あの日――タタリ村での出来事から半年が過ぎた。
ディレクター工藤仁とアシスタント市川美穂の行方は依然として掴めぬままスタッフ唯一の生還者、
カメラマンの田代正嗣は彼らを探すべく奔走していた。
幸い工藤たちが異界へと消えた怪異を収めた『戦慄怪奇ファイル!コワすぎ!史上最恐の劇場版』はコワすぎシリーズ最高の売り上げを記録し、
事務所の備品を一新するだけでなく、工藤と市川を捜索するための資金も潤うこととなった。
一方でタタリ村での一件以降、事務所がある東京には異変が生じていた。
巨大な人影が上空に浮かぶようになったのである。もちろん最初は連日のように報道がなされ騒動になったものではあるが、
政府を初め世界中の研究機関が巨人が浮かぶ空間を調査したが結局異常らしい異常は何一つ検出されず、
東京の住民たちも空に浮かぶ巨人の影を当たり前の存在のように受け入れていった。
田代は確信していた。アレはタタリ村に現れた旧日本軍の霊体兵器――鬼神兵だと。
鬼神兵であるならば工藤と市川の行方への手がかりとなるはず。
しかし資金は潤沢にあれど田代一人では捜索にも限界がある。
そこでライブ配信サイトに工藤たちの捜索状況を配信すると同時に視聴者からの情報も募っていた。
どんな些細な情報でもいい、二人を探す手がかりになれば――そう祈る田代であるが、満足な情報は得られず半年が過ぎていった。
そんな田代の下へ一件の情報が寄せられた。冬木市という街で世界中の魔術師、呪術師、霊能者が集い聖杯戦争という大規模な儀式が行われるという。
そしてその勝者にはあらゆる望みを叶えられる権利がもたらされると――
単なる与太話、そう切って捨てるのは簡単な情報だった。だが田代はそれを否定しきれないでいた。
この世には超常的な現象が身近に存在し、いつでも日常を侵食し非日常へと塗り替える。
それを今までの取材で何度も経験したことではないか。
聖杯戦争が何の儀式であるかはわからない、戦争と言うからにはきっと危険が伴うのだろう。
しかし多くの魔術師や呪術師に霊能者が集まるのであればきっと工藤たちの手がかりも見つかるはず。
そんな藁にもすがる思いで田代は冬木市に飛んだのであった。
■ ■ ■
「みなさんこんにちは。コワすぎカメラマンの田代です。工藤さんと市川の手がかりを求めて冬木市にやってきて三日が経ちました」
ネット配信用の動画のため冬木の街並みを撮影しながら田代はビデオカメラに語りかけた。
今日で滞在三日目になるが工藤と市川の手がかりどころか聖杯戦争が何であるかすらも掴めないでいた。
昨日一昨日は古くからの街並みを残す深山町を取材したが柳洞寺という霊験あらたかな寺社がある以外はこれといった情報もなく今日は比較的新しい街並みの新都を重点的に取材したのだった。
「ここ冬木中央公園は今でこそ市民の憩い場ですが、かつて大規模な爆発事故があり多くの犠牲者が出た過去がありました」
特に本件とは関係のないオカルトネタではあるがこうして紹介してしまうのは職業柄だろうか。
日は西の山に姿を隠し始め、夕日が公園の片隅にそびえる石碑を赤く染め上げていた。
「これが当時の犠牲者の名を刻んだ慰霊碑です。この公園は浮かばれない犠牲者が今もなお彷徨い現れる――そんな噂が絶えない曰く付きの場所でもあります」
田代はカメラを慰霊碑に向けた時、奇妙なことが起きた。
カメラのディスプレイに妙なノイズが走るようになっていた。
「あれっ……おかしいな……なんだこのノイズは……」
こういう時、何かよくないことが起きる。
田代はごくりと唾を飲み込んだ。
「えー、どうもカメラの調子が良くありませ――え?」
不意にカメラが人影を捉えた。
ついさっきまで田代の周りに誰もいなかったはずなのに。
「ああ――腐った臓腑に塗れた死穢の臭い。黄泉にお隠れになった妣上の匂い。クク、クハハハハ、そうか人間よ汝は妣上を見たのだな?」
少女がいた。
黄昏の闇から染み出すように現れた黒髪の少女。
金色の瞳を輝かせて嗤う少女。
服装こそセーラー服であるものの、その異様な存在感は一目でこの世の存在でないと田代は確信した。
まずい――いきなり本物の怪異を捉えてしまった。
「あっ……ひっ、はぁっ……ひぃっ!?」
「逃げるな阿呆」
逃げようとしたが足を引っ掛けられ派手に転びながらもカメラは落とすまいと必死に守る。
「あっあっあっ、あなた誰ですか!? わ、私なんか食べてもおいしくないです……! だ、だから早く成仏してください! お願いします……!」
「何を言っておる人間、我を呼んだのは汝ではないか」
「し、しかし私にあなたのような知り合いは……!」
「此度の聖杯戦争のマスターとして汝は我を呼び我は汝に応えここに降臨した。その左手の徴こそ我との宇気比の証ではないか」
左手の甲にまるで焼鏝を当てられたような痛みが一瞬走る。恐る恐る左手を見ると奇妙な幾何学的模様が刻みつけられていた。
「せ、聖杯戦争? マスター? それよりもあ、あなた誰ですかっ?」
田代の問いに少女は少し呆れたような仕草を見せたものの、不敵に嗤い威風堂々とした表情で答えた。
「我が玉音しかと拝み聴け! 吹き荒ぶ嵐の神にして荒れ狂う大海原の化身! 荒ぶる神とは我この事! 讚えよ畏れよ崇めよ! 我が名こそ建速須佐之男命なり!」
■ ■ ■
「えー、田代です。どうやら私は幸か不幸か聖杯戦争のマスターとして登録されてしまいました。
そして私が使役しなければならないという英雄がこちらの方、名をスサノオノミコトとおっしゃるそうです。ハイ、“あの”スサノオだそうです」
「汝はさっきから何をぶつぶつ独り言を言っておる」
「あ、ただの仕事なんであまりお気にしなさらず……」
宿泊先のビジネスホテルに戻った田代はカメラをベッドに座るスサノオに向けていた。
聖杯戦争の詳細をカメラに捉え超常的な存在の戦いを映す。間違いなく売れる。工藤なら今ごろ大喜びだ。
しかしこの目の前の、どう見ても中学生程度にしか見えない少女が神話の大英雄とは到底思えなかった。
太陽神たる天照大神の弟にして八岐大蛇を討伐した日本最古英雄ともいえる存在は文献では間違いなく男性として描かれてるのに関わらずだ。
それに見た目はどうあれ中身は粗野な男神、短いスカートを穿きながらあぐらをかいていては目のやり場に困る。
少女に対して偏執的な感情を持たない田代でも堂々と露わな白い太股を見せつけられては気が滅入る。
そして自分のような中年の男が年端もいかない少女を連れ回すのは非常に危険な行為である。
「人間よ、聖杯戦争という儀がどれほど特殊かわかるか?」
「いえ……」
「本来なら我は巫女と審神者無しで到底降ろせる存在ではない。
そして降ろせたところでその力は地面に映る影以下だ。分霊と呼ぶにも烏滸がましい欠片よ。
だがな、異国の人間の式によって作られたこの儀は我が自前で器をこさえて現界できるのだ。
これが喜ばずとして何になる。まあ元から肉の器を持つ人間にはなかなか理解できぬがな」
「はあ……それと女性の姿であることが何の関係が」
「人間、汝は童女は好きか?」
「どちらかというと豊満な女性のほうが」
「フン、童女はいいぞ。特に子を孕めるか孕めないかの境目の年頃はなお良し。
あどけない表情の童女が朝起きたら太股から血を流している姿はたまらぬ。
乳房もまともに膨らんでおらぬのに胎だけはすでに子をこさえる支度は万端よ。
ククク、櫛名田もそれぐらいの歳だったわ」
生々しすぎる。生配信でなくてよかった。
後でこの部分はカットしておこうと思った田代だった。
「この器は大層良い出来でな。姉上を元に櫛名田ぐらいの歳の妣上を想像してこさえた器よ。
我は妣上の顔は知らぬが姉上の美貌はまさに太陽よ。
例え黄泉にお隠れになり腐り果て蛆がたかろうとも妣上は姉上に負けず劣らずの美貌に違いないだろう?」
田代はドン引きしていた。要は自分の理想の女性像を作り上げそれを自身に投影した挙句に自分の身体そのものをそれに入れ替えたのである。
神話の記述から母と姉に歪んだ感情を持っているフシは感じられてはいたがここまで拗らせていようとは、である。
「だがな。所詮この器は妣上を模した形代に過ぎぬ。
愛でる分には十分ではあるが真なる妣上には及ばん。ゆえに我の願いはただ一つ。
黄泉比良坂を塞ぐ千引の大岩を廃し妣上を地上にお連れすること、それ以外に望まぬ」
「ほ、本当にそんなことが……」
「できるとも。現に汝は千引の大岩の向こうを見たのだろう? 黄泉比良坂に蠢く手足を持たぬ畸形の廃神のさらに奥深くに妣上は在らせられるのだ
確かに太古の昔では父上が置いたあの大岩を砕くことはさすがの我であっても不可能であった。
しかし我が根之堅洲国にて惰眠を貪る間に葦原中国はすっかり神の威光を喪い気枯れてしもうたではないか!
クハハハハ! 我が子らが治めていた葦原中国を簒奪した姉上の子らめ!
姉上の声も届かぬこの穢れたこの現世で彼奴らは何を思うのであろうなァ……よい気味ぞ。っと話が逸れてしもうたが――」
「神様の力が衰えた現代ではその千引の大岩も壊せると?」
「左様、汝は我が妣が国に至るための八咫烏となりて案内せよ。そのための手力は存分に奮ってやろう。このセイバーがな! ……ん?」
「あ、あの……どうもあなたはセイバーではなくバーサーカーのようですが……」
「何ィ! 天羽々斬を振るい大蛇を屠った神代随一の剣の遣い手の我がセイバーではなくバーサーカーとはどういうことだ!」
高天原での行いを見ればどう考えてもバーサーカー以外にあり得ないと思った田代だったがそれを口に出すのはどう考えても藪蛇だった。
しかし――本当にスサノオが望みを叶えてしまって大丈夫なのだろうか。
千引の大岩の向こうで伊邪那美命は一日に千人を殺す呪いを人間にかけ、伊邪那岐命は一日に千五百人を産ませるようにした。
つまりこの出来事をもって人類は明確に生と死を分かつことになったのだ。
スサノオがやろうとする千引の大岩を砕き伊邪那美命を黄泉の国から連れ出すこと、
それは生と死の境界が曖昧になってしまうことではないだろうか。
それがこの世にどんな結果をもたらすのか田代には想像もつかない。
だが工藤と市川を助けるために聖杯戦争に参加してしまった以上、スサノオに協力するしかないのだ。
それが例え世界を敵に回してしまったとしても――
【クラス】
バーサーカー
【真名】
建速須佐之男命
【出典】
記紀神話
【属性】
混沌・中庸
【性別】
女性?
【身長・体重】
146cm 39kg
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具EX
【クラススキル】
狂化:EX
このスキルは本来の意味での狂化でなく、
正真正銘の神霊――それも荒ぶる神の思考を人間程度に推し量ることはできないという意味での狂化である。
神はいつだって気まぐれに人間を翻弄する。
【保有スキル】
神性:B
三貴子の一柱であるスサノオは真性の神であるが、
今回の現界にあたっては大蛇退治の英雄の面が強く出ているため神性がランクダウンしている。
神殺し:A
荒ぶる斐伊川の龍神――八岐大蛇を討伐した伝説によるスキル。
神性が高い存在相手ほどステータスの上昇を得られる。
竜殺し:A
上記と同じく八岐大蛇討伐によるスキル。
竜属性を持つ存在に対してステータスの上昇を得られる。
理想の器:A
男のロマン、マザコンとシスコンとロリコンの極地。
この玉体より魅力的な存在は天照大神か生前の伊邪那美命のみ。
ゆえに魅了に対する完全な耐性を持つ
【宝具】
『大蛇薙・天羽々斬剣』
ランク:A 種別:対神宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1
スサノオが八岐大蛇を討伐した際に用いられた古代の太刀。別名十拳剣とも。
八岐大蛇という日本神話最大の龍神を倒した逸話から竜殺しと神殺しの武器としては最上級の兵装となっている。
そのため竜属性、または神性の高い存在にとっては致命的な一撃を加えることができる。
ちなみに剣自体は宝具でなく、八岐大蛇を討伐した逸話そのものが宝具化しているため、
剣そのものは大蛇の尾を切り刻んでいた時に折れてしまう程度に並の強度であるが、
当時としては一般的な太刀であるためスサノオはいくらでもスペアを取り出すことができる。
あくまで概念が宝具化しているためその気になれば銃火器でも同様の効果を得ることができる模様。
『触穢・天津罪』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
高天原で狼藉を働いたため追放されたスサノオが持つ罪穢れが宝具となったもの。
常時発動している特殊な宝具で現界した時から世界を蝕む穢れがどこまでも拡散してゆく
しかし、神が当たり前に存在した神代の世にあっては根の国に隔離しない限り世界に対する致命的な毒となっていたが、
罪穢れが蔓延し、すっかり気枯れてしまった現代に生きる人間に対してはせいぜい疲れやすくなる程度にしか毒としての効果を持たない。
それでも神性を持つ者、神秘を色濃く残す時代の英雄等がこの穢れに触れてしまえばたちまち大幅なステータスダウンを引き起こす毒となりうる。
反面穢れを背負った存在、呪いを受けた存在には効果を及ぼさない。
708 :田代正嗣&バーサーカー ◆ZLd0I6xQLQ:2016/09/13(火) 20:07:55 ID:1eg0TKVc0
【Weapon】
平安時代以降に製作されたと見られる無銘の大太刀。真名解放することによって宝具・天羽々斬剣へと姿を変える。
【人物背景】
日本神話で最も知名度の高い三貴子の末弟。
創世神の子、太陽神の弟、高天原を荒らした荒神、八岐大蛇を討伐した大英雄、
娘を娶らせるために大国主命に試練を課せ彼の勇気と知恵を認めた厳格な父、
と様々な面を持つ偉大な神格であるがどうにも登場初期のエピソードから
マザコンにしてシスコンにしてロリコンの三重苦(罪)を背負っている印象が強い。
長きにわたる根の国での暮らしで性癖を拗らせに拗らせた結果、
今回の聖杯戦争では何をトチ狂ったか自らの姿を理想の童女に変えて現界した。
本来なら真性の神格であることから聖杯戦争での召喚は不可能であるが、
大蛇退治の英雄という枠に無理矢理ねじ込むことと、自分の体を強引に改造することでのスペックダウンと引き替えに現界を可能としている。
ちなみにバーサーカー以外にアヴェンジャーとしての適正もあり、
こちらでの側面は天孫により簒奪された葦原中国を取り戻すべく神威を奮う荒ぶる復讐神として現界する危険なサーヴァントとなり得る。
【特徴】
黒髪金眼の不敵な表情を湛えた12~14歳のセーラー服姿の少女。ちっぱい。
【聖杯にかける願い】
黄泉の国にいる妣上を地上に連れ戻す
【マスター】
田代正嗣@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!シリーズ。
【聖杯にかける願い】
異界に消えた工藤と市川を助けたい。
【weapon】
様々な怪異をレンズに納めたデジタルビデオカメラ。
【能力・技能】
カメラマンとして一般的な能力、そして異様なまでに異界の存在を真っ先に撮影できる能力
【人物背景】
ディレクターの工藤仁、アシスタントの市川美穂と共に怪奇現象を取材する映像製作会社のカメラマン。
ハンチング帽に黒縁眼鏡をかけた髭面の中年男性。どこかの映画監督に容姿が瓜二つであるが他人の空似である。
切羽詰まった時の甲高い叫び声が非常に印象的。
基本的にコワすぎで流れる映像は田代が撮影しているためその姿が映ることは稀ではあるが、工藤市川に負けず劣らずの存在感を放っている。
暴力的で傍若無人の工藤と工藤からのパワハラで貧乏籤を引かされる市川に比べると大人しく良心的なイメージがあるが、
どんな怪異に遭遇してもカメラを回し続けるプロ根性と最終章での行動からスタッフ内で一番の狂人は田代ではないかと囁かれることも少なくない。
何の縁かとかく異界の存在と関わりになりやすい。
並行世界の因果が彼に収束しているのか。
それとも異界の存在のメッセンジャーとして選ばれているのか。
真偽は不明である。
今回は史上最恐の劇場版後、最終章で江野と出会うより前からの参戦。
最終更新:2016年09月24日 23:54