辰巳&セイバー

 セイバーが召喚されたのは夜中、新都の表通りから結構奥に入った路地裏だった。すぐそばを4人の男が走り抜けていくのが見える。
疑問符を浮かべつつ追うセイバーの視界に入っているのは赤いパーカー、黄色いニット帽、緑入りのチノパンを目印にように身につけた3つの背中。
そして、彼らの前方を走るファー付きの革ジャンを羽織った背中。
信号機めいた3人組は似たような険を顔に貼りつけて、前方の青年についていく。

――三対一か。

 見つからないように彼らの頭上へ跳んだセイバーは男達の印象から仮定する。
革ジャンの男がマスターらしい、と思いつつ、セイバーは壁に貼りつき、立ち止まった4人のやり取りを観察する事にした。
どの程度の人物か興味があったし、見たところ3人は一般人のように思える。放っておいても一大事にはなるまい。


 2分足らずの口論の末、殴り合いが始まった。面白くない状況を見守っていたセイバーだったが、革ジャンの青年が優勢と見ると、我知らず口元に笑みが浮かんだ。
体術を修めている風ではないが、動きに無駄が無い。中々場数を踏んでいるらしい事がわかる。
3人組が地に沈むまでに、青年は一撃たりとも喰らう事はなかった。久方ぶりの現世で見た、胸がすく圧勝。

――そろそろ出るか。

 文句の一つも覚悟しつつ、どこか浮き浮きとした気分で降りようとしたセイバーの視界で、予想だにしない展開が始まった。
革ジャンの青年は屈みこむと、緑の男の首筋に顔を近づけ、同様の行為を黄色の男、赤い男、と繰り返す。

「みなさんは僕とは会わなかった。些細な口論から殴り合いの喧嘩になり、そして3人揃って気を失った。いいですね?」

 最後に3人の頭を寄せ、はっきりとした口調で諭すように言った。
寝転んだ男たちがこっくりと、大儀そうに頷いたことを確認すると、青年は足早に路地裏から去っていく。
呆気にとられたセイバーだったが、何故自分が壁に貼りついているのかに思い当たると、全速力で先ほどの青年を追った。
まもなく、人気のなくなったあたりで2人は合流。青年はセイバーの存在に気づいていた。
彼らは公園の一角に設置されたベンチに座ると、お互いの自己紹介を始めた。





 静かな公園。日付が変わって、一時間近く経つ。

「屍鬼…それに人狼か、変わったマスターと組ませられたな…」

 顎をさすりながら、セイバーは革ジャンの男――辰巳の顔を覗き込む。

 辰巳は人間ではない。人に紛れて人を喰らう、一匹の鬼だ。いや、より正確に表現すると鬼ですらない。
吸血の生物を作ろうとした「何か」の目指したもの。無数の屍鬼という"エラー"を対価にして生まれる、鬼の成功例。人狼。
遠い昔、あまりにも長い時間を屍鬼として過ごす「沙子」の襲撃を受け入れた辰巳は人狼となり、ずっと彼女に仕えてきたのだ。
人狼と名付けたのは沙子。曰く、吸血鬼には狼男の下男が付き物、なんだそうだ。

「嫌悪感はないようですね」

「タツミが化け物なら、俺は蛮族だ。大して変わらん」

 ヴァンダル族。ローマ領外に存在した部族のなかで、公然と帝国に反旗を翻した武闘集団。
その長として知られるのがセイバー。彼の持つ天性の魔に等しい気迫は、一族の名に「文明破壊」のイメージが与えられた事に由来するものだ。
多少面白い肉体を持っている程度では、英霊となった彼の関心を惹くことなど出来ない。

「それで?お前、どうすんだ」

「僕個人は聖杯を必要としていない。手に入ったなら、沙子の願いを代わりに叶えます」

「女か」

「主人です」

 辰巳がきっぱりと言い切った瞬間、セイバーはやれやれと言わんばかりに眉を持ち上げ、口をへの字にした。
うんざりした様子のセイバーに辰巳は苦笑するが、彼の心の内にあるものは、セイバーの思っている物とは少し異なっている。




 辰巳は生きる、ということを滅びと定義している。所詮それぞれの死に方を競う、という程度の事なのだと。


 それでも人間であった頃、彼は生きる意味を人並みに探してもいたし、それ以上に世界を憎んでいた。

 人の秩序に背いた生き物である沙子に出会った時、彼女に頭を垂れたのは、彼にとって氷が冷たいのと同じくらい自然な事だった。
辰巳は沙子とは違う生物になった。それでも彼女の大望を応援した。

 しかし叶わない。どう頭を捻っても叶うビジョンが浮かばない。沙子――屍鬼は人の血以外は受け付けないから。
そして自分は死なない。年月の経過で死ぬことはなくなったし、人の血が無くても人間と同じ食事で生きていける。いくらでも死を遠ざけることが出来る。
生きる意味などもはや必要ない。ただ全ては過ぎていくのみだ。


 沙子の夢――屍鬼が安心して暮らせる世界。
そんなものは出来ない。人間に存在が知られれば必ず根絶される。
達成できたとしても、人間より数が増えた時点でその社会は崩壊する。
結果生まれるのは、屍鬼も人間もいない静かな世界。かつて望んだ世界の終わり。

――それもいいか。

 身に余る夢に進む沙子は美しい。
怪物になって久しいくせに、未だに人の正義に拘っている沙子。
人を食わなきゃ生きていけないくせに、人間のように生きることを望む沙子はこの上なく可愛らしい。
聖杯が真に願望器なら、ぜひ彼女に捧げよう。

 辰巳が掴み、沙子が始める世界の終り。

「ま、詳しい話は落ち着いてから、ゆっくり聞かしてもらおう。動くぞ」

「や!待ってください!…差支えなければ、セイバーさんの願いも聞かせてもらえませんか?」

 問われた瞬間、セイバーは鼻を鳴らし、小馬鹿にしたような笑みを辰巳に向けた。
嘲笑は辰巳に、ではなくまだ見ぬ主従達にこそ、向けられていた。
欲しいものはセイバーにとって奪うものであり、施しを求めるなど主義に反する。
とくに後悔だの未練だのを晴らすべく現世に戻った英雄など、ひたすら醜いだけだ。このガイセリックにそんなものはない。

「あの世まで持ち越したモンなんてねェ。だが、聖杯を奪るのは面白そうだ。…だから俺は戦う。来い」





【クラス】セイバー

【真名】 ガイセリック

【出典】5世紀頃、ヨーロッパおよび北アフリカ

【性別】男

【ステータス】筋力A 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具A++

【属性】
混沌・中庸


【クラススキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。


騎乗:B
 乗り物を乗りこなす能力。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。


【保有スキル】
軍略:C
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。


仕切り直し:B
 戦闘から離脱する能力。
 完全に捕捉された状況であろうとも、ほぼ確実に離脱することができる。


反骨の相:A
 略奪者の代名詞。
 Aランク以下の「カリスマ」を無効化する。


文化破壊:A+
 人類史を破壊し、汚染していく者の闘気。
 戦闘中、時間経過やセイバーとの接触度合に応じて、行動による消費魔力の増大や保有スキルのランク下降といった症状が相手サーヴァントに現れる。
 戦闘が終了するまで、この症状は快癒しない。


【宝具】
『人史に泥を塗る覇剣(ヴァンダリズム)』
ランク:A++ 種別:対文明宝具 レンジ:1~40 最大捕捉:30人
 文明の破壊者としての畏怖がセイバーのもとに束ねられ、無骨な長剣の形をとった。
 真名を解放する事で刀身を金属から黒い汚泥に似た流体の集合に変換し、敵にぶつける。

 流体は硫酸に似た性質を発揮。サーヴァントの実体を溶かし斬るほか、対象が保有する宝具を一合につきランダムに一つ汚染する。
 汚染された宝具はただの神秘の塊となり、担い手が真名を開帳しても全く反応しなくなる。
 物体ではなく歴史や文化を蹂躙する宝具の為、逸話や概念をもとにした宝具であってもこの攻撃からは逃れられない。
 この宝具を凌ぐ手段は回避を除くと、同ランク以上の破壊力と防御力のみ。またヴァンダル族の英霊は汚染の対象から無条件で外される。

 汚染は永続ではなく、24時間経過すれば元の状態に戻る。汚された文化財が人々の手で修復されるように。


【weapon】
宝具に依存。


【人物背景】
古代ゲルマン人の一支族ヴァンダルの王。
兄弟のグンデリクから一行を引き継いだ彼は、ローマ帝国との対決姿勢を鮮明にし、北アフリカにカルタゴを首都とするヴァンダル王国を建設した。
ローマ市に攻め入ると略奪を行い、西ローマ滅亡への針を大きく進めた。
彼が崩御した時には、西ローマはイタリアの支配者の座から完全に滑り落ち、二度と返り咲くことはなかった。

外見は金髪碧眼の大男。暗色の鎧に毛皮の外套を身につけている。


【聖杯にかける願い】
手に入れてから考える。





【マスター名】辰巳

【出典】屍鬼(藤崎竜版、特にアニメ版準拠)

【性別】男

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「人狼」
屍鬼の襲撃を受けた後、完全に死亡することなく超常の力を得た人々。極稀に生まれる屍鬼の変異種。
不老、高い治癒力や襲った人間への暗示、夜目が利くといった屍鬼と同じ能力を備え、彼らと違い、人間の食事で生命を維持できる。
くわえて昼間でも活動でき、体温や脈拍を生前と変わらず保ち、呪物への高い耐性を持つ。
循環する血液を力の源としており、心臓や頭部の破壊によってのみ殺害する事が出来る。


原作中では屍鬼の完全体なのだろうと推測されている。


【人物背景】
屍鬼の首魁「桐敷」の下男。
沙子に血を吸われたことで変異体の人狼となるが、恨むことなく彼女を支え続ける。
外見は20代くらいだが、実年齢は不明。

静信に沙子を託した後から参戦。


【聖杯にかける願い】
沙子にあげる。

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最終更新:2016年09月07日 17:21