冬休み!

お正月だというのに、海外に初日の出を見に行ったという相変わらずご両親不在の平沢家。

「憂と二人しか居ないから遊びにおいでよ、あずにゃん」
と、唯先輩からお誘いをうけて
「仕方ないですね」
なんて、相変わらず素直になれない返事をしてお邪魔しにきたのだけれど、
だけれど。

……どうしてこうなってるのっ!!

現在、唯先輩は私の左肩に頭を載せ、腰に右手をまわして静かに微笑んでいるという状態。

いつもなら仔犬の様にじゃれてくる先輩が、いや、今日もベタベタしてきてるのだけれど。
なんだか、こう、落ち着いてるというか、大人っぽいというか……。
私まで調子が狂ってしまい、普段みたいにやめて下さい!と言えず、先輩にされるがままになってしまっていた。


思い返せば、玄関で迎えてもらった時点でいつもと違っていたのだ。

呼び鈴を鳴らして、扉が開いた瞬間、
あっずにゃーーんって抱き着かれるかも?!とちょっぴり期待…イヤイヤ違う違う!身構えていた私。
だけど、
「あ、あずにゃん。いらっしゃい」
唯先輩は静かに出迎えてくれると、そのままそっと腕を組んできた。
えっ?!と予想と違う先輩に私が驚いていると、
「どしたの、あずにゃん?行こ?」
先輩に腕を組まれたまま案内され、
リビングで憂に
「あ、梓ちゃん。いらっしゃーい」
と挨拶をされるまで私は呆気に取られたまま。
それから憂が、ちょっとお買い物行ってくるねと出掛けてしまい、リビングのソファーで唯先輩に寄り添われ今にいたる。

唯先輩から漂う妙な空気に耐え切れず口を開く。
「あ、あの。ゆ、唯先輩?」
「ん~、なあに?あずにゃん?」
「き、今日は何だかいつもと違いませんか?」

まだ頭が混乱してるせいかストレートに質問してしまった。

「え~そんな事ないよ~」
いや、そんな事ありますって。

「でも今日のあずにゃんはいつもより優しいね」
え?

「もうちょっと甘えててもいいかなぁ」
先輩は私が黙っているのを肯定だと受け取ったみたいで、
「えへへ、あずにゃんのお手々はちっちゃくて可愛いねぇ」
空いてる左手で私の左手をふにふにと触りだした。

先輩の台詞と行動に私は何も言えずに俯いて、ただただ顔が熱を持っていくのを感じていると、

「ねぇ、あずさちゃん。チューしてもいいかな?」
そんな私の顔を覗き込んで先輩が尋ねてきた。

…は?
あ、あずさちゃん?
なんで名前?!っていうか先輩今何てっっ!?

「ゆ、唯先p!?!」
先輩の方を見ると、眼を閉じてこちらに顔を近づけてきていた。

え、えええぇぇ!!
まだ返事もしてないですよっ!
じゃ、じゃなくて!
頬を赤らめて、睫毛がフルフルしてて唯先輩超可愛い……
って、じゃなくてぇ!!
ん?あれ?先輩からお酒の匂い?どういう事?疑問が頭に浮かんだけれど、先輩はどんどん近付いてきてて、
「ちょ、せんぱ、ま、ま待って!」
焦って先輩の肩を押し返そうとした瞬間。

こてっ

先輩は眼をつぶったまま私の膝に頭を落とした。

「…へ」
先輩?

「すぅすぅ」
「…唯先輩?」
声をかけても先輩は動かない。どうやら寝てしまったようだ。

……自分だけが焦っていたのがものすごく恥ずかしいけれど。
私は先程浮かんだ疑問を確かめるべく、寝ている先輩に顔を近づけ改めて匂いを嗅ぐ。

やっぱりお酒の匂いだ。私達はまだ未成年だし、憂が飲酒を見逃すはずないのに。
不思議に思いながら辺りを見回すと綺麗な朱色の容器が眼についた。

…もしかしてお屠蘇で酔ったの?どんだけ飲んだんですか先輩。

まあ他に原因も考えられないし、多分そうなんだろう。
今動けないし、憂が帰ってきたら確かめてもらおう。

キスが未遂になったのをちょっとだけ、ちょっとだけ残念って思ったのと、酔った先輩はいつもより大人っぽくてドキドキしてしまった事は私だけの秘密にしておこう。

「…もう、告白がまだですよ。唯先輩」
小さな声で囁きながら先輩の髪をそっと撫でる。
気持ちよさそうにしている先輩を眺めつつ、私は憂の帰りを待った。

おしまい!


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最終更新:2011年01月07日 20:02