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レオナルド・ウォッチ&セイバー

こんな時代だ。

人生は絶え間なく連続した問題集。

そろって複雑。選択肢は酷薄。加えて制限時間まである。

一番最低なのは、夢みたいな解法を待って何ひとつ選ばないことだ。

オロオロしている間に全部おじゃん……それで一人も救えない。

だから、選ばなきゃいけない。一人も殺せないヤツが一人も救えるもんか。

ぼくたちは神様とは違う。万能でないだけ鬼にもならないといけない……




……でも。

それでも、ぼくは。


     ◆


「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬこれは完全に死ぬ死んじゃう死んじゃう!」

口から漏れ出るのは泣き言ばかり。でも路地裏を駆ける足は止まらない。
嫌になるが、実のところこんなことは慣れっこだ。
道を歩けば化け物に出くわす。扉を開けば奈落が口を開けている。
命の危険なんてどこにでも転がっているものであり、特にあの街、ヘルサレムズ・ロットではそれこそ日常茶飯事だ。

が、ここはヘルサレムズ・ロットではない。

一人走るレオナルド・ウォッチの側には誰もいない。
秘密結社ライブラのリーダーにして無類の紳士、鉄の心と鋼の拳で人界を守護するクラウス・V・ラインヘルツも。
皮肉屋で人間のクズで金にがめつく平気で約束を破りすぐに暴力に訴える度し難い人間のクズ、だがここぞという時には頼りになるザップ・レンフロも。
寝起きをともにしている小さな相棒、音速猿のソニックも、よく一緒に食事に行く気安い友人のようなツェッド・オブライエンも。
チェイン・皇、スティーブン・A・スターフェイズ、K・K、ドグ・ハマー、ギルベルト・F・アルトシュタイン……ライブラのメンバーは誰もいない!
だというのに、レオを襲う危機はいつも通り致命のそれだ。

「……っと!」

『視えた』光景を元に頭を下げる。その数瞬後、カマキリの鎌のような(ただし大きさは自動車サイズだ)刃が通り過ぎる。
電柱をバターのように切り倒したそれは、鋭く風を切って再度レオへと迫る。

「ああ、もうっ!」

『予め視えていた』それを余裕を持ってかわし、レオは再度走り出す。
後ろから巨大な物体が近づいてくる感覚。
レオナルド・ウォッチは追われていた。カマキリの鎌とライオンの頭にクモの胴体を持つ、キメラとしか形容できない存在に。

「くっ、そろそろ限界か……!?」

レオに戦闘力はない。彼にできるのは、見る/視ること、ただそれだけ。
かつて人界は異界と遭遇し、様々なものが変容した。
中でも特に危険とされるのが「血界の眷属(ブラッドブリード)」を筆頭とする異界の住人たち。
そのうちの一つ(かどうかすら定かではないが)、名も知らぬ上位存在に、レオは行き会ってしまった。
そして押し付けられたのが、レオの煌々と光る両目――『神々の義眼』である。
遠視透視に限らず眼にまつわることならほぼ何でも可能な眼だ。短時間の未来視さえも。
世の好事家たちからは超一級の芸術品として扱われるこれは、レオを苛む呪いにして、現状ではただ一つのレオの武器。
襲い来る化け物を撃退することはできないが、その攻撃を凌ぐことはできる。

「でも、逃げてるだけじゃ何も変わらない!」

普段のレオは、この義眼を用いて仲間をサポートする。
攻撃力に優れたザップやツェッド、封棺の業を持つクラウスらの力を何倍にも高めるこの力は、だが単体では驚くほどに無力だ。
レオ自身にキメラを撃退する力はない。どうにか義眼をフル回転させて逃げ続けているものの、そろそろ限界が近い。
眼下の周りの肉がぞっとするほど熱を持っている。義眼が発する熱。これが続けば、やがて義眼と直結した脳が煮崩れる……
嫌な想像を振り払い、レオは真っ直ぐ前へと進み続ける。が。

「げっ……」

この目には欠陥がある。それは、見たくもないものまで見えてしまうことだ。
三秒後、レオの前に蛇の胴体に鷲の翼を生やした別のキメラが舞い降りてくる。
そしてそいつは炎を吐くのだ。ちょっとやそっと動いたくらいではどうしようもないくらいの、吹雪のような炎を。
それで終わりだった。避けられる鎌と違って、レオが炎を防ぐ手段は何もない。
炎に呑み込まれる自身の姿を眼に焼き付ける。レオの足が止まる。

「嘘だろ、これで終わりだってのか」

クモのキメラが追いついてきた。蛇のキメラが舞い降りてきた。
二匹は新鮮な肉をしゃぶり尽くせる期待にギラギラと目を輝かせる。
視界を操作して、と閃くも、蛇は眼ではなく別の器官で獲物を見分けるという話を思い出す。

「どうする、どう……!?」

それでもやらないよりマシだ。
キメラ二体の視覚をシャッフル。ライオンキメラが戸惑ったように呻く。
その横を駆けて抜ける……レオの瞳は、しっかりと自分を追って首を巡らす蛇の頭を捉えていた。

(ダメか――!)

かぱ、と顎を開けた蛇の口腔から、灼熱の奔流が解き放たれる。
義眼の予言通り、レオはここで死ぬ。

「畜生……!」

義眼が示した通り、レオナルド・ウォッチは炎に呑み込まれた。
そして、死ななかった。

「え……?」

眼を開けたレオの眼前。そう、手の届く距離にそれはいた。
腕を組んで仁王立ちする偉丈夫。蛇キメラの放つ炎を全身に浴び、微動だにせず立ち尽くす。
そいつのおかげで、炎はレオまで届いていないのだ。
すう、と息を吸い込む音が聞こえた。


「やあやあ、遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」

大喝一声。
物理的な衝撃さえ伴うその雄叫びは、蛇キメラの炎を真正面から吹き散らすほどの大音声。
獣であるライオンキメラと蛇キメラが大きくたじろぐのが視えた。

「吾輩こそは日本一の腕っ節! 鬼さえ泣き出すゥ――桃太郎ォォォォ――――――ッ!! で、ある!」

彼らは予感したのだ。眼前のこの男こそ、災厄の化身にして死神と同義の存在。
己を葬る断罪の剣であると!
男――桃太郎は、組んでいた腕を解いた。
そしてようやくレオにもその姿がはっきり認識できた。
白い具足、紅い手甲、翠の胴鎧、そして桃色の兜。背中に背負った二本の旗。『日本一』『桃太郎』の文字。
東洋の鎧に身を包んだその男は、旗を両手に引き抜くと大上段に構え。

「でやぁぁぁぁぁああああああああ――――――っっ!!!」

大地震わす踏み込みとともに、ライオンキメラに殴りかかる!
左の旗がまず防御の鎌を圧し折る。次いで振るわれた右の旗が一撃でライオンの頭部を爆砕した。
相方を一瞬で討ち取られ、蛇キメラは怯えた声を漏らしながらも翼を打って空へと舞い上がる。
瞬く間に蛇キメラは上空へと逃れる。
旗振り男の手はもう届かない。とレオが思ったのも束の間。

「逃がさんぞ!」

桃太郎が気合を吐くと、その背に折りたたまれていた盾……否。翼だ。翼が大きく広がった。
眩い煌めきを放つ、金属の翼。それは熱風を吐き出し、桃太郎の巨躯を宙へと押し上げる。

「飛んだ!?」
「応とも、飛ぶぞ! そら、見ているが良いますたぁよ! この桃太郎の……!」

驚愕するレオの目前から、桃太郎は一瞬で天へと飛翔する。
先に飛び上がった蛇キメラに一瞬で追いつく。追い抜く。夜空の星をその手に掴まんとするように。
そして……まさに星のように小さな点となった桃太郎の視線が、蛇キメラを、その下のレオナルドを射抜く。

「邪悪を滅する正義の一撃を!」

桃太郎は翼から炎を吹き上げ、爆発的な速度で急降下する。
炎は桃太郎の全身を伝い、一箇所に流れていく。
肘部の装甲が展開し、せり出してきたノズルが爆炎を吐き出す! 拳が加速する!

「とあああああぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!!」

こうして繰り出された隕石の如きファイアパンチは、蛇の頭を一瞬にして粉微塵に打ち砕いたのだった。

「……はあ、つまりあなたは僕のサーヴァント、ってわけで」
「うむ、そうだ! 遅参したのは済まなんだ、許せ! 何せ吾輩、現世には疎いものでな!
 走って向かっていたのだが、この地はどうにも入り組んでいてな! すっかり迷ってしまったのだ!」
「道に迷ったって……それどうなの……」
「いや、だがますたぁにも問題があるのだぞ? 元いたところに留まっておればすぐに合流できたのだ。
 だがオヌシ、先ほどの獣どもを倒すでもなく引き連れて走り回っておったでな。あっちこっちに気配が移動するので吾輩も困ったのだ。
 我ら、未だに契約を完遂せぬ身。こうして間近にいてこそようやく気脈も通じるというもの」
「契約。ああそうか、それで……聖杯戦争ね。それをやらなきゃいけないんだな」

今では全て思い出した。ここがどこなのか。ヘルサレムズ・ロットではなく、ライブラの皆がいない理由も。
レオナルド・ウォッチは聖杯戦争に参加したのだ。

「うむ。だが吾輩、特に叶えたい願いはない。強いて言うなら邪悪を祓う……まあそのくらいだ。
 だがますたぁの願いを叶えてやりたいという気持ちはある。先ほどのオヌシの逃避行、余人が巻き込まれぬよう敢えて人の少ない場所へと向かったであろう。
 そんなことをするますたぁが悪人であるはずがない。ならば吾輩、身命を賭して汝の刀となるに些かの躊躇いもない!」
「そ、そうかな……」

どうやら桃太郎にはよほど気に入られたらしく、どうするにせよ決定権はレオに預けてくれるらしい。
レオはじっと考える。
聖杯。万能の願望機。
それがあれば、この『神々の義眼』も、妹の、ミシェーラの眼も……

「……どうするべきかはわからない。でも、これは……僕にとっての光だ」

正しいかどうかではない。そこに一片でも希望があるのなら。
レオナルド・ウォッチは、そこに向かって一歩でも進み続けなければならない。

「すぐに答えを出す必要はない、ますたぁ。悩む時間くらいは吾輩が作ってみせよう。
 善きものを護る。それが吾輩の存在理由にして、ただ一つの願いであるがゆえ」

レオの頭を荒々しく撫でる桃太郎の掌。
何故だかその感触は、桃太郎とは似ても似つかないはずの尊敬すべきライブラのリーダー、クラウスを思い起こさせるものだった。





【クラス】 セイバー
【真名】 桃太郎
【出典】 おとぎ話『桃太郎』
【属性】 秩序・善
【性別】 男性
【ステータス】
 筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:C 幸運:A 宝具:A → 筋力:B+ 耐久:B+ 敏捷:B+ 魔力:C 幸運:A(宝具展開時)

【クラス別スキル】
騎乗:E
 桃太郎が何らかの乗り物に搭乗したという逸話は少ない。バイクや車なら練習すれば人並みには乗りこなせる程度。
対魔力:A
 Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
【保有スキル】
神秘殺し:A
 魔性に属する存在に対し、ダメージを2倍にする。
黄金率:E
 人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
魔力放出(炎):A (宝具使用時のみ)
 魔力によるジェット噴射。邪悪を滅する桃太郎の意志が紅煉の炎となって燃え盛る。
【宝具】
『四心合一・破邪装魂』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:1
 かつて桃太郎に付き従った三匹のお供の魂を召喚し、鎧として身に纏う宝具。
 通常は一種ずつ選んで使用するが、数種同時に使用することも可能。その際、消費する魔力は使用した数の加算となる。
  「犬の装」
   腰下から足先にかけて顕現する白の具足。脚力を強化し、敏捷値に+補正を追加する。
   足裏にスパイク、脛にアンカージャッキが備えられ、それぞれ蹴撃力・ジャンプ力を引き上げる。
  「猿の装」
   肩から手先にかけて顕現する紅の手甲。腕力を強化し、筋力値に+補正を追加する。
   肘部のノズルから圧縮した炎を排出することで前腕部の動きを加速し、剣戟・殴打・投擲の威力を引き上げる。
  「雉の装」
   胸腹部から背中にかけて顕現する翠の胴鎧。体力を強化し、耐久値に+補正を追加する。
   ウイングを展開することで空中戦を行えるようになる。また、この翼は自由に稼働し全身を覆うシールドとしても機能する。
   翼から羽根一枚一枚を鋭い刃として射出することができるが、さらに猿の装と組み合わせることで本領を発揮する。
  「桃の装」
   三種の装を同時に顕現させ、さらに桃色の兜を追加した甲冑を身に纏う。
   古来より桃が持つとされる「邪気を祓い不老不死の力を与える霊薬」の特質が極限まで強化される。
   あらゆる精神干渉を遮断、Aランクの魔力放出(炎)を獲得し、戦闘中の治癒速度が大きく上昇する。
『お腰につけたきび団子』
ランク:C 種別:対心宝具 レンジ:1 最大補足:1
 桃太郎が三匹のお供に与え仲間にしたきび団子。
 人語を介さない多種族のものであっても、このきび団子を与えることにより桃太郎に友好的な協力者とすることができる。
 ただし自我があまりに強固な対象(健常な精神のマスター、サーヴァント全般)には通じない。
 主な用途は動物や使い魔などが挙げられるが、重度の精神汚染を患う対象であればマスターやサーヴァントであっても短時間だが有効となる。
『日ノ本一の快男児』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 『日本一』『桃太郎』と荒々しい筆致で書き殴られた二本の旗。桃太郎が召喚された瞬間から自動的に発動する。
 旗は武器として使うこともできるが、宝具の効果は旗を媒介としておらず、あくまでトリガーにすぎないため破壊されたとしても効果を解除することはできない。
 『桃太郎』は日本で一番有名な童話と言っても過言ではない。
 そのため、聖杯戦争の開催地が日本である場合、桃太郎は常に最大級の知名度補正を受ける。
 高いステータス・スキルランクはこれに起因するものだが、同時に桃太郎は決して己の真名を隠蔽することができない。
 敵対者に対しまず名乗りを上げるのもこの宝具の強制力によるもの。

【weapon】
 日本刀、旗×2

【人物背景】
『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
 おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。
 持ち帰った桃を切ってみると、なんと中から元気な赤ちゃんが飛び出てきました。
 おじいさんとおばあさんは赤ちゃんを桃太郎と名づけ、大切に育てました。
 やがて大きく成長した桃太郎はこう言いました。

「鬼ヶ島にいる悪い鬼を退治します」

 おじいさんは立派な刀と鎧と桃太郎の名前を書いた旗を、おばあさんは心を込めて作ったきび団子を桃太郎に持たせました。
 旅だった桃太郎の前に、イヌとサルとキジがやってきました。

「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたきび団子、一つわたしに下さいな」
「いいとも。その代わり鬼退治を手伝っておくれ」

 こうして桃太郎は三匹のお供とともに鬼ヶ島へやってきました。
 鬼たちは近くの村から集めてきた食べ物やお酒や宝物で大騒ぎ。

「それっ、一匹も逃がすな!」

 桃太郎一行はばったばったと鬼を薙ぎ倒し、ついに全ての鬼を退治しました。
 鬼が集めた財宝を手土産に、桃太郎たちはおじいさんとおばあさんの待つ家へ帰りました。
 桃太郎が鬼をやっつけて無事に帰ってきたことに、二人はたいそう喜びました。
 三人は財宝のおかげで幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』

【サーヴァントとしての願い】
 善を為し悪を滅する。マスターの願いを叶える。



【マスター】 レオナルド・ウォッチ
【出典】 血界戦線
【能力】
『神々の義眼』
 現世の理の外にある上位存在から(強制的に)授けられた義眼。
 義眼ながら通常通りの視界を維持するのはもちろん、遠視・透視・他人の視線や視界を操作・幻を見破る・視界の中継・残留思念を視る、など、
 およそ見る・視る・眼にまつわることなら何でもできると思われる。
 ただしそれを処理するレオナルド本人はあくまで常人であるため、あまりに多量の情報を受容すると目の周りの肉が焼け爛れ、果ては脳が沸騰する。
【人物背景】
 人界と異界が渾然一体と成り果てた都市「ヘルサレムズ・ロット」で暮らす新聞記者。
 ……というのは表向きの身分であり、その実は世界の均衡を護る秘密結社「ライブラ」の構成員。
 命が紙切れよりも軽いヘルサレムズ・ロットにあって、日常的に死の危険と対面しながらも決して退くことなく街に留まり続ける。
 その目的は、自身に神々の義眼を押し付けた上位存在の情報を集め、契約の対価を支払った妹の運命を救うことにある。

【マスターとしての願い】
 上位存在との契約を破棄、以ってミシェーラの視力を回復する。

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最終更新:2016年09月03日 22:48