ねぇ、みんな
流れ星に三回お願い事を言うと叶うって噂……知ってる?
え?そんなのは迷信だ?
……私もね、ずっとそう思ってたんだ……
でもね……

  星に願いを

「見られなそうだね……」
「そうですね……」

先週、憂から
「来週の水曜日、しし座流星群が見られるって書いてあるよ、お姉ちゃん」
って言われたから、あずにゃんを誘ってお泊りしてもらい、夜中に近所の河原まで来たんだけど……
残念ながら一晩中曇り時々雨の予報通り
夜空を見上げても、星空は全く見えない

「……帰ろうか、あずにゃん」
「……」
「あずにゃん?」

あずにゃんは携帯を取り出して何かを見ている

「……唯先輩、調べてみたら極大は午前四時頃だそうです」
「?」
「まだ夜中の十二時です。極大までまだまだ時間はタップリありますよ」
「え……でも……」
「天気予報だって外れるかもしれませんし、もしかしたら少しだけ晴れ間があるかもしれません!」
「あずにゃん……」
「それに……私は、唯先輩と、一緒に見たいんです。そして……」
「そして?」
「あ、なんでもありません。えっと……とにかく、一緒に流れ星を見たいんです。それだけです」

あずにゃん……
そんなに私と流れ星を見たいの?
それは、どうしてなのかな?

「あずにゃん……。あずにゃんは、流れ星にお願いすると叶うって噂、信じてる?」
「……正直、あまり信じていません」

そっか……

「でも」
「でも?」
「でも、試したことが今までありませんし……流れ星自体殆ど見たことがありませんから……」
「そうなんだ」

はく息が白い寒空の下
雲は未だ晴れそうにない
「クシュン」
隣からかわいらしいクシャミが聞こえた

「あずにゃん、冷えちゃうよ。ほら、こっちにおいで」
「え、でも……」
「いいから、ね」

私は着ているコートのボタンを外し、あずにゃんを包むように抱きしめた

「ほら、これならあったかあったかでしょ?」
「はい……あったか……あったか……です」

コートの中のあずにゃんは冷えきっていて、少しだけ震えていた
私は少し強めにあずにゃんを抱きしめた

「ゆ、唯先輩……」
「だ~め。あずにゃんすっかり冷えちゃってるじゃん……」
「……」
「あずにゃんに風邪をひかれちゃ困るからね」
「唯先輩は……」
「ん?」
「唯先輩は、寒くないんですか?」
「ちょっと寒いけどね。でも、あずにゃんをギューっとしていれば大丈夫だよ~」
「……そですか」

改めて空を見上げるけれど、そこには雲以外の何も見えない

「そういえば……唯先輩は信じているんですか?」
「流れ星に……ってやつ?」
「はい」
「う~ん……わかんない」
「はぁ、そうですか」
「でもね……」
「なんだか今なら叶うような気がするなぁ」
「……私もです」

その時、抱きしめている腕に何か固いものが当たった

「あ、それ……」
「あぁ、これですか?」
プレゼント、使ってくれてるんだ」
「はい、丁度キーホルダーが駄目になってしまったので」
「……それね、実はお揃いなんだよ」
「……そうなんですか?」

私はポケットから家の鍵を取り出して、あずにゃんに見せた

「あ、ホントだ……おんなじ色のお揃い……」
「あずにゃんの誕生日プレゼントを買った時に、お揃いにしようかなって思って買ったんだ~」
「そうだったんですか……」
「……あずにゃんは嫌だった?」
「いえ……そんな事ありません……寧ろ嬉しいです」
「そうなの?」
「はい。だって……お揃いって、なんだか嬉しくなりませんか?」
「……そうだね」

それが好きな人となら、尚更だよね
なんて事は言わなかった
だって
まだ
あずにゃんが
私を好きなのか
わからなかったから

「雲邪魔だねぇ~」
「そうですね~」
「もぉ~、どっか行っちゃえ!」
「いっちゃえ~!」

それから約三十分程、私達は他愛のない話しをしながら空を睨み続けた
でも、一向に晴れる気配は無かった

「あずにゃん?」

ふと気が付くと、あずにゃんが眠たそうに目を擦っていた

「……そろそろ帰ろうか、もう一時近いし」
「……嫌です」
「でも……眠いでしょ?」
「眠いです……でも、嫌です。流れ星を見るまで……絶対に帰りません!」
「……わかった。じゃぁ、あと一時間だけだよ。それでも駄目だったら帰ろう?……学校もあるんだし」
「……はい……」

本当はかなり辛かったんだと思う
あずにゃんはその後何度も目を擦ったり、船を漕ぎそうになっていた
そして……約束の一時間が過ぎた

「あずにゃん……」
「……はい……」
「来年、また見に来ようか」
「……」
「あずにゃん?」
「……ウッ……グスッ……」
「泣いてる……の?」

あずにゃんは泣いていた
流れる涙を拭う事もせずに

「……見たかった……唯先輩と……一緒に……流れ星を……見たかったのに……」
「あずにゃん……」

私はあずにゃんを強く抱きしめた
そんな事で哀しみが癒える訳は無い事はわかっていた
だけど……抱きしめずにいられなかった

「お空は意地悪だね……」
「……ウゥッ……ヒック……」
「流れ星くらい、見せてくれたって良いのに……」
「……グズッ……エグッ……」
「もぉ……こら!空!!少しくらいサービスしなさいよっ!!!」

私が叫んだその時だった
一面広がっていた雲の一角が徐々に薄くなり、星空を覗かせはじめた

「あずにゃん!あそこ!!」

私がそこを指差すと、あずにゃんは泣きながらもそちらを見上げた

「……グスッ……雲が」
「晴れてきた!!」

その後も雲の隙間は段々と広がり、いつの間にか空は満天の星空へと姿を変えていた

「……これなら見られるね……」
「……はい」
「そらー!ありがとー!!」
「唯先輩……そんな事言うとまた曇り空に戻っちゃうかもしれませんよ」
「あ、そうか。そらー!もう少しだけサービスお願いー!!」
「ふふっ……私からもお願いしまーす!!」
「……えへへ」
「……うふふっ」

それから二人で流れ星を探した
……まぁ、探す必要は無かったんだけどね

「あ!流れた!」
「こっちも!!」

幾つもの流れ星が頭上を流れ去った
それはまるで星のシャワーのようだった

「それにしても……速いですね……」
「そうだね~。……こんなんじゃお願い出来ないよ……」
「一秒有るか無いかですからね……」
「お願いは諦めるしかないのかなぁ~」

私がそう呟いたその時だった
一筋の光が夜空を横切り……

「あずにゃん!流れ星が残ってる!!」
「え?あ!本当だ……」
「なんで消えないんだろう……」
「ちょ、ちょっと待って下さい。今調べますから……」

あずにゃんは慌ただしく携帯を取り出して、未だ残っている流れ星を調べはじめた

「えっと……『流星痕』っていう現象みたいですね」
「りゅうせいこん?」
「はい。流れ星の痕って書いて『流星痕』です。えっと……流れ星ってどんな物かは知っていますか?」
「うん。テレビで何度も言ってたからね。確か……宇宙の塵が地球に降ってくる時に燃えるから……だよね」
「そうです。で、その塵が大きいとこういった現象が起こりやすいって書いてありますね」
「へぇ~そうなんだ。ん?てことは……あれも流れ星!?」
「まぁ、そうとも言えますね」
「じゃぁ次出た時に願い事を言えば……」
「三回言えるかもしれませんね!!」

私達は今まで以上に空を凝視した
絶対に流星痕を見逃すわけにはいかない
その思いでいっぱいだった

「あ!でた!!」
「唯先輩!願い事!!」

私は即座に目を閉じ、願い事を三回、心の中で唱えた

あずにゃんと恋人同士になれますように
あずにゃんと恋人同士になれますように
あずにゃんと恋人同士になれますように

そして、目を開いた時……

「あ……消えちゃった……」
「唯先輩……願い事、言えました?」
「駄目だった……。あずにゃんは?」
「私もです……長いのは難しいですね」
「じゃぁ……次はもっと短くしないとね!」
「そうですね!」

それからも何度か流星痕を伴う流れ星が現れたが、願い事を唱え終わり空を見上げると、それは全て消え去っていた
「もぅ……無理なのかなぁ……」
「そんな事ありません!諦めちゃ駄目です!!」
「……そうだね!諦めたら終わりだもんね!」

あずにゃんの言葉で元気を貰った私は、もう一度空を見上げた
その時、一筋の光が、夜空を横切った
それは、今までに見たことが無い強い光を放ち
今まで以上に長い流星痕を残した

「唯先輩!願い事!!」
「うん!!」

私は即座に目を閉じ、願い事を唱えた

梓の恋人になりたい
梓の恋人になりたい
梓の恋人になりたい

そして目を開き空を見上げると……

「……残ってた……」
「……残ってましたね……」
「……今度は言えた?」
「はい!唯先輩は?」
「言えたよ~!良かった~!!」
「私も良かったです~!!」

願いを伝えた流星痕が消えるまで、私達はそこに留まっていた
結局それが消えたのは数分後の事だった

「こんなに残っていたんだったら、長くても良かったね~」
「ホントですね~」
「ん~!!さてと。早く帰らないとね、朝起きられなくなっちゃう」
「え?あ!もうこんな時間ですか!?」
「よーっし、家まで競争~!!」
「あ、待って下さいよ~!!唯せんぱ~い!!!」


「へぇ~、そんな事があったんだ」
「そうなんですよ~」
「でも、素敵ね~。流れ星に願いを伝えて、それが叶うなんて」
「えへへ~」
「照れるなよ~、こっちまで恥ずかしくなってくるじゃないか~」
「だってさぁ~」

あれから一年
あの日私が願った通り、卒業式の日にあずにゃんから告白され、私達は恋人同士になった
後で聞いたら、あずにゃんも同じ事をお願いしたんだって……

「それにしても、今日は良い星空だな~」
「そうだな」

そして今、私達はムギちゃんの別荘近くにある丘の上でデッキチェアに寝転がって夜空を見ている
今年はここで流星群を見る予定だ

「これなら今年は心配ないね、あずにゃん」
「そうですね!あ、でも願い事は短めにしないと駄目ですよ!」
「えぇ!?そうなのか?」
「はい、私達が見た流星痕はたまたま長い時間残っていたってだけで、大半は数十秒で消えてしまうそうですよ」
「それじゃ、律は願い事出来ないかもな」
「なんだとぉ!……ふっふ~ん、澪しゃ~ん。そんな事言いつつ、この間私に……」
「わー!わー!!それを言うなー!!」

時刻はそろそろ午前一時
極大までもう少しだ

「あずにゃん、今年は眠くない?」
「少しは眠いですけど……でも、大丈夫ですよ!」
「そぉ?でも、無理だったらいつでも眠っちゃって良いよ」

並んだデッキチェアは四つ
私とあずにゃんは二人で一つ
防寒用の毛布も掛けたし、いつ眠っちゃっても大丈夫

「本当に大丈夫ですって。……だって、見逃しちゃったら何か損をした感じじゃないですか」
「損をした感じ?」
「はい。……折角、唯先輩と一緒に、一晩中流れ星を見られるのに……眠っちゃったら……」
「……そだね」


 When you wish upon a star
 Make no difference who you are

「流れ星にお願いか……『星に願いを』ってやつだね」
「そうですね……」

気がつくと、夜空を流れる星がいつの間にか増えている

 Anything your heart desires
 Will come to you

「うわぁ、まるで星がシャワーみたい……」
「凄いな、正に流星群だな……」
「私、こんな凄いの見た事無いよ……」
「去年より凄いね、あずにゃん……」
「そうですね……」

極大の時間を迎えた空は、流星群の名にふさわしく四方八方から星が流れては消えてゆく

 If your heart is in your dream
 No request is too extreme

「あ!あれが流星痕ってヤツだな!」
「そうですよ、律先輩」
「確かにあっという間に見えなくなるな……」
「願い事、三回ちゃんと言えるかしら?」
「大丈夫だよ、今年も去年みたいなもの凄い流星痕が現れるよ!絶対に!!」

根拠はない。でも、確信している
今年も、あの流星痕が現れる事を

 When you wish upon a star
 As dreamers do

「おぉ~!!!」
「うわぁ!!!」
「はぁ~!!!」
「今年も……」
「現れましたね……」

 Fate is kind
 She brings to those who love

「あ!願い事!!」
「さ、三回だよな!!」
「い、急いで唱えないと!!」
「大丈夫だよ、そう簡単には消えないから」
「あれくらいだと、数分は保ちますよ」

 The sweet fulfillment of
 Their secret longing

「そうなのか?じゃぁ落ち着いて……」
「間違えないように……」
「三回唱えるのよね」
「そうだよ。じゃぁ、あずにゃん」
「そうですね。私達も……」

 Like a bolt out of the blue
 Fate steps in and sees you through

去年は叶った私達の願い

 When you wish upon a star
 Your dream comes true

今年の願いは……


おしまい!!


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最終更新:2010年12月05日 13:37