覚えている最後の記憶は、燃え盛る炎の中。
お腹から下の感覚は無くて、口の中は熱いもので一杯で。
ひとりぼっちで終わってしまうのかと思うと、寂しくて、辛くて。
いつか終わることはわかっていたけれど。
でもそこに駆けつけてくれた人がいて。
だから。
せめて、手を握っていて欲しいと――――……。
「やぁァァァァッ!!」
しんしんと雪が降り積もり夜の冬木、愛らしくも凛々しい、少女の裂帛の気合が響いた。
次々と影のように起き上がった怪異を、繰り出された鋭い刃が一網打尽に叩き斬る。
少女の両手には二刀があった。細腕には不釣り合いな豪剣である。
それが右に、左に、閃くように振るわれる度、影は雪に溶けるように消えていく。
しかし少女の顔には緊張に強張っており、どこか怯えの色さえ見て取れた。
身のこなしこそ達人並だが、妙に技が冴えていないのは、そのせいだろうか?
『マシュちゃん、残心を忘れない。まだ終わってないわよ』
「はいっ……頑張ります!」
不意に響いた声は、少女のものではなかった。鈴の音転がるような女の囁き声。
少女の右手に握られた太刀が、かたかたと鍔を鳴らしている。よもや刀の声だというのか。
その刀が弾けたように跳ね上がり、後方からの影の攻撃を防ぎ、受け流す。
「これで……っ」
すかさず少女は踊るように体を捻り込み、左の小太刀を繰り出した。
影の動きを完全に見切り、脇口から心臓――霊核を貫き徹す必殺の一撃。
「……終わってッ!」
影は悲鳴さえも上げられなかった。
小太刀で貫かれた瞬間、まるで爆裂するように四散し、吹雪と共に散っていったのだ。
少女は小太刀を繰り出した姿勢のまま、胸を弾ませて大きく息を吐く。
戦闘終了――それで良いはずだ。
そうして初めて、彼女はゆっくりと両手の刀を腰の鞘へと納める。
『お疲れ様、マシュちゃん――なかなか良かったわよ、今の』
「えっ、あ、本当ですか?」
マシュ、そう呼ばれた少女は刀からの声に、ぱっと顔を上げた。
緊張が溶けてわずかに笑みが浮かぶ。頭を撫でられた子犬のような笑み。
けれどそれはすぐにまた隠されてしまう。
彼女はすぐに俯いて、手指をもじもじと擦り合わせた。
「あ、でも、わたしはまだまだ未熟ですから……」
『安心なさいな。一乗寺下り松の時のタケゾーなんか、もっとガチガチだったんだから』
刀から囁かれる声は、どこか少女を見守るようでもある。
その刀に銘はない。ただ作者の名を取って郷義弘と呼ばれている。
そこに宿った霊こそは刑部姫。姫路城の守護者という、女怪である。
そしてその郷義弘を手にした少女の名前はマシュ・キリエライト。
――――英霊・新免武蔵を憑依させた、デミ・サーヴァントであった。
人理継続保障機関カルデアと呼ばれる組織がある――あった。
マシュはたまたまうっかり迷い込んだワニ程度の知識しかないが、彼女のホームだ。
カルデアでは人類滅亡を阻止するため、様々な取り組みが行われていた。
レイシフト実験――過去への転移実験も、その中の一つだ。
マスターとサーヴァントを過去の特異点に送り込み、人類滅亡の原因を排除する。
マシュと"先輩"は、そのためのマスターとしてカルデアに所属していた。
あの日行われたレイシフト実験は、特異点:Fの調査が目的だった。
マシュは先行チームに配属され、レイシフト用のポッドに入り、そして――……
爆発が、カルデアを襲った。
原因はわからない。
彼女はそんな事を考えるよりも前に、下半身をぐしゃぐしゃにされたから。
もう逃げられない。助からない。誰が見たって明らかで、自分はそこで死ぬのだと思った。
ひとりきりで。
けれど、そうはならなかった。
待機していたはずの"先輩"、逃げられたはずの"先輩"が、助けに来てくれたからだ。
マシュはせめて「手を握っていてください」と頼んだ。縋るように。
伸ばした手は、確かに握ってもらえた。それだけの事なのに、とても嬉しくて。
そして炎がマシュ・キリエライトという少女の意識を焼きつくし――――……。
気がついた時、彼女はこの吹雪く都市、特異点:F――冬木に立っていた。
その身に英霊の魂を憑依させて。
ひとりきりで。
「…………」
戦いを終えた後、マシュは寒さを凌ぐように路地へ入ると、そこで蹲った。
膝を抱えてぎゅうっと胸元へ寄せ、そこへ頭を埋めるようにして休息を取る。
何もかも当初の予定とは異なる状況は、肉体的にはともかく、精神的な消耗を強いてくる。
カルデアはどうなったのだろう。
他の人は無事だろうか。所長は? ドクターは?
それに、どうやってこの特異点を解決すれば良いのか。
記録に無い聖杯戦争――異常の原因はこの聖杯戦争だろう。
なら、自分一人で聖杯戦争を勝ち抜く事はできるのか。
先輩。
先輩、先輩、先輩は、先輩なら――――……。
『マシュちゃん』
思考の淵に沈みかけた彼女を引き上げたのは、腰の刀からの囁き声だった。
マシュは顔を埋めたまま「はい」と短く答えて、耳を澄ませる。
刑部姫は『もっと後に言おうかと思ったんだけどね』と、詫びるように呟いた。
『けど、このままだとマシュちゃん、潰れちゃいそうだから』
「……私、大丈夫です」
『大丈夫なわけないでしょ。
あなたのそれが大丈夫なら、タケゾーの生涯無職生活なんて天下人級よ』
「え、無職だったのですか……!?」
そうよぉ? 刑部姫のケラケラ笑う声に、マシュは不意を突かれたようだった。
『良い? マシュちゃん。これから先、あなたに助けてって言う人がいるかもしれない。
マシュちゃんは優しいから、きっと助けてあげようって思ってしまうかもしれない』
はい、と。マシュは素直に頷いた。きっと先輩ならそうするはずだ。
人を助けるということは正しいことで、正しいことは良いことだから。
『でも、惑わされちゃダメよ』
けれど続く一言は、氷のように冷たく、ばっさりとマシュの甘い考えを切り捨てた。
「え――……?」
『だって聖杯戦争に参加する以上、皆サーヴァントを持っている。戦う力があるんだもの。
なのに知らない他人へタスケテタスケテー、なんて、虫がよすぎるわよ、そんなの』
――――マシュちゃんだって、誰かに助けてって言いたいくらいでしょう?
そう言われて、やはりマシュは素直にこくんと頷いた。
先輩――今此処にいない、けれど魂の何処かでつながっているあの人。
傍にいて欲しいと思う。声をかけて欲しいと思う。手を握って欲しいと思う。
けれど、先輩は此処にはいない。
マシュは今、ひとりぼっちだった。
『だから、良く考えてから決めなさい』
そんな気持ちを見透かしたように、刑部姫の声音はふわりと柔らかくなった。
マシュが思わず顔を上げて目を瞬かせると、そこに少女の幻影を見たように思えた。
彼女はにこりと微笑んで、マシュの頬に手を伸ばす。
触れられた感触は無い。けれどそこには、確かに慈しむ動きがあった。
『誰を助けて、誰と一緒に戦って、誰を倒し、誰を斬るのか。
どう歩んで行くのかは、どう育っていくのかは、あなたが決めるの。
他の誰かに言われたからじゃなくて、あなた自身が考えて決めること』
「私、自身が……。でも、私、間違えてしまうかも――……」
『それは多分、あなたの"先輩"もそうでしょう?
大丈夫。
そうやって選んでいった道は、間違っていても、きっと何処かに繋がっているわ』
――だから、怖いことなんて無いのよ。
マシュは俯いたまま、言われた言葉を必死に噛み砕こうと努力した。
彼女は世間に触れてから僅かに二年しか生きていない。知らない事ばかりだ。
それが怖くて怖くてたまらない。何か、道を違えてしまうのではないか、と。
でも、もしも、そうでないのなら――……。
『いっその事、楽しんじゃうくらいの気持ちでやりましょ?
並み居る英霊の類が実戦形式で稽古つけてくれる! って感じで』
「……はいっ」
マシュはしっかりと頷いて、さっと立ち上がった。
そうと決めたら、頑張らなくては行けない。
胸の内で、そう叫ぶ声があるのだ。
前へ。
前へ――前へ。
世界は広く、大きく、知らない事は多く、何処までも行ける。
自分は何処へ行けるだろう。わからなくとも、前へ。
前へ、前へ、一歩前へ。
それは宮本武蔵という英霊が、新免武蔵という若者だった頃から懐く気持ち。
そしてマシュ・キリエライトという少女が世界に触れた時、僅かに抱いた憧憬だ。
何処まで行けるかはわからない。
けれど、行こう。
前へ。
きっとその先に、"先輩"は、いてくれる筈だから――……。
「……行きます、先輩!」
そうしてマシュ・キリエライトは自分自身の長い旅へ、最初の一歩を踏み出した。
【出典】史実(日本)
【CLASS】セイバー
【マスター】主人公(Fate/GrandOrder)
【真名】新免武蔵/マシュ・キリエライト
【性別】男性/女性
【身長・体重】158cm ・46kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具?
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【固有スキル】
二天一流:C
天性のものか鍛錬によるものか、完全に極まった戦闘論理。
如何なる敵でも「勝ち筋」を見出し、実行に移すチャンスを手繰り寄せる。
また同ランクの心眼(真)、直感、透化、宗和の心得スキル効果を併せ持つ。
修得の難易度は最高レベルで、Aでようやく"修得した"と言えるレベル。
本来のランクはEXだが、マシュが未熟なため、"現在は"大きく弱体化している。
専科百般:D+
兵法を基幹とし、あらゆる分野に応用するスキル。
武術、学術、芸術、閨術など、ほぼ全ての汎用スキルにEランク以上の習熟度を発揮する。
本来のランクはA+だが、マシュが未熟なため、"現在は"大きく弱体化している。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
【宝具】
『仮想宝具 疑似展開/五輪書(ブック・オブ・ファイブリングス)』
ランク:E~A+++
種別:対人宝具
レンジ:1~999
最大補足:-
宮本武蔵が霊厳洞にて完成させた地・水・火・風・空の兵法書。
対峙した敵のあらゆる戦術やスキル、宝具の情報を蒐集する、形の無い宝具。
これにより本来成長し得ないサーヴァントであっても戦闘経験の蓄積が可能となる。
戦闘を重ねることで「二天一流」「専科百般」のスキルは何処までも成長していく。
また真名解放により「蒐集した全技能・宝具を剣技で以って模倣する」事が可能。
しかし本来この宝具の真価は「蒐集した全技能・宝具を剣技で以って打ち破る」ことにある。
だが現在の真名は偽装登録されたもので、宮本武蔵の宝具であってマシュの宝具ではない。
マシュが自分の「道」を見出すことでこの宝具は完成し、本来の真名解放が可能となる。
宝具の真名をマシュが自ずから導き出したその時、彼女は真に剣の英霊へと至るだろう。
かつて新免武蔵という若者が、そうであったように。
【Weapon】
『無銘・郷義弘』
宮本武蔵が姫路城の妖怪を退治した褒美として賜った太刀。
単体でも宝具に相当し、聖剣魔剣に勝るとも劣らない業物。
刑部姫の分霊が宿っており、折に触れてアドバイスをくれる。
『雷光丸』
宮本武蔵が愛刀としたとされる小太刀。由来は不明。
武蔵は二刀を差すのだから二刀を使えねば意味が無いと考えていた。
太刀で受け、脇差で攻める、攻守の要。
【概要】
宮本村出身の作州浪人、新免武蔵。
戦国時代末期から江戸時代初期にかけて活躍した剣豪。宮本武蔵は後の名である。
各地で吉岡道場、宝蔵院流槍術、神道夢想流、柳生一族、巌流佐々木小次郎と対決。
13歳から29歳まで合計で60回以上の果たし合いをし、その全てに勝利してきた。
そして島原の乱で負傷した後、肥後熊本藩に客分として招かれ、千葉城に腰を据える。
晩年は金峰山霊厳洞に庵を結び、そこで五輪書を執筆、60歳で没したという。
その生涯は多くの謎に包まれており、今日のイメージは講談や小説に拠るものが強い。
剣術のみならず多数の分野で才を発揮している事から、武蔵複数人説まで存在している。
存在は確実だが詳細はほぼ架空という意味では、佐々木小次郎と然程変わらない。
マシュに憑依できたのも、擬似英霊として「新免武蔵」の殻を被せた為と思われる。
五輪書の序文を見る限りでは彼は「強くなるために修行を重ねた求道家」ではなく、
「己の強さでどこまで行けるか」を試みた武芸者であったのではないか――……。
【解説】
マシュ・キリエライトは人理継続保障機関カルデアに所属する少女である。
やや世間知らずだが博識、生真面目で優しい性格をしており、主人公を先輩と慕う。
しかし特異点Fへのレイシフト(過去への転送)実験に参加した際、爆破テロに遭遇。
下半身を瓦礫に押し潰され、一目で手遅れだとわかる致命傷を負ってしまう。
助けに来てくれた主人公へ「手を握って」と懇願し、二人とも炎に包まれ――……。
そして気がついた時、彼女はデミサーヴァントとして特異点F:冬木に立っていた。
本質は、デミサーヴァントとして英霊を憑依させる為に造られた試験管ベビー。
英霊を憑依させるための人体改造などの影響で、2年前まで無菌室に隔離されていた。
世間知らずなのはこの為で、「先輩」に対する自分の恋心にも無自覚で理解していない。
目標は主人公とアイコンタクトだけで戦闘、炊飯、掃除、談話ができる関係になること。
現在の年齢は16歳だが可動限界は18年。延命処置を施しても25歳を迎える事は不可能。
【特徴】
紫がかった銀髪の少女。マシュマロオッパイ。デミサーヴァントです!
甲冑を纏っているが機動性重視のため露出が多く、豊満な体型も一目瞭然。
太刀と小太刀を両手に握り、二刀流で立ち回る。
【サーヴァントとしての願い】
もっともっと強くなって先輩のお役に立ちたい/先輩と再会したい/前へ、前へ
【マスター】主人公@Fate/GrandOrder
【能力・技能】
一日に行使できる数は三画までだが、一日に一画ずつ補充される。
恐らく全身に令呪が浮かび上がっているものと思われる。
現在はマシュの意思で令呪の行使が可能。
同時に三体、最大で合計七体のサーヴァントを指揮できる。
歴戦のサーヴァントたちからも「良い采配だった」と言われる程度の能力。
損得抜きに他人を助けたり、向き合おうとするお人好しな性格。
望むと望まざるとに関わらず女性から好意を持たれやすい、女難の相。
【人物背景】
人理継続保障機関カルデアに所属するマスター候補のひとり。
ただの数合わせとして呼ばれた「素人」の日本人で、知識も経験も無い。
カルデアが爆破テロに遭遇して以降は唯一生存したマスターとして戦いに赴く。
どんな逆境でも諦めずに人類のため戦う姿勢から、多くの英霊の心を掴んでいる。
現在は行方不明だがマシュとの間にパスが繋がっているため、生存はしている。
もしかすると「異なる特異点F」にいるのかもしれない。
【マスターとしての願い】
不明
最終更新:2016年09月05日 22:22