過負荷(マイナス)とネガティブ(マイナス)

雨が、降っていた。
とてもとても冷たい雨だった。
べったりと服が肌に張り付くのが分かる。
「問おう」
夜の闇にしみ込む声。
男のものだった。それに応じるのもまた男の声であった。
男二人、雨の夜に佇んでいた。
ただし
「どざえもんの気分を知っているかな?」
片方は川に流されていた。

『おいおい、こう見えても僕は泳ぎに関しては人語に落ちるよ』
格好つけたような言葉の男。学ランに身を包み、少々幼い顔つき。
「落ちるのか……まぁ、僕も落ちるが」
呆れたような言葉の男。ネクタイを締めている。しゃれた服装、少々湿っている。
湿っているのは彼がジメジメとした性質で、ねちっこい人間という意味ではなく
いや、少々そういう性質であるような気もするのだが、それはともかくとして
言葉を返した男こそが川に流される男であった。
「ところで、そろそろ助けてもらえないだろうか。足をつっている。もうだめだ」
『なーんだ。そうだったの』
「申し訳ないが手を貸してくれるだろうか?」
『えー』
「頼むよ」
必死そうな顔をして頼む男に対してにへらと微妙な顔をする男。
しぶしぶと腕を伸ばす。二人は手をつなぎ、じきに引っ張り上げられる……はずだった。
雨でぬれていたからだろうか、それとも非力であったのだろうか。
つるりと滑り、流れていない男の方も川に落ちてしまった。
「なにをしている! 二人そろって溺れるつもり……」
抗議しようとした男は体が落下し始めていることに気づく。
落ちている? なぜ?
それは直にわかる答えだった。水がない。川の水が無くなっているのだ。
『溺れたくなかったら、水をなくしちゃえばいいんだよ』
こともなげに言ってのける学ラン。男の名前は球磨川禊といった。
『ほら、助かっただろう?』
いいも悪いもないまぜにしてしまう男。過負荷の男。
そして、聖杯戦争のマスターである男。
そんな球磨川のサーヴァントは
「腰と尻に鈍痛……」
川底で尻餅をつくように落ち、腰と尻を痛めた男だった。

「ひどいな。僕なみにひどい」
『なにが?』
「この光景だよ」
水を失った川。魚が川底では力なく跳ねている。
二人はなんとか陸に戻ってきた。
ただし、そのための犠牲は大きかったわけだ。
陰鬱とした表情で頭をかかえるサーヴァント……クラスはキャスターの男の傍で
球磨川は顎に手を当てぐにゃりと小首をかしげている。
「こんなことなら僕一人溺死していればよかったんだ」
『なに言ってるんだい? こんなことに頭を抱えるなんて先が思いやられるよ』
「こっちの台詞だよ……事実は小説より奇なりというけれど、こんなものが事実なら
 僕の作品なんて奇でもなんでもない。棄と当てていただきたいほどだ」
ぶつぶつとジメジメとした言葉を吐き続けるキャスター。
球磨川はかがみこみ、本来川面があったであろう場所に手をかざす。
次の瞬間だった。
乾き、もはや天から降る雨が川となろうかという状態であった場所に川が現れたのだ。
「こ……これは……なんという……」
『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』
名前だけでも憶えていってくれよ、と球磨川は言った。
「……思うんだけど球磨川君。君はこんなしみったれて劣悪なサーヴァントである僕なんていなくても勝ち残れるのでは?」
『キャスターちゃん。意外かもしれないけど僕はこんな手品、バトルで使ったことなんて全くと言っていいほどないんだぜ』
「君の言葉はすがりつきたくなる」
『よく言われるよ』
「君といるとそんなに自分がそんなに弱くなく、案外悪くない人間なのでは思ってしまうよ」
君は僕より強いはずだ、とキャスターは言う。
それに対して球磨川は怒らない。ただ笑っている。へらへらと。

『キャスターちゃん。過負荷(マイナス)を捕まえて強いなんていうもんじゃないよ』
『自慢になってしまうけど、僕は今までの人生で一勝しかしたことがない』
「……自慢なのかい? あぁ、そういえば。さっき先が思いやられると言ったけれど、やる気になったのかい?」
『聖杯戦争のこと?』
「ああ」
『んー。先が思いやられるっていうのは、この程度僕の経験した不幸からすれば全然幸福なことだって意味なんだけど』
キャスターの脳内にはありとあらゆる不幸に見舞われる球磨川が映し出される。
そして、自分がその立場だったらと思い震えてしまう。
『それと、聖杯戦争に対して僕は案外自信満々なのさ』
「え?」
『主人公たちが一堂に会してるんでしょ?』
「……僕は主人公じゃない」
そういうキャスターを球磨川は静かに見下ろしていた。
『それと、僕からも質問なんだけど』
『川に流れてなにしてたんだい?』
「自殺だよ。今回も死ねなかったが」
聞かなくても分かるだろうという目で球磨川を見るキャスター。
相変わらずへらへらと笑った球磨川の顔がうつる。
なんとむかつく顔だろうか。
『大丈夫だよキャスターちゃん。勝てない僕が勝てたんだ。死ねない君もいつか死ねるさ!』
ぐっとサムズアップをしてくる。
キャスターはその親指を逆に曲げてやりたくなったが自重した。
間違いではない。いつか死ねる。聖杯戦争で戦えば自殺などせずとも。
『それにねキャスターちゃん。君は人間失格と自分を称するけど』
『僕から見れば君も十分幸福(プラス)の人間だよ』
「……なぁ球磨川君。僕は君のようになれるかな」
『さぁ?』
ここにきてその反応かとキャスターはため息をつく。
『行こう、キャスターちゃん。幸せ者たちのいるところへ』
「行ってどうする」
『彼らが真面目な顔して聖杯の取り合いをしているのを全力で茶化すんだ』
「はぁ?」
『世の中の幸せ者に見せてやろう。僕らのぬるい友情を』
「……君といると不幸になりそうだ」
『なるんだよ』
雨が降っている。
二人の男は傘もささずに濡れている。
『僕といれば君はきっと誰よりも不幸になる』
『だけど、いい死に場所をあげるよ』
「……一つ言っておくよ。ここ数日君と一緒にいて分かったことだが」
「きっと最後に君はこういっていることだろう。『また勝てなかった』と」
『君はその時、また死ねなかったっていうんじゃない?』
「どうだろうね。試してみようか。君と僕で心中だ」
『えー僕、死ぬの嫌だし一人で死んでよ。それか美少女になって欲しいなー』
「奇遇だね。僕も同じことを思ってる」
二人は夜の闇に消える。
英雄たちを笑うため、馬鹿にするため、茶化すため
勝てない男と死ねない男がいく。

マイナスは二つかければプラスに変わる。
しかし、マイナスにマイナスを足すとより大きなマイナスとなる。
今はそれだけが確かなことだった。

【クラス】キャスター

【真名】太宰治

【出典】明治~昭和

【性別】男

【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運A-- 宝具C++

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:E
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。

道具作成:C
 魔力を帯びた器具を作成できる。彼の場合は人を魅了する『作品』である。

【保有スキル】
無辜の怪物:C
 生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられなった怪物。能力・姿が変貌してしまう。
 このスキルを外すことは出来ない。
 彼の場合は後世の作品で彼をモデルにしたキャラクターなどの存在にもおかされている。
 非常にネガティブで自殺願望があるという基本人格はこれによって生まれている。

生存続行:B
 名称通り生存を続行する為の能力。
 「戦闘続行」が「無辜の怪物」によって変化したもの。
 「戦闘続行」は致命傷となるような傷を受けなければ戦闘を続行できるスキルだが
 彼のそれは致命傷を受けない限り、戦闘する意思さえなければダメージを打ち止めて生還する。
 ゲーム的に言うと常にHPが1残り続ける能力。

退廃の桜桃:A
 無辜の怪物からの派生スキル。
 様々な女性との心中経験(未遂含む)によって生まれたスキル。
 基本的に異性に作用する魅了スキル。
 庇護欲などをかきたて、ひきつける。

【宝具】
『人間失格(にんげんしっかく)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:2人
 心中志願。その完成系。
 彼が選んだ相手と心中する。心中の内容はその場の環境によりバラバラで
 工事現場のそばなら重機が暴走したり、川の近くなら足を滑らせて二人一緒に川に落ちたりする。
 心は幸運ステータスによって死を回避できる。
 彼の幸運ステータスによって奇跡的に心中を実行し、彼の幸運ステータスによって奇跡的に生き残る。

『人間失格・桜桃忌(にんげんしっかく・おうとうき)』
ランク:C++ 種別:対伝承宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:2人
 『人間失格』という作品の主人公は彼自身、この作品は彼の遺書だ。
 そんな定説を覆した、『人間失格の草稿』あらゆる事象を虚構として確定・破棄する。
 英霊や宝具の逸話などを『よく練り、遂行された見事なフィクション』として処理し無効化する。
 無効化された場合、英霊はステータスの減少やスキル封印、宝具であれば付与効果などを打ち消される。
 聖剣はただの剣となり、怪力の英霊は人間並みの筋力にまで落ちぶれる。

 伝承、口伝などでその存在を裏付けることが困難な古い時代の英霊が相手には有効。
 逆に近代の英霊であればあるほど情報に信頼性が増し、効果が薄れる。
 真明看破し、宝具が何なのか知っていれば宝具すら無効化してしまえるほどのものだが
 後世のイメージなどで捻じ曲げられた本来の太宰治とは違う
 不完全、不確定の存在である彼自身にも作用し、『人間失格』が使えなくなり、スキルランクも下がる。

【weapon】
なし。自殺に使った薬物などは持っていない。

【人物背景】
日本の小説家。無頼派などとも称された。
大地主、名士の父を持つぼんぼんで、十一人兄弟の十番目の子供であり六男。
自己嫌悪などからマルキシズムなどに傾倒したこともある。
芥川龍之介を敬愛しており、芥川賞の受賞を懇願したこともある。
本名は津島 修治。井伏鱒二に弟子入りしたあたりから太宰治を使い始めた。
女性との心中経験がいくつかあり、本人が死んだときも入水での心中であった。
「無辜の怪物」スキルによって少し捻じ曲げられている。

【聖杯にかける願い】
死んだことをなかったことにして、第二の人生を謳歌する

【マスター名】球磨川 禊

【出典】めだかボックス/グッドルーザー球磨川

【性別】男

【Weapon】
『螺子』
様々なサイズの螺子。大きいものになると螺子の頭が手のひらサイズのものにもなる。
なんか地面から生えてくる時もあるらしい。

【能力・技能】
『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』
『「現実(すべて)」を「虚構(なかったこと)」にする』過負荷
『大嘘憑き(オールフィクション)』が色々あって最後にたどり着いたしたもの。
なかったことにしたものをさらになかったものにして、自分で効果の打消しが可能になった『取り返しのつくスキル』

『劣化却本作り(マイナスブックメーカー)』
球磨川の禁断(はじまり)の過負荷。
受けた者はあらゆるステータスが球磨川と同じ、過負荷に落とされてしまう。
細長く伸びたマイナス螺子によって発動するが、見た目に反して痛みはない。
人類最弱の球磨川と同レベルになるが、球磨川の強さを知っているものに効果は薄く
また彼自身が幸せになればなるほど弱体化されていく。

【人物背景】
箱庭学園を卒業した球磨川。学生ではないが学ランを着ている。
時系列的には本編終了後だが、須木奈佐木という人物に出会い、消息を絶つ前の球磨川禊。

【聖杯にかける願い】
『んー思いつかないや』

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最終更新:2016年09月12日 01:19