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吉田咲&アサシン

無垢の蛹を脱ぎ捨てて、少女は地獄へ堕ちた。

ただ、最期の瞬間だとしても。

この胎内にある生命だけが、地獄の中でも救いであることを信じて。







「――――!!!」


声にならぬ叫びを上げながら、吉田咲は汚れきった公衆便所の床を転げまわっていた。
顔は視る影もなく泣きじゃくり、身体はかつての白い肌を全く連想させない汚れたものとなっていた。
閏をともにした男達を絶賛させた曲線美は既に無く、膨れた腹は咲の身体にある生命が一つではないことを雄弁に物語る。
本来、幸福の形であるその腹部とは反対に、咲の全ては不幸に満ち溢れていた。
ただ、彼女は変わりたかっただけだった。
変わって、変わることで、幸福を手に入れたいだけだった。
男に遊ばれた。
女に捨てられた。
父に襲われた。
母に罵倒された。
社会に餌にされた。
その末路が、同じく社会に弾き飛ばされた者達からの蹂躙だった。

「ぁあぁ……!……ぁ……!」

唇が開き、乾いた口内からそれでも唾液が出る。
腕を掻きむしる。
衝動。
薬物への依存を表していた。
おおよそ、堕落という全てが咲の体と魂に宿っていた。
つまり、彼女は変身をしたつもりが堕落という坂を転がっていっただけだったのだ。

「ぅ…ぅぅうう……!」

床に堕ちた、割れた眼鏡を拾う。
眼鏡をかけ、咲は這いよるような動きで立ち上がり、鏡を見た。
かつて、自身の外観に興味を持たなかった頃の姿を思い出す。
メガネを掛け、髪をきつく三つ編みに結い、ぶかりとした服を纏っていたあの頃。
咲の今の姿は、眼鏡をかけてもあの頃とは余りにも違いすぎるものだった。
長い髪は脱色し傷んでいる、あんなに綺麗な黒髪だったのに。
服はぴっちりとした、露出の多すぎる、淫靡な格好。
こんな形になりたかったのではない。
ただ、ただ。
幸福になりたかっただけなのに。

体が震える。
心への負荷と、体の薬物への訴え。
その二つが、彼女という存在を限界へと追い込む。
やっと、地獄が終わる。
そう思えば、咲は楽なのかもしれない。
それでも違った。
咲が思ったのは、中学校の卒業式のあの日と同じこと。
変わりたい。
幸福になりたい。
その想いに、何かが答えた。
腹部に一つの紋章が走った。


――――訊くよ、貴方が生きたいを願ったヤツ?


消えいく意識に響いた、その問に。
腹部を撫でながら、咲は小さく頷いた。







セックス、ドラッグ、暴力。

求めていたものはそんなものではない。

だのに、咲に与えられたものはそんなものだった。

そんなもののために、咲はあの日泣いたのではない。

幸福になりたい。

遍く生命が思うように、咲は、あの日そう思ったのだ。

ただ、少しだけ疑問がある。



――――自分は他者を不幸にしてでも幸福が欲しいのだろうか。






「いただきます」

結論として言ってしまえば、咲は死ななかった。
ただ、咲の中の生命の一つは消えた。
あれだけ膨れ上がった腹部はすでにキュッとくびれていた。
生命を引き換えに、咲は奇跡を呼んだ。
この世ならざる、人の世に刻まれた英霊を呼んだのだ。

「アンタ、馬鹿ね」

手を合わせて、コンビニエンスストアで購入した弁当に箸をつける咲を罵倒する少女。
黒い髪をボブカットに揃え、病気めいた白い肌の少女。
釣り目がちな瞳は強い意志を感じさせるが、顔つき自体はハイティーンの咲よりも幾分幼い。
大人びた雰囲気の女子小学生といった様子だ。

「食べる?」
「だから、触らないでって」

少し鼻にかかった高い声で、小生意気な口調で語りかける少女。
無地の白いシャツと赤い膝丈のスカートは余りにも野暮ったいが、どこか儚い美しさを持つ少女。
この世あらざる、触れてはいけないような寒々しい美しさだ。
そう、この世あらざるもの。

「触ったら死ぬんだから、何度言っても分かんないの?」

少女は、正しくこの世にあってはならない存在だった。

「アタシはね、そういう生命なの。
 そういう死ってやつを引き受けるヤツなの」

『女子トイレの三番目の扉』から召喚された反英霊。
人々の噂から生まれ、人々の信仰を背景とし、人々の穢れを引き受けた真実を持つ少女。
咲の生命を救い、咲の中の生命を奪った存在。
トイレの花子さんと呼ばれる少女は、吉田咲という少女を主として選んだのだ。

「花子ちゃんは食べなくても良い?」
「花でも食べてるよ」

洒落なのか、真実なのか。
判断がつかずに、困ったような顔をつくる咲。
花子さんは余り動かない表情筋を、やはり動かさず。
唇だけを動かした。

「ちゃんと、咲が食べなきゃ。
 子供のためってのは、そういうことなんだよ」

二人でベンチに腰掛け、夜空を眺めた。
曇天の夜空に星など無く、肌を刺すような寒さを連想させる暗さだけがある。
それでも、寒さはなかった。
花子さんの持つ呪による術だった。
花子さんが落ち葉へと触れた。
カラカラと枯れ果てていた葉っぱが、その残りカスのような生命すらも失い。
灰のように崩れ落ちた。
まるで私のようだと、口にこそ出さなかった咲は思った。




「駄目だよ、おっさん」

ある日の事だった。
咲は『売り』を続けていた。
それ以外に貨幣を稼ぐ術など知らなかったからだ。
また、咲が欲する『クスリ』のためには売りのような術が必要だった。
ただ、今回は余りにも相手が悪かった。
咲を唆して純度の高い『クスリ』を打ち。
強烈な『キメセク』へと導いた。
最初に規定した時間を三時間も上回るその行為によって、咲は蛙のように裏返り手足を震わせる。
秀麗なその顔は目が裏返り、限界まで舌を伸ばすことで見るも無残なものとなっている。
男は、美しい女の無様な姿が好きだった。
そのために金を手に入れたと言っても不思議ではない。

「咲はあんまり頑丈じゃないんだ、こんな無茶なことされちゃ」

咲の選択と考え、気配を遮断したまま口は出さなかった。
咲は自身をトイレの花子さんと知っても、それを利用しての金儲けを目論まなかった。
単純にその発想がなかっただけなのかもしれないが、花子さんとしてもわざわざ提案する必要もなかった。
ただ、それでも我慢できないものもある。
いつも動かない表情筋は、ピクピクと動き、怒りの表情を抑えようとしていることを訴えてきた。

「ブヒヒ!
 わからんのかね、この女の人権は私が買い取ったのだよ!」

そんな花子さんの言葉に、咲を買った男は開き直るように言い放った。
突然現れた花子さんのことを不思議に思わない。
ただ、売りの仲間なのだろうとしか考えなかった。
ピクリと、抑えきれないように表情筋が動いた。
それでも身体は動かさずに唇だけを動かす。

「咲の生命は咲のものだ」
「知らんなぁ~!生命に値段はつけられんが、この身体には値段がつけられるのだよ!
 このまま帰らずに、余りある金を置いてやるだけで私は稀に見る善人だよ!」
「アンタが善人ならアタシは神様みたいなもん――――って、それじゃアンタが善人になっちまう」

もはや、我慢がならなかった。
花子さんはゆっくりと手を伸ばした。
このまま邪気を放つことでも呪うことは出来るが、それでは我慢できなかった。
死というものを。
本来、身近に存在するそれを遠いものだと信じきっている男に与えるために。
その小さな腕を伸ばして、短い指で男の唇に触れた。

「ブヒヒ……その歳で淫売とはな」

それが最後の言葉だった。
男の唇を分け入るように指を口内へと突っ込み、舌を優しくなでた。
瞬間、男の中のあらゆるものが動きを止めた。
それは内臓の動きであり、血の流動であり、魂という輝きだった。
あらゆるものが動くことが産まれるということならば。
あらゆるものが止まることが死ぬということだ。
男は死んだ。
呆気無く、呆気無く。
本来あるべき、死を間近に思わなかった男は。
死そのものである花子さんに、赤子のために死を引き受け溜め込んだ花子さんに。
死を与えられたのだ。

花子さんは一瞥もせずに、その肉という肉を殺した。
まるで、最初から何も存在しなかったように、男の肉体は喪失した。
残るのは、無様にベッドで転がる咲だけだった。

「アタシはアンタが好きだよ」

百人が見れば百人が顔を背けるその様を、花子さんは愛おしげに眺めた。

「慌てたような顔でトイレや病院に駆け込むようなヤツよりも。
 アンタみたいな、泣きながらお腹をさすっているようなヤツのほうがずっと好き」

指を伸ばしかけ、引っ込める。
自身が触れれば、咲は死ぬだろう。

「男に遊ばれて、女に罵倒されて。
 男に打ち捨てられて、女に見捨てられて。
 それでも、その原因となるはずの生命を産みたいと思ってくれたなら」

くるりと振り返り、飾られた花を触る。

「アタシはアンタの味方。
 アンタはアタシに触れられないけど、アタシはアンタを守るよ」

花が萎れた。
花子さんの傍で生きる生命はない。
そういうものなのだ。
国を作るために、赤子は穢れを引き受けて、世界の外へと流されなければいけなかった。
海の外にあるとされる死後の世界へと流れ着いて、現し世の穢れを運ばなければいけなかった。
今は自由自在だ。
死後の世界である『幽世』の扉を開くことで、この街の全てを死へと染め上げることが出来る。
トイレの花子さんという都市伝説の皮を被って現れた神霊が持つ権能ならば、其れが可能なのだ。

「例え世界を殺してでも、アンタの『穢れ/全て』を持っていくよ」

死の権能を、花子さんが振るうことは躊躇いはなかった。
花子さんにとって、母の愛は、親の愛は。
不幸の底に居ても、死の間際に居ても。
子を撫でようとした咲のような存在は。


――――たった其れだけで、救いなのだから。


.




【クラス】
アサシン

【真名】
トイレの花子さん@都市伝説、古事記

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:EX 幸運:E 宝具:EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:B
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】
神性:A
トイレの花子さんは、民間信仰における『トイレの神様』に由来する。
花子さんが女性なのは安産祈願のトイレの女神様に由来し、名前はトイレに備えられた造花に由来する。
また、安産であり死を代行する性質から、日本神話におけるある神とも同一とされる。
その神の概念こそが、花子さんの宝具である。

変化:A+
借体形成とも。
ある逸話から、花子さんは三つの頭を持つ体長三メートルの大トカゲへと変身することが出来る。
ただし、この逸話をスキルとして昇華されているために、あらゆる逸話による弱点も花子さんは持つこととなっている。

呪術:D
花子さんが持つ、あるいは負わされた邪念や死を、対象へとぶつける術。
その起源から人身御供の生贄としての一面を持つ花子さんは、多くの死を内包している。


【宝具】
『原初に罪ありき、漂浪する葦の逆子(ヒルコ)』
ランク:EX 種別:対命宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:1人
トイレの花子さんの真の正体。
この国において、初めに流された赤子であるヒルコ神そのもの。
原初の時代において海の外とは単なる国外という意味ではなく、死後の世界という意味を持っていた。
川を流され、海にたどり着き、それでも漂流し続けたヒルコ神は死後の世界へと辿り着いた。
ヒルコ神はすでにこの世の存在ではなく、その身全てが『死』そのものである。
ヒルコ神に振れることはこの世における生命をあの世へと運ばれることを意味する。

故にヒルコ神、花子さんへと触れたものは死が瞬時に訪れ、また、死後の世界への門を開く事もできる。

【weapon】

【人物背景】
トイレの花子さん。
1950年代に流布された『三番目の花子さん』という都市伝説がベースとなり、1980年代に流布された『トイレの花子さん』その人。
「休日の学校に遊びに来ていた少女が変質者に追われ、トイレの3番目の個室に隠れたが見つかって殺害された」
「生前、父親から虐待を受けていた少女の霊で、おかっぱ頭はその時の傷を隠すため」
「福島県の図書館の窓から落ちて死んだ少女の霊」
など様々な説がある。
弱点や特徴なども全国で差異があり、トイレの花子さんとして召喚された花子さんはその全ての特徴として内包している。

今回の花子さんの背景として、江戸時代から昭和初期にかけて盛んだった厠神信仰が元となっている。
すなわち、名前の『花子』はお供え物の花が原型。
少女であるのは妊婦たちの神であるため。

という、『皮』を持っている。
背景である厠神の共通点を『皮』として。
神々に捨てられた『水子』であり『神霊』である『ヒルコ神』が現界した。

【サーヴァントとしての願い】
赤子に祝福を、愛する母に幸福を。



【マスター】
吉田咲@変身

【参加方法】
公園の公衆便所にて輪姦されていた際、胎内の赤子を代償に召喚の儀式を成功させる。

【マスターとしての願い】
不明

【weapon】
なし

【能力・技能】
非常に整った顔立ちをした、しかしそれだけの平凡な少女。
生来からの資質として、性欲に溺れやすい。
いわゆる淫乱。
その性質がドラッグによって増加されている。
キメセク中毒。

【人物背景】
平凡な女子高生。
中学時代の三年間、一人も友人が出来ないまま卒業を迎えたことを期にイメージチェンジ。
野暮ったい服装や髪型を大幅に変え、見事に高校デビューを成功させる。
しかし、その後に初めてのナンパに浮かれて『お持ち帰り』をされ、一方的にナンパ男を彼氏と信じこむ。
また、友人に唆されて援助交際にも手を出し、悪い道へと染まっていく。
そんななか、家庭においても、母の面影を見た父に襲われ、母からは父を誘ったと罵倒され家出。
ナンパ男の元へと逃げ込むが、ナンパ男にクスリを勧められ、手を出し、そのクスリのために『売り』を強要される。
やがて誰の子ともわからぬ子を妊娠し、男に捨てられる。

最後はトイレの公園で輪姦され――――

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最終更新:2016年09月03日 22:41