「へぇーっくしょい!」
雪が降る道で、男は盛大なくしゃみをした。
周りの通行人の視線は、一気に彼へと向けられる。
男の名前は虹村億泰。
その服装が――あちらこちらに改造が施されているものの――学生服であることから分かる通り、学生だ。
時刻は夕方なので、今はおそらく学校からの帰り道の途中であろう。
周りからの注目を感じ、恥ずかしそうな表情をしながら、彼は鼻をすすり、
「ズズズッ……おれが住んでた杜王町と比べれば、ここはまだ暖かけーのかもしれないっスけどよォ~~……それでもやっぱり、雪が降ってる中を歩くのは寒いぜ」
という、くしゃみをしたことへの言い訳めいた独り言を呟く。
否――それは独り言ではない。
億泰は傍に誰も連れず、たった一人で道を歩いており、周りから見れば独り言を呟いているようにしか見えないが、彼は誰かに対して話しかけていた。
見えない誰かに対して、話しかけていた。
《そうですか……。
では、家に着いたら暖房、風呂、夕食――バランスの良いものを――で、内外から身体を温めましょう。
勿論、その前には消毒手洗い滅菌うがいもしなければなりませんよ》
億泰の頭の中に女の声が響く。
サーヴァントとマスターの間でのみ行われるテレパシー――所謂、念話だ。
所々に聞きなれない健康用語が紛れていたが、それはさておき――その口調はまるで、患者に語りかける看護婦のような、優しく慈愛に満ちたものであった。
羽毛が喋ったらこんな風になるんだろうなぁ――と億泰は考える。
しかし次の瞬間、
《……ところでオクヤス?
外で私と会話をする際は口に出して話さず、念話を用いるように――と、朝教えたはずでは?》
と、口調こそ変わらないものの、彼女の言葉が孕む雰囲気は苛烈な物に変わる。
先程の喩えをそのまま用いるならば、柔らかく温かい羽毛が一瞬にして鋭く冷たい鉄剣に変化したかのようだ。
タラリ、と億泰は汗を流す。
今の季節は冬――当然、頬を伝うそれは暑さによるものではない。
《す、すみませんス、キャスターさん……うっかりしてました》
《世の中では、うっかりですまないことの方が多いのです。
もし、さっきのあなたの姿を、聖杯戦争の他の参加者が見ていたら、マスターだとバレていたかもしれないんですよ?》
《……けどですよォー? 普通は独り言の長い変なヤツだと思われるだけなんじゃないんスかァ~?》
《そう思われるのも、それはそれで問題でしょう》
《ぐぐぐ……》
彼女が放つ言葉に何も言い返せなくなる億泰。
自分と彼女の間には知性や話術の差があることをひしひしと感じさせられた。
更に追い打ちをかけるように、彼女の言葉はもう一段階強調される。
《それに、マスクもつけずに外に出るとは何事ですか。
貴方は聖杯戦争の参加者として他の参加者に気をつけねばならない以前に、一人の生きる人間として、病原菌にも気をつけなくてはならないのですよ?》
まーた始まったぜ――と、億泰はうんざりした。
彼女は医療や病気の話題になると、相手のことを考えずに――あるいは相手のことを考えすぎて、長々と語り出す性質があるのだ。
むしろ今回は、念話の話題が冒頭にあったことが珍しいくらいである。
《……本当なら、私はあなたと共に歩きたい――この背中の『翼』であなたを温めて、寒さと病原菌から守ってあげたい。さながらマスクのように。
そうすれば、わざわざこうして念話で話す必要はないですから。
でも、その『翼』こそが一番の問題だから、今はこうして霊体化しているのです。わかりますか?》
そう言われて、億泰は彼女を隣に連れて歩く自分を想像する。
美女と共にいる自分は、想像して中々気持ちの良いものだったが、その相手が翼の生えた白衣姿である所まで考えて、『うげ』と短い狼狽の声を漏らす。
翼の生えたナースとは、スタンドでも中々見かけないであろう奇抜なデザインだ。
その上、その翼で自分が包まれて温められるというシュールな光景には、もはや笑いさえこみ上げてくる。
学生からストリート・コメディアンへの転職でも考えない限り、人目のつく外で彼女が実体化するのは、極力避けるべき事態であろう。
《そもそもどうして私がこんな姿になってしまったのやら……ああ、あれですか……。
はぁ……。だから、私はあの異名を好かなかったのです》
《? 『あの異名』……――『白衣の天使』ってヤツですかい?》
《ええ》
白衣の天使――かのナイチンゲールの異名の一つだ。
ナイチンゲールの偉業を讃えた当時の世間が、彼女をそう呼んでいたらしい。
《おれでも知ってる名前だ。ガキの頃読んだ『まんがでわかる せかいのれきし』で見た覚えがある……内容はほとんど忘れちまったけど。
でも、なんでそれを好かないんスか?》
《私が、彼らの思うような天使ではないからです》
億泰の疑問に彼女――ナイチンゲールは答える。
《私が思う天使とは、美しい花を撒くものでなく、苦悩する誰かの為に戦うもの。
そのイメージは、世間が考えている天使とは異なるでしょう?》
たしかに。
平和や愛や健康の象徴である天使に、戦いのイメージはあまり似合わない。
その逆もまた然りだ。
現に、今朝家を出る前までに億泰が見たナイチンゲールの姿は、服に着せられているようであった。
もしくは呪いを被せられている、と言うべきか。
その姿が、世間の風評によって見た目や在り方が変質するスキル――『無辜の怪物』によるものであるので、この場合は後者の方がより的確であろう。
もっとも、いくら当時の世間の大衆でも、流石に白衣の天使がそのまま白衣に天使の翼を生やしているとまでは思い込んでいなかったであろうが。
それでは、あまりにその言葉を用いて彼女を褒め称える民衆が多かったが故に生じた――という事なのだろうか。
億泰はそこまで考えて思考を中断する。
バカな自分が推測できるのは、ここまでのようだ――と、考えるのを諦めたのだ。
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【クラス】
キャスター
【真名】
フローレンス・ナイチンゲール
【出典】
史実
【性別】
女
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力C 耐久EX 敏捷C 魔力C+ 幸運B+ 宝具D
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
ナイチンゲールの場合、作り出されるのは治療を行う病院。
ランクAは陣地の強固さではなく、作成の速さを表す。
一般住宅だろうと旧兵社だろうと、何処であろうが彼女の手にかかればそこはすぐさま病院となる。
道具作成:-
魔力を帯びた器具を作成できる。
下記の宝具を得たことにより、このスキルは失われている。
【保有スキル】
鋼の看護:A
看護師としての治療技術が、スキルとして昇華したもの。
彼女が治療行為に関わった場合、回復のスピードが上昇する。
ゲームで言うところのHP回復スキル。
無辜の怪物:E-
白衣の天使。
生前の異名が捻じれて伝わり、過去や在り方をねじ曲げられるスキル。
しかし、『白衣の天使』とはあくまで戦場に舞い降りた彼女の姿を喩えた言い回しであり、
また、彼女自身も『天使とは、美しい花を撒く者でなく、苦悩する誰かのために戦う者である』とその異名を喜んでいなかった為、生じた変化は見た目だけ――
と、されているが、バーサーカーの時と比べて性格が若干穏やかになっている。
『天使』のイメージと晩年の彼女の穏やかさが合わさった結果であろう。
ちなみに背中の翼に特殊な効果はない。空を飛ぶこともない。
精々、温かい羽毛製品の材料に出来る程度である。
このように恩恵が少ないスキルだが、その上、あまりにも分かりやすく、自己主張の激しい見た目になっている為、宝具を発動するまでもなく真名バレする危険性が高くなっている。
看護続行:EX
戦闘続行の派生スキル。
たとえ熱病を患おうが神経組織が破壊されようが――霊核が完全に破壊されようが、そこに患者がいる限り、彼女は二十四時間働き続ける。
【宝具】
【貴婦人の洋燈(ナイチンゲール・ランプ)】
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:10 最大補足:30
ナイチンゲールの精神性と、彼女の異名の一つ『ランプの貴婦人』が結びついたもの。
ランプから放たれる光は、毎晩夜回りを欠かさなかったという患者への献身の心の具現化であり、範囲内の毒性・攻撃性を無視し、絶対安全圏を作りだす。
また、それを浴びた傷病人に回復効果(発動が夜間であればその効果は倍増する)を与える。
バーサーカー時の宝具『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』と似た効果を持つが、こちらの方が回復性に優れ、代わりに効果範囲が狭くなっている。
ちなみに、ランプはそのまま鈍器として使うこともできる。
【我は心より医師を助け、人々の幸のために身を捧げる(ナイチンゲール・プレッジ)】
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:30
看護によって病院・軍を支えた逸話から、彼女がサーヴァントを治療(上記の宝具によるものも含める)した場合、魔力を消費して彼らの筋力・耐久・敏捷のいずれかのステータス。暫くの間一ランク上昇させる。
サーヴァントではない人間を治療した場合は、一時的な身体力向上効果を授ける。
一種のエンチャント。
【人物背景】
アプリ『Fate/Grand Order』でバーサーカーとして登場した彼女がキャスターとして召喚された姿。
『狂化』を失ったことでようやく人の話を聞くようになった――なんてことは全くない。
彼女が人の話を聞かないのは、生前からの事なのだ。
流石に、話す事の殆どが自分自身に語りかけている物なのでコミュニケーションが取れない、ということはないが、それでもやはり、こと治療や看護についての話題になると、周りの意見を聞かなくなる。
しかし、スキル『無辜の怪物』により天使の翼が生え、服装も看護婦が着る白衣をベースにした物になった影響か、性格に若干の丸みが出ている(仮にバーサーカーの彼女がスキル『無辜の怪物』を有していたとしても、性格に表れるその影響は『狂化』で打ち消されていたであろう)。
【サーヴァントとしての願い】
なし。
【weapon】
ランプだけ。
弓矢ならまだしも、銃をぶっ放す天使のイメージなんて誰が持つだろうか。
いや、別にこれは、『なら弓矢を持って来ればOK』という意味でなく。
【特徴】
FGOのナイチンゲールが白衣を着て、その肩甲骨部分二つそれぞれに開いた、細長い菱形状のスリットから天使の翼が生え、ランプを持っている姿。
萌え属性のカツカレーチャーハンのようなものであり、コスプレ感が半端ない。
翼に隠れて僅かにしか見えない肩甲骨がエロい。
【呼称一覧】
バーサーカー時のと同じです。
【マスター】
虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない
【能力・技能】
スタンド『ザ・ハンド』:
破壊力B スピードB 射程距離D 持続力C 精密動作性C 成長性C
物体だろうと空間だろうと右手で触れたものを何でも削ることが出来る。
【人物背景】
M県S市杜王町に住む、スタンド使いの高校生。
頭があまり良くなく、考えるのが苦手。
かつてDIOに肉の芽を埋め込まれたことが原因で醜悪な怪物と化した父を持つ。
【マスターとしての願い】
色々とあるが、その中でも最たるものはやはり、父親を治すことだと思われる。
最終更新:2016年09月03日 23:24