人気のない、薄暗いビルの中。
齢50に近い男が広げた地図に目を凝らしている。
軽装の鎧に身を包み、右目を眼帯で隠した猛禽のような中年男性は足音を聞きつけると、そちらに意識を向けた。
まもなく、若い女性が彼のいる部屋に入ってきた。
長髪を水色のリボンで括り、白のシャツに緑のキャミソールを重ねた装いは如何にも活動的である。
彼女は男の側に寄ると、青のジーンズを折り曲げて腰を下ろした。
「追手は」
男が尋ねると、女性――藤堂晴香は素っ気なく否定した。
「本当か?お前は素直というか、脇が甘い所があるからなぁ…」
「やめてよ…。それは痛いくらいにわかってるから…」
男はくつくつと喉を鳴らすと、二度三度頷いた。
晴香は愉快そうに笑う男――契約したアーチャーから目をそらすと溜息をつく。
彼女は冬木に招かれる以前、所属していた組織を裏切り、抜け出す事に成功した。
しかし、そこに到るまでが困難を極めた。
なにせ逆心が上にも横にも筒抜けだったおかげで、最後の任務で訪れた島では何度となく死にかけた。
皆の助けもあって無事に生還することはできたが…、
(…聖杯戦争)
彼女の細い首には今、新しい運命の輪が掛けられている。
何物にも縛られない"藤堂晴香"としての一歩目は、まだ踏み出せそうもない。
「それらしい噂や事故の話は聞かなかった。まだサーヴァントは出揃ってないみたい」
「…そうか。まぁ、今は情報を集める段階だ。招かれて早々、戦いに出る主従はいないと信じたいな」
頭を一度振って気分を入れ替えた晴香は息を吐くと、探索の結果を報告する。
それはアーチャーの予想を超えたものではなかったらしい。彼は報告を聞いても感情を表すことなく、「陣地の形成が終わった」と事務的に告げた。
ここは晴香の自宅からそこそこ距離のある場所に立つ廃ビルだ。
晴香は身近な場所を戦場に変えたくないという思いから、アーチャーは使い魔や気配探知によって拠点の位置を悟られるという懸念から、この場所に陣を張った。
離れているとはいっても、晴香が本気を出せば10分もかからない。
「郊外の森に向かうぞ」
「まだ作る気?」
時刻は午後4時を回っている。
「当然。陣地作成のランクは低くないが、籠城するには心許ない。数が欲しい」
アーチャーは魔術師ではないが、生前の逸話から陣地作成スキルを取得している。
しかし、神秘には主従共々縁が無い。暗示すら使えない彼らが拠点にできる場所は市街に多くない。
更に言うと、アーチャーは自分を格の高い英霊とは思っていない。同時代の英霊相手ならともかく、神話や伝説の主役たちには正面衝突では叶わない。
苦労して作成した陣地が高名な魔剣妖槍の一撃で駄目にされる、なんてこともあるだろう。
だが、あるとないとでは、発揮できる力が違う。用意しておくに越したことはない。複数あれば尚良しだ。
(費やす魔力は安くないがな)
アーチャーは立ち上がると手早く荷物をまとめて歩き出す。
続いた晴香が、彼に声を掛ける。
「先客がいるんじゃ」
「かもな。まぁ、その時は戦うか」
暢気な台詞に眉を寄せた晴香に、アーチャーは口の端を吊り上げて応える。
「任せとけ。俺は素人農民を率いて、正規の騎士団を潰したんだ。マスターに魔術師を狩らせる事だって出来る」
戦術というのは一つではない。自分達が神々と戯れた英雄を討ち取る可能性は、ゼロではない。
しかし大逆転を成し遂げるには、細やかな気配りと大胆な行動力、そして情報が必須だ。
それだけ揃えて、はじめて天に采配を託すことが出来る。晴香以外にも、宝具から何名か探索に向かわせたが報告はまだない。
「戦った事あるの?」
アーチャーの真名は既に調べてある。
調べた限りでは魔術と関わりはなかったはずだが、記録にない部分では違ったのだろうか。
気になって尋ねてみた。
「いや?だが、お前には寄生体だったか、化け物の群れから生き延びた経験がある。無理な話じゃないさ」
アーチャーは山猫のように不敵に笑った。
【クラス】アーチャー
【真名】ヤン・ジシュカ
【出典】史実、フス戦争
【性別】男
【ステータス】筋力D 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具D++
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、その人望は小国の王に等しい。
信仰の加護:C
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。
あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。
陣地作成:B
生前に軍事拠点を建設した逸話から獲得。
"工房"に匹敵する拠点の形成が可能。
【宝具】
『騎兵殺しの野戦城(ワゴンブルク)』
ランク:D++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~70 最大捕捉:1000人
アーチャーの得意戦法が宝具に昇華されたもの。
無銘の兵士達が詰めている戦闘用の荷車百台を召喚。これらは現界時点で円陣や方形陣を作っており、アーチャーの指示をうけた兵が弓、銃砲、投石で敵を迎え撃つ。
接近された時は長槍やフレイルを振るって応戦し、移動の際は陣内部に出現している馬に引かせる。
発動時の魔力消費はそれなりに重いが、維持にかかる負担は極めて軽く、数時間はアーチャー自前の魔力で問題なく維持できる。
この宝具は強力な騎兵殺しの概念を帯びており、相手がライダークラスであった場合、ダメージ値が大幅に向上。
くわえて、展開中は対峙した敵ライダークラスの敏捷・幸運および回避系スキルをワンランクダウンさせる。
荷車(馬車)、兵士を単体あるいは少数で出現させる事も可能。
その場合は殲滅力と魔力消費が落ちるが、騎兵殺しの恩恵は問題なく受けられる。
兵士はそれぞれ単独行動:D、騎乗:Bのスキルを保有するサーヴァントとして現界。宝具の一部扱いのため、相応の魔力を費やせば欠員を補充する事が可能。
【weapon】
「無銘:弓、無銘:大砲、無銘:歩兵銃」
いずれも魔力を消費して、矢弾を補給できる。
これらは宝具ではなく、アーチャーの個人装備。
「無銘:長剣」
近接用の武装。
【人物背景】
ボヘミアの没落貴族。
所領を追われた彼は傭兵として名をあげ、年老いた後はボヘミア王ヴァーツラフ4世の臣となった。
この頃、フスの教えに触れた彼はその思想に心酔。プロテスタントの先駆けと後に言われるフス派の信者となった。
フス戦争勃発時にターボルという城塞都市を拠点とした彼はターボル派のトップに収まると、カトリック側に幾度となく敗北をもたらした。
片目を失っていた事から、隻眼の二つ名を持って呼ばれる。
【聖杯にかける願い】
?
【マスター名】藤堂晴香
【性別】女
【Weapon】
コンバットナイフ
【能力・技能】
「構成員」
若い女性ながら、多彩な銃火器を使いこなして生物兵器と渡り合う事が出来る。
運動能力も高く、ナイフによる格闘戦もこなす。
【人物背景】
表向き大学生として過ごす、とある犯罪組織の構成員だった女性。
組織を抜けようとしていたが、その情報は既に漏れていた。
裏切り者の彼女は大学の友人達と訪れた孤島で、生物兵器の対人観察実験のモルモットにされてしまう。
自身に埋め込まれた生物兵器の核を分解する抗体を求めて、命がけのサバイバルをするはめになった。
ED12 『自由』終了後から参戦。
【聖杯にかける願い】
脱出する。
最終更新:2016年09月02日 08:09