東京の下町にある、平凡な交番。その前に、1台のパトカーが停車した。
そこから、一人の中年警官が降りてくる。
パトカーから警官が降りてくるのは、当たり前のことだ。
しかしこの場合は、異様な光景であった。
その警官は顔中に血管を浮かび上がらせ、両手に銃を持っていたのだから。
交番の中にいた警官たちが戸惑いを見せる中、中年警官は銃を乱射しながら叫ぶ。
「両津はどこだ! 両津のバカはどこに行った!」
「聖杯戦争に参加するといって、冬木市に行きました!」
◇ ◇ ◇
「うーむ……」
ほぼ同時刻、冬木市内のとある公園。
着慣れた制服の代わりに革ジャンを着込んだその男は、ベンチに腰掛けてなにやら唸っていた。
彼こそが両津勘吉巡査長。「早撃ち両さん」「始末書の両さん」などの異名を持つ、亀有公園前派出所の名物警官である。
「もっと面白おかしいゲームだと思っていたんだが、死人が出るのも珍しくない戦いなのか、聖杯戦争ってやつは……。
これは認識を改めないといかんな」
「まあそう深刻になるなって、マスター」
両津にそう返すのは、先刻彼が召喚したサーヴァントだ。
容貌は逆立った短髪にきりりとした目つき。まるで典型的な少年漫画の主人公のようである。
「要するに全員殺せばいいんだから!」
「馬鹿野郎! できるか、そんなこと!
こっちは曲がりなりにも警察官だぞ! 人殺しになるのはごめんだ!」
爽やかな笑顔で言い放つサーヴァントを、両津は青筋を立てて怒鳴りつける。
「サーヴァントを倒すのは、まあよしとしよう。お前らはもともと死人だからな。
だが、マスターを殺すのはなしだ。サーヴァントだけを脱落させることで優勝を狙う」
「つまり、皆殺しだな!」
「何をどう聞いてればそうなる!」
再び怒鳴る両津だったが、サーヴァントの方はまったく堪えた様子がない。
顔に爽やかな笑みを浮かべたままだ。
「まったく、歴史嫌いのわしでも知ってるような大物が来たときにはラッキーだと思ったのに……。
まさかヤマトタケルが、こんないかれたやつだったとは……」
顔を青ざめさせながら、頭を抱える両津。
そう、彼のサーヴァントはヤマトタケル。
日本において抜群の知名度を誇る英霊である。
しかし……。
「まあ、しょうがないっすよ。俺、バーサーカーで狂化スキルついてるし!」
「誇らしげに言うんじゃない!」
そう、バーサーカーで召喚された結果、古の英雄は爽やか殺戮マシーンと化してしまったのであった。
【クラス】バーサーカー
【真名】ヤマトタケル
【出典】「古事記」「日本書紀」
【性別】男
【属性】混沌・狂
【パラメーター】筋力:A 耐久:B 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:A+
【クラススキル】
狂化:D
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
ヤマトタケルの場合ランクが低いので言葉を話すことは可能だが、まともな会話は成立しない。
【保有スキル】
対英雄:D
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
セイヴァー以外のサーヴァントが持つのは非常にまれなスキルだが、
彼の場合は各地の英雄を討伐した逸話が有名であるため取得している。
勇猛:B
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
ただし、バーサーカーとして召喚された場合は、その狂化によって勇猛さの意味を失っている。
【宝具】
『草薙剣』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1-5 最大捕捉:1人
ヤマトタケルが西国に向かう際、叔母から授かった剣。
スサノオがヤマタノオロチを倒して手に入れた「天の叢雲」と同一のものとされる。
後に「三種の神器」の一つとして祀られる剣であり、宿す神秘は非常に高い。
能力としては持ち主が危機に陥った際、ひとりでに動いて危機を払ってくれることがある。
また草を払って火から逃れたという逸話から、植物属性に特攻を持つ。
【weapon】
『草薙剣』
【人物背景】
行徳天皇の皇子。
まだ朝廷の権力が盤石でなかった時代、父の命により各地で反朝廷勢力を討伐して回った。
「日本最古の英雄」とも言われるが、父の言葉を取り違えて兄を殺してしまったり、各地の英雄を謀略で葬ったりと今の価値観では英雄らしからぬ逸話も多い。
複数の英雄の功績をまとめた架空の人物という説も有力だが、今回召喚されたのは紛れもなく「ヤマトタケル」として生きた青年である。
もっとも、バーサーカーとして召喚された今の彼に生前の面影がどれだけ残っているかは疑問だが。
【サーヴァントとしての願い】
とにかく全員ぶっ殺す!
【マスター】両津勘吉
【出典】こちら葛飾区亀有公園前派出所
【性別】男
【マスターとしての願い】
一生遊んで暮らせるだけの金。
【weapon】
「ニューナンブ」
警察官に支給される拳銃。
むろん非番の時に持ち歩くのは禁止されているが、公私混同の激しい両津はつい持ってきてしまった。
【能力・技能】
「頑強な肉体」
車にはねられてもかすり傷程度で済む。
非常に強力な免疫機能を持つため、病気にも強い。
至近距離で不発弾が爆発するくらいのことがあると、さすがに入院する。
「多彩な技能」
一流の寿司職人であり、射撃の名手であり、ゲームの達人であり……。
身につけた多種多様なスキルは、全て書こうとするとそれだけで本文を超える分量になるので割愛。
「欲望の塊」
欲望に非常に忠実であり、特に金銭欲は尋常でなく強い。
かつて神が欲望を抜き取ったときには、肉体に何も残らなかったほど。
【人物背景】
亀有公園前派出所に勤務する警察官。階級は巡査長。
M字を描く繋がった眉毛がトレードマーク。
短気で怠け者で金に汚いが、人情深い一面もある。
【方針】
聖杯狙い。ただし、マスターは殺さない。
最終更新:2016年09月12日 23:10