日曜の朝。窓から見える外は晴天で、お日様の機嫌はとても良さそうだった。
でもお日様と同じぐらい、冬の風も絶好調のようで、
さっきから一生懸命窓ガラスを揺らしている。
ヒューヒューという口笛にも似た音が、
自然とその風の冷たさを連想させて……
私はあたたかい布団の中にいるというのに、
つい身を震わせてしまっていた。
私の震えが伝わったのか、すぐ横に寝ている唯先輩がそう聞いてきた。
少しだけ上体を起こして、私の顔を見つめて。
「いえ、なんでもないです。ただ、今日は外が寒そうだなぁと思って……」
「あ、そだね~。さっきから風、すごいもんねぇ~」
唯先輩が窓に視線を向け、つられるように私もまた顔を窓に向ける。
それにあわせたように、一際強い風が大きく窓を揺らした。
思わず身を震わせると、唯先輩も同時に体を震わせていた。
「ほんと、外寒そうだねぇ」
「そうですね。これじゃ、ちょっと出かけたいとは思えませんね……」
「そだねぇ……じゃ、今日はずっとゴロゴロ時間だね!」
「なんでそんなに嬉しそうなんですか……」
唯先輩の言葉に、私は呆れた視線を向けるけれど……
唯先輩は気にした風もなく、また布団を肩まで引き上げていた。
私はまったくもうと嘆息して、
でもほにゃっとした唯先輩の顔に自然と笑みが浮かんでしまって……
唯先輩を真似るように、布団の中に潜り込んだ。
お布団の中で並んで横になって、顔をお互いの方に向け、笑いあう。
日曜日、せっかく早く目覚めたというのに、
このままでは本当に、一日ゴロゴロ時間で過ごしてしまいそうだった。
私が大学に入ってからの、唯先輩との二人暮らし。
家を出たというのに、
実家にいた頃よりも怠け者になってしまっているのはどうなんだろう、
なんて思ってしまうこともあるけれど、
「エヘヘ……お布団はあったかいねぇ……」
「くすっ……そうですね……」
唯先輩の笑顔を見てしまうと、まぁそれでもいいかな、
なんて思い直してしまう。
一緒に暮らすようになって、確実に私は唯先輩に毒されていた。
そしてそれも悪くない、なんて思ってしまっているのだから……
まったくもって、私にも困ったものだ。
「でもやっぱり、このまま一日お布団の中、
というのはもったいないですよね」
「えぇ、そう? 私はお布団の中でゴロゴロしてるだけでも楽しいよ?」
「もうっ、またそんなこと言って……」
「ん~……じゃ、お布団を出て、
こたつでゴロゴロしよう!」
「それじゃ場所を変えただけじゃないですか!」
そんな仕方のないことを言う唯先輩に、私は頬を膨らませてみる。
でも唯先輩は笑ったままで、
「そりゃ!」
「にゃっ!」
掛け声と一緒に、私の頬を突っついてきた。
「もうっ、なにするんですか、唯先輩!」
「いやぁ、あずにゃんの膨らんだ頬が可愛らしかったので、つい」
「ついじゃないです! もう……えい!」
「わっ!」
笑う唯先輩の頬を、私は仕返しするかのように指で突っついた。
驚く唯先輩に構わず、さらに攻撃を加えていく。
「えい! えい!」
「わっ! わっ! やったなぁ! えい、お返し!」
負けじと私を指で突っつき始める唯先輩。
お互い突っつきあっているうちに、狙いは定まらなくなっていって……
気がつけば私たちは、
お互いの体を突っついたりくすぐりあったりして、じゃれあっていた。
冷静さを取り戻し、ようやくじゃれあいをやめた頃には、
完全に息があがってしまっていた。
「はぁ、はぁ……なんか、疲れちゃった……」
「はぁ、はぁ……もうっ、唯先輩がふざけるからですっ」
「ぶー、あずにゃんだってぇ」
間近で言い合い、ぶーと睨みあって……同時にふきだし、笑いあう。
まったく、日曜の朝から、いったいなにをしているんだろう、私たちは。
お布団の中で私たちがふざけている間も、
風の勢いは変わらず、ヒューヒューと音をたてながら窓を揺らしていた。
近くの木の枝も激しく震え、
残り少ない葉っぱが一枚飛ばされていってしまった。
さっきはもったいないと言ったものの、
起きて出かけるにはちょっと勇気が必要そうだった。
「……やっぱり今日は、ゴロゴロ時間ですかね……」
「うん、そだね……」
二人で窓の外を見つめ、布団の中でぴたっとくっつきあう。
せっかくのお天気がもったいないとは思うけれど、
でもあったかいお布団の中で微睡むのは最高の贅沢でもあるだろう。
唯先輩と二人、そんな日曜日を過ごすのも悪くないと思って……
やっぱり毒されているなぁと苦笑する。
それをむしろ心地よいと思っているのだから、
本当に私にも困ったものだ。
「エヘヘ……あずにゃ……ん……」
「唯先輩?」
と、唯先輩の寝息混じりの声が聞こえて、
私は顔を窓から先輩の方へと向けた。
見ると、いつの間にか唯先輩は眠ってしまっていた。
「もう、肩を出して寝ると、風邪ひいちゃいますよ」
幸せそうな寝顔に私も笑みを浮かべながら、
ずり下がってしまったお布団を戻そうとして……
そこで気づいた。
私の片手の袖がしっかり、唯先輩の手に握られてしまっていることに。
「あずにゃ……と、お手々繋いで……お出か、けぇ……」
唯先輩の寝言に、私は小さく笑っていた。
どうやら唯先輩は、夢の中で、
私と手を繋いでお出かけしているらしい。
現実ではゴロゴロ時間なんて言って、
お布団から出ようともしなかったのに。
「……そうですね……やっぱりちょっと、お出かけしましょうか」
今から二度寝しても、お昼には目を覚ますと思う。
お昼を過ぎれば、外も少しはあたたかくなるだろうし、
風も少しは弱まってくれているかもしれない。
そうしたら、唯先輩と一緒にご飯を食べに行こう。
その後、ちょっと
お買い物をしてもいい。
ゴロゴロ時間は贅沢だけど、
でもやっぱり、それだけじゃ日曜日がもったいない。
「そのときはちゃんと、手を繋いでいきましょうね、唯先輩……」
こんな風に袖を握るのではなく、
しっかりと恋人繋ぎをして、
お互いの手をあたためあって。
「ね、唯先輩……」
そう呟きながら、私も唯先輩を追いかけるように、
眠りの中に落ちていった……。
END
- 大学時の話か〜。 -- (あずにゃんラブ) 2012-12-29 09:57:52
最終更新:2011年02月09日 22:50