斯波敦&キャスター

 わたしの……て…
                       はな  したの…?

  アツシくん……     シン…ちゃん…


        わ…た…しを    オイテ…   
                      …イクノ…?


        ――オイテ  イカナイデ――





「うわあああ~~~!」


 斯波敦内閣総理大臣は、いつもの悪夢から目を覚ました。
 ビッショリと寝汗を掻き、心臓も激しく鼓動している。
 冬の空気も手伝ってカラカラで湿り気のない喉は、空気を取り入れようと肺が必死になるたびに痛みを伴う。
 
 何十年も経った今でも、忘れられない実際にあった過去の悪夢。
 興味本位の肝試しで幽霊屋敷に挑み、友人の1人が化物になって死んだ時の夢。
 行こうと誘ったのは自分、何度後悔したかなど自分の管理する国の総人口でも足りないほどだろう。
 “あっち”では定期的に見るばかりだったが、“こっち”に来てからは特に酷い。
 否、記憶が戻ってから――であるが。

「よう、ますたぁ。また例の夢かぃ?」
「ああ、キャスターか、すまないが水を一杯頼む」
「ちっとばかし待ってな」

 小さな電気スタンドの灯りを頼り、椅子に腰掛け本を呼んでいた男が斯波の叫びで顔を上げた。
 いまどき時代劇でしか見かけないような古臭い着物を来た男――サーヴァントというものらしい。
 昼はぶらぶらと街を歩いたり、ネットサーフィンに興じてみたりと好奇心旺盛な男だ。しかし打って変わって、夜は決まってなにやら本を読み、静かに斯波の目覚めを待っているのだ。
 斯波の頼みを聞き入れ、男は台所へと消えていった。

 ――3日前、今日と同じように悪夢によって目覚めた時から、斯波には聖杯戦争の基本知識が備わっていた。
 なんでも願いが叶う「万能の願望機」――なんともオカルト的だが、すでに信じる信じないの域を超えた現象が起こっているため、理解するのは簡単だった。
 むしろ金や権力など現実的なものよりも、斯波にとって最も欲している物でもあった。
 なにせ斯波が挑んでいる相手こそ、最凶のオカルトなのだから。

 その上聖杯の知識と同時に目の前に現れた男は、聖杯からの知識に拠れば『魔術師』だという。
 まだ真名を教えて貰ってはいないが、妖怪の専門家だという話だ。
 まるで盆と正月が一緒に来たようである。
 このチャンスは決して逃すわけにはいかない。
 斯波は残りの生涯の全てを掛けてでも、聖杯を手にする事を誓った。

「はいよ、水。しっかしお前さんも難儀なもんだねぇ、毎朝叫んで飛び起きて、その内身体にガタが来ちまうぜ?」
「……いや、これで良い、これは私自身への戒めなのだ。
 あの幽霊屋敷――〈双亡亭〉への憎しみを再び忘れることの無いように、確実に、聖杯を手にするために」

 そう、あの悪夢も悪いところばかりではないのだ。
 なにせ――冬木の地で何も知らずにのうのうと過ごしていたマヌケな自分を、現実へと引き戻してくれたのだから。
 今まで一分一秒でも忘れたことのない双亡亭への憎しみを、思い出させてくれたのだから。

「いや、聖杯さえどうでも良い。キャスター、君があの屋敷を破壊する手段を見つけてくれれば、聖杯に願うことなど他に無い。例え私の死と引き換えであっても、あの屋敷さえ破壊できれば……」

 寝起きとは思えない程の力で拳を握りしめ、鬼気迫る表情で斯波は語った。
 その姿を横目に、キャスターは再び椅子に座って本を開く。
 しかし、開いた本に目を向けているものの、意識は字を追ってはいない。
 懐から煙管を取り出し、一摘みの刻煙草をゆっくりとふかし始めた。
 これは考え事をするときの癖のようなものだ、本と煙草で目や指を遊ばせながら意識は深く

「幽霊屋敷ねぇ……」

 キャスターの過ごした時代にも、そういった噂は多く存在していた。
 しかし、実のところ幽霊が出る屋敷や、幽霊が住んでいる場所ばかりで“屋敷自体が幽霊”の屋敷はあまり聞き覚えがないものだった。
 キャスターとして召喚されてから斯波から多くの話を聞き、様々な推測を立てては見たがやはり実物を見てみないことには正体を掴む事は難しい。
 聖杯戦争の間しか存在することができず、冬木の地に縛られている現状がこの上なくじれったく感じていた。
 この地に召喚されてから読んだ文献にも、それらしいものはまだ見つかっていない。

「あたしには叶えたい願いなんざねぇさ。てぇか、お前さんの顔見てたらくだらねぇ願いなんざ失せちまったわな。こうして本を読みながら、未来の妖怪や風俗が知れりゃあ満足よ。こん先も手掛かりが掴めっかわかんねぇし、一先ず幽霊屋敷ぃこた置いといて、聖杯をぶんどることだけ考いようや」
「……ああ」

 斯波は漸く気分が落ち着き、寝台を降りる。
 現在午前5時、なかなかに早い時間の起床である。
 というのも、冬木の地でも斯波の地位は総理大臣のままなのだが、なぜだか長期の休暇ということになっているのだ。
 総理大臣が長期休暇など前代未聞だが、寝室どころか身内の小旅行にまでぞろぞろと付いて来る護衛達が部屋に1人もいない時点で、早々に“ここはそういう場所なのだ”と理解した。

 普段悪夢と仕事に追われて十分な睡眠が取れていない斯波は、記憶を取り戻すまで本当ゆっくりとした休暇を過ごしていた。
 おそらく、それは休養期間だったのだろう。
 体調が万全になるまで、聖杯が与えてくれた僅かな時間。
 ならば、もう休みなど斯波には必要ないのだ。

「どうせ宝具でばれちめぇから、黙ってたんだがよぅ。こいだけ気骨を見せられて、自分だけ秘密主義ってぇのも男がすたるってもんだわな。
 ――あたしは鳥山石燕ってぇんだ、お前さんなら、聞いたことぐらいあんだろ?」
「……ああ、知っているとも。改めて、斯波敦だ、よろしく頼む」

 顔には出さなかったが、斯波は少し驚いた。
 妖怪の専門家だというから、陰陽師やらの1人かと思っていだが、まさか絵師だったとは。
 しかし、頭脳や知識という点では、最も優れた妖怪の専門家だと言えるだろう。
 彼が言うならば、やはり聖杯を手に入れることが最も有効な手段なのかも知れない。

 ならば、死にものぐるいで手に入れた地位を――聖杯がこの地でも残したこの地位を存分に使うべし。
 もはや呪いのように、あの時より頭から離れない声に、大いに従うべし。
 
 聖杯、取るべし。

 当然、願いはただ一つ――

 ……壊すべし。

 あの家 壊すべし。


 ――〈双亡亭〉壊すべし
 

【クラス】
 キャスター

【真名】
 鳥山石燕(とりやま せきえん)

【出典】
 江戸時代、18世紀日本

【性別】
 男

【属性】
 中立・善

【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷D 魔力A+ 幸運B 宝具A+

【クラススキル】
陣地作成:C
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。

道具作成:B
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 和歌や絵による護符作成や道具への魔力付与を得意とする。

【保有スキル】
芸術審美:B
 芸術品・美術品に対する理解、あるいは執着心。
 美術面の逸話を持つ宝具を目にした場合、高確率で真名を看破できる。

逢魔時より日の出までの怪しき:B
 日没から日の出にかけて宝具使用時の消費魔力が減り、妖怪の力が増加する。
 味方にいる人外も同様の効果を得る。

怪異蒐集:A
 周囲に起こる不可解な現象を妖怪の仕業と見極め、蒐集する事で現象を収める。
 また、妖怪に対しては同ランクの気配感知と真名看破同等の性能を持つ。
 妖怪は宝具『画図百鬼夜行』へと戻るもしくは記され、召喚の際の魔力消費が無くなる。

【宝具】
『画図百鬼夜行(がずひゃっきやぎょう)』
 ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大補足:100人
 生前キャスター自身が作り上げた妖怪画集。
 主に「画図百鬼夜行」「今昔画図続百鬼」「今昔百鬼拾遺」「百器徒然袋」の4作品を指すが、これ以外にもキャスターの図録した妖怪は全て記載されている。
 描かれている妖怪を召喚する事ができ、妖怪自体の危険度・知名度・畏怖度によって消費魔力が変化する。 

『宝船(なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな)』
 ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:1 最大補足:1人
 画図百鬼夜行シリーズの一つである「百器徒然袋」が全て夢もしくは想像だったという説の具現。
 宝船が顕現している間は全ての妖怪、怪異、化物と呼ばれる存在は消え、またそれによって引き起こされた現象や被害も無かったことになる。
 聖杯の力によって存在しているサーヴァントまでは消え去りはしないが、酷く弱体化し消耗する。
 顕現中はキャスターの幸運が1ランク上がり、彼が味方であると認識し幸運を願う者達も僅かに運が上昇する。
 キャスター自身が乗るわけではなく、空中にただ浮かんでいる“現象”なので移動手段としては使えないうえ、宝船自体も夢とされるため触れることもできない。

【人物背景】
 江戸時代に活躍した妖怪絵師。享年74歳(推定)。
 狩野派門人として狩野周信及び玉燕に付いて絵を学び、また、俳諧師・東流斎燕志に師事した。
 自身は喜多川歌麿や恋川春町、栄松斎長喜といった絵師の師匠としても知られている。
 幕府御坊主として産まれ、幼少より文学や絵を嗜んだ。
 妖怪絵師として有名になったのは晩年になってからであり、同時期にふきぼかしと呼ばれる新しい画法を編み出した。
 主に『画図百鬼夜行』とそれに続く3作が代表作であり、近年までの多くの妖怪絵師に多大な影響を及ぼした。
 日本や中国の博物書、歴史書、思想書などの様々な書物を読み漁り、膨大な知識を持っていたとされる。

【特徴】
 年頃は30歳ほどに見える細身の日本人男性。肩ほどまで伸びた黒髪を束髪に結っている。
 切れ長な目をしており、江戸時代に作られたギヤマン製の丸眼鏡を愛用している。
 服装は一般的な江戸時代の着物に羽織、空五倍子色や青鈍、利休鼠などの暗い色を好んで着る。
  一尺ほどもある非常に長い羅宇煙管を愛用している。
 江戸言葉なため一人称は「あたし」だが、別にオカマというわけではない。
 
【聖杯にかける願い】
 特にない。否、無くなったといったほうが正しいか。
 斯波の願いの強さに自分の願いはどうでも良くなった。
 今は死語の歴史や文化、新たな妖怪が知れれば満足である。

【マスター】
 斯波敦(しば あつし)

【出典】
 双亡亭壊すべし

【性別】
 男

【Weapon】
 なし

【能力・技能】
 総理大臣まで上り詰めた努力、また過程で得た頭脳。

【人物背景】
 学生時代に友人達と3人で幽霊屋敷〈双亡亭〉へ探検に行き、入口で友人の1人『ナナちゃん』を見失う。
 もう一人の友人『シンちゃん』と共に屋敷を探索しやっと見つけることに成功したが、発見したナナちゃんはもう人間ではなくなっていた。
 化物に成り果てた友人への恐怖と、屋敷への憎しみ、そして探検へ行こうなどと言い出した自分への怒りからなんとしてでも双亡亭を破壊することを決意する。
 そして努力に努力を重ね、自身は総理大臣、シンちゃんは防衛大臣へと上り詰めた。
 

【マスターとしての願い】
 双亡亭壊すべし

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最終更新:2016年09月03日 23:22