主従の出会いは、都市部の路地裏だった。
鼠が這い回り、塵が散乱する薄汚れた路地裏の壁を背に、少女は踞るように座っていた。
少女は粗末なワンピースを身に纏い、衣服を纏わぬ手足や顔には痛ましい傷痕が残されており。
どこか不安げで、怯えるような表情を浮かべ、目の前に立つ男を見上げいた。
「小娘」
少女の前に立つ一人の男が、声を掛ける。
百日鬘を思わせる髪型に、派手な和服―――――端から見れば時代錯誤とさえ言える。
そんな男が、少女の目の前に立っている
和服の男はその場で屈み、少女の右手を強引に掴んだ。
びくりと震えた少女を意にも介さず、男は右手の甲に刻まれた『紋章』を見つける。
やはりか、と当たりを付けたように男は頷き。
少女へと不敵な笑みを見せ、言葉を掛けた。
「おめえが、俺の主(マスター)だな」
浮浪者の少女、シルヴィは目の前の男の言葉に困惑する。
マスター―――――つまり、自分がこの男性の主人だというのだ。
何を言っているのか、と普段ならば困惑する他なかっただろう。
だが、今のシルヴィには理解が出来た。
『聖杯戦争』の参加者として呼び寄せられたシルヴィには、その言葉の意味が分かった。
「サーヴァント……?」
「その通り、俺がおめえの従者(サーヴァント)だ。暗殺者(アサシン)とでも呼べ」
◆
新都のとある路地裏近くの廃ビル内。
少女は覚束無い足取りで、壁際の床に座り込む。
この建造物は老朽化が進んだことで解体が決定し、一週間程後から解体工事が始まることが決定している。
今は誰も人がおらず、浮浪者である彼女が一時的に身を隠すにはうってつけの場所だった。
「さて、此処ならばゆるりと話も出来る」
アサシンは周囲の魔力の気配を探った後、壁際に座り込むシルヴィの方へと目を向ける。
俯き気味に床を見つめていたシルヴィだったが、アサシンが口を開いたことに気付いてすぐに彼の方へと視線を向ける。
アサシンは自らのマスターに歩み寄りつつ、彼女を品定めするように目を細めて見つめる。
このような幼子まで参加するとは思いもしなかった。
歳は見たところ、十代前半といった所。
見てくれは明らかに浮浪者。
しかしその様子からして、明らかに『慣れている』。
路地裏で鼠同然の生活を送るという斯様な境遇に置かれながら、余りにも落ち着いている。
この聖杯戦争に呼び寄せられる前からろくな環境で育ってこなかったのだろう。
それに、主の素肌には数多の古傷が存在している。
乙女の命とも言える顔にさえ火傷らしき痕が残っているのだ。
恐らくは『悪趣味な愛玩』用の奴隷か。
生前より数多の弱者を目にしてきたアサシンは、その観察眼でシルヴィという主を見極める。
「名は何と言う」
「シルヴィと言います」
「成る程。で、お前は聖杯戦争に招かれた。
ならば願いの一つや二つ、持っているんだろう」
「………解りません」
少しの沈黙の後に、シルヴィはぽつりと呟いた。
その答えにアサシンが表情を顰める。
「解らない?」
「願いと言われましても……私には、思いつきません。
聖杯というものはアサシンさんが好きに使って下さい」
シルヴィはいとも簡単にそう答えた。
アサシンは仏頂面で彼女を見下ろす。
この少女は、自らが奇跡を手にする権利をいとも容易く手放した。
奇跡に縋りたくないと言う信念や矜持があるから―――――といった風にはとても見えない。
少女は「願いが思いつかない」といった一言で、自らの権利をアサシンにあっさりと譲ったのだ。
まるで空っぽな人形だと、アサシンは思う。
無言で見下ろしてくるアサシンに対し、シルヴィは何処か怯えるように彼を見上げる。
従者であるアサシンの顔色を伺うように、彼女はまじまじと見つめていた。
「あの、私、何か失礼なことを言って……」
「おどおど、おどおどと。いつまでそんな面をしてる」
「……すみません」
どこか痺れを切らしたように、アサシンが言った。
主であるシルヴィはびくりと震え、僅かに言葉を詰まらせる。
そのままアサシンに向けて自分の非礼を謝った。
しかし、再び顔を上げたシルヴィの表情は――――変わらず。
真顔でいるつもりなのかもしれないが、彼女の表情は相変わらず他人の顔色を伺うような様子であり。
そのまま彼女は、どこか困った様子で呟く。
「あと、主なんて……私には向いていないと思います。
だから、アサシンさんが私の主になって下さっても構いません」
「何故だ?」
「私は、奴隷ですから」
シルヴィがぽつりとそう言った。
自分は奴隷であり、誰かを使うことなんて向いていない。
そう告げたのだ。
彼女自身が語る通り、シルヴィは奴隷だった。
実の両親の顔は覚えていないし、どこで生まれたのかもしれない。
物心ついた頃には『ご主人様』の家で買われていたのだから。
彼はシルヴィに対し、日常的に虐待を行ってきた。
ある時は執拗に鞭で嬲り。
ある時は顔を焼き。
ある時は血を吐く程の暴力を振るい。
そんな日々が何日も、何週間も、何ヶ月も、何年も続いた。
『ご主人様』は彼女に何度も言い付けた。
お前の命は虐げられるためにある。
痛みで悲鳴を上げる玩具として私を楽しませることに価値がある。
モノとして使われることがお前にとっての幸せなんだよ、と。
『ご主人様』からの虐待の日々は、彼女の精神を摩耗させた。
自分は奴隷であり、虐げられる存在なのだと。
高望みが出来る身分ではないし、誰かに使われることがせめてもの幸せなのだと。
シルヴィはそう考えた。自らの境遇に絶望し、完全に諦観した。
『ご主人様』が不慮の事故で逝ってからも、その意識は呪いのように解けることがなかった。
そしてシルヴィは、アサシンへ更に言葉を続ける。
「私は、誰かに使われてこそ価値があるって、前のご主人様が仰ってました。
私がアサシンさんを使うよりも、アサシンさんに使われる方が……その、私には相応しいと思います。
なので、好きにして下さい。出来る限りの仕事は、しますから――――――」
「成る程、負け犬だな」
己の身の丈を卑下するかのように、シルヴィは黙々と語り続けた。
しかしアサシンは彼女の言葉を遮り、鼻で笑いながら言った。
「憎いと思ったことはあるか?」
唐突に、アサシンがそう問い掛ける。
え?とシルヴィはアサシンをきょとんと見つめた。
「おめえのその傷は『前のご主人様』とやらに刻み付けられたもんだろう。
それに己を卑下し続けるお前の性格……随分と『犬』として立派に調教されている様じゃあねえか。
痛めつけられ、苦しめられ、虐げられ、怒りが込み上げたことはないのか。
『何故己はこのような理不尽を身に受けねばならぬ。己に何の罪がある。何故主は私に虫螻同然の価値を与える』。
そう思ったことはねえか。恨めしくは思わなかったか」
アサシンは疑問を投げ掛けた。
シルヴィの肉体に刻まれた痛々しい傷、そして怯えながら他人の顔色を伺い続ける態度。
その様子から見て彼女が悲惨な境遇の持ち主であるということは理解できる。
しかし、だというのに。
何故彼女は「奇跡」を前に怯え続けている。
長年の怨念を晴らそうとか、巨万の富を得たいとか。
何故そういった欲望をちらつかせようとしない。
まるで負け犬であることを運命づけられた人形のようなシルヴィを見て、そう思ったのだ。
対するシルヴィは―――――アサシンの問い掛けに、ただ困惑するだけだった。
何を答えればいいのか、どう思えばいいのか、解らずに戸惑っていた。
まるで勉学を受けたことのない子供が唐突に読み書きの問題を出されたかのように。
武芸を知らぬ農民が唐突に刀を渡され、演舞を披露しろとでも言われたかのように。
少女はその場でおどおどと困ったような表情を浮かべていた。
「えと………その…………」
シルヴィはただただ困惑し、アサシンを上目遣いで見つめる。
そんな少女の様子を見て彼は確信した。
この小娘は枯れている、と。
性根まで負け犬なのだ、と。
主は最早己の欲望や感情すら忘れ去ってしまったのだと理解する。
自分は虐げられて当然であり、恵まれないのが運命なのだと諦観している。
幸せになる価値などないし、誰かの奴隷として生きるのが当たり前なのだと考えている。
それ故に己の『怒り』も『欲望』も自覚できなくなっている。
それがこのシルヴィという少女なのだと、アサシンは理解した。
「まあ、いい。おめえがどう思っているかは、いずれまた聞くとしよう。
ともかくだ―――――――」
フンと鼻で笑うようにシルヴィを見下す。
その眼差しには侮蔑と哀れみの感情が浮かんでいる。
枯れてしまった目の前の少女を無様に思い、心中で嘲笑う。
だが、それと同時に。
アサシンの口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「俺はかの宝物を盗む。奇跡の願望器、『聖杯』をな」
どこからか取り出した煙管を吹かしながら、アサシンは堂々とそう宣言する。
聖杯を得る――――ではなく、『盗む』。
その言い回しにどういった意味があるのか、シルヴィには分からない。
だが、アサシンにとっては聖杯を勝ち取ることは『得る』ことではない。
古今東西の英雄を差し置いて、自分のような悪党が聖杯を手にする。
これを『盗んだ』と言わずして何と言うのか。
「アサシンさんには、何か願いが……?」
「ない」
「え?」
「盗んだら、おめえにやる」
「……え?」
ふとした好奇心でシルヴィが聞いてみたのだが。
アサシンからは予想外の答えが返ってきた。
願いは無いし、聖杯を手に入れたらシルヴィに寄越すという。
呆気に取られ、きょとんとしたような表情のままシルヴィはアサシンを見つめる。
シルヴィはマスターであり、聖杯戦争の『知識』が既に頭の中に入っている。
聖杯はあらゆる祈りを自在に叶える力を持っている。
マスターのみならず、サーヴァントもまたその聖杯を求める。
自らの願いを叶える為に。己の祈りを実現する為に。
その為に参加者達は殺し合うのだと、認識していた。
だからこそ、アサシンが初っぱなから聖杯の所有権を放棄することを予想できなかった。
「俺の興味は『宝』を『盗む』ことだけにある。
価値ある宝を盗むことが俺にとって極上の楽しみよ。
一度盗むことに成功すれば、最早それに興味は無い。生きる為に盗む金は別だがな。
かつても数多の宝を盗んできたが、殆どは阿呆共にくれてやったわ」
アサシンは、『宝』を盗むことを楽しんでいた。
彼は生前からそういった気質の悪党だった。
富を独占する権力者を相手取り、彼らの財宝を奪い取る。
アサシンはその行為自体に快楽を見出していた。
故に宝そのものには強い関心を持たぬ。
彼は自身の生計に必要な金以外は全て、適当な連中に盗んだものを寄越してやる。
その在り方は聖杯戦争に於いても変わらなかった。
同時に、彼自身がシルヴィにも興味を持っていたが為に。
彼は、シルヴィに聖杯を託すことを望んだのだ。
「おめえの好きに使え。おめえの望みを叶えてみろ。
勝てばお前は『奴隷』として在り続ける必要も無い。
金、物、地位、愛―――――――或いは現世への復讐。全てがおめえの思うがままよ」
にやりと、アサシンが笑みを見せた。
己の中の『悪徳』を曝け出すように、主へと囁いた。
そんな従者の言葉に、シルヴィはただ無言で唖然とするしかなかった。
勝てば、何もかも手に入る。
奴隷である自分であっても、あらゆる願望が叶う。
そして。
―――――憎いと思ったことはあるか?
先程のアサシンの言葉が、脳裏を過った。
自分を痛めつけた主人を憎いとは思わなかったか。
己に降り掛かる理不尽に憤ったことはないのか。
こんな境遇を呪ったことはないのか。
それらに対する報復も、聖杯があれば行うことが出来る。
アサシンはそう囁いたのだ。
だが、シルヴィは答えを出せなかった。
自分が自分の境遇を憎んでいるのかさえ、彼女には解らなかった。
奴隷としての意識を刷り込まれた彼女は、何も言えなかった。
自分は、憎んでいるのだろうか。
それとも、このままでいいと思っているのだろうか。
解らない。解らない。解らない――――――
シルヴィの胸中に、複雑な感情が浮かび上がる。
そのまま彼女は両足を抱え、顔を埋めた。
「……答えはいずれ聞く。俺は偵察ついでに、現世の景色でも眺めに行く。
ま、これだけは言っておくぜ。俺は、おめえの『願い』に期待しているんだ」
そう言って、アサシンは瞬時にその場から姿を消した。
あ、とシルヴィはぽかんとした様子でアサシンが消えてしまった地点を見つめる。
そして、すぐに沈黙が訪れた。
―――――聖杯戦争。願望器。マスター。サーヴァント。奴隷。憎しみ。
数多の言葉が、シルヴィの中で渦巻く。
そのまま彼女は、その場で静かに踞り続けた。
◆
願いは無いし、聖杯を手に入れたらシルヴィに寄越すという。
呆気に取られ、きょとんとしたような表情のままシルヴィはアサシンを見つめる。
シルヴィはマスターであり、聖杯戦争の『知識』が既に頭の中に入っている。
聖杯はあらゆる祈りを自在に叶える力を持っている。
マスターのみならず、サーヴァントもまたその聖杯を求める。
自らの願いを叶える為に。己の祈りを実現する為に。
その為に参加者達は殺し合うのだと、認識していた。
だからこそ、アサシンが初っぱなから聖杯の所有権を放棄することを予想できなかった。
「俺の興味は『宝』を『盗む』ことだけにある。
価値ある宝を盗むことが俺にとって極上の楽しみよ。
一度盗むことに成功すれば、最早それに興味は無い。生きる為に盗む金は別だがな。
かつても数多の宝を盗んできたが、殆どは阿呆共にくれてやったわ」
アサシンは、『宝』を盗むことを楽しんでいた。
彼は生前からそういった気質の悪党だった。
富を独占する権力者を相手取り、彼らの財宝を奪い取る。
アサシンはその行為自体に快楽を見出していた。
故に宝そのものには強い関心を持たぬ。
彼は自身の生計に必要な金以外は全て、適当な連中に盗んだものを寄越してやる。
その在り方は聖杯戦争に於いても変わらなかった。
同時に、彼自身がシルヴィにも興味を持っていたが為に。
彼は、シルヴィに聖杯を託すことを望んだのだ。
「おめえの好きに使え。おめえの望みを叶えてみろ。
勝てばお前は『奴隷』として在り続ける必要も無い。
金、物、地位、愛―――――――或いは現世への復讐。全てがおめえの思うがままよ」
にやりと、アサシンが笑みを見せた。
己の中の『悪徳』を曝け出すように、主へと囁いた。
そんな従者の言葉に、シルヴィはただ無言で唖然とするしかなかった。
勝てば、何もかも手に入る。
奴隷である自分であっても、あらゆる願望が叶う。
そして。
―――――憎いと思ったことはあるか?
先程のアサシンの言葉が、脳裏を過った。
自分を痛めつけた主人を憎いとは思わなかったか。
己に降り掛かる理不尽に憤ったことはないのか。
こんな境遇を呪ったことはないのか。
それらに対する報復も、聖杯があれば行うことが出来る。
アサシンはそう囁いたのだ。
だが、シルヴィは答えを出せなかった。
自分が自分の境遇を憎んでいるのかさえ、彼女には解らなかった。
奴隷としての意識を刷り込まれた彼女は、何も言えなかった。
自分は、憎んでいるのだろうか。
それとも、このままでいいと思っているのだろうか。
解らない。解らない。解らない――――――
シルヴィの胸中に、複雑な感情が浮かび上がる。
そのまま彼女は両足を抱え、顔を埋めた。
「……答えはいずれ聞く。俺は偵察ついでに、現世の景色でも眺めに行く。
ま、これだけは言っておくぜ。俺は、おめえの『願い』に期待しているんだ」
そう言って、アサシンは瞬時にその場から姿を消した。
あ、とシルヴィはぽかんとした様子でアサシンが消えてしまった地点を見つめる。
そして、すぐに沈黙が訪れた。
―――――聖杯戦争。願望器。マスター。サーヴァント。奴隷。憎しみ。
数多の言葉が、シルヴィの中で渦巻く。
そのまま彼女は、その場で静かに踞り続けた。
◆
己(アサシン)は、高層建造物の屋上から街を見下ろす。
あの京の街とは偉く異なった風景が眼前に広がる。
己が生きていた時代から数百年の時が過ぎている、ということは理解していた。
だが、こうして改めてゆっくり眺めてみると実に壮観な物だった。
数百年の時があれば、人はこれほどまでに成長を遂げるものなのかと。
己はただただ圧倒され、感心していた。
柱の如き建物が無数に聳え建つ。
街を行き交う人々の数はかつての都さえも凌ぐ。
そして夜の闇をも克服したかのように、街は光に包まれている。
街路の灯火が、建造物の明かりが、人々の営みが、煌煌と輝いている。
月明かりや星空の光さえも上回る輝きが、そこには存在していた。
なんと美しいのだろう。
まるで街そのものが宝の輝きで埋め尽くされているかの如し。
千両は下らぬ値が付くであろう光の都。
数百年の時を経て、日ノ本は眩い程の発展を遂げているようだ。
これに勝る宝があるとすれば――――――――
『あの山門』から見下ろした、京の万両桜だけだ。
「嗚呼、絶景かな、絶景かな―――――――ってか」
聖杯さえあれば、この光を、この国を、この世界を掴むことでさえ夢ではない。
だが、それを掴む権利があるのは己の主だ。
己は富や権力などに興味は無い。
強き者から「盗む」こと、それ自体に価値があるのだ。
この世の富と権力を握る者を相手取り、そして奪うことに楽しさを見出す。
忠義に生き甲斐を見出す武士や、遊びに生き甲斐を見出す遊び人共と同じように。
己は、価値ある物品を盗むという行為そのものに生き甲斐を感じているのだ。
故に宝自体を欲している訳ではない。
日々を生き、適度に遊ぶ為の駄賃を盗めれば己はそれだけで十分。
だからこそ、聖杯そのものは不要なのだ。
聖杯は盗むだけであり、己が得るものではない。
『奇跡の願望器』という天下の逸品を『盗む』という行為自体に価値と快楽を見出しているが故。
己の欲望は、盗むだけで満たされるのだ。
そして主(こむすめ)が願望器を如何に使うのか、それが気になる。
あの主は負け犬だ。名誉や富という言葉には程遠い、薄汚れた虫螻だ。
悲惨な境遇の中で心の悪徳さえも枯れてしまった、正真正銘の抜け殻だ。
生前は似たような貧しき手前や、そこいらの民草に盗んだ宝を寄越してやったこともあった。
慈悲を与えてやっているのではない。ただ適当な弱者に「不要になった宝の後処理」を任せているだけだ。
大抵の者は餌を運ぶ蟻のように宝を持ち去り、金に換え、己の生きる糧としていった。
そうしている内に、民衆は己を『義賊』として持ち上げるようになっていった。
阿呆共め、と鼻で笑った数は数え切れぬ程。
そこいらの盗人は下衆だ悪党だと罵っておきながら、その盗人風情を英雄扱いとは。
所詮人の心は欲には勝てぬ。権力者の富を盗み、『分け前』を与えてやれば、連中はわらわらと群がってきて喜び出す。
根っから悪の道へと進む度胸は無い癖に、他人の悪によるお零れを何食わぬ顔で貰い受ける。
その様は宛ら、犬の糞に群がるしょぼい蠅共。
連中は己の心の悪徳から目を逸らす為に、俺を義賊という『英雄』として祭り上げているだけに過ぎぬ。
そんな悪党にも成り切れぬ腰抜け共を、己は幾度と無く嘲笑った。
だからこそ己は、主に『聖杯』を掴ませてみたいと思ったのだ。
生前の己が連中に寄越してやった宝とは格が違う。
聖杯は世界をも引っくり返す奇跡を起こせる、本物の『力』だ。
そして主は世の底辺に位置する弱者にして、己の悪徳というものを知らぬ乙女。
あの浅はかな連中よりも更に下の立場でありながら、卑しい心さえも忘れてしまった根っからの負け犬。
そんな小娘の内なる『悪』を咲かせてやったら、どうなるのか。
その後あらゆる奇跡を叶える最上の逸物を手にした時、果たして本物の『悪党』へと成り果てるのか。
己の欲望や憎悪を自覚し、己自身だけの為に奇跡を使うとするのか。
それが気になって仕方が無かった。
彼女の行く末を見届けたいが故に、己は主へと聖杯を捧げることを誓ったのだ。
狙うは奇跡の願望器。
千鳥の香炉にも、万両の桜にも勝る宝。
面白ェ、実に面白ェ。盗み甲斐がある。
この天下の大泥棒、石川五右衛門。
相手に不足はねえってもんだ。
【クラス】
アサシン
【真名】
石川五右衛門
【出典】
史実、日本・安土桃山時代
【性別】
男
【属性】
混沌・悪
【身長・体重】
190cm・85kg
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具C+
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
戦闘体勢に入れば気配遮断の効果が大幅に低下するが、アサシンは「忍術」スキルで低下を少し抑えられる。
【保有スキル】
盗人:A
天下を荒らした盗賊としての烙印。
「盗む」ことに長け、Aランクともあらば形ある宝具を盗むことさえ可能。
盗んだ物品は後述の風呂敷に収納することが出来る。
忍術:C
忍びとしての技能。
手裏剣などの忍具や忍術を扱える他、戦闘時に気配遮断スキルのランク低下を少し抑えることが出来る。
伊賀忍者の抜け忍としての逸話がスキルとなったもの。
韋駄天:B
大泥棒としての逃げ足の速さ。
逃走の際、敏捷値が1ランク上昇する。
また敵との遭遇時、戦場からの離脱判定に有利な補正が掛かる。
カリスマ(偽):D+
庶民の心を捉えた一種のカリスマ性。
生前の所業と後世の創作によって彼は『権力者に歯向かう勇敢な義賊』として英雄視されるようになった。
ただしそれらは大衆が作り出したイメージに基づく信仰に過ぎず、石川五右衛門という盗賊は決して善性の英雄ではない。
【宝具】
『万両桜の都、盗人が罷り通る』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
権力者を相手取り、盗みを繰り返した天下の大泥棒としての技能が宝具となったもの。
「盗む」という行為を働く時に限り気配遮断スキルが低下しなくなり、またアサシンのパラメーターとあらゆる判定に強力なプラス補正が掛かる。
更に対象が『権力者』としての逸話や属性を持つ者である場合、対象の権力者としての格が高いほど宝具による補正効果も上昇する。
【武器や道具】
『忍具』
忍術刀、手裏剣などの基本的な忍者の道具。
『風呂敷』
質量を無視して盗品を収納、または取り出すことが出来る風呂敷。
元々は石川五右衛門が生前にあらゆる盗品を包んでいた風呂敷。
彼がサーヴァントになったことで神秘を帯び、“盗品”という概念を自在に収められる魔術道具へと変貌した。
風呂敷を破壊されても再生が可能だが、破壊された際に収納していた宝具は全て本来の所持者の手に戻ってしまう。
【人物背景】
安土桃山時代に登場し、京の町を荒らし回っていたとされる天下の大泥棒。
1594年に豊臣秀吉の手勢の者らに捕らえられ、京都・三条河原で実子と共に釜茹での刑に処された。
『伊賀忍者の抜け忍だった』『豊臣秀次の家臣から秀吉の暗殺を依頼された』等といった数々の伝説があるものの、
史実における彼の素性や来歴に関しては未だ謎が多い。
江戸時代では歌舞伎や浄瑠璃の題材として取り上げられ、次第に『権力者・豊臣秀吉に歯向かう義賊』として扱われるようになる。
これによって石川五右衛門は庶民のヒーローとして広く親しまれるようになり、その後の創作にも大きな影響をもたらした。
此度の聖杯戦争における石川五右衛門は実際に秀次の家臣によって秀吉暗殺を依頼されており、
依頼と平行して秀吉が持つとされる『千鳥の香炉』を盗むことを目論むも失敗し、捕らえられて釜茹での刑にされている。
また伊賀忍者としての技能を駆使して権力者から盗みを行う義賊である等、後年の創作や伝説と合致した経歴を持つ。
しかし彼は結果的に民衆から「義賊」として持ち上げられただけの盗賊に過ぎず、民衆の味方でもなければ善人でもない。
石川五右衛門は己の悪徳に忠実な悪党であり、そして「盗むこと」と「強者に歯向かうこと」に生の実感と快感を見出だす傾奇者である。
【特徴】
外見年齢は三十代前半、厳つい顔立ちをした和服の男。
百日鬘のような髪型や派手などてら、煙管等、後世の『歌舞伎』のイメージが付加された装いをしている。
【サーヴァントとしての願い】
天下の逸品『聖杯』を盗む。
あくまで盗むという行為に価値がある為、手に入れたら主にくれてやる。
その過程で主の心の『悪』を咲かせる。
【マスター】
シルヴィ@奴隷との生活 -Teaching Feeling-
【能力・技能】
なし
【人物背景】
しがない町医者(主人公)が商人から引き取った奴隷の少女。
以前の主人から虐待を受けており、身体中に痛々しい傷が残っている。
過去の悲惨な境遇から当初は主人公にも素っ気ない態度を取っていたものの、彼の優しさに触れて次第に心を開いていく。
この聖杯戦争に呼び寄せられたシルヴィは前の主人を失い、主人公に引き取られるより以前。
そのため未だ他者に心は開いておらず、裏切りや虐待の恐怖に怯えている。
【マスターとしての願い】
???
最終更新:2016年09月01日 16:40