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萬田銀次郎&アサシン

とあるマンションの一室で、二人の男が話し込んでいる。
双方とも表情はいたって真剣、テーブルを挟んで一言、二言と言葉を交わし、そして頷く。
眼前のテーブルの上には、数百万はあろうかという札束が無造作に置かれていた。

「ほなこれで……どないでっか」
「うむ」

頷いたのは、博物館でしか見れないような古風な服装を身にまとった、険しい表情の男であった。
現代のマンションの一室にこんな恰好でいるなど、どう見ても尋常ではない。
何者かとその顔をよく観察すれば、人の世の裏も表も見渡してきたと言わんばかりの苦労の跡が、眉間の皺と眼元のくまに表われている。
そして何より、生まれながらにしてその身に纏う王気とも呼ぶべき威厳が、この人物が只者ではないと無言のうちに語っていた。
――そう、この人物はサーヴァントである。歴史にその名を刻むに相応しい偉業を成した大人物なのである。

「では、確かに」

そのサーヴァントに向かって、もう一方の男がテーブルから札束を二つほど掴みあげ、それをずい、と差し出した。
スーツに銀縁眼鏡、こちらはいたって普通の当世のいでたちだ。
差し出した手の甲には真紅の紋様が刻まれており、その男が聖杯戦争の参加者――令呪を持つマスターの一人であることを示していた。

「……貰おう」
「あげたんと違いまっせ。貸したんでっせ」
「そうだったな」

札束を受け取ったサーヴァントは苦笑した。
サーヴァントとは、すなわち古の英雄だ。
歴史に名を刻んだ破格の稀人だ。
そのことを知っていてなお、その真名を知っていてなお、全く怯えを見せぬ胆力は呆れるほどに見事という他ない。

「二百万のうち十日分の利息を前もって頂きますよって、そちらには百八十万お渡しということになりますな」
「ハッ、阿漕なものだ。払わぬといったらどうなるのだ?」
「そらあもう……令呪三画ぜんぶ使っても取り立てまっせぇぇぇぇッ!!!!」

ハッタリではない。
この男は絶対に取立てを諦めない。
ヤクザだろうが政治家だろうが英霊だろうが、貸した金は必ず取り立てる。
それがミナミの鬼と恐れられた萬田銀次郎という男である。






とある町役場にて。

「ごめんやっしゃぁぁぁぁあ!!」
「何事ですか一体……げ、げぇぇっ! 萬田さん!」
「毎度! 皆山はん、今日が利息の振り込み日でっせ」
「わ、わかった。わかってるから職場まで来られると、私の立場というものが……」
「前の利息の振り込みトバシかけといて、おかげでワシの金貸しとしての立場が危ういっちゅうのに、オノレの立場がどないやっちゅうんじゃボケェ!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!!」

――まったく、今の世も変わらんな。


とある繁華街にて。

「毎度! 今回の利息、確かに頂きましたわ」
「あの……申し訳ないんですが、もうちょっと貸して頂けませんか」
「そら構いまへんけどな……ホストクラブ通いもほどほどにしとかんといけまへんで」
「か、関係ないじゃないですか、萬田さんには」
「関係ありまっせ。アンタが焦げ付かせた金額がデカければデカいほど、無茶な取り立てせなあきまへんからな。
 ソープに落とすだけで済む金額ならワシも面倒が少なくてすむんや」
「……」

――金を持っていない者ほど金を吸い取られる。


とある夜のオフィス街にて。

「広瀬はん、こんな夜中にどこにいかれるんでっか?」
「げ、げええええええええ、萬田はん!!?? い、いや、ちょっとビジネスや、忙しいんで、また後で……」
「権利書から小切手帳から全部持ち出して、何のビジネスだすか?」
「な、なぜそんなことを……!」
「おどれ、全部ウラは取れとるんやどぉぉぉぉ!! この萬田銀次郎から金を借りたまま夜逃げしようとは、このダボがぁぁぁぁ――ッ!!」

――金を持っている奴ほど、金を払うことを惜しむ。


とある怪しい企業事務所にて。

「萬田さぁん、アンタのとこの借金ってさあ、違法だよねえ」
「へえ、それが何か?」
「だったらさあ、過払い問題ってやつ? 正規の利息分だけしか払う義務はないよねえ」
「しかし、その条件で承知して借りたのはあんさんでっせ?」
「関係ねえええええ!! 関係ェェねえええええ!! 法律でそう決まってるなら、悪いのは違反してるアンタの方だああああああ!!」
「なるほど、そういうことなら……アサシンはん、頼んます」
「は? 何言って、え、ちょっと、何こいつら、いつの間に、出てきて――」

――儲かっている奴ほど、金を惜しむ。もっと儲けられるはずだと払う金を惜しむ。




「承知した――――貴様。今すぐ、金を払え」







「かんぱーい!」


ここは冬木市内のとある料亭の一室。
萬田銀次郎とそのサーヴァントであるアサシンは、慰労の食事会を行っていた。
アサシンの服装は自分の生きた時代のそれではない。
当世のブランドスーツにべっこうぶちの伊達眼鏡で、厳格なビジネスマンといった雰囲気を醸し出している。
他にもコート、ビジネスバッグなどなど、これらはマスターである萬田銀次郎に借金して取りそろえたものであった。
その借金の返済のために、自らの宝具を使って萬田の仕事の手伝っていたのだ。
アサシンの宝具である密偵集団――血滴子は、債務者の動向を完全に把握し、夜逃げなど絶対に許さない。
いざ戦えば、ヤクザの集団など一顧だにしない戦闘力を誇る。
まさに萬田のビジネスのためにあるような宝具である。
だが普通であれば、自らの生き様を象徴するに等しい宝具を、卑しくも借金取りなどに使う英霊などいないはずなのだが――

「余の皇帝としての人生も、借金と税金の違いこそあれ、取り立て人として全てを捧げたようなもんやったからなあ」

アサシンはテーブルに並べられた様々な料理に箸をつけつつ、しみじみとその理由を語った。
萬田の関西弁がいつのまにかうつっており、その姿は威厳のイの字もない大阪のおっちゃんである。

「庶民への重税とかやないんや。賄賂やら脱税やらでがっぽり貯めこんどる富裕層から正規の税金貰おうとしただけやねん」
「それでも取り立て人ちゅうのはどこでも、どの時代でも恨まれますからなあ」
「せやせや。キリストはんの聖書でもやたら悪人扱いや。しかしマスターはどうせ恨まれるならなんで闇金融やねん。税吏じゃあかんのかい」
「性分といいますか……世の中、なんでも表と裏がありまっさかい。ワシはたまたま裏の方に縁があったということですかな」
「そういうもんかのう」

やがて夜は更け、宴もたけなわ。
アサシンは現世の料理を随分と楽しんだようだ。
ぐいとビールを仰いでから大きくため息をつき、そして呟くように語り始めた。

「いや楽しい。今、振り返れば余の人生は心から楽しめる瞬間などほとんど無かったように思う。
 こうしてこの当世の衣装に身を包み、今の世の風俗を楽しんだだけで、サーヴァントとして呼ばれた甲斐はあった」
「大中華を統べる皇帝陛下にしちゃ慎ましやかですなあ」
「そういうものだ。強大な権力の中枢に居続けたそのかわり、自由などなかった」

萬田もアサシンの真名が分かってから、それなりに調べてはみた。
清朝五代皇帝、雍正帝・愛新覚羅胤禛。
ケチで疑い深く、密偵を全国に潜ませ、役人たちを監視、弾圧し続けた。
血なまぐさい後継争いの末に勝ち残り、独裁君主として弾圧と粛正を繰り返した人物であると。
その一方、熱心に政治を行い、税制改革などで功績をあげるなど、よく見れば全面的に悪い君主ではない。
だが。

「これを見ろ、マスター。我が父と息子の名はこの異国の書物にまでのっているのだぞ」

そういって取り出したのは世界史の教科書である。
これも萬田から借りた金で買ったのだろう。
いや、その分は働いて返したのだから、正確にはすでにアサシンの金であるだろう。
そこには確かに四代康熙帝、六代乾隆帝の名はあるが、五代目の名前はない。

「父上と我が息子は確かに傑物であった。それに比べて余は凡庸かもしれん、それは甘んじて受け入れよう。
 だがそれでも、余はその身命の全てを国に捧げたという自負はある。
 せめて……せめてもう少しだけでも評価されたいと願うのは、浅ましい願いであろうか」

他人の評価など所詮はあてにならぬものである。
大国の皇帝として、国体をつつがなく次代へと繋げただけで、それは偉業である。
しかしそれを他人が言ったところで、認められたいという気持ちが簡単に消えるわけでもないだろう。
結局は自分次第であり、自分の中の願望をどう処するかということなのだ。

「ワシにアサシンはんの願いについてどうこう言う権利なんぞありまへんがな。
 しかしこうなったからには聖杯はんに願いの一つでも叶えてもらわんとワリに合わん、とはおもっとります」
「ふむ……それは一体」
「世界平和でんがな。平和な世の中でないと金貸しなんぞやってられまへんからなぁ!」
「なるほど、確かにな!」

アサシンは呵々、と笑った。


【CLASS】
 アサシン
【真名】
 雍正帝 愛新覚羅胤禛(ヨウセイテイ アイシンギョロ・インジェン)
【出典】
 史実
【マスター】
 萬田銀次郎
【性別】
 男性
【属性】
 秩序・悪
【ステータス】
 筋力E 耐久C 敏捷B 魔力B+ 幸運B 宝具B+
【クラス別スキル】
 気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を断てば発見する事は難しい。

【固有スキル】
 貧者の見識:B
 相手の性格・属性を見抜く眼力。言葉による弁明、欺瞞に騙され難い。
 皇帝に即位する以前、雍正帝は四十年余りの時間を学問と、そして何より兄弟たちの骨肉相食む宮廷闘争を間近で観察することに費やした。
 皇帝の子という最も尊ばれる身分でありながら、人間の最も醜い面を見つめ続けたことで得たスキル。

 皇帝特権:B
 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。

 黄金律:B
 身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 大富豪でもやっていける金ピカぶりだが、散財のし過ぎには注意が必要。

【宝具】
『血滴子(フライング・ギロチン)』
 ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:0~99 最大捕捉:99人
 独裁君主として君臨した雍正帝は直属の密偵部隊を従え、中国全土の官吏たちを密かに監視していた。その部隊こそが血滴子である。
 外見は黒づくめの旗袍(チャイナ服)、鎖で繋いだバズソーを武器とし、密偵や暗殺をこなす恐るべき諜報集団。
 一人ひとりが凄腕のスパイであり、多数でかかればサーヴァントを討ち取ることも不可能ではない。
 だがその真価は大清帝国全土を監視したという逸話の通り、情報収集能力にある。
 ひとたび標的をマークすれば、たちまち戦力や真名の手がかりまで暴いてしまうだろう。

『大義覚迷録(シノセントリズム・ジャスティス)』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0~3 最大捕捉:1人
 中華皇帝の色を現す黄色のページで書かれた一冊の書簡。
 蛮族と蔑まれていた満州族が、中華思想において漢民族の上に立つ正統性を示した記録である。
 雍正帝はこの件について自ら漢民族の学者と討論し、これを論破したという逸話が宝具となった。
 対象のあらゆる価値観を破壊し、雍正帝を絶対正義とあがめる奴隷にする凶悪な洗脳宝具。
 抵抗に失敗してしまえば、人間でもサーヴァントでも人格が破壊されるため、生きている限り二度と元には戻らない。

【Weapon】
 自らの宝具である血滴子たちを護衛兵として出現させる。

【特徴】
 中華皇帝を現す黄金の龍を刺繍した帝服に身を包む陰気な目つきの男。
 ケチで金にうるさく、疑い深い性格。
 目の下に濃いくまがあり、顔色は悪い。
 自ら揃えたスーツと眼鏡をかけているが戦闘時は元の服装に戻る。
 時々マスターからうつった関西弁がでる。

【解説】
 18世紀初頭、中華史上最高の皇帝と呼ばれた清朝四代康熙帝の後を継いだのが、五代雍正帝こと愛新覚羅胤禛である。
 彼は第四皇子として生まれた時から十数人もの兄弟たちの権力闘争の中で育ち、そのせいか非常に猜疑心の強い人物だったと言われる。
 彼自身を皇太子に祀り上げようとする有力貴族たちの誘いに一切のることをせず、約四十年間を学問と仏教信仰に捧げた。
 この時点で次代の皇帝になろうとする野心など、彼には一切なかったはずである。
 ところが皮肉にも、我が子たちの醜い権力闘争によほどうんざりしていたのか、父である先代皇帝は一切の野心無き彼を後継に指名する。
 この瞬間、一人の恐るべき独裁皇帝が誕生した。
 有力者たちの派閥に組しないということは、誰も依怙贔屓しないということである。
 誰の後ろ盾もないが、その代わり誰でも敵として叩き潰せるということである。
 彼は皇帝に即位してからすぐに実の兄弟である皇子たちを粛正、有力貴族にも一切容赦をせず恐怖政治を敷いた。
 全国に密偵を派遣し、官吏たちにこまめな報告を義務付け、不正を行えば誰であろうと処罰した。
 その一方で自らにも厳しく、全国から集まる報告の書簡に自らすべて目を通し、睡眠時間は四時間に満たなかったと言われる。
 前述の密偵も、ただ監視をするだけではなく、下級官吏に業績の優れた者がいればこれを褒賞した。
 そんな激務を続けた結果、即位から十三年で死没。過労死した疑いが一部でまことしやかに囁かれている。

 当時の清王朝は、先代康熙帝の華々しい戦功の陰で、内部は腐敗しつつあった。
 腐敗の原因は、王朝の運営母体そのものである中華のエリート官僚たちである。
 それを取り締まれるのは彼らの上に立つ皇帝しかいないので、雍正帝は彼らの憎悪を一身に浴びながらも改革を断行した。
 監視の目が届かず、不正を放置されていた地方政官を粛正し、賄賂で税金逃れをしていた富豪も取り締まった。
 雍正帝は中華を治める皇帝でありながら、中華全土の官吏を敵に回して税金を取り立てた、中華最強の取り立て人である。

【サーヴァントとしての願い】
 独裁者としての悪名を返上したい。

【マスター】
 萬田銀次郎@ミナミの帝王

【能力・技能】
 利息は十日で一割増えるトイチの闇金融を経営している。
 数千万の現金でも自由に用意できる資金力があり、また夜逃げした相手を絶対に逃がさない探偵顔負けの追跡術もある。
 ヤクザ相手に一歩も引かない胆力の持ち主で、よく法律相談も引き受けるなど、様々な方面の知識に詳しい。

【人物背景】
 ギンブチメガネと大仰な関西弁がトレードマークの闇金融屋。
 幼少時代、非常に裕福な家庭(父親は萬田建設の社長・萬田浩一郎、母親は里子)で育つ。が、紆余曲折有って、後に貧困地区に堕ちた萬田銀次郎。
 そこで「長老」をはじめとする元エリート層から落ちぶれた住民に政治・経済・礼節等を徹底的に叩きこまれる。
 その後、金貸しの師匠・矢吹金造に金融のイロハを習い、ミナミのマンションの一室に裏金・『萬田金融』(「萬田銀行」と称することもある)を開く。
 利息はトイチ、「逃げれば地獄まで取り立てに行く」が謳い文句で、法の中と外のボーダーラインで活動している。
 ヤクザや権力者でも萬田の取り立てからは逃げられないといわれ、周囲からは「ミナミの鬼」と恐れられる。
 冷酷ではあるが、萬田に返済できない状況に陥った債務者から話を聞き、事情によっては返済できる状況に戻すような人助けをすることも多い。
 もっとも、それはあくまでも「ワシに返済させるためにやったことだ」という体裁である。
 一方で債務者から取り立てる代わりとして、萬田が自ら詐欺を仕掛けて嵌めた事例もある。

【マスターとしての願い】
 世界平和。

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最終更新:2016年09月24日 23:44