猫物語FES◆7ediZa7/Ag
あの人が死んで、私は夢を見なくなった。
それが何を意味するのかは分からない。けれど、私が「睡眠」という人間性を獲得し、そしてまた失ったことは確かだった。
私は自らの衣服をまじまじと見た。月光館学園の制服。私が得た絆の物的な証。
対シャドウ用戦車として開発された私が、ペルソナ使いとして仲間の皆さんと戦い始めてから半年以上の時が経った。制服を見ていると、そのことが自然と思い出される。
だが、これももうすぐ脱ぐことになる。役目を終えた私はもう三年生には進級しない。自分でそう決めたのだから。
また戻るのだ。自分の生まれた場所「ラボ」へ。そこで再び私は一人になる。「彼」に出会う、その前と同じく。
ペルソナ使いとして戦いの日々は、つらく、楽しく、そして愛しい毎日だった。でも、そんな時間はもう終わってしまった。
時は、待たない。
すべてを等しく、終わりへと運んでゆく。
「私は……」
久しぶりに夢を見たのかと思った。
けれど、どうやら違うようだ。今私がこの場に居るのは紛れもなく現実であった。
何故、どういうこと、という疑問が先ず浮かぶ。全ての人の死を齎すニュクスを「彼」がその命と引き換えに討ち果たしたことで戦いは終わった。
その戦いが残した爪痕は大きかったけれど、それでも戦いは終わったのだ。ストレガも倒れ、影時間は消え去った。
その筈だったのに、自分はこうしてまた新たな戦いへと放り込まれている。
不意に、青い蝶々が見えた。
「え……」
視界に映ったその蝶はゆらゆらとその身を回せ、そっと私の手元まで下りてきた。
戸惑いながらもその蝶を掴むと、ふっと消えてしまった。そんなものは初めから居なかったかのように。
「これは……」と私は困惑の声を漏らした。
その時、目の前に一人の少年が居た。背はそれほど高くない。伸ばした髪が顔に掛かり、片方の目が隠れてしまっている。
私は思わず声を張り上げた。
「貴方は!」
「うわ!」
少年は私の声に驚き、素っ頓狂な叫びを上げたのち、両手をぶるぶると震わせた。
どうやらそれは自分が何も持っていないことを主張しているポーズ――所謂ホールドアップというものがしたいようだった。
「ァ……」
少年の顔を良く見て、私は己の勘違いに気付いた。
少年は「彼」ではなかった――それは当然のことだ。だって彼は死んだのだから、私の見つめる場で、眠るように息を引き取ったのだ。
「すいません」
「い、いや良い。僕が悪かった」
彼はそう言って、肩を竦めた。こんな近くに来るまで気付かないなんて、私はそれほどまで思考に没頭していたらしい。
本来ならばそんなことはありえない。私は兵器であり、自己防衛を怠るなんて、そんな迂闊な行動を取る筈がなかった。
でも、私は自然とそうしていた。否、そうしなかった。
こんなことで私は生きていけるのだろうか。生きることに執着が持てるだろうか。
そう問いかけたい人は、もうこの世にはいないのだ。そう再認識しても、思ったような喪失感は現れず、代わりに鉄を噛むような冷たい虚無感があった。
「僕は阿良々木暦」
そう彼は名乗ってみせた。改めて向き合うと少し背が低い。「彼」よりもう一段低いかもしれない。
こうして名乗ってきたということは一先ず彼に敵意はないようだった。そう思い私も名乗った。
アイギス、と。
「アイギス……えーと、失礼かもしれないが何人なのかを尋ねてみてもいいかな? 日本語は通じるみたいだけど」
「私は……」
彼の問いは私の容姿に由来するものだろう。
私は金髪碧眼の少女のボディを持ち、とても日本人には見えない。なのにこうして簡単にコミュニケーションを取れていることを彼は訝しんでいるのだ。
適当な国名を言って誤魔化すべきだったのかもしれない。でも、私の口から滑り出たのはこんな言葉だった。
「人じゃ……ありません」
「え?」
桐条エルゴノミクス研究所製対シャドウ特別制圧兵装シリーズno.Ⅶ 。それが私である。今は制服で隠れているが、一皮むけば機械の身体が露わとなる。
そう人間ではない。だけど、いきなりそんなことを聞かされて暦さんは戸惑っただろう。目を丸くして私を見ている。
私は急いで取り繕おうと口を開いたが、彼は不意に真剣な顔になり、それを制した。
「いや、良い。アイギスにも色々あるんだろう。なら、言わなくていい。
少なくとも僕は、人間じゃないってことくらい、どうってことないさ」
その口ぶりには茶化すような響きも、曖昧に相手を拒絶する壁も感じられず、到って真面目なものに見えた。
私の様子から何かを察したのだろうか。それとも狂人扱いされているだけ……?
分からない。が、どちらにせよ彼はそこに深く触れるつもりはないようで、また別の話題へと移った。
「ここがどこか分かる?」
「……そうですね」
そこで私はようやく渡されたデイバックへと手を掛けた。
きゅるりというファスナーが開く音を伴い、中の地図を取り出す。四次元などと言われていたが、中の空間は一体どうなっているのだろう。私のセンサーが異常を知らせていたが、それがどんな異常かまでは分からなかった。
地図を広げて、周りと参照する。現在地はすぐに割り出せた。何故ならすぐ近く島内にたった一つしかないものが見えたから。
それは墓。
死者の行き着く場所だ。そこが木々の隙間から覗いていた。
真夜中に見るそこは、不気味であり、恐ろしげであったが、同時にあんなものはただの石ころでしかないのだという気持ちも湧いた。
「1-Cと2-Cの境目くらいですね。後ろ側に山も見えますし」
私は言った。島。ここで私たちは殺し合いをしなくてはならないらしい。
何のために?
「とりあえずあの墓を調べてみよう。地図にも載っているんだし、何かあるかもしれない」
暦さんの言葉に頷いて、私は墓へと足を踏み入れた。
木々から躍り出ると視界が広がった。月夜の下、墓を見渡すが一見してなんてことのない墓だ。西洋の趣の墓が列を組んで並んでいる。
死が理路整然と並び立っているその姿に、私は諦観に近い何かを感じた。
しばらく色々と探してみる。墓の周りを見てみたり、刻まれた名前を確認してみたり、色々やってみた。
その間、暦さんとの間に会話はほとんどなかった。警戒しているのかもしれない。こんな場所だし、当然だろう。
「うーん、いや……」
と、思っていたら徐に暦さんが口を開いた。
頭を捻り、何やらうんうんと唸っている。
気になった私は暦さんに向き直り、彼に尋ねてみることにした。
「何かありましたか?」
「ああ、いやどうでもいいことなんだが、アイギスの声って何か知り合いに似ていたような……似てなかったような」
「はぁ」
「何でもない忘れてくれ。まぁそのとにかくもう少し互いの情報を交換し合わない? 勿論、深入りする気はないけどさ、最低限のことは知っておきたい」
彼はそう言って、色々と語り始めた。
自分が私立直江津高校3年生のしがない受験生であること、髪を伸ばしているのは決して無精だからではなくわざとだということ、最近は花札をやる友達を探していること、等々の必要なのかかなり微妙な線の情報を私に向けて開示した。
その喋りが淀みなく綺麗な流れであることから、暦さんは意外と女性の扱いにこなれているのかもしれないなどと分析した。
「彼」もまたその点に関しては割と大胆な人だった。私の知る限り何人かを同時に……いや、これには触れない方が良い。
語り終えると、場の雰囲気が幾分弛緩したように思えた。
これが暦さんの狙いだったのかもしれない。
私もお返しとばかりに幾つかの情報を語った。勿論ペルソナ使いのことは伏せた。
「アイギスは高校二年、か」
「はい。暦さんも大変でしたね。こんな時期じゃ、合格発表も終わってなかったのではないですか?」
「ん? いや、僕はまだ――」
と、その時だった。
私のセンサーが何かを感知した。
そして、そのあまりの速さに私は驚愕した。
「暦さん!」
私は叫んだ。弛緩した空気は既にどこかへ行ってしまった。私は迫る脅威を感知している。
この速さ――もしかして山の方から飛んできている?
だが暦さんは未だ状況がつかめないのか、私の様子が変ったのを不思議そうに眺めていた。
どちらにせよ、もう遅い。それは既に来ている。
暦さんの、腕が舞っていた。
「かはっ」という声がして、暦さんが血を吐いている。
それを冷徹な瞳で見るのは一匹の異形の存在。
一見してそれは猫に見えた。同時に人にも見えた。耳や尾は猫のものに酷似しているが、全体としての身体は人をベースにしているようだ。
雄とも雌とも付かないしなやかな身体をしたそれは、私たちを見てニタリと笑った。
私はそれに愕然としたのだろうか。戦慄したのだろうか。
とにかく、それが如何に強大な力を持っているかは、容易に分かった。
ストレガのような憎悪に満ちた力や、ニュクスの超然的な何かと違い、それが纏っているものは、ただひたすらに禍々しいオーラ。
その瞳にあるのは敵意ではない。捕食者が獲物を見る際にするそれだ。私たちは獲物なのだ。
そして、それは今一度襲い掛からんとしている。
その視線の先に居るのは――喪われた片腕を求め痛切な声を漏らす暦さんの姿。
彼に死が迫っている。
死が。
「私は――」
また誰かを喪うのだろうか。
目の前で、人が死ぬ?
うずくまる暦さんの姿が「彼」の幻影と再び重なりあった。
私の中で何かが弾けた。
身体の中から何かが弾丸のように飛び出した。金色の兜、ゆらめく白衣、そして巨大な盾を持つ女――私のペルソナ「アテナ」
それが、一直線に敵へと向かう。その最中、アテナの身体が砕け散った。
その中から現れたのは、竪琴を持つ優雅な魔人。
「具現化? いや、これは――」
敵は私の発現させたペルソナを見て、目を見開いた。
が、私の驚きは、恐らくそれ以上だっただろう。
何故なら、アテナを食い破るように現れたそのペルソナは私のものではなく、ワイルドの力を持つ「彼」が一番最初に呼び出したペルソナだったのだから。
名は「オルフェウス」。死を覆そうとしながら、あと一歩でその望みを絶たれた哀れな詩人。
オルフェウスは咆哮した。
空間を震わせる歌声が、敵を穿つ衝撃波となる。
敵は不意にそれを受け、一歩後退した。そして、一瞬の逡巡を見せた後、去って行った。
驚異の跳躍力を持って、その場から飛んで行く。私はそれを見て、幾ばくかの安堵を抱き、同時に意識が薄らいでいくのを感じた。
敵は去った。少なくとも一時的には。
暦さんの怪我が心配だ。早く手当しなくては。
そう思うが、身に力が。入らなかった。光が視界に広がり、私の意識が霧散していく。
そんな中で、私は「彼」の幻影を見た。「彼」は私に向かい微笑んでいる。
私は「彼」に何かを言おうとした。だけど、その前に「彼」の姿は消え去り、代わりに青の扉が見えた。
私は意識を失った。
◇
飛び去った後、猫とも人とも言えぬ異形――ネフェルピトーは適当な岩場を見つけ、そこに腰を下ろし腕を組んで頭を捻った。
彼あるいは彼女は、実際猫でもなければ人でもない。キメラアントと呼ばれる特殊な蟻である。
キメラアントは摂食交配という特殊な方法で生殖する蟻であり、食べた獲物の遺伝子を一代限り子孫に反映することができる。
母に当たる「女王」が猫と人を食べたことで、ピトーは生み出されたのだ。
ピトーの存在は意義はただ一つ。次世代の「王」の護衛軍として、その力の全てを「王」に差し出すことである。
「その筈だったんだけどニャ」
うーん、と唸りながらピトーは漏らした。
自分の目的、それはいい。疑いようがないことだ。
問題は、自分はそれを果たし死んだ筈であるということだ。
ピトーは死んだ。殺されたのだ。
ゴンという少年が、己の未来全てを賭けた誓約により得た次元の違うオーラ。
それに自分は殴られ、蹴られ、吹き飛ばされ、押し潰され――なすがままにやられ命を落とした。
死に瀕する中、ピトーは思ったのだ。
こうしてやられるのが「王」でなく自分で良かった、と。
あれほど重い誓約を背負ったとなれば、ゴンはもう二度と戦うことはできないだろう。
「王」に届き得る力を、身を持って受け止めることでピトーは役目を果たしたのだ。
その筈だった。
(あれからボクは治療されたのかニャ?)
まさか、である。自分の負ったダメージの深刻さは受けた自分が一番分かっている。
ゴンの暴力は、自分を五回殺してもお釣りが来るほどの威力であったのだ。
ピトー自身「玩具修理者」という高度な治療能力を持つ。だからこそ分かる。何が治せて何が治せないかを。
死んだ者は、治すことができないのだ。
では、ここにいる自分は何なのか。考えてみたが答えはでなかった。
しかも謎の島に拉致され殺し合いを強制されている。
こういった類の念能力であろうか。
「さっきの力も何か変だったしニャ」
よく分からないが、ピトーは色々と確かめる必要性を感じていた。故にこの島に来て、真っ先に「円」を発動してみたところ、他の参加者の存在に気付いた。
オーラも感じなかったし、自分の状態の確認も兼ねて襲い掛かってみたのだ。青狸の言うことが本当ならば適当に殺しておくことが無駄になるとは思えなかった。
が、そこで予想外の抵抗を受けた。
男の方を倒したところで、女の方が能力を発動し、自分にダメージを与えた。
あれは念能力だったのだろうか。だとするならば具現化系に類する能力だろう。
が、それにしては何か異質だった。敵の能力からは念のオーラは感じられず、代わりに全く違う力が存在していた。
それに得体の知れないものを感じたピトーは一旦退いた。特に執着するような戦いでもなかったし、不用意に突っ込む必要はないと感じたのだ。
おかしいといえば、男の方もおかしかった。「纏」すらしていないような人間の身体など一撃で破壊できる筈だったのに、彼の身体はピトーの一撃に耐えた。
腕を吹き飛ばすことには成功したが、その際にも手ごたえが妙だったようにも思える。
「分からないニャ」
現時点では情報不足。そうピトーは判断した。
ならば動くしかない。動かせる駒が自分しかない以上、自分が足を使う他ないだろう。
適当に他の人間を間引きしつつ、情報を集める。そうピトーは方針を立て、その場から跳び去った。
ピトーの驚異的な脚力は他の生物と一線を画している。ぐんぐんと速度を伸ばしながら、ピトーは殺し合いの島を行く。
実のところ、ピトーは存外晴れやかな心持であった。
殺し合いを強制されることに良い感情があろう筈もないが、それより何より役目を果たした、と思える達成感が先立った。
「王」のために命を捨てられるのなら護衛軍の本望。プフやユピーもそれは同じであろう。
死を迎えた自分はある意味、己の生涯の目標を達成したのだ。
最期に得た安堵と達成感。何故か生き返ってしまった今でも、あれ以上のものは得ようとも思わない。
勿論、生きている以上は「王」にお仕えしたいのでここからの脱出は目指すが。
ピトーは幸福だった。少なくとも今は。
【1-C墓 初日 深夜】
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:出血多量、片腕欠損(修復中?)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)
[思考・状況]
1:殺し合いには乗らない。
[備考]
※時期は少なくとも偽物語後。
※忍がどうなっているかは不明。後の書き手にお任せします。
【アイギス@ペルソナ3】
[状態]:気絶、ワイルド覚醒
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)、契約者の鍵@ペルソナ3
[思考・状況]
1:気絶中
[備考]
※時期はEpisode Yourself終了後、Episode Aegis開始前。
【2-C山 初日 深夜】
【ネフェルピトー@HUNTER×HUNTER】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)
[思考・状況]
1:他の参加者を適当に間引きしつつ情報収集
[備考]
※時期は死亡後。
最終更新:2013年03月13日 12:05