ヒュン、高い音を響かせ空を切り裂く一羽のハヤブサがいた。
兜を模した頭飾りを付けているのを見ると、彼奴は飼い鳥なのだろうか。
ハヤブサはぐるりと鬱蒼と生い茂る森のあたりを巡回するその動きは、確かに組織的でさえある。
ただ、眼窩に宿す双眸の鋭さは野生のもの以上の鋭角さを伴っていた。
「グェェェ…………」
黎明の光をその身に受けながら低く唸る。
周回の起点には大きな屋敷があった。綺麗に整えられた庭園は見るものの目を奪う。赤煉瓦の風情を思わせる赤褐色の外壁とも違和感なく親和している。
この屋敷の主人はさぞ高名な者か、拘り深い者なのだろう。が、この屋敷を縄張りと昨夜に決めた彼奴等にとっては些事でしかなかった。
中空で円を描いたまま、方々へと視線を送っていたハヤブサは、そのギロリとした視線を屋敷の玄関に向ける。
玄関のドアが古びた音を立てて開く。中から褐色の幼さを感じる手が伸びた。
「クェェ!」
ハヤブサは声を挙げて、その腕へと飛びつく。
決してそれは捕獲を意図したものではない。木の枝に飛び乗るように、この褐色の腕に止まったのだ。
本来であればハヤブサ、それもそれなりに成熟した彼奴を据えるには、腕に防具を付ける必要がありそうなものである。
「やあ、お疲れさま。ペット・ショップ――でも大丈夫だよ。逆にうろちょろしてたら危ないからね」
中から腕を伸ばしていた幼女――齢は10歳前後といったところか――は、ふんわりと微笑を浮かべていた。
苦悶を湛えている様子もない。純粋に、その行為そのものはなんてことはないと、言外に表している。
凄腕の飼育員か、はたまた長年の友情が成せる業なのか。いや、彼女の風体からはどうにもそれらは外れてしまう。
日常じみた単語では表現しきれない、内から逆巻く荒々しい存在感は、彼女の非日常性に判を押している。
「…………」
「ん? ああ、きみは相変わらず寡黙で勇壮だね。でもアタシは知っている。
きみとアタシは同じ“獣(ビースト)”ではあるけれど、アタシと違って極めてきみは忠実だ。しもべに――いや、マスターにふさわしい」
ペット・ショップと呼ばれた兜のハヤブサを、こともなく据える彼女こそが、紛れもない“英霊”なのだった。
“ビースト”。通常の七騎に属さないエクストラクラス。――しかし、この冬木の聖杯戦争に臨んだ、正真正銘の主従である。
足元まで垂らした白銀の髪を揺らし、ご飯にしようと軽やかな足取りで踵を返す。
ペット・ショップは腕から離れ、主人(サーヴァント)に付き添うようにふわりと浮遊する。
「とは言っても、昨夜の残りでね。残飯処理ってわけじゃあない。……人間には冷凍庫という文明があるらしくてね。
活用させてもらったよ。うんうん、“知性”というものはいいね。人間も発達するわけさ」
真紅のカーペットを雑に踏み慣らしながらビーストは歩む。
まもなく広い部屋に出た。天井を仰げばいくつものシャンデリアが、左手を見ればよくわからないがきっと名のある絵画に燃え盛る暖炉が、
右手を見れば同じく得体のしれない絵画に白亜の磁器を飾る食器棚が、そして正面には、テーブルクロスの掛けられた大きな食卓が構えてある。
何かを零したのか、ところどころ赤黒く染みてこそあるが、全体的に高級感に溢れたリビングであった。
「どうせ一人で住んでるのに、席ばかりはたくさんあるのはなんでなんだろうね。人間は時々よく分からないから怖い」
調理は既に済ませてあったのだろう。
適当なことをぼやきながら、肉の盛られた皿の前へと座った。ペット・ショップもこれに倣う――と言っても椅子には座れないが。
皿はいくつか並んでいた。ただしどれを見ても肉、肉、肉。野菜はおろか、白米もパンもない。あまりに獣じみた献立である。
「“火”を活用するっていうのは、やはり人間の特権だ。本来獣にはない。
だから、とことんまで焼いてみた。昨日は生肉だったけど味気ないと思ってね。大丈夫、炭にはしてないからさ」
「……」
「そうだね、こんな能書きはひとまず置いておこうか。食べよう。獣も人間も食は命ってのは変わらない」
ひやりとするほど熱烈な眼差しを向けるしもべ(マスター)を認めると、褐色の幼女は青眼を輝かせ手を合わせる。
特に感謝の意もなく、ただただ目の前の肉への欲求を迸らせて。
「それではいただきます!」
「クケェ」
ペット。ショップは戛々と音を立てながら、直接的に肉をついばむ。
対してビーストは、事前に用意したナイフとフォークを自慢げに取り扱いながら丁寧に一切れずつ食していく。
ビーストの考える人間らしさの一つ、道具を使用することを行使した結果であるが、あまりにその様は不格好であった。
「なんだか全知の権能の無駄遣いって感じが最高に背徳的でお肉もますます……いや、このジッさんの肉はそんなうまかないんだけど、まあ美味しく感じるね」
いいながらも、この家の家主であった老爺の足で会った部分のウェルダンをナイフで剥ぎ取り食む。
最初の内はナイフとフォークで頑張って食しようと励んでいたが、そのうちに直接肉を手掴みして乱暴にむしゃぶりつくようになった。
ペット・ショップはとうの昔に食べ終わっていたが、ビーストの食事が終わるまでその場で待機している。
「なんだかすまないね。せっかくあのオーディンの血肉を取り込んだんだから、少しでも活かそうと、
こうして無駄に喋ってみたり、無駄に文明の利器を使ったりしてるんだけど……どうにも性根は変えられないみたい」
「…………」
薄い桃色のワンピースを脂でギトギトに汚しながらビーストは食べ終わる。
あとで着替えようとその服を乱暴に脱ぎ捨てた彼女は、爪楊枝を取り出して歯垢を削ぎ落とす。
ちなみに昨夜も昨夜で血で濡れたからという理由で、ワンピースもこの屋敷から拝借している。
さもありなん、獣とは本来服なんてもは纏わない。故にそれに対する配慮というものは欠けてこよう。ただ、せっかくの“知性”は泣いているが。
「ま、いいさ。“獣(ビースト)”に戻るまではしっかり“知性”を使わせてもらおう。……いや、学ばせてもらおう。
アタシの願いは――特にないんだ。偉そうなやつを引きずりおろして嬲り殺す。強いて言うならそれだけ。まったりとやろうぜ、ペット・ショップ」
「……キィ」
「ははっ、アタシはマスターに恵まれたねえ。こりゃアタシに食われちまったオーディンのやつも救われちまうんじゃないかな?」
快活に笑うビースト。
ペット・ショップはにやりと口角を上げ、目の前の“獣(ビースト)”を瞠った。
強きものに従う――自然の摂理とは得てしてそのようなもので、その意味においてはビーストのカーストはかなりの上位にあるだろう。
「忠実なるしもべ(マスター)に免じてアタシも誓おう。
フェンリル。この名に誓ってアタシは戦うよ。偉そうな奴は片っ端から喰らっていこう」
かつて、全知全能と謳われ多くの異名を誇った神格の最高峰、オーディンを屠(くら)った大狼・フェンリル。
食したことで彼の神霊の血肉を我が物とし、かように力の一部を引き継いだ、災厄の狼。
裸の幼女は、どこから現れたか樹木の槍を掲げて、その矮躯相応の胸を誇らしげに張り。
「なればこそだよ、ペット・ショップ。アタシたちは、勝つんだよ」
狼は、吠える。
鳥もまた、共鳴するかのように甲高い叫喚を挙げるのだ。
【元ネタ】北欧神話
【CLASS】ビースト(ランサー)
【真名】フェンリル
【性別】女性(雌)
【属性】混沌・中庸
【ステータス(ビースト時)】筋力:A++ 耐久:D 敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:A
【保有スキル(ビースト時)】
怪力:A+
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力を1ランク向上させる。
持続時間は“怪力”のランクによる。
神殺し:A+
神霊を屠った者に与えられるスキル。
フェンリルは、かのオーディンを食い殺した逸話から高ランクの適性を得た。
神霊特攻。神霊、亡霊、神性スキルを有するサーヴァントへの攻撃にプラス補正。
戦闘続行:C
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
神性:E-
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。ランクが高いほど、より肉体的な忍耐力?くなる。
「粛清防御」と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果がある。また、「菩提樹の悟り」「信仰の加護」といったスキルを打ち破る。
フェンリルはロキの子であることから神性の適性を得ているが、あまりに反英霊としての色が強いことからランクは下がっている。
魔狼:A
狼とは神をも落とす恐怖の象徴である。
気配察知、天性の魔、精霊の狂騒の能力を使用することができる。
また、後世に生み出された「狼男」の逸話に引っ張られ、月夜では筋力、敏捷のステータスを一段落上がる。
【宝具(ビースト時)】
『神喰いこそ我が証(フェンリル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
神を食い殺すからこそのフェンリルである。
なればこそ、神を殺すために、その身体はあるべきなのだ。
最初は小さくとも日に日に大きくなるべきであるし、多少の礼装なぞ、打ち破って然るべきである。
相手が「神性」や「神秘」のランクが高い者などであればあるほどフェンリルに有利な補正が与えられる。
逆に神秘の薄い近代の英霊などにはフェンリルの各種スキル、宝具の効果が落ちる。
また、原典通り日に日に身体は大きくなり、相応のステータス向上が見込まれる。
加え、神々の用意した道具(拘束具)すらも打ち破った逸話より、Cランク以下の宝具効果は受け付けない。
【備考】
銀毛の狼。大きさはさておき、他の外観は普通の狼と大差がない。メスである。
ランサーには戻れるには戻れるが、魔力をそれなりに消費する。
【ステータス(ランサー時)】筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:A 幸運:C 宝具:E
【保有スキル(ランサー時)】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
神性:A
上記参照。オーディンとしての神格を借りている。
天賦の叡智:B
人間、あるいは神の持ちうる智慧を授かった証。
オーディンはミーミルの泉の水を飲んだことで魔術を行使しうるほどの智慧を授かった。
【宝具(ランサー時)】
『偽・大神宣告(グングニル・オルタナティブ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0~99 最大捕捉:100人
オーディンが持っていたとされる樹木(トネリコ)の槍。もちろん魔術を介さない火で燃えるようなことはない。
この槍は決して対象を射損なうことはなく、必ず持ち主の手に何度でも戻ってくる。
真名解放は出来ないため、必ず軍勢に勝利をもたらすという効果は発揮されない。
【備考】
銀髪青眼褐色肌の少女。
フェンリルの残した逸話があまりにも少なく、代わりにオーディンを殺したという伝承があまりに有名であるため、
フェンリルをなぞらえる際にオーディンは外せないという座の心配りか。
はたまた、フェンリルがオーディンの血肉となることでオーディンこそはフェンリルの一部であるという伝承がなりたったのか。
フェンリル自身もその真実を存じていないが、ともかくとして、フェンリルはオーディンの側面を取得することとなった。
ただし、あまりに歪な再現であるため、再現率はお世辞にも高いとはいえず、数種のスキルの消失、全体的なステータス、ランクの降格がなされている。
フェンリルがオーディンと言う神格に“馴染んだら”、それらを取り戻せる可能性はあるだろう。
ビーストにはなるには、あまり魔力を消費しない。
【マスター】
ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険(第三部)
【能力・技能】
スタンド 「ホルス」の暗示
氷を操る能力。
【人物背景】
DIOの館を守っていたスタンド使い。
ペット・ショップは強きものに従う。
【マスターとしての願い】
不明
最終更新:2016年09月14日 23:12