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orange【おれんじ】



「まだこんな時間、か…」

空を茜に染め出した 夕方5時半の帰り道
ねえ、僕はどこへ向かえばいい? 



(うわ…懐かしい、あのお店よくアイツと寄ったなー)

久々に帰ってきた俺の昔住んでいた所
俺が高校生の頃住んでいた街

そこにはあの時と同じように変わらない風景があって
懐かしい記憶を思い出させた

あの頃は最高に楽しくて退屈だった日々
くだらない会話してふざけあって、お互いに同じ人を好きになったり
一緒に授業サボったり早退したり、喧嘩して言い合いになったりもした

思い出す風景や記憶
そこにはいつもアイツが居た

俺ね、ここへ来たのには理由があるんだよ
アイツがいない今を生きれないんだよ

だから―――――




――――

「ごめん公輝遅くなった!かえ…」

放課後の教室
その時の空はもうオレンジ色で、教室の中までオレンジに染めていて
公輝はその窓際で何かを探すように空を見ていた

「帰ろっか、瑛士」
「…おう」

俺に気付いて笑いかけたアイツは、凄く綺麗だった

「それ聞いて女の子ってホント怖いんだなって思った!全然そんな素振り見せないけどさー」
「でも女の子好きなんだろ?」
「そりゃあ。今でも信じられないし?もしホントだったら…」
「ホントだったら?」
「…俺、瑛士と付き合おっかな」

ふざけて歩く帰り道のあの笑顔がまだ俺を苦しめるんだ

「…俺の意見は無視かよ」
「え、瑛士俺じゃ嫌?」
「…いいけど」

あの時俺は「女の子が本性は怖いってのが事実だったらいいのに」と願った

「でも付き合うってなったら何すんだろ?」
「…そりゃあ女の子相手とそんな変わんないだろ」
「じゃあこうやって手繋いで帰ったりするんだ」

公輝がそう言って手を繋いでくる
それは俗に言う恋人繋ぎではなかったけれど

「今日だけ手繋いで帰ってみる?」
「何でだよ」
「いーじゃんたまには。誰にも会わないだろうし、会っても俺等付き合ってるとかそういう仲だとか思わないって!」

寧ろ誰かに見られてそう勘違いされたらいい

その日はゆっくりと二人手を繋いで歩いた
少し足をつまずきながら話す言葉にもつまずきながら

「明日も晴れればいいな」
「なー。いい天気だと気持ちよく卒業出来るもんな」

明日も晴れればいいななんてホントはそんな事どうでもよくって
明日もこうして手を繋いで帰れたらいいなと思った

「もう明日で卒業しちゃうんだな、俺達」
「…だな」
「卒業したら、どうなるかな?」
「…変わらねーよ、俺等なら」

いつまでもこの幸せが続くように祈ってた



―――

あれから高校を卒業して
俺は東京の中でも結構有名な大学へ進学した
最初のうちはメールや電話のやりとりもしていたが、今じゃそれすら途絶えていた

卒業してからも色んな人と知り合って、色んな人と付き合った
大学生なんてあっという間で、もうすぐ卒業だ

だけど
どんな優しさに巡り会ってもアイツ以上なんてありえなかった



どれだけ素敵な言葉で歌ってもきっと 君だけにはその一つさえ届かないんだろう
どれだけ君を思っても 求めたとしても遠ざかるだけなんだろう

あと少し僕が君を大切に想えたら
あと少し僕ら互いを分かり合えたなら

なんて

(公輝、今何してんのかなー…)

諦めなきゃって理由はたくさんあるけど好きだって一つのキモチには勝てないんだ


「瑛士?」


突然名前を呼ばれる
誰も居ないと思っていたのに驚いてそちらを見ると、そこには公輝が居て

「…ごう…き?」
「あ、やっぱり瑛士だ!久しぶり!元気だった?」

公輝はあの頃と何も変わらない様子だった

「ああ…公輝こそ、元気?」
「うーん…」

公輝が少し困ったように悩み始めた

「え、そこ悩むところ?」
「ははっ冗談だって!元気かどうかなんて見て分かんだろー?」

体調が悪くなったか大きな病気にでもかかったかと少し心配したが、公輝はあの頃と変わらない笑顔を浮かべた
冗談だったのか…良かった

「まぁな」


「瑛士、ここで何してたの?」
「…就活しなくて良くなったから、ちょっと息抜きに」
「あ、就活終わったんだ!何の仕事するの?」
「…普通のサラリーマンってやつになるよ」
「えー瑛士が?似合わねー。っつーかリクルートスーツ自体似合わねー。ホストみたいになりそう」
「うるせーちゃんと真面目な好青年だったっつーの」
「えー?…でも、確かにその黒髪、似合ってるよ」

公輝がそう言って少し背伸びをして俺の髪に手を伸ばす
触れたかどうかは、よく分からなかった


「…公輝、身長縮んだ?」
「む。違うって瑛士が伸びたんだし」

最近周りの奴もどんどん身長伸びちゃって俺ちょっと小さいの気にしてんだからなーなんて不満そうに唇を尖らせた

ああ、その顔久しぶりに見た
凄くキスしたくなる顔

「…瑛士?」
「ん?ああ、ごめんそれ、久しぶりに見たなってボーっと考えてた」
「それ?あ、これ?」

公輝がもう一度唇を尖らせる

「そう、それ」
「この前これしたら『誘ってんの?』って言われた」
「…誘ってんの?」
「不満を表してんの」
「だよな」
「瑛士相手なら誘ってんの、でもいいかなーなんて」


「…公輝」
「んー?何?…あ、もしかして引いた?ごめん冗談だったんだけど」
「俺の気持ち、気づいてたんだろ?」
「うん?」

何を言ってるのか分からない、というような表情で公輝が俺を見る

「ずっと昔から、気づいてたんだろ?…俺が、お前の事好きだったの」
「…んーん、気づかなかった。っていうか、今、初めて知った…」
「好きだったんだよ。ずっとずーっと昔から…今でも」

公輝が俺を見て優しく微笑んだ

「ありがとな」
「…返事は、要らないから」
「うん。…返事じゃないけど、聞いて」
「…うん」
「俺も瑛士の事好きだよ。…同じかは分かんないけど」
「…うん」


「…じゃ、俺そろそろ行かなきゃ」
「おう」
「瑛士、またどこかで会えるといいな」
「そうだな」
「俺の事、忘れんなよ?」
「忘れられるわけねーし。お前こそ忘れんなよ」
「当たり前だろ」

公輝は、俺が今から行こうとしているところとは別のところへと少し歩き出した
そして振り返って

「じゃあな、瑛士」

そう言って笑って手を振った



「さよなら、公輝」

俺もまた微笑んで手を振り返した



オレンジの教室に浮かぶ君の姿が
何かを探して空を見る窓際の君が
ふざけて歩く帰り道のあの笑顔が
まだ 僕を苦しめるんだ


(次会う時はあの世で、だな)





『次のニュースをお伝えします。昨日の午後6時頃、東京都××市で男性の遺体が発見されました。遺体の所持品から「君がいない今を生きれないんだ」と書かれた遺書と思われるものが発見され、現在男性の名前が――――………』

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