日付も変わった深夜。
巡回中の警察官二人は、新都で不審な少女を発見した。
着ているのは赤いジャージのみで、コートなど防寒具らしき物は身につけていない。
背中を曲げて、身体を揺らしながらぎこちなく歩く姿を見て、彼らは何か事件か、と少女のもとに急いだ。
彼らが近づいて声を掛けた時、少女がゆっくり振り向いた。
少女の顔を直視し、若い方の警察官が目を瞠りうっと呻く。
中年の警察官も、背骨に走る冷たいものを抑えきれない。
酔漢やチンピラとは比較にならない程、少女の姿は異常だった。
「はぁあぁあ…」
血が流れている。
怪我をしているのか?いや、目立った外傷はない。
少女は満面の笑みを浮かべている。ただ、細めた両目から赤い液体がとめどなく流れ続けているのだ。
青っぽく変色した肌からは生気を感じない。
――動く死体。
二人はほぼ同時に、そんな印象を抱いた。
「ふふふふふ…」
笑顔の少女が硬直した二人に迫る。
少女の手より、中年の警官に気力が戻る方が早かった。
事情は不明だが意思疎通が取れそうにない。一旦、取り押さえるべきだろう。
中年警官が足を一歩踏み出し、細い腕を難なく締め上げた。乾いた靴音を合図に、若い警官も先輩の応援に入る。
――笛の音が何処からか聞こえた。
☆
赤いジャージの少女が男に手を引かれて歩いている。二人の警察官は姿を消していた。
「簡単なドア程度は開けられるんだねぇ、マスター?探したよぉ~」
男は色とりどりの布で作った衣装に身を包んでいる。一見すると道化師のようだが、顔に化粧などはしていない。
金髪碧眼の白人であり、顔に目立った特徴はない。人形のように整っているとも言えるが、雰囲気は地味だ。
一度見たら忘れらない派手な格好をしているくせに、いざ気配を消して背後に立つと、熟練であっても全く気付けない。
警官達は職業意識故に、男――アサシンの宝具によってこの世から姿を消す事となった。
アサシンは寓話であり、疫病であり、事故であり、異常者であり、植民請負人であった。
正確に彼を記した物は残っていない。ゆえに、これまで数多くの人々が彼を思い思いの形で語ってきた。
ただ、彼が笛を吹くとき、町から獣が、子供たちが、忽然と姿を消す。
その点だけはあらゆる説に共通していた。今は「人さらいの怪人」の部分のみ、サーヴァントとして現界している。
アサシンの枠に嵌められた今も、正確な過去はわからない。
「ふふふふ……」
「私がサーヴァントってのは、理解したみたいだけどねぇ」
初めて対面した時は、さしものアサシンも呆気にとられた。
全く会話が通じない異形のマスター。しかも他人に遭遇すると遮二無二襲い掛かる。
令呪の縛りを考慮に入れずに済みそうなのはいいが、組む相手としては絶望的だ。どこか安全に収容しておける場所はないかしら?目下の達成要件はそれだった。
こうして脱走した所を見るに、多少の知性はあるらしく、これまでの隠し場所はもう使えないだろう。今夜中に明日いっぱいくらいを凌げる拠点は見つけておきたい。
現在のマスターが食事や排泄をほとんど必要としないのは、既に理解している。
彼女を厳重に隠してさえおければ、懸念の殆どが解消される。パスによる供給は滞りなく、もし魔力が足りなくなっても宝具で回収できる。
実体化して街中歩き回るのは高いリスクを伴うが、このマスターを自由にさせておくメリットは万に一つもない。
「んふ♪」
どんな願いでも叶うなら、己の正体を教えてもらおう。
手に入らないならそれでも結構。自分は永遠であり、チャンスは無限にある。
今はただ、現世に舞い戻った幸運を噛みしめよう。
「必ず勝ち残るからね!待っててね、マスター!」
少女――知子の笑みが少しだけ深くなった…気がアサシンにはした。
【クラス】アサシン
【真名】ハーメルンの笛吹き男
【出典】史実、グリム童話
【性別】男
【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運B 宝具B+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
仕切り直し:A
戦闘から離脱する能力。
どんな状況でも戦況をターンの初期状態に戻す事が可能。
相手がAランク以上の追撃能力を有さない限り逃走は判定なしで成功する。
精神異常:A
精神を病んでいる。
自身の損得や感情を重んじ、他者の感情や立場を軽視する。
精神的なスーパーアーマー能力。
正体秘匿:A+
マスター以外の人間からパーソナルデータを閲覧される事を防ぐ。
ただしアサシンの真名を知った者、A+ランク以上の真名看破スキルの持ち主に対しては効果を発揮しない。
【宝具】
『男は笛を吹きました(ザ・パイドパイパー)』
ランク:B+ 種別:対聴衆宝具 レンジ:1~70 最大捕捉:130人
アサシンは手にした笛を吹くことで特殊な音を発生させ、旋律を耳にした生物を操る事が出来る。
人獣問わず、笛の音を聞いた生物はアサシンに導かれるままになる。索敵を命じられればアサシンが指定した条件で探索を行い、死を命じられればその場で死ぬ。
魔術防御や物理抵抗で防ぐことは出来ず、Bランク以上の精神耐性によってのみ無効化できる。
ただし、対象が聴覚や視覚に障害を持っている場合は無条件で無効化される。
彼は伝承において100名以上の子供を連れ去ったとされるが、具体的にどうしたのかは語られていない。
サーヴァントとなったアサシンは人間を洗脳した際、自由に行動を指示できるほか、痕跡一つ残さずにこの世から消失させる事が可能。
対象を消失させた場合、アサシンの保有魔力が魂喰い以上の効率で回復される。
また、アサシンは演奏中に限り、気配遮断のランクを落とすことなく行動することが出来る。
【weapon】
「無銘:笛」
宝具の鍵となる笛。
種類は一定せず、召喚主によって変化する。
今回はフルートの形状をとっている。
【人物背景】
1284年、ハーメルンの町では鼠が大繁殖し、人々を困らせていました。
ある日、町に男がやってきて報酬と引き換えに鼠を退治してあげましょう、と言いました。
男が手にしていた笛を吹き始めると、町中の鼠が現れて、男の周りに集まりました。
そのまま男は川まで歩いて行き、鼠たちを溺死させました。
しかし、町の人々は約束を破り、男に報酬を支払いませんでした。
腹を立てた男は6月26日に再び町を訪れ、笛を吹き鳴らし始めました。
すると街中の子供たちが笛吹き男について行き、彼らは二度と帰ってきませんでしたとさ。
【聖杯にかける願い】
もし手に入ったら、己の正体を知る。
【マスター名】前田知子
【出典】SIREN
【性別】女
【Weapon】
なし。
【能力・技能】
「半屍人」
一定量以上の赤い水と血液を入れ替えた人間。
知能の低下と引き換えに、高い再生力を得ている。
またその目には神秘に満ちた世界が映し出されており、一人でも多くの常人とこの光景を分かち合おうとする。
【人物背景】
両親に溺愛されて育った少女。
羽生蛇村立中学校2年1組に在籍。
両親が日記を勝手に見たことに腹を立てた彼女は家出、丁度その時に怪異に巻き込まれてしまう。
異界と化した村を抜け、教会で両親と再会した彼女は中に入れてくれる様に頼むが、二人は知子の姿を見ても怯えたきり動こうとしない。
知子は何かを察したのか、肩を落として教会を後にした。
第2日/6時32分56秒~のムービー終了後から参戦。
【聖杯にかける願い】
両親と仲直りする。
最終更新:2016年09月15日 09:08