妙なものへと変えていた。

「やっぱり、他のサーヴァントの仕業なんですか?」
「そ、それは調べてみないとわからないね。ただ、可能性は高いと思う。く、詳しい場所はわかるかい?」

ありすは頷き、その時に聞いた住所を手に持ったタブレットの地図アプリに入力して表示させる。
それを見て、事件の場所がどのあたりかを確認したキャスターが一度手をパン、と叩く。
それと同時に時計を持った兎が二人の前に姿を現した。

「お呼びでございますかな造物主様」
「ちょっと調査を頼みたいんだよ白ウサギ君。私の仕事場からこの場所にウサギ穴を開けておいた。何があったか、特に魔力の残りがないか調べてきてくれたまえ」
「ご用命とあらば」

ありすと話をした時とは一転、流暢な口調でキャスターはウサギの使い魔に指示を出す。
キャスターが指差した場所にはいつの間にか穴が開いており、使い魔は「急がなくちゃ、急がなくちゃ」と口走りながら穴の中に消えていった。

「さ、さて、これで何か分かればいいのだがね」

再びありすに向けて吃りながら声をかけるキャスターを見て、面倒なスキルを持たされたサーヴァントだと改めて認識させられる。
無辜の怪物。後世の評価などで本来の在り方を捻じ曲げられたサーヴァントの持つスキル。
それによってキャスターは少女との会話限定での吃音症を生じさせていたのだ。
それだけでなくスキルの影響で彼が少女と話しているだけで犯罪者と勘違いされてしまう為、気軽に実体化して外に出歩くこともできない有様だった。

(確かに、写真を見てる時のあの反応を見たら勘違いされても仕方ないけど……)

キャスターがうっとりと写真を見ていた時に、それもスキルの影響かと質問をしたら真顔で生来のものと返答されたのは、ありすの中ではドン引きものではあったが、それでもキャスターの本質が穏やかで紳士的な人物であることがここ数日でよく理解できたのも確かだった。
だからこそ、何とか穏便に聖杯戦争を切り抜けて、本来の生活に戻らなければいけないと彼女は考える。
キャスターと出会った時に、彼はありすが聖杯戦争に巻き込まれるのを良しとせず、令呪による自らの自害を提案した。
しかし、それはアリスには呑めるものではない。
人一人を自害させる命令など到底できることがなかったことは勿論だが、キャスターが彼女が慣れ親しんだ物語の作者であったという事も大きかっただろう。
ルイス・キャロル。
アリスと呼ばれる少女の物語を書いた人間がありすと名付けられた少女に呼び出されたの如何なる縁か。

書きかけの原稿にタイトルが記されている。
『アリス・イン・ホーリーグレイルウォー』
この物語がどのような結末を迎えるのかは、これを書いているキャスター自身にも今はまだ定かではない。

【クラス】
キャスター

【真名】
ルイス・キャロル

【出典】
史実(19世紀イギリス)

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:B 幸運C 宝具B

【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
作家としての仕事部屋の形成が可能。

道具作成:C
キャスターはかばん語と呼ばれる混成語を用いて、新たな生物や不可思議な道具を産み出す事が出来る。

【保有スキル】
高速詠唱:D
魔術詠唱を早める技術。
かばん語と呼ばれる混成語を用いて詠唱・執筆にかかる時間を短縮させる。

使い魔使役(偽):A
自身が書き綴った不思議の国、鏡の国のキャラクターを使い魔として召喚できる。大概のキャラクターは意味のないお喋りに終始するだけに留まるが、武器を持ったトランプの兵隊や、気配遮断:Dを所持したチェシャ猫、騎乗して空を飛べるグリフォン、キャスターの仕事場からウサギ穴で指定した場所までワープできる白ウサギなど戦力になるものも存在する。
不思議の国、鏡の国の住人は不明瞭な言葉や精神汚染に等しい精神構造をしているものが殆どで会話自体が一苦労だが、原作者であるキャスターは不自由なく意思の疎通が行える。

無辜の怪物:D
本人の意思や姿とは関係無く、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を示す。
キャスターはこのスキルによって子供と話す場合にのみ吃音が発症する。また、少女と接しているところを第三者に見られた場合、小児性愛者の誤解を受けやすくなる。

【Wepon】
なし。羽ペン程度

【宝具】
『我が身は少女を守る騎士なりし(ホワイト・ナイト)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
無垢な少女を守護する事をトリガーに発動可能な宝具。自らの姿を白い騎士に変貌させ、対象を守りきるまで筋力・敏捷・耐久をすべてAに上昇させる。
この宝具の発動中はルイス・キャロルではなく『鏡の国のアリス』の白い騎士へと存在が変わる為、宝具使用前に保持していたスキルが全て使用不能になる。
鏡の国のアリスにてアリスを助ける為の存在であった白い騎士のモデルがキャスター本人であったという逸話から生じた宝具。無垢な少女を助ける時、彼は無敵の騎士へとその身を変える。ついでに吃音も消える。

【人物背景】
世界的に有名な童話、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の著者。ルイス・キャロルはペンネームで本名のチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン名義でも数学論文などを発表している多才な人物。
吃音症であったが社交性が高く紳士的。
しかし、本人が一時期少女のヌード写真やコスプレ写真の撮影に傾倒していた事や、『不思議の国のアリス』のモデルとなった少女、アリス・リデルらと親交が深かった事から小児性愛者であったとの風評が広がってしまった。
本人的には上記の写真は純真無垢な少女の姿に神性を見出だしていたに過ぎないので、この事を指摘されると「その様な非紳士的極まる変質者どもと一緒にするな」とあからさまに不機嫌になる。ただ、少女の写真を見ながら「尊い……尊い……」と呟く様を見られてはそのような誤解を受けてしまうのも仕方のない事なのかもしれない。

【特徴】
痩身で燕尾服、蝶ネクタイをつけた紳士然とした成人男性。もじゃもじゃの髪に碧眼で柔和な顔つき。肺が弱く不健康そうな顔の色をしている。

【聖杯への願い】
マスターを無事に返す。可能なら聖杯戦争で現界している内にマスターを題材にした物語を執筆しておきたい

【マスター】
橘ありす@アイドルマスターシンデレラガールズ

【能力・技能】
アイドルとしての歌唱力とダンス力。
日々のレッスンのお陰でそれなりに体力はある。
タブレットを扱えるので知識量は豊富

【人物背景】
12才のアイドル。属性はクール。
"ありす"という日本人ではあまり見られない名前にコンプレックスを持っており、親しくない人間に下の名前で呼ばれると名字で呼ぶように訂正を求めてくる。気を許した相手には下の名前で呼ぶことを許可してくるので、それでどれだけ信頼されているかがわかる。なお本人は警戒心が強そうに見えてかなりチョロい。
大人びた雰囲気の人に憧れを持ち、なつきやすい傾向にある。

【マスターとしての願い】
聖杯戦争から穏便に脱出する手段を探す。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年09月24日 23:35