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白百合の園

 うつくしさはのろいだ。
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 スキュラという怪物がいる。
 古くはギリシア神話に登場する魔獣であるが、読書に趣味を置く雪ノ下雪乃からするとオウィディウスの『変身物語』で書かれる彼女の生い立ちのイメージが大きい。

 まず前提として、雪ノ下雪乃は美しい。
 その髪は鴉が撫でつけたように艶やかさを保ち、頬は陶器に似た白さを持ちながら限りなく人間的。
 彼女は白百合の無垢な美しさと、野に散るスノードロップの、健気で、粗野で、苦労を思わせる美しさを同時に持っている。

 雪乃は美しさを知っていた。
 無知であれ高慢でなく、美しいということがどんな意味を持っているか雪ノ下雪乃は誰よりも知っていた。

 スキュラは、元々シケリア島に住む美しい女だったと言われている。
 その美しさはこの上なく、島中の男たちが彼女に求婚するほど。
 しかし男性に興味のないスキュラはその全てをすげなく断った。

 あるとき、海の神の一人であるグラコウスがシケリア島を訪れる。
 そして泉で水浴びをするスキュラを見た彼はスキュラの美貌に心射抜かれ、
「自分はポセイドンに並ぶ海の神だ」
 と強調しながら島の男たちと同じように彼女に結婚を申し込むのだ。

 スキュラは当然ながらグラコウスの求婚を断った。
 しかしそれでも諦めきれなかったグラコウスは魔女キルケ―のもとへ足を向け、媚薬の肇造を依頼する。

 最悪だったのは、キルケ―がグラコウスを愛してしまったことだ。
 スキュラに心を奪われていたグラコウスはキルケ―の誘いを断り、
 キルケーは嫉妬のあまりスキュラに呪いをかけてしまう。

 キルケーはスキュラの泉に魔草を投げ入れた。
 何も知らないスキュラがいつものように泉に体を付けると、下半身に違和感を覚える。
 慌てて泉を出たスキュラは足元に六頭の犬を見つけ、走って逃げるが、犬たちもまた同じ速さでスキュラを追う。
 しばらくしてようやく犬たちが自分の下半身の変化したものだと気が付いたスキュラは絶望し、島の人々を喰い殺してしまう。
 ここに怪物、スキュラは誕生したのだ。

 そして彼女を愛していた人々は犬の腹に収められ、
 変貌したスキュラの姿を見た海の神グラコウスは彼女を見捨て、キルケ―と縁を切った。

 ああ、ああ、なんて救いのない、なんて理不尽な。

 幼い雪乃は、スキュラに心底の同情を覚えた。
 勝手に好きになっておいて、怪物の姿にした原因を作っておいて彼女を救おうともしなかったグラコウスが本当に嫌いだったし、
 スキュラに嫉妬し、彼女を壊した魔女キルケ―を絞め殺してやりたかった。
 そしてやり場のない、美しさに身を滅ぼされたスキュラに心底の同情と、悲しさを覚えるのだった。

 雪ノ下雪乃もまた、スキュラと同様に美しい少女だった。

 彼女の美しさもまた、人を惹きつけた。
 小学生にして1年の被告白数は二ケタを軽く数え、彼女はその全てを断った。
 小学校には、たくさんのグラコウスとたくさんのキルケ―がいた。

 嫉妬したキルケ―たちは雪乃の上履きを隠したり教科書を捨てたり彼女に嫌がらせの限りを尽くした。
 雪乃は、この点においてグラコウスのほうがまだマシかもしれないとすら思っているのだが、そうした嫌がらせの一部は告白を断られた男子からもあった。

 どうしてそんなに傲慢になれるの?と雪乃は心の中で幾度となく問いかけた。
 答えはない。当然にない。実際に問いかけたとしてもそれはそうだっただろう。

 雪乃は黙って耐えた。
 上履きを見つけ出し、教科書からほこりを叩き落し、何事もないようにふるまい続けた。
 彼女のプライドをして、姉や、家族に知られたくはなかった。
 そうして雪ノ下雪乃は形成されていった。

 美しさとは呪いなのだ。
 例え寿ぎの振りをしていたとしても、本質的に呪いなのだ。
 美しさは雪乃を離さない。美しさに囚われた者を逃さない。
 さながらグラコウスのように、キルケ―のように。彼ら彼女らが離れるのは、彼女が美しさを失ったとき。
 美しさは最後に誰にでも牙を剥くスキュラとなる。

 雪乃が中学に上がると、幼さを下敷きにしたその美しさは怜悧さをたたえ、
 ただ雪乃の美しさとなった。

 結局、雪乃が学校で嫌がらせを受けていたことは親の知るところとなり、
 アメリカのミドルスクールに通ったが、そこも日本の学校とさして変わりはなかった。

 雪ノ下雪乃は、あらゆることに理不尽を覚える。
 虚偽は罪であり、誤魔化しは穢れであり、自我を尊重できなければ、
 人間生活を送っているとは言えない。

 雪乃はまた嫌がらせを受けたが、怒りを覚えることはなかった。
 世界が間違っているから、ある意味において彼女は、理性を失ってしまったのだ。

 そんな彼女がライダー――スキュラそのものを呼び出したのは、必然といえば必然の流れだったのかもしれない。
 召喚陣の中に身を置くライダーの姿を見た雪乃は得も言われぬ喜びを胸に感じた。
 美しい、と雪乃は思った。
 怪物に堕したライダーの姿は、雪乃が思い描く姿そのままだった。

 生命的で、利己的な犬たちの上に載った、裸体の美女。
 ライダーの顔は髪に隠れていたが、雪乃からは彼女の絶望をたたえた眼が、確かにうかがえた。

 スキュラは私なのだ。私だったかもしれないものだ。

 雪乃は歯の隙間から唸り声を上げ続ける犬たちをかき分け、ライダーの髪に手を添えた。

「大丈夫よ」
 雪乃は優しく囁いた。ライダーは髪の下で、静かに己がマスターを見つめた。

「大丈夫だから」
 雪乃が顔を寄せ、再びそう囁いた。牙を剥く犬たちが鎮まっていく。それを感じる。
 ライダーに理性はない。その下半身たる、六匹の犬にも理性はない。

 彼女が主人だったからだろうか、
 それとも本能的に、雪乃を敵でなしと判断できたのか、それは神さえもわからない。

 神なぞにわかるはずがない。



【クラス】ライダー
【真名】スキュラ
【出典】ギリシア神話、変身物語など
【属性】混沌・善
【性別】女性
【身長・体重】144㎝ 200㎏ → 168㎝ 46kg (宝具解放時)
【ステータス】筋力:B+ 耐久:B 敏捷:A 魔力:B 幸運:E+ 宝具:B
(宝具解放時)筋力:E 耐久E 敏捷:E 魔力:A+ 幸運:A+
【クラス別スキル】

騎乗:A
 ライダーの足が乗り物そのものである。

対魔力:B
 魔力に対する耐性。ランクBならば、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】

狂化:A
 筋力と敏捷を2ランク、他のパラメータを1ランク上げるかわりに理性をすべて奪われる。美しく聡明なスキュラは怪物へ変化を遂げ、怒りと絶望から理性を失った。

怪力:A
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

魅了:(Ex)
 狂化によって現在は機能していない。
 魔性の美貌により、老若男女を問わず対象の精神を虜にする。
 神をも魅了したライダーの美貌はもはや魔術、呪いの域さえも超え、特性として機能する。

気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を断てば発見する事は難しい。

神性:E―
 怪物に堕したライダーの神性はほとんど失われている。

【宝具】

『岩礁(カウテース)』
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:10㎞ 最大補足:6
 水上でのみ使用可能。水上に多数の荒れた岩とスキュラの住処であったシケリア島の一部を移植する。この結界内においてスキュラの気配を察知することは不可能であり、事実上不意打ちを防ぐことができない状況に陥る。
 これは岩礁がスキュラのメタファーであり、結界自体がスキュラそのものとされているため。

『真名解放』
ランク:E 種別:個人宝具 レンジ:- 最大補足:1
 魔女キルケ―の呪いを押さえつけ、ライダーをあるべき姿に戻す宝具。
 ライダーの真名はスキュラである、とされているがスキュラとは『犬の子』を意味する単語であり、本当の意味でライダーの名前を示すものではない。宝具使用によって一時的に狂化を封印し、真名を解放することによってスキュラ以前の姿に戻ることができる。
 ただしこの宝具使用には莫大な魔力が必要になるためライダー単体では発動することができず、冷呪を最低一画消費せねばならない。
 スキル『狂化』『怪力』『気配遮断』を無効化、代わりにExランクの『女神の神核』を得、狂化によって制限されていたスキルが元に戻る。
 また下半身の犬も抜け落ちるためパラメータも変動する。

【人物背景】
 ギリシア神話をはじめとして様々な物語で語り継がれる悲劇の怪物。
上半身には理性があり、怪物なのは下の犬のみである、という説もあるが今回は怒りと絶望によって殺戮を繰り返す魔物になってしまった、という説を採用。同時に、スキュラは最終的に石化したと言われているが、これは自分たちの妹を憐れんだゴルゴン姉妹のやったことである、という説も採用した。基本的に理性はないが、こと狩りにおいては頭が回る。下半身を構成する犬たちは首の長さを自在に変えることができ、本体はなるべく離れた位置にいる。見れば一発で誰かわかるレベルの有名さ故、知名度補正はかなりのもの。

【サーヴァントとしての願い】
 狂化状態のため回答不能


【マスター】雪ノ下雪乃

【出典】やはり俺の青春ラブコメは間違っている。

【能力】
 頭脳明晰、思考は柔軟とはいいがたいが魔術に手を出した今、大概のことは受け入れられるだろう。留学経験あり、英語は堪能。良家のお嬢様らしく一通りのマナーを心得ており、また護身術として合気道を嗜んでいる。

【人物背景】
 ライトノベル、やはり俺の…俺ガイルのヒロインの一人。ただし参戦時期は中学卒業直後。日本には帰ってきたばかり。言動は鋭く、何事にも妥協しない。正義を愛し、他者と迎合して自分を見失うことを何よりも嫌う。その性格が災いしたせいで他人から距離を取られるどころかずっと嫌がらせを受けてきた。当人の意識は薄いが、人間不信気味である。

【マスターとしての願い】
 この世界を正しく作り変える。

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最終更新:2016年09月04日 21:25