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安心院なじみ&アーチャー

「やあ、はじめまして。というのが適切かな。
 僕は安心院なじみ――きみのマスターになった人外だぜ」

 学校の空き教室だろうか。
 夕焼けが差し込む教室は朱に染まる。
 設備されている蛍光灯も点灯しておらず薄暗い。
 黒板、ドア、机、椅子、窓、知覚する限り普遍的な教室も、どこか神秘的ですらあった。
 幾何学的に並列する机の先、生徒たちが荷物を仕舞うロッカーの上に、彼女は座している。
 きっとあれは制服と呼ばれる服ではない。蝶々を模るリボンこそ目に付くが、ひどく常識的な私服を纏う。
 中身と外観とのギャップがこうも外れると、なるほど、違和感でしかない。

「といっても、僕はきみのことをかねてより知っていてね。
 ああいや、社会科の教科書でのきみの活躍なんてほとんど知らないぜ。
 あんな虚実にまみれた歴史で今の小学生たちが何を学んでいるのか僕は寡聞にして知らないけど、僕が知っているのは事実であり、時代だ」

 横長のロッカーに座り、足を組み直しながら彼女は滔々と語る。
 何が楽しいのか、にこやかな笑顔を浮かべていた。
 そのように観測する彼は、教卓に立っている。指揮することに長けた彼には、ある意味ではおあつらえな場であった。
 軍服に身を包んだそのなりは、どうしたって先生には見えないけれど。

「僕は宇宙の生誕から読者を始めていてね。もちろんきみの生きた時代――フランス革命の前後の時期も、僕は知っている。見てきている。
 わっはっは、激動の時代だったね。流石は後の“英雄”にして“悪魔”だ。“悪平等(ぼく)”からも、きみの栄華はよく聞かされたもんだよ」

 驚きはしない。目の前の異物を常人と思うほうが間違いだ。
 戦場でもそういうことはあった。見目の美醜や老若で力量を見誤ると痛手を負う。
 うら若き少女の姿をしている彼女は、自称の通り人外である。ならば、そういうこともあり得よう。

「しかし盛者必衰とは悲しくてね。栄えるものは落ちぶれるものさ。きみもそう。きみの失速ぶりも僕は眺めてきた。
 とはいえ嘆くことはない、大抵はそんなものさ。凋落なんていうのは歴史の必然だぜ」

 あるいは逆に、落ちぶれるからこそ歴史になるのだ、と彼女は続ける。
 今の小学生たちが読んでいる社会科の教科書は没落の集積であると言い切った。
 彼女は突如、ロッカーから身を消す。現れたのは、教卓の上方、天井。重力を無視するかのように体育座りで座っている。

「他にも、きみの匂いフェチも、周囲の軍人に比べ背が低いのを悩んでいることも、
 達筆であるという自負すらあるのに貶されてショックだったことも、――それにほら、あれとかも」

 彼女は指を折りながら、順々と彼の特徴を挙げていく。
 書物などに基づいた、事実彼も筆を執った記憶のある事柄もそうでない事柄も、次々と詳らかにされる。
 しまいには、身体を洗う際はどこから洗うのかとか(曰く右足の小指から)、貧乳派巨乳派どちらであるとか(曰く貧乳派)、
 些末すぎてどうでもいいようなことにまで話題は波及していた。とてもとてもやってられないので、いつしか男は席についている。
 どれだけ時間が経ったのだろう。窓の外は夕暮れから夕闇へと姿を変えていた。
 相変わらず天井に座り込んでいるなじみは男を見下ろしながら、ゆるやかな笑みは絶やさない。

「そういえばきみと言えば、こんな台詞も有名だったね。
 『余の辞書に不可能の文字はない』。一般的な見解では誤訳とされてしまっているけれど、実際のところはどうなんだい」

 座ったまま男は、ぎろりと少女を見上げる。
 教室の中は暗い。なじみの顔もすっかり闇に覆われていた。
 それでもはっきりと認識できる。彼女の笑顔はこれまでよりも凄惨に、より愉快そうに歪んでいることだろう。
 男は肩肘をついて、けだるそうに鼻で笑う。

「おいおい、いつまでだんまりを決め込むつもりだい。僕たちのジャンルはシュール言語バトル漫画だぜ。
 推理漫画でも、ましてや伝奇物語ですらない。もうきみの分かりきっている正体なんて隠したって無駄。
 いつまで“男”だなんて描写させるつもりだよ。――、ほら、どうなんだい。ナポレオン」

 ナポレオン。
 ナポレオン・ボナパルト。
 英雄として、時に悪魔として恐れられる偉大なる男。
 徐々に暗澹が侵食していく教室の中、変わらず不遜にも見下すように見上げながら。

「聞くまでもないだろ。僕にね、不可能なことなんてないんだ」

 静かに、粛々と、されど満ち満ちた自尊心を隠すこともなく言い切った。


  + + +


 仄かなオレンジが二人を射抜いている。
 一人はにこやかに、一人は嘲るように笑ってる姿を照らした。
 互いの位置関係が逆転している。なじみは椅子に座り、ナポレオンは天井に足を付けていた。
 おそらくは力技なのだろう、スキルも宝具も使った様子はなく、さも自然と言わんばかりに、腕組みしながら立っている。

「都城王土くんにもできることだ。だとしたら、そりゃあきみにできないことはないんだろう」
「あんたにできることだから、だろ」
「ん? ああ、なるほど。そういう言い方もできるね」

 ナポレオンはふん、と鼻を鳴らしながらもどや顔で応える。
 自信で模られた表情からは、あんたにできることを僕ができないわけがないだろ、との意を暗に示していた。
 こりゃあ一本取られたね、と安心院も嘯きながら問い掛ける。

「でも、きみは天井に張り付くスキル、“逆転掌訴(ギブアップダウン)”を使っているわけじゃない。
 おいおい、めだかちゃんならもうとっくに僕のスキルなんて、とっくにものにしてるぜ。ナポレオンはその程度もできないのかい」
「は?」

 途端、ナポレオンの表情は固まった。気が抜けたのか、天井から落ちる。どんがらがっしゃんと盛大に。
 なんてことはないように立ち上がったナポレオンの顔は歪んでいた。むかついた、という感情を隠すこともなく。
 固まること数秒、火を吹かせてナポレオンはまくしたてる。

「いやいや、できるから。“英霊”なんて制約があるから抑えているだけですから。辛いぜ。
 あんたは僕の生前を知っているんだろう。ならば知っているはずさ。この僕の手にかかれば、その程度、本来は造作もないことぐらい知っているだろう?」
「いやお前、何年前のことだと思ってんだよ。覚えているわけないだろ」
「じゃあさっきの語りは何だったんだよ!」

 相変わらず煽り耐性だけは低いなあ。からかうなじみを前に、彼は押し黙る。
 何のために先ほどまで黙っていたか。それはひとえに、彼女の前で不要に弱みを曝け出さないためではなかったか。
 落ち着け、と繰り返せば、軍人としての性分か、あるいは“不可能なことなどない”彼の性能か、きりりとしたポーズを取り戻す。

「あんまり図に乗らない方が得策だ。あんまり僕を怒らせるものじゃない。
 お喋りなのは結構だが、僕はね、自分の思い通りにならないっていうのは好かないんだ」
「まあ……うん、きみがそういうやつだとは知っていたつもりだけれど、しかし改めて聞くと雑魚臭はんぱないね」
「それは後続の英雄かぶれが失態を犯したからだろう。英雄たる僕を意識して、英雄っぽく振る舞うのは勝手だが、せめて英雄らしくあってほしかったもんだ」
「いやでもきみも、結局負けてるじゃん。百日天下って悪あがきまでして結局落ちぶれたじゃないか」
「はあ? 違いますけど。ただ、そこまでする意味がなかったから、もう一回退却しただけですけど? 戦略的撤退なんだけど? やればまだまだできましたし?」
「痔だったからね」
「それも別に治そうと思えば気合いでなんとかなったしー! 気分の問題だからね!」

 喋れば喋るほどボロがでるナポレオンを微笑ましそうに見つめながら、隣の席に座るように促した。
 はん、と反感を示しながらも、ナポレオンはなじむの指す席へとつく。
 腕を組み足を机に投げ出す、テンプレートのような私は不良ですよ感をにじませるナポレオンに向かって、安心院は再度問う。

「僕こと安心院なじみは7932兆1354億4152万3222個の異常性(アブノーマル)と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷(マイナス)、
 合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを有している。それを聞いて、きみは一体何を感じるかな」

 紛れもなく万能だった。完璧すぎるぐらいに完全だった。
 やりたいと思ったことは必ず成し遂げられる。可能なことが可能である限り、収斂する結果は絶対のものなのだろう。
 だが、それがどうしたというのだろう。

「すごいな。だが僕の方がすごい」

 どれだけの“可能”を集めたところで、“不可能なことなどない”ナポレオンに勝ることはない。
 それがナポレオンにとって、歴とした答であり、整然とした理論であり、揺るがない自意識であった。
 返答を聞いた安心院の顔色が、わずかに変じた。朗らかに、なのだろうか。辛そうに、なのだろうか。あるいは、寂しそうに、なのだろうか。

「ところであんた」

 不覚なことに、その意図を掴みかねたナポレオンは思わず言葉を投げかけた。
 いや、正確には分かっていた。彼女の胸中で蠢いているわだかまりの正体は、掴んでいた。
 だが、どうして彼女は、そんなものを抱いているのだろうか。今のナポレオンには、どうしても理解ができなかった。

「どうしてそこまでできるのに、そんなに退屈そうなんだ。僕ほどではないとはいえ、何でもできるというのは快感だろう」

 彼女は笑顔を浮かべていた。
 楽しそうに、愉快そうに、だけどあくまで、そう見えるだけだ。
 彼女は楽しんではいないし、愉快なわけではない。なんでもできる彼女の人生は、ひどく色褪せたものである。
 自分がやりたいように蹂躙し、やりたいように凌辱してきた、それが生涯を通した享楽であったナポレオンからしたら、不可解であった。

「……さてね。そういう話は、また次の機会にしようじゃないか」

 平等なだけの人外は一言そういうと、ナポレオンの問いを締め切った。
 ナポレオンは特に反駁しない。今答えないというのなら、いずれ答えさせるだけだ。
 急く話でもなし、そもそもそこまで興味のある話題でもなかった。

「ただ、そうだね。――僕はやる気だけはしっかりとあるぜ。そこだけは保障しよう。
 “主人公”レベルの存在が入り乱れるこの聖杯戦争も勝ち抜くことができるのか。それはそれは、見物じゃないか」

 どこまで本気か。彼女は笑顔を取り戻してナポレオンに宣言する。
 依然として飄々とした態度は変わらないが、きっと奥底では多大な期待と、押し寄せる諦観とで入り乱れていることだろう。
 なんとなく理解できる。だからといって、ナポレオンからしてみたらどうという話ではなかったけれど。

「ふん、あんたがどんなもんか知らないけど、勝つよ、僕は」
「そりゃあ頼もしい。そうだね、これからは主従一体、運命共同体だ。僕のことは親しみを込めて、安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」


 すでに窓の外はほの暗く。
 万能たる二人の、そこはかとなく不毛な語らいは進んでいく。
 こうして記念すべき第一夜は刻々と更けていく。


【クラス】アーチャー
【真名】ナポレオン・ボナパルト
【出典】史実
【マスター】安心院なじみ
【性別】男性
【身長・体重】167cm・69kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運A 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:B
 マスター不在でも行動できる。
 ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。



【固有スキル】
カリスマ:A
 大軍団を指揮する天性の才能。
 Aランクはおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。

軍略:A
 一対一の戦闘ではなく、多人数が活動する場所における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具や対城宝具行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
 歩兵、騎兵、砲兵の連携を基本とした軍団の統合運用、超戦略規模の分進合撃を特に得意とする。


【宝具】
『英雄交響曲第一番(グロワール・エロー・アルメ)』
 ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:0~30 最大補足:1000人
  ナポレオンの栄光と没落を共にした軍隊。世界制覇を目指したナポレオンの戦争芸術の具現。
  それぞれの軍団が独立行動と連携が可能であり、また軍隊という専門家集団である為、
  ランクC-の単独行動スキル、ランクB-の専科百般スキル、ランクB+の連携攻撃スキルを持つ。
  魔力を消費することで、自らの指揮下にある任意の軍隊に専科百般スキルを発動させ、
  騎乗、気配遮断、気配察知、地形適応、追撃、戦闘続行、勇猛、陣地作成、破壊工作等のスキルをCランク以上発揮できる。
  また包囲状態から一斉攻撃を行うことで、全兵員の攻撃のダメージ判定を相乗させる事が出来る。

『英雄交響曲第三番(アロガン・エロー・リベルテ)』
 ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
  「余の辞書に不可能の文字はない」――故にこそ、このナポレオンの名において、不可能な事柄などありはしない。
  真名解放をしている状況下において、彼に不可能の文字はなし。代償として処する事柄相応に魔力は消費する。
  皇帝特権や星の開拓者などのスキル・宝具効果を包含する、英雄たるナポレオン・ボナパルトの宝具。
  彼の発した格言の誤訳であるという声もあるが、それはそれとしてこのナポレオンがそう言い表したというのだから仕方がない。

【Wepon】
大砲

【人物背景】
 フランス第一帝政の皇帝。
 フランス革命後の混乱を収拾して軍や国民からの支持を集め、クーデターによって軍事独裁政権を樹立。後に皇帝に即位した。
 ナポレオン戦争と呼ばれる一連の戦争により、イギリスとスウェーデンを除くヨーロッパ全土を制圧するが、最終的に敗北して失脚した。
 その後に短期間復位を果たすも再び退位に追い込まれ、南大西洋の孤島セントヘレナ島で晩年を送った。
 国民軍の創設、近代法典の基礎となったナポレオン法典の制定、フランス革命の理念の普及など、彼が近代ヨーロッパに与えた影響は計り知れない。
 今回は砲撃手・軍人としての適性よりアーチャーになった。なので、法典に由来した『英雄交響曲第二番』や、ロゼッタストーンなどは置いてきた。

【特徴】
軍服に身を包んだ茶髪碧眼の男。


【サーヴァントとしての願い】
やりたいようにやる。


【マスター】
安心院なじみ@めだかボックス

【能力・技能】
7932兆1354億4152万3222個の異常性(アブノーマル)と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷(マイナス)
ただし、ちょいちょい縛りプレイをしているので、実際に使うのはその限りではない。

【人物背景】
インフレの権化。
ただし負ける時はあっさり負ける人外さん。

【weapon】
多分ないけど、あれば使うことはできる。

【マスターとしての願い】
できないことを見つける。

【備考】
黒髪かつ巫女服ではないので、多分悪平等篇後。
半纏さんは置いてきた。

【基本方針】
やれないことをやる。

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最終更新:2016年09月06日 20:21