「
あずにゃん、はい」
「なんですか? これ」
差し出された箱を見て受け取るよりも先に疑問を投げかけてしまったけどこれはしょうがないことだと思う。いや、これがムギ先輩や憂とかに渡されたものならすぐ受け取るだろうけど。これは差別とかじゃなくて今までの経験を考えれば当然の反応だと思う。
悪戯好きの唯先輩のこと、これまでも何度か似たようなシチュエーションで箱を渡されたことが歩けど、そのほとんどが私を驚かせるために用意されたものだった。もちろん純粋に
プレゼントとして渡されたものが無かった訳ではないけど、
それもほんのちょっとだけ。無いと言っても過言ではない、と思う。
そんな経験から言わせてもらうとこれは迂闊に信用して受け取ってはならないと思うのも仕方が無い。もちろんこれが純粋なプレゼントだという可能性も無い訳ではなくてもしそうだったとしたら非常に申し訳無いのだけど。
箱自体はとても薄っぺらいものだからびっくり箱ということは無いだろう。大体3cmぐらいか。こんなに薄い箱に仕掛けが収まるとは到底思えない。いや、私が知らないだけでもしかしたらそういうものもあるのかもしれないけど。
うーん、と未だに箱を受け取らない私を見て唯先輩が痺れを切らしたのか、無理やりその箱を私の手に握らせた。握らせたと言っても私は元々受け取る気が無かったので私の両手を唯先輩が上から包み込む形になるのだけど。
「ちょっ……」
何か反論しようとした私の考えはしかし唯先輩が口元に人差し指を当てて「しぃ~」と言ったのでどこかへ行ってしまった。
「大丈夫だよ、そんなに警戒しなくて。これは私からあずにゃんへのプレゼントなんだから」
「……本当ですか?」
「本当だってば。私を信用してよ」
どの口がそんなことを言うんですかと突っ込みかけたけどわざわざ言っても詮無いことだと思ったので黙っておく。代わりに警戒心をバリバリに出しながら箱を開ける。
「これは……」
「ね? プレゼントでしょ?」
箱の中に入っていたのは写真だった。それも、私と唯先輩のツーショット。それが何枚か集まって束になっている。なるほどそれでこの薄さですかと得心した。
確かにこれはプレゼントだ。今までの比じゃなく、私にとって最高のプレゼントです。これまでの悪戯を全て忘れるぐらい。いやもちろん忘れないしそれに赦すつもりもありませんけどね。
「ありがとうございます」
「うんうん。お礼はいいから早く見て?」
「あ、はい」
渡した張本人である唯先輩と共に、写真に目を通す。と言うか、近い、近いです唯先輩。いくら一緒に見るためだからって他にやりようがあったでしょうに。
……どうでもいいか。
つまらないことを気にするのは止めて、写真に集中する。
数枚見ただけだけど、懐かしいものから新しいものまで、唯先輩との時間が余すことなく保存されていた。
ん? そういえば……。
「ところでこの写真誰が撮ったんですか?」
「ムギちゃんだよ」
何やってんだあの人。
改めてムギ先輩に底知れない恐怖を味わいながら写真を捲り続け、その枚数が僅かになってきた。
そして、最後の一枚。
「あ……」
「えへへ」
その一枚を見たとき、私は驚いた。というか絶句した。
だって、その一枚は――
「あ、あの、唯先輩」
「えへへ、私たちのファーストキスの写真だよ」
そう。
その写真は、私たちのファーストキスのときの写真だった。
誰もいない二人きりの部室内で、せっかくだしやっちゃおうかという唯先輩の提案になぜか乗ってしまい、しかも写真撮影までしてしまったものだ。
このときばかりはムギ先輩の技術じゃなく、カメラの性能に頼った。最近のカメラは機能が発達していてすごく使いやすい。
だからこれは、正真正銘私たちだけのメモリーだった。
「あは、あずにゃんびっくりした?」
「もう、結局悪戯だったんじゃないですか」
「でも、嬉しかったでしょ?」
「まあ、それは」
確かに、こんな風に驚かされるのなら悪くないかもしれないと思った。
「だから、
これからも悪戯してもいいよね?」
「それは止めてください」
――私が欲しいのはプレゼントだけなんですから。